安倍政権は、本年6月に閣議決定した「日本再興戦略改訂2014」において、①働き過ぎ防止のための取り組み強化、②「時間ではなく成果で評価される制度」への改革、③裁量労働制の新たな枠組みの構築、④フレックスタイム制の見直しを打ち出している。このうち②③④については、いずれも「時期通常国会を目処に所要の法的措置を講ずる」とされており、さっそく具体化に向けた検討が開始されている。
わが国においては、長時間過重労働による過労死・過労自殺、精神疾患などの健康障害が広く蔓延しており、長時間労働の抑制こそが喫緊の課題である。ところが、上記①では、監督指導体制の充実強化や監督指導の徹底といった抽象的な文言が並んでいるだけであり、しかも上記②③④と異なって実施期限も区切られていない。現行法上は長時間労働そのものを規制する法的根拠が存在せず、果たしてどのような監督指導が実施できるのかその実効性ははなはだ疑問である。
上記②については、「一定の年収要件(例えば少なくとも年収1000万円以上)を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者」について、労働時間の長さと賃金のリンクを切り離し、どれだけ長時間の労働をさせようとも時間外割増賃金の支給を不要とするいわゆる残業代ゼロ制度の導入が目指されている。上記③④についても、現行法の規制を緩和して、時間外割増賃金の支払範囲を狭めようとするものに他ならない。
しかし、時間外割増賃金制度は、割増賃金の経済的負担を使用者に課すことによって時間外労働を抑制するものであるところ、残業代ゼロ制度が導入されれば、再現のない長時間労働を誘発することは必至である。年収1000万円以上という要件についても、ひとたび残業代ゼロ制度が導入されてしまえば、なし崩し的に年収要件が緩和されていくことが容易に予想される。残業代ゼロ制度は、すなわち過労死推進法と評価しうる。
一方で本年6月20日に成立した過労死防止対策推進法は、過酷な長時間労働に従事することを強いられた労働者が過労死・過労自殺に追い込まれていった現実を踏まえ、過労死遺族らの強い希望を基に、社会から過労死・過労自殺をなくすために制定された。残業代ゼロ制度は、この過労死防止法の基本理念に真っ向から反するものであって認めることはできない。
民主法律協会は、長時間労働を拡大させ、働き過ぎによる心身の健康障害を誘発する労働時間規制の緩和に強く反対する。
2014年8月30日
民主法律協会 第59回定期総会