決議・声明・意見書

声明

看護師の新型コロナウイルス感染症に係る業務についての派遣解禁に反対する声明

 政府は、2022年1月21日、臨時の医療施設(新型インフルエンザ等対策特別措置法第31条の2第1項)における新型コロナウイルス感染症に係る業務について、必要な看護師の人材を確保することが必要であることを理由として、看護師および准看護師の派遣を解禁する省令を公布・施行した。

確かに現在、医療体制の逼迫により、看護師の人手は不足しており、人材確保の必要性があることは否定できないが、その解決方法が労働者派遣の解禁であるということは断じてない。

 看護師の人材不足が生じている原因は、かねてから看護師が長時間勤務や夜勤などの過酷な労働環境に置かれるとともにその責任が重大であるにもかかわらず、それに見合った待遇を受けていないことにある。そして、新型コロナの感染拡大に伴い、看護師が置かれている労働環境はさらに悪化している。人材を確保し人手不足を解消するために行うべきは、何よりも、看護師の労働環境・待遇の改善である。

にもかかわらず、労働者派遣の形態をとれば、労働者に支払われる賃金は、医療施設の運営主体が派遣会社に支払う派遣料金から派遣会社のマージンを差し引いた金額となり、直接雇用の場合に労働者に直接支払われる賃金よりも低額になる。また、労働者派遣は、指揮命令を行う者が雇用責任を負わない間接雇用であるため、雇用の不安定さがつきまとうとともに、感染予防措置等の安全配慮義務や労災責任の所在が不明確となりやすい。

 看護師業務について労働者派遣が禁止されていたのは、患者の生命にかかわる医療や福祉に従事する看護師は、チーム医療・福祉におけるチームの一員として他のスタッフと日々コミュニケーションをとりながら働く必要があり、雇用が不安定になり病院等が直接雇用責任を負わない労働者派遣ではこのようなチーム医療に支障を来すおそれがあるからである。新型コロナに対応するためであっても、チーム医療が求められることに変わりはない。この点、現在多くの病院で、当該病院で長年勤務経験を有し他のスタッフとコミュニケーションが十分にとれる看護師が新型コロナの患者への対応に当たっていることからしても、より他のスタッフとの連携の必要性が求められているといえる。

したがって、新型コロナウイルス感染症に対応する臨時の医療施設に看護師の労働者派遣を解禁することは、同施設における新型コロナウイルス感染症に係る医療業務におけるチーム医療に支障を来すことになる。

 また、新型コロナウイルス感染症に対応する臨時の医療施設における医療の提供は、本来感染症対策の一環として自治体の公的責任として行うべきものであるところ、これらの業務について民間団体に委託するのみならず、さらにその運営主体が雇用責任を負わず労働者の選定も行わない労働者派遣を解禁することは、同業務についての公的責任、ひいては感染症対策についての公的責任をより一層後退させるものに他ならない。

 加えて、労働者派遣において対象業務が拡大されてきた歴史及びコロナ禍において次々に労働者派遣の範囲が広げられていることに鑑みれば、臨時の医療施設の看護師業務についての労働者派遣解禁がさらなる看護師業務全体の労働者解禁につながるおそれもある。

 本省令改正については、労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会において2022年1月21日のわずか1回(しかもわずか1時間)の審議のみで承認され、行政手続法上、省令改正に必要とされる意見公募について緊急性を理由に省略され、即日公布施行された。極めて問題の多い内容の制度について、国民の意見を十分に反映させることなく拙速に導入されたこともまた極めて問題である。

 以上のとおり、新型コロナウイルス感染症に対応する臨時の医療施設における看護師の人材確保のために行うべきは労働環境・待遇の改善であり、このような待遇改善を行うことなく安易に労働者派遣に頼ることは場当たり的な対応であり、むしろ労働環境・待遇の悪化を招くとともに、同業務におけるチーム医療に支障を来し、感染症対策についての公的責任の後退にもつながるものであるため、民主法律協会はこれに強く反対する。

 

2022年3月2日
民 主 法 律 協 会
会長 萬井 隆令

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