大阪市議会は、2012年7月27日、維新、公明、自民各会派の賛成多数により、「大阪市労使関係に関する条例案」を可決成立させた。同条例は、同年8月1日、施行された。
地方公務員の労働基本権は地方公務員法で不当に制約をされているものの、地公法は可能な限り、労働基本権については民間の労働者と異ならなくするよう配慮している。したがって当局は、基本的に、職員が職員団体等の労働組合を自主的に結成することを尊重し、組合と対等な立場で交渉すべき立場にある。しかるに、同条例は、労使関係のあり方についての基本的な原則を踏み外し、労働基本権を蹂躙するものである上、地方公務員法にも違反するものである。
第一に、同条例は、管理運営事項については意見交換を禁止し、「転任、昇任、昇格その他の具体的な任命権の行使に関する事項」については、すでに決定した内容の説明さえしないと定める(4条2項)。しかし、管理運営事項であっても、勤務条件などに密接に関連する場合は団体交渉の対象になるが(地方公務員法55条1項)、転任や昇格などは勤務条件そのものであるから、当然、団体交渉の対象事項である。同条例施行規則5条1項において、「当該管理運営事項の実施が職員の勤務労働条件に影響を及ぼすため、当該管理運営事項について説明を行うことが本交渉、小委員会交渉及び事務折衝を円滑に進めるために必要である」場合には、説明をすることを妨げないと定める。元々、労働条件に関わる事項であれば団体交渉事項なのであって、説明をすれば足りるというものではないが、同条例はその施行規則さえ無視している。転任や昇格などについて管理運営事項であるという理由のみで意見交換までも禁止するとは論外であり、違法極まりない。
また、それ以外の事項についても意見交換をしたり、当局に説明を要求することは、交渉を進展させる上では必要不可欠であって、同条例はそのような事情を無視している。
第二に、同条例は、「適正かつ健全な労使関係の確保」という名目によって(8条1項)、任命権者に、組合活動を検証し、労働組合等に違法な組合活動を抑止する措置を求める権限を付与したり(同2項、9条)、人事委員会に、職員団体に対して、収支報告書の提出を要求したり(10条)、地方公務員法52条1項に定められている「職員の勤務条件の維持改善を図る」という目的に合致していないと判断した場合に、職員団体の登録の取消等をすることができる権限を与えている(11条)。それは使用者による組合の自主的な運営や活動への介入であり、労使対等原則に真っ向から反するもので、憲法28条の労働基本権を踏みにじる不当労働行為である。
人事委員会が職員団体の登録を取り消すことができるのは、規約の欠如、非民主的運営、職員以外のものを構成員としているという地公法53条6項所定の事由がある場合に限られる。同条例は、地方公務員法にない権限を人事委員会に付与するものであり、明らかに法律に違反している。
第三に、同条例は、労働組合等に対する便宜供与を全面的に中止している(12条)。しかし、便宜供与を合理的な理由なく一方的に撤回・中止することは不当労働行為であって、条例で定められたからといって合法化されるものではない。同条例成立後に、市当局は、職員団体等の会合や研修などに、市の会議室の使用を認めないなどの対応をしているが、違法な不当労働行為であって許されない。
以上のとおり、違憲・違法の本条例を制定したことに抗議し、これをただちに撤回し、橋下徹市長就任後に破壊された労使関係の回復に努めることを求めるものである。
2012年8月25日
民主法律協会第57回定期総会