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積水ハウス・リクルートスタッフィング業務偽装事件
大阪地方裁判所の判決は不当 |
弁護士 辰 巳 創 史 |
第1 事案の概要
- Aさんの就労実態
平成10年ころ、Aさんは、派遣会社大手のリクルートスタッフィングに派遣労働者として登録した。
平成16年12月9日、Aさんは、大手住宅販売会社の積水ハウスのカスタマーズセンターに派遣され、就労を開始した。Aさんが、派遣元リクルートスタッフィングから明示された業務内容は、いわゆる政令指定26業務の5号OA機器オペレーション業務及び8号ファイリング関係業務であった。しかし、Aさんが派遣先積水ハウスで行った実際の業務内容は、顧客からの販売家屋の修理依頼を受付け、その手配をするという電話応対業務と、会議資料の準備、荷物の受取といった一般事務が中心で、正社員の補助といった性格のものであった。
Aさんは、リクルートスタッフィングから明示された業務内容と、実際に積水ハウスで行っている業務内容が異なるという点については、特に意識することなく、また、政令指定26業務に該当しない一般業務については、派遣可能期間が原則1年以内に制限されていることを知らずに、3ヶ月ごとに契約を更新して、平成20年8月31日まで約3年8ヶ月間同じ職場で同じ業務に従事した。Aさんは、同僚との人間関係もよく、仕事もてきぱきとこなしていたので、上司や同僚からの信頼が厚かった。
- 派遣先積水ハウスによる就労拒否
平成20年4月17日、Aさんは、派遣先積水ハウスカスタマーズセンター所長から、8月31日での期間満了後、3ヶ月待機した後に12月から職場復帰することを打診された。Aさんは、積水ハウスカスタマーズセンターで勤務を継続することを望んでいたので、これを了承した。
上記の3ヶ月間自宅待機して後の職場復帰については、所長とAさんから派遣元リクルートスタッフィングに伝えていたので、リクルートスタッフィングの担当者もこれを了承していた。
同年8月31日、派遣期間が満了したが、Aさんは3ヶ月後に職場復帰する約束であったことから、雇用保険の申請もせず、私物もすべて事務所のロッカー等に置いたまま、自宅待機を開始した。
ところが、待機から1ヶ月あまり経過した10月3日、派遣元リクルートスタッフィングの担当者から「積水ハウスカスタマーズセンターの所長から、Aさんの12月の再契約はしない旨の連絡がありました。」との電話があった。Aさんは、驚いて、翌日所長に電話をかけた。すると、所長は、「派遣社員を3年雇用した後、3ヶ月間休ませて職場復帰させることは今のところ違法ではないが、法の目をかいくぐった問題のある行為であり、本社の人事からこのようなことは止めて欲しいといわれた。」と、再契約をしない理由を淡々と述べた。
Aさんは、派遣元のリクルートスタッフィングにも電話をかけたが、担当者は、「職場復帰を前提に待っておられたことは申し訳なく思う。近くの仕事があった場合は紹介します。」と言うのみであった。
結局、Aさんは、職場で良好な関係を築いてきた同僚に挨拶もできず、職場においてあった私物も休日にひっそりと取りに行くという惨めな思いをして、12月からの職場復帰も叶わなかった。
- 提訴に至る経緯
平成20年12月、派遣元リクルートスタッフィング・派遣先積水ハウスの対応に納得できなかったAさんは、当事務所に相談し、地域労組に加入した。
平成21年1月20日、労働局に是正申告を行ったが、すでに派遣期間が満了しているので、申告としては受け付けられないが、調査をするとの回答であった。
平成21年2月24日、労働局は、Aさんの業務内容は、電話応対などの一般事務が1割を超えていたとして、リクルートスタッフィング・積水ハウスの労働者派遣法26条1項1号違反、同法39条違反、同法40条の2第1項違反、同法26条7項違反、同法31条違反、及び同法35条の2第1項違反を認定し、両社に労働者の雇用の安定を図ることを前提として違法状態を是正するよう指導を行った。
さらに、平成21年2月19日及び3月6日に派遣先積水ハウスに対して、同年3月4日及び3月26日に派遣先リクルートスタッフィングに対して団体交渉を申入れたが、両社はこれを拒否した。
そこで、平成21年3月9日、Aさんは派遣先積水ハウスに地位確認、派遣元リクルートスタッフィングに損害賠償を求めて提訴した。
また、平成21年6月、地域労組は、積水ハウス・リクルートスタッフィングの団体交渉拒否の不当労働行為救済申立を行った。
第2 大阪府労働委員会の命令
- 府労委による不当な命令
平成22年9月10日、大阪府労働委員会は、団体交渉拒否の不当労働行為救済申立に対し、積水ハウスに対する申立てについては、積水ハウスの使用者性を否定して却下し、リクルートスタッフィングに対する申立てについては、義務的団交事項とはいえず棄却するという不当な命令を行った。
- 中央労働委員会への再審査申立
府労委命令の結論は、派遣労働者に対し、派遣先・派遣元ともに団体交渉ができないとする不当なものであり、平成22年9月28日、地域労組は、中央労働委員会に再審査請求を申し立てた。
第3 大阪地方裁判所第5民事部の判決
- 被告積水ハウスに対し金30万円を支払えとの判決
大阪地裁第5民事部(中村哲裁判長)は、平成23年1月26日、被告積水ハウス株式会社は、原告に対し、金30万円を支払えとの判決を言渡したが、その余の請求は棄却した。
しかし、以下に述べるとおり、この判決は極めて不当なものである。
- 原告と被告積水ハウスとの間の黙示の労働契約の成否
まず、判決は、原告の業務は、顧客のデータ管理が中心であって、政令5号業務に該当すると認定し、業務偽装を認めなかった(派遣法26条違反を否定)。
しかし、原告の行っていた業務は、顧客からの修理依頼に対する電話応対が中心であり、顧客のデータ管理などはほとんど行っていなかった。裁判所の認定は被告側証人の証言を一方的に採用し、原告の証言を理由もなく切り捨てた上でなされた不当なものである。また、原告が申告を行ったことを契機に、労働局から被告らに対して是正指導もなされているが、本判決は、裁判所の判断に当たって労働局が行った判断内容に拘束されるものではないとまで言い放ってこれを無視している。
そして、判決は、派遣法26条違反を否定しておきながら、わざわざ、派遣法26条違反等があったとしても、そのことだけで黙示の労働契約が成立するものではないと述べ、本件事案の下では黙示の労働契約は成立しないと判断した。
- 不法行為の成否
判決は、被告積水ハウスカスタマーズセンター所長が、3ヶ月後の職場復帰を原告に打診したにもかかわらず、一方的に撤回した事実を認定し、原告の復職就労に対する期待を侵害したとして30万円の慰謝料を認めた。
しかし、原告が求めていたのは、3年8ヶ月にわたって違法派遣をされたことにより、適法な労働者派遣契約関係で仕事をする地位が侵害されたことによる損害の賠償であり、被告リクルートスタッフィングに責任が認められなかったこと及び30万円という金額についても不十分な判決である。
- 控訴の提起
大阪地方裁判所第5民事部による判決は、以上のように不当なものであり、原告は、平成23年2月9日、控訴を提起した。
これからも皆様のご支援をお願いします。
- (弁護団は、村田浩治、辰巳創史、高坂明奈)
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労働審判支援センター紹介・第1号事件が解決 |
弁護士 河 田 智 樹 |
- 昨年、労働審判支援センター紹介事件に登録したところ、今年になって紹介の電話があった。私にとっては初めての労働事件であったが、中西基弁護士と共同で事件をさせていただけるということもあり、安心して意欲を持ちチャレンジできた。中西先生に頼りっぱなしではあったが、今般労働審判により非常に良い解決ができ自分自身にとっても大変勉強になった。そこで、労働審判支援センター紹介制度の意義とともに、これを報告する次第である。
- 労働審判支援センター紹介制度とは、事件の解決のために労働審判の利用が考えられるが、紹介できる弁護士が見つけにくい、弁護士費用の負担について本人に経済的、心理的負担、不安がある、しかし本人申立で行うには事案が簡単ではないという類型の相談が労働組合等になされた場合に、弁護士費用を原則法テラスの基準にすることを前提に民法協のセンター登録弁護士に紹介して、相談の上受任して労働審判申立までつなげるという制度である。
この相談者も最初は労働審判支援センターで本人申立の申立書を作成するサポートをしている岩城宏介さんがサポートをしていた。しかし申立書案をセンター事務局内で検討した結果、事案が簡単ではなく、方針含めて弁護士による申立、サポートが望ましいということになった。もっとも本人が弁護士費用の負担に不安を抱いているということもあり、ちょうどそのとき制度が立ち上がった支援センター紹介事案1号事件として、中西先生と私に回ってきたのである。
- 本件の事案は、執拗な退職強要により退職願いを書かされ退職を余儀なくされた労働者が、当該退職願いの無効を主張し、賃金、賞与、退職金の差額等の請求をしたものである。
一旦退職願を書いて使用者に提出してしまった以上、それを覆すのはなかなか困難であるといわれている。当初、本人申立を検討していた際は退職強要行為についての慰謝料を請求する方向で申し立てる予定になっていたのであるが、支援センターの検討の際には、退職強要による退職は無効であって地位確認請求というのを中心に据えなければ労働審判の解決金としても低レベルなものになってしまう、という検討がなされていた。退職が無効と主張できる事情について、当該労働者からいろいろと聞き取りを行ったが、なかなか決め手になるものがない。当該労働者の顔にも元気がない。なかなか難しいのかと思い始めた時、当該労働者が、携帯で使用者から退職を強要された時の面談内容を携帯電話で録音している、とぽつりと呟いた。しかし、雑音が入り会話内容を聞き取りにくいため、今まで放置していたという。実際に聞いてみると、たしかに雑音は多いが、重要な証拠になり得るということで、とにかく反訳してみることになった。
1週間後、反訳が完成した。退職願いを書きたくない、と言う労働者に対し、使用者側の2人が、「俺たちを裏切るのか」「もう懲戒にしろよ」「人の顔に泥縫ってるよ」「イコール懲戒にいくよ」「退職金もゼロになるよ」等、労働者が退職願いを書かなければ懲戒解雇にするぞ、という退職強要を決定的に裏付ける会話内容であった。
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戦後史の一大汚点レッド・パージ
―今こそ歴史をただす正義の判決を― |
弁護士 橋 本 敦 |