1 報道によれば、大阪・関西万博を主催する2025年日本国際博覧会協会(万博協会)が、パビリオンの建設が遅れ2025年の開催が間に合わないことを危惧し、政府に、建設業界の時間外労働の上限規制を万博に適用しないよう要望したとのことである。
しかし、2025年の万博開催のためには、労働者の健康や生命が犠牲となってもやむを得ないと言わんばかりの、今回の万博協会の要請は断じて許されない。
2 働き方改革関連法では時間外労働の上限(臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間以内、月100時間未満、2~6か月平均で80時間以内)が法定され、2019年4月から適用されてきた。しかし、建設業界は、人材不足等の影響により長時間労働が常態化していたことから、労働時間の上限規制の適用が5年間猶予され、2024年4月から適用される予定となっている。今回の万博協会の要望は、業界全体に求められていた長時間労働抑制の取組みに逆行するものである。
建設業については、災害時の復旧・復興に限り、労働時間の上限規制を適用しないこととされている。この点に対する批判も根強いが、万博を予定通りに実施したいという思惑のために、法が定める上限規制の例外を安易に認めることは絶対にあってはならない。
また、下請け、一人親方、フリーランス等の「雇用によらない働き方」により建設業や資材搬入に関わる者が、しわ寄せによって長時間労働に陥らないような配慮が不可欠である。
3 万博協会は「持続可能性に配慮した調達コード」を定め、「サプライヤー等は、調達物品等の製造・流通等において、違法な長時間労働(労働時間等に関する規定の適用除外となっている労働者については健康・福祉を害する長時間労働)をさせてはならない。」としている。万博協会が自ら定めた長時間労働禁止の調達コードを破り、建設現場の労働者に過酷な長時間労働を強いることを容認するよう政府に要望したことは、断じて許されない。
万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げている。しかし、労働者の命と健康を軽視する今回の要望は万博のテーマ、開催理念に反するものである。
4 過去に、東京オリンピック・パラリンピックの主会場である新国立競技場の建設現場で働いていた男性が、「身も心も限界な私はこのような結果しか思い浮かびませんでした」とメモに遺して自死した痛ましい事件があった。建設工事の遅れを取り戻すために作業員が過酷な長時間労働を強いられた結果、工事開始から約3か月後の2017年3月に、当時23歳の男性が精神障害を発症して自死したのである。このほかにも、大会施設工事における労災事故が多発した。
国際建設林業労働組合連盟(BWI)が、建設現場における過酷な労働環境について報告書を公表し、危険な労働環境だと警鐘を鳴らしていたことを想起すべきである。イベント実施のために労働者の健康や生命が犠牲になることは絶対に避けなければならない。
5 民主法律協会は、労働者の健康や生命を軽視する万博協会に対して強く抗議する。政府は、労働者の健康と生命が優先される建設現場・労働環境の実現、長時間労働の撲滅が重要であることを鮮明にし、万博協会からの要請に応じてはならず、むしろ要請の撤回を求めるべきである。
2023年7月28日
民 主 法 律協会
会長 豊川義明