決議・声明・意見書

声明

安倍元首相の国葬に反対する声明

 2022年7月14日、岸田文雄首相は、故安倍晋三元首相の葬儀を国葬で執り行うと表明した。銃撃により突如として命を奪われた安倍元首相には哀悼の意を表するが、国葬を執り行うことはそれとは別問題である。

 そもそも、国葬を実施する法的根拠を欠いている。戦前は、国葬の法的根拠となる国葬令が存在したが、国民主権、政教分離、法の下の平等、思想・信条の自由等を保障する日本国憲法の制定を機に1947年に失効した。

岸田首相は、内閣府設置法第4条3項33号で「国の儀式」が内閣府の所掌事務とされており、国葬はその一つであるとする。しかし、内閣府設置法は、所管業務の範囲を定めた組織法であり、国葬を行うことや国費の支出を正当化する根拠にはなりえない。しかも、国葬令の失効という形で明確に否定された国葬が「国の儀式」に含まれると解釈することはできない。実質的にも国葬を実施することは憲法が保障する上記各権利に抵触するものであり、憲法の精神に反する閣議決定は許されない。

 岸田首相は、安倍元首相の国葬を決定した理由について、安倍元首相の実績を強調するとともに、民主主義を断固として守り抜くという決意を示すためだと述べる。

しかし、安倍元首相への政策評価は、国民の中で大きく分かれている。安保法制やロシア・プーチン大統領との外交交渉、アベノミクスなどは、多くの国民から批判がなされている。森友学園や加計学園、桜を見る会といった国政私物化、公文書の改竄や隠蔽などのさまざまな疑惑も未だに全容解明されておらず、真相解明を求める声は根強い。そのような批判的評価を無視して、国葬を執り行うことは、民主主義を守ることとは真逆でしかない。

安倍元首相が銃撃されてから、テレビでは特別番組が長時間にわたって放送され、追悼に加えて、その功績ばかりが前面に打ち出された。その後、世界平和統一家庭連合(旧統一協会)との関わりも報道されているが、このことは無視して、政府は安倍元首相に最高位の勲章の授与を決定するなど、賛美礼賛を続けている。国葬を執り行うことは、安倍元首相への賛美礼賛するムードをさらに煽り、安倍政権の功罪についての自由な言論活動をためらわせるおそれもあり、民主主義に反するとともに、安倍元首相の政治活動に対して反対の意見を述べてきた市民の思想の自由・政治的信条を侵害するものとなる。

 民主法律協会は、市民の権利擁護、民主主義の前進を目的とする立場から、安倍元首相の国葬には強く反対する。

2022年7月19日
民 主 法 律 協 会
会長 萬井 隆令

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