決議・声明・意見書

声明

塩崎厚生労働大臣の即時辞任と労働基準法改正法案の撤回を求める声明

 政府は、現行の労働時間規制を大きく緩和する「労働基準法の一部を改正する法律案」を第189回国会に提出した。同法律案には、一定の労働者を対象として、労働基準法の労働時間規制を一切適用しないものとする「高度プロフェッショナル制度」が盛り込まれている。同制度では、裁量労働制とは異なり労働者に業務遂行における裁量がまったく無い場合であっても、労働時間規制が一切適用されなくなる。その結果、労働者は命じられた業務に際限なく従事せざるを得ず、生命や健康が脅かされるとともに、生活や家族のための自由な時間さえも奪われてしまう。このように労働時間規制の適用を一切除外してしまうことには、弊害が大きいからこそ、年収1075万円以上という要件を設けることにより一部の労働者のみを対象とする制度として設計されている。

 ところが、本年4月20日、塩崎厚生労働大臣は、経営者団体が主催する「社長朝食会」に出席し、「小さく産んで大きく育てる」として、法律案を成立させた後、年収1075万円以上の要件を将来的には引き下げていく考えであることを示唆した。さらに、現時点で年収要件を引き下げるべきだとの意見が出ると法律案の審議が紛糾してしまうため、「ぐっと我慢していただいて、まあ、とりあえず通すことだといって合意していただきたい」として、年収要件引き下げるべきだとの意見については法律案が成立するまでは自制するよう要請した。

 塩崎厚労大臣は、同月23日と同月24日の国会審議において、野党議員から、上記発言を追及されたところ、「そのようなことは一切言っておりません」と発言そのものを否定した。しかし、その後、上記発言の音声録音が公開され、実際に上記発言をしていたことが明らかとなっている。

 高度プロフェッショナル制度における年収要件については、将来的な引き下げを強く危惧する意見が強く、それゆえ労働政策審議会建議においても、労働者代表委員からは、制度創設自体に反対の意見が付されている。政府は、当初は年収要件を法律ではなく省令で定める予定であったが、反対意見に配慮して、年収要件を法律に明記した法律案を閣議決定し、国会に提出したのである。

 法律案を所管する厚生労働省の大臣が、法律案中の重要な要件について将来的に引き下げていく方針を持ちながら、国会ではその方針を隠したまま法律案を審議させ成立させようとすることは、立法府を愚弄した態度だというほかなく、しかも、国会において、上記発言を否定する虚偽の答弁を行った責任も重大である。

 労働時間規制は労働者の生命と健康、生活や家族にとってきわめて重要である。それを大幅に緩和しようという法律案を、公然と嘘をつくような大臣の下で審議させることはできない。

 塩崎厚労大臣は、直ちに辞任すべきである。また、塩崎厚労大臣の下で策定された今回の法律案は撤回すべきである。

                       2015年5月7日
民 主 法 律 協 会
会 長 萬井 隆令

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