2011年6月号/MENU


NTT西日本が通信労組に謝罪
 団交拒否で最高裁
労働者の生命・健康は至高の法益
 ―大庄大阪高裁判決
裁判所よ歴史の汚点をただす勇気を持て
 ―神戸地裁・レパ裁判に不当判決―


NTT西日本が通信労組に謝罪
  団交拒否で最高裁

  

弁護士 河 村 武 信

  1.  去る5月23日、最高裁は、通信労組に対する団交拒否事件で、会社の不当労働行為責任を認めた中労委命令について、会社の上告を受理しない旨を決定。同命令は確定し、NTT西日本は、この6月13日、通信労組委員長に対し、謝罪文を交付した。謝罪の内容は、
      「当社が、@「NTTグループ3か年経営計画(2001〜2003年度)」に基づく構造改革に伴う退職・再雇用制度の導入等に関する貴組合との団体交渉において、貴組合に対する提案、並びに貴組合の求める資料の提示及び説明において、合理的な理由がないにもかかわらず他の労働組合(NTT労働組合)と比べて取扱に差異を設け、団体交渉期日の設定及び団体交渉における説明・協議において誠実性を欠く対応をし、上記退職・再雇用制度の導入に伴う意向確認(という名の退職勧奨)を貴組合との誠実な協議を行わずに実施に移したこと、A(意向確認手続が終了して、配転対象者となりうる「60歳満了型」労働者の約7割が通信労組組合員であることが判明した後)、貴組合が平成14年2月5日付で申し入れた組合員の勤務地等に関する団体交渉において、本人の希望を尊重した配置を行うなどの配転の実施方針に関する団体交渉に応じなかったことは、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると中央労働委員会において認められました。
      今後このような行為を繰り返さないようにいたします。」( )内は引用者註記。
    というものであり、会社は山田委員長の前に深々と頭を下げた。


  2.  この命令が最高裁によって支持されたことは大変重要な意義がある。著明な日産自動車事件(団交拒否)の最高裁の判断の流れをくむと同時に、併存する組合に対する平等取扱義務は単に形式的平等では足らず、実質的に平等な取扱を求める趣旨であることを確定的に明らかにしたと評価できるであろうと思われる。注目したいのは、最大多数派であるNTT労組との経営協議会における提示資料や説明内容が、その後の同労組との団体交渉における会社の説明や、協議の基礎となっているとした上で、必要な限りで、通信労組に同様の資料や説明を行う必要があるとする判断を、最高裁も容認した点にそれがよく表れている。いま一つは、最高裁もまた、配転、とくに組織的なそれについて、配転の基準・理由、要件及び手続などの実施方針について、事前に組合からの協議に応じ、説明する義務のあることを認めたことである。


  3.  この命令が確定するまで10年の歳月を要した。
     この団交拒否事件は、当初、平成14年(2002年)3月に、大阪地方労働委員会(現府労委)に対して団交拒否救済申立をなし、平成18年2月、初審命令を得たが、一部の救済に止まり、また不当な事実認定と不足極まる救済内容であった。そのため、双方から中労委に対し再審査申立がなされ、申立組合としてはほぼ満足すべき中労委命令を得たところであった。NTTは、この命令について取消訴訟を東京地方裁判所に提起したが、東京地裁は中労委命令を維持し、東京高裁もまたこれを支持し、遂に平成23年に至って、上告不受理決定によって命令は確定するに至った。実に、この間約10年という歳月を費して、ようやく労委命令が確定するという、お定まりと言えばそうであるが、不当労働行為の、しかも団体交渉の在り方をめぐる紛争として、かくも長期間を要することについて、労働者、労働組合の権利救済システムの貧困さを思わざるをえない事案である。労働者、労働組合の権利救済制度がいかに不備であるか。勝利の判断を喜びながらも、この不条理を正していく努力が、制度面も含めて改めて検討される要がある。尤も、極めて不充分であった大阪府労委命令、それを変更して優れた中労委命令を得る過程で、会社の団交拒否の姿勢を徐々に改めさせることに通信労組は成功しつつあったが、それでも、11万人合理化計画が、労働者の犠牲の上で展開される過程を阻むことには及ばなかった。
     会社の構造改革に伴う退職・再雇用制度導入の意図が、真に、全従業員の前に明らかにされ尽くしたら、様相は異なったろう。全労働者の「同意」のもとにリストラを進める手法として、多数派組合と会社の癒着とその組合員の沈黙を破った少数組合の奮闘は、NTT労組を利用した会社の労務政策(組合員支配)に、一定の風穴を開けていたのであるから。


  4.  会社のリストラ施策が、不当労働行為を介在させて進行されることは、これまでの労働運動史のなかでよくあることとして明白である。ただ、団交拒否という名の不当労働行為は、何よりも情報を労働者に伝えない。教えない。――ひいて、それはものごとについての正しい判断力を労働者から奪い取るという意味で、明らさまな暴力的な不当労働行為と勝るとも劣らない不法な所為であることが改めて知られる。もう一度謝罪文の内容をみるに、それはまさに労働者の労働条件についての、知る権利を蹂躙するものであることが判然とする。
     団交拒否は、極めて現代的な労働者支配の形態であり、それは団結権そのものの弱体化、破壊につながる。
     中労委命令を支持した最高裁の判断が、労働常識となるよう奮闘しよう。


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労働者の生命・健康は至高の法益
  ―大庄大阪高裁判決
弁護士 松 丸   正

  1. 大庄新卒社員である吹上元康さんの過労死
     平成19年4月に大学を卒業し、東証一部上場会社である株式会社大庄に就職し、その会社が経営する日本海庄や石山駅店で調理業務に従事していた吹上元康さん(死亡時24才)が、入社して4ヵ月余した同年8月11日未明に急性左心機能不全で死亡しました。
     元康さんの時間外労働は、死亡前1ヵ月間は約103時間、同2ヵ月目は約116時間、同3ヵ月目は141時間、同4ヵ月目は約88時間と、厚生労働省の過労死認定基準の定める発症前1ヵ月間におおむね100時間、あるいは発症前2ヵ月間ないし6ヵ月間に月当りおおむね80時間との基準(過労死ライン)を大きく上まわるものであり、大津労基署長は業務上の死亡と認定しました。過労死ラインを上まわる長時間労働は元康さんのみならず石山駅店の社員、更には全国の他の店舗でも日常化していました。元康さんが亡くなった後においてさえも、石山駅店の社員は過労死ラインを超えて勤務していました。


  2. 過労死ラインを超える長時間労働を前提とした賃金体系と三六協定
     元康さんに限らず、全社的になされていた過労死ラインを超える恒常的な長時間労働は、大庄の賃金体系と三六協定から生じています。
     元康さんが入社する前における大庄のホームページや日経ナビ等の就活情報では、初任給196,400円と記載されていました。しかし、入社後の新入社員研修で示された賃金体系一覧表では、基本給は123,200円(関西地区の最低賃金を基準)と役割給71,300円をあわせた194,500円が最低支給額であると説明されています。
     しかも、「一般職の最低支給額については役割給に設定された時間外80時間に満たない場合、不足分を控除する為本来の最低支給額は123,200円」とされています。
     即ち、社員には月80時間の残業が役割として与えられていますよ、残業しなければ最低賃金を基準とする基本給しか支払われませんよ、との賃金体系です。
     三六協定も全社的に特別条項を定めており、その月当りの時間外労働の限度時間は1ヵ月間だけでも過労死の危険のある100時間(年間6回)とされています。特別条項の適用のある特別な事情は「イベント商戦に伴う業務の繁忙の対応」とされていますが、月100時間前後の時間外労働が全社的に日常化していました。


  3. 社長らトップに対する会社法429条1項の責任追及
     本件の損害賠償請求訴訟は当初大庄のみを被告として提訴しました。しかし、元康さんの過労死を生じさせた原因は、大庄の社長はじめ取締役がつくりだした日常的な長時間労働を生じさせる労務管理体制にあると考え、会社法429条1項に基づき社長、店舗本部長、管理本部長、第1支社長であった取締役個人4名を追加提訴しました。
     会社法に基づく過労死についての取締役個人対する損害賠償責任追及の事案の多くは小規模会社の事案(その目的は主に履行の確実性)でした。大庄は東証一部上場会社ですが、過労死を生み出す労務管理の構造の問題点を明らかにし、トップの責任を明確にすべく提訴しました。


  4. トップの責任を認めた京都地裁判決
     判決は大庄の責任とともに取締役の責任につき、「被告会社として、前記のような三六協定を締結し、給与体系を取っており、これらの協定や給与体系は被告会社の基本的な決定事項であるから、被告取締役らにおいて承認していたことは明らかであるといえる。そして、このような三六協定や給与体系の下では、当然に、元康のように、恒常的に長時間労働をする者が多数出現することを前提としていたものといわざるを得ない。」としたうえ、「一見して不合理であることが明らかな体制」をとっていたとして、被告となった社長ら取締役全員に会社法429条1項に基づく任務懈怠の責任を全面的に認めました。


  5. 大阪高裁における経営判断事項との主張
     控訴審において1審被告らは、原審の京都地裁判決が「一見して不合理であることが明らかな体制」とした、賃金における役割給、並びに三六協定は、外食産業にあっては一般的な制度であり、その大勢にならったものにすぎないとの主張を加えてきました。
     月80時間と設定された役割給は、給与計算上の目安にすぎず、時間外労働の一応の目安を示し、これをもって残業が長時間化しないことを期したものであり、三六協定についても、同業他社のモンタボーは月135時間、ワタミフードサービスは月120時間等の特別条項があり、新日鉄、パナソニック等の日本の代表的企業においても同様であると主張しました。
     そのうえでいかなる賃金や労働時間体制をとるかは、企業の経営判断上の裁量の問題であり、厚労省の定めた「過労死ライン」はその判断にあたっての一要素にすぎない、とまで主張し、取締役の会社法上の責任を否認しました。


  6. 労働者の生命・健康は至高の法益とした大阪高裁判決
     これに対し、高裁判決は、「責任感のある誠実な経営者であれば自社の労働者の至高の法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し、長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは自明であり、この点の義務懈怠によって不幸にも労働者が死に至った場合においては悪意又は重過失が認められるのはやむを得ないところである。」と判示しています。
     過労死ラインを超える労働時間、賃金体系をとるか否かは経営判断とする会社側の主張に対し、労働者の生命・健康は至高の法益として、誠実な経営者であれば長時間労働による過重労働を抑制するのが当然の責務としたこの判決は、大庄のみならず過労死ラインを超える三六協定や賃金体系をとっている企業に対する大きな警鐘を打ち鳴らしたものと言えましょう。


  7. 取締役の不法行為責任も認める
     また高裁判決は、原審判決が「被告会社の規模や体制等からして、直接、元康の労働時間を把握・管理する立場ではない」として否定した不法行為責任についても、「現実に従業員の多数が長時間労働に従事していることを認識していたかあるいは極めて容易に認識し得たにもかかわらず」これを放置させ、是正させるための措置を取らせていなかったとして、その責任を認めています。「一見して不合理であることが明らかな体制」を自ら構築していた取締役に対しては、不法行為責任も重ねて負うのは当然でしょう。
    8 上告審へ
     この高裁判決に対し、一審被告らは上告並びに上告受理申立をしました。最高裁においても労働者の生命・健康は「労働者の至高の法益」との立場に基づく判断が下されることを期しています。
     この事件は私と佐藤真奈美弁護士で担当しています。


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裁判所よ歴史の汚点をただす勇気を持て
  ―神戸地裁・レパ裁判に不当判決―
弁護士 橋 本   敦
 
  1. 裏切られた老齢原告らの切実な願い
     今や90歳を超える老齢の原告ら3名が「生きているうちに名誉回復を」と、レッド・パージによる60年の苦難の歳月に耐え勇気をふるって提訴したレ・パ裁判の判決が去る5月26日、神戸地裁であった。しかし、その判決では老齢原告らの命の叫びその正義の要求は認められず、法廷には「原告らの請求は全て棄却する」と宣告する裁判長の冷たい声が無情に流れ、満員の傍聴席にも失望と怒りが広がった。
     言うまでもなく、わが憲法が不可侵の基本的人権として保障する思想・良心の自由を真正面から踏みにじるレッド・パージは、わが戦後史の一大汚点である。しかるにこの歴史の汚点をただせぬ不当なこの判決は、共産党を批判する一連のマッカーサー書簡の趣旨はレッド・パージを指示したものと解すべきで、それは超憲法的効力をもち、占領下においては政府も国民もこれに従うべきであって、レッド・パージは有効であり、講和条約締結後もその効力は失われないとして旧来の不当な最高裁決定を何ら反省批判することなくそのまま踏襲した。さらに、レッド・パージの実施について国には犠牲者に対して被害賠償の責任はないと判断した。
     また、原告らの申立を受けて、わが国司法の一翼を担い人権擁護を使命とする公的団体である日弁連が国に対して出した原告らに対するレパ人権救済勧告を裁判所が全く考慮しなかったことにも怒りが湧く。
     弁護団はすぐさま抗議声明を出して、「この判決は、司法の人権救済機能を放棄したに等しいものである。・・・・・本判決の結果は、原告らの人権擁護の最後の砦たる司法に対する期待をまたもや裏切るものとなった。原告らの憤り、深い悲しみはいかばかりか、弁護団はこの裁判所の不当極まりない判決に強く抗議する。」と強く訴えた。
     さらに、日弁連が早速6月3日、宇都宮健児会長の抗議の談話を発表して、これまで2回にわたる日弁連のレパ人権救済勧告に従い、レッド・パージを積極的にすすめた責任がある日本政府がレッド・パージ被害者に対し、被害回復措置をとるようにとあらためて強く要求したのは当然である。


  2. 神戸地裁判決の重大な二つの誤り
     この不当な判決の根底には二つの重大な判断の誤りがある。
     その第一は、レッド・パージについての国の責任を全く認めないことである。
     レッド・パージというわが国の全産業に及ぶこの国家的・社会的大弾圧が政府の積極的関与なしに遂行し得ないことは言うまでもない。塩田庄兵衛都立大学教授は、その著「弾圧の歴史」(労働旬報社)の中で政府と企業によるレッド・パージの歴史的経過を次のように記述されている。
     「レッド・パージは、朝鮮戦争勃発とともに、アメリカ占領軍の勧告と指導にもとづいて、日本政府と経営者の手で、公然と開始されました。まず、新聞放送関係の50社704名を手はじめに、全産業を軒並みに襲いました。
     政府も公務員のレッド・パージを決定し、1950年12月10日現在の労働省調査によると、民間産業のレッド・パージは24の産業部門、537社、10,972名にのぼっています。また、同年11月15日の政府発表によると、政府機関のレッド・パージは、1,171名(11月末現在では1,196名)に達しています。
     レッド・パージの不法を訴えても、裁判所ではほとんど全てが身分保全の申請を却下し、労働委員会も審問拒否の態度をとったため、労働者は法の救済を求める道がほとんど全くとざされました。この大弾圧によって、組合や職場から戦闘的分子が一掃され、これまで労働運動の中に強い影響力を持っていた共産党は、潰滅的打撃を受けました。
     支配者にとって好ましくない思想をもっているという理由だけで、生活権を奪いとる明白な基本的人権侵害の弾圧です。」
     また、本件裁判で証言に立たれた北海道教育大学の明神勲教授は、裁判所に提出したその意見書でもレッド・パージは国の犯罪的不法行為であるという歴史的事実を次のとおり明確にされている。
     「思想・信条そのものを処罰の対象とするレッド・パージは、本来、憲法をはじめとする国内法の容認するところではなく、かつ最上位の占領法規範であるポツダム宣言の趣旨にも反するものであったが、占領下においては超憲法的権力であったGHQの督励と示唆により、それを後ろ盾とした日本政府、企業経営者の積極的な推進政策により強行された。レッド・パージという不法な措置を実施するにあたり、GHQ及び日本政府は、事前に裁判所、労働委員会、警察をこのために総動員する体制を整え、被追放者の『法の保護』の手段を全て剥奪した上でこれを強行したのであった。違憲・違法性を十分に認識し、法の正当な手続を無視したレッド・パージは、『戦後史の汚点』とも呼ぶべき恥ずべき『国家の悪事』であった。」
     そこで、神戸レ・パ裁判は、これまでの裁判と違い、この「国家の悪事」を正面から追及するため、国を被告としてその責任を問い、原告らの名誉回復と損害賠償(被害回復)を求めたのである。
     ところが、本判決は「連合国の占領下にあったわが国においては、政府としてはGHQからの指示・命令に従わざるを得ない状況であったのであるから、本件記録上、政府がレッド・パージを主導して行ったものと認めることは出来ない。」と述べてレッド・パージについての国の責任を全く省みなかった。これは歴史の真実に背く重大な事実誤認であり、故意的な国の責任回避と言わねばならないのであって、断じて容認できない。
     次に、第二の重大な誤りは、最高裁の昭和27年4月2日の大法廷決定(共同通信事件)と昭和35年4月18日の大法廷決定(中外製薬事件)に盲従し、弁護団の主張や明神勲教授の証言を全く無視して真剣に再検証をしないことである。
     その結果この判決は、レッド・パージについての占領軍最高指令官の書簡などは、単なる「示唆」ではなく、国も国民も従うべき「指示」すなわち占領軍指令官の命令であったとして、その超憲法的効力を無批判に容認したのである。
     これらの点について、明神証人はGHQの公式文書の新たな発見によって、マッカーサーのレッド・パージについての書簡や占領軍当局者の発言は、「指示」即ち命令ではなく、単なる「示唆」であったこと、さらに、そのレッド・パージが重要産業にも及ぶことは最高裁決定が言うような裁判所に「顕著な事実」であったとは認められないことを法廷での証言で明らかにした。ところが、裁判所はこれらの重要な事実を全く無視し、最高裁決定に盲従するのみで何ら慎重な判断をしなかった。
     以上のような不当なこの神戸地裁判決について、明神教授が次の通りのコメントを出されていることにわれわれは全面的に賛同する。
     「5月26日、神戸地裁は名誉回復と損害賠償を求めるレッド・パージ犠牲者の請求を全面的に棄却する判決を言い渡した。弁護団は、この判決を『@情、A良心、B正義の微塵も感じられない不当な判決』と批判したが、まさに指摘のとおり不当な判決である。
     裁判所には二つの選択肢があった。一つは、レッド・パージを有効とするこれまでの最高裁決定を、レッド・パージを違憲違法なものとして人権救済の必要性を指摘した日弁連勧告(2008年10月24日)や法廷において原告側が提示した新たに事実と論拠に真摯に向き合うことによって、これを再検証するという選択肢。そして第二に、最高裁決定の検証を完全に回避し、従来の判例を機械的に踏襲するという体制維持の無責任な選択肢。神戸地裁は、残念ながら第二の選択肢に従い、人権救済という責任を放棄した。法廷において提示された事実と道理からすると、レッド・パージをGHQの指令・指示による超憲法的効力による措置で有効とした最高裁決定を見直し、3人の原告を60年間の長きにわたり不当に背負わせ続けられた『重い十字架』から解放することは当然のことであった。しかし、裁判官は最高裁の権威・権力の前に拝跪し、最高裁決定を再検証する姿勢と勇気を持てず、人権を擁護し正義と公正を実現するという裁判官と裁判所の責務を完全に放棄した。
     今回の裁判には、3人の原告の名誉回復を通じて『戦後史の汚点』とも言うべきレッド・パージの誤りをただし、『過去の清算』を通じて人権と民主主義が尊重される人間的な社会への前進が期待されていた。それは未決の課題として、今われわれの前に残された。」


  3. たたかいはここから、たたかいは今から
     そのわれわれに残された「過去の過ちの歴史の清算」という未決の課題、それがこれからの大阪高裁でのたたかいである。
     去る6月9日、3人の原告らは「勝利判決を見ずに死ぬ訳にはいかない。このたたかいはわれわれの生き甲斐。良心と憲法に基づく判決をと大いに訴える。」と述べて大阪高裁に控訴した。
     レッド・パージという戦後史の一大汚点をたださずして戦後史は終わらない。われわれはあらためて裁判所に問いたい。1952年講和条約が発効し、独立を回復して既に60年、それなのにレッド・パージに関する限り、司法権の独立は未だにないと言わんばかりの今回の神戸判決をこのまま許して良いのかと。
     かって大阪市大の本多淳亮教授はレパ容認の最高裁決定について「占領軍当局の巨大な魔手におびえて自ら司法権の不羈独立を放棄したと言われても仕方があるまい。」(「季刊労働法」1977年)と厳しく批判されたが、今も我々はその厳しい批判の手を休めてはならないのではないか。歴史のあやまちをただし、明日に生きる正義と良心の判決をめざしてわれわれのたたかいは続く。


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