政府は,2018年4月6日,働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案(以下「本法案」という。)を国会に提出した。
しかし,本法案には,以下のような重大な問題があり,廃案とすべきである。
第1に,立法内容の問題である。
政府は労働時間短縮を標榜しながら,本法案はそれと相反する内容でしかない。本法案は1か月で100時間,2~6か月平均で80時間もの残業を許容している。月80時間を超える残業が労働者の生命,健康に重大な悪影響を及ぼすことは,医学的にも揺るぎない知見であり,過労による脳・心臓疾患,精神疾患の労災認定を行う際の判断基準の一つとなっている。このような長時間労働を法で許容することはあってはならない。本法案で過労死をなくすことはできない。
また,本法案は,労働時間規制が適用されず,残業手当を支払わなくてもよいとする高度プロフェッショナル制度の導入も図っている。政府は,年収1000万円以上の労働者を対象とすると説明するが,本法案には基準となる年収の具体的金額は一切書かれておらず,具体的な金額の決定は厚生労働省令に委ねられる。経済界の要請に応じて,国会を通さず,政府の判断だけで,際限なく引き下げられていく危険が大きい。
さらに,本法案は,「高度の専門的知識を必要とし,その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるもの」と規定するが,客観性は保障されず,厚労省や使用者側の主観的な判断で,労働時間規制,残業手当の支払義務を免れるために悪用される危険も極めて大きい。
第2に,立法形式の問題である。本法案には,労働時間の適正把握義務化や,不十分ながらも非正規労働者の均等待遇に関する改正案が含まれている。
これらも,一括形式で成否を問う本法案とされているが,一括でなければならない必然性は全くないばかりか,前記のような重大な問題をはらむ改正と一体でなければ成立させないというやりかたは,1つ1つの制度に関する法案内容についての精緻な審議を困難にするものであり,許されない。
第3に,立法手続の問題である。立法を行うには,立法を必要とする根拠となるもの(立法事実)が必要である。
本法案には,当初,裁量労働制の拡大も盛り込まれる予定であった。しかし,「裁量労働制の適用を受ける労働者のほうが労働時間が短いデータもある」とした安倍総理の答弁の根拠とされた労働時間のデータがずさんであり,さらには捏造された疑いまで明らかとなった。このため,裁量労働制の拡大は,本法案から削除されたが,裁量労働制を違法に適用していた野村不動産で,過労死の労災申請を端緒として指導を行ったにもかかわらず,過労死の事実は隠し,政府が裁量労働制を取り締まっているかのような説明を国会でしていたのではないかという疑惑もいまだ何ら解明されていない。
政府は,本法案以外でも,森友,加計学園問題,防衛省の日報隠ぺいなど,情報を隠すのみならず,国会の審議を蔑ろにする答弁を繰り返している。国権の最高機関たる国会において,議会制民主主義の前提が大きく損なわれている状況で,国会正常化の努力を怠ったまま,本法案の審議を進めることは,絶対にあってはならない。
民主法律協会は,本法案の廃案を強く求めるものである。
2018年4月26日
民 主 法 律 協 会
会長 萬井 隆令