- 大阪府障害者福祉事業団(以下「事業団」)が、平成20年10月1日から給与規則を改定して、それまで毎月支給されていた移行時調整手当を、平成23年3月末日までに段階的に廃止することにしたのに対し、135名の職員が、大阪地裁堺支部に、就業規則の不利益変更は無効だとして、削減された移行時調整手当(未払賃金)を請求していた事件について、11月5日大阪地裁堺支部第1民事部(山田知司裁判長、新谷貴昭裁判官、甲元雅之裁判官)は、原告らの請求を棄却する判決を言い渡しました。
- 移行時調整手当は、事業団が、平成16年7月1日から、それまでの給与規則を改定して、基本給の中に職能給を導入した際に、給料が下がるのを補填(「現給保障」)するものとして設けられた手当で、135名の原告のうち、多い人で月額8万円代、平均すると5万円代の金額でした。
しかし、移行時調整手当は、賞与、退職金の計算基礎には算入されないので、このときの給与改定によって、既に、原告らの多くは、生涯賃金として1000万円前後の損害を被っていましたが、このときは、訴訟まではしませんでした。
その上に、平成20年の改定により、原告らの多くは、生涯賃金として数100万円から1000万円以上の
損害を被ることになったので、ついに平成21年3月訴訟を提起しました。
- 法的な争点としては、事業団は、大阪府から指定管理者の指定を受け、業務委託料により人件費を賄っているところ、大阪府から移行時調整手当廃止の指示があった場合、それに従わざるを得ないかということです(この「指示」なるものが、法的にどのような意味を持つのかが、まさに問題です)。
労働法的に言うと、大阪府からの指示を受けて移行時調整手当を廃止したことが、最高裁判例のいう就業規則不利益変更の合理性(「高度の必要性」「内容の相当性」)がある場合にあたるかということです。
- 判決は、もし事業団が大阪府の指示に従わなかったら、指定管理者の指定を取り消されたり、指定を受けられなくなることもありうる、そうすると事業団職員の雇用さえあぶなくなる、他方で、原告らの給料は、同種の福祉労働者の給料よりも高いなどと言って、就業規則不利益変更の合理性を認めました。
ただし、実際に大阪府が、もし事業団が指示に従わなかった場合、指定管理者の指定を取り消すとか、今後は指定しないとまで指示していたわけではありません(少なくともそのような証拠はありません)。
- さらに、この判決の特徴は、法的判断に止まらず、つぎのような一種の政治的判断までしていることです。
すなわち「大阪府だけでなく日本国全体が財政難に苦しんでいる中で、限られた財源を障害者福祉サービスにどれだけ振り分けるかは、国及び地方自治体の政治部門に委ねられた政策課題である」「財政難に苦しむ大阪府が近年継続して障害者福祉サービスに競争原理を持ち込むことにより、同サービスの低下を防ぎつつ支出を減少させようとしているところ、その間に、大阪府知事選挙など、民意の問われた機会があったことも当裁判所に顕著である」「今のところ、国及び地方自治体が障害者福祉サービスにより多くの財源を振り分け、現状の他の同種施設の職員の低い給与を引き上げるべきであるとの見解が国民又は大阪府民の大多数の支持を得ているとまでは必ずしもいえないように思われる」と。
ふつう裁判所が、ここまで言うか?!
- 11月18日原告らのうち109名が控訴しました。
だれか良い知恵を貸してくれませんか。
- (なお、原告ら訴訟代理人は、私のほかに、岩田研二郎弁護士、成見暁子弁護士です。)
|