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津田電気計器・高年法継続雇用事件 地位確認と賃金請求を認める画期的判決
積水ハウス・リクルートスタッフィング業務偽装事件
「派遣労働者は派遣先にも派遣元にも団交できないのか」
ダイキン工業「有期間社員」雇い止め〜たたかいの報告


津田電気計器・高年法継続雇用事件
 地位確認と賃金請求を認める画期的判決
弁護士 谷    真介

  1. はじめに
     平成22年9月30日、津田電気計器高年法継続雇用事件において、大阪地裁(大須賀寛之裁判官)は、継続雇用を拒否された労働者は選定基準を満たしていたとして、労働契約上の地位確認と賃金支払いを命じる判決を言い渡した。
     平成18年の改正高年法施行後、継続雇用を拒否された労働者が全国各地で裁判を起こしていた。これまで、導入手続違反を認めて地位確認と賃金請求を認めた横浜地裁判決、地位確認を否定して損害賠償請求を認めた札幌地裁判決(本判決と同日にこれを維持する札幌高裁判決が出された)、解雇権濫用法理の類推によって地位確認を認めた(賃金請求は行われていなかった)東京地裁判決が出されていたが、継続雇用に関する査定内容が本格的に争われて地位確認と賃金支払いを認めたのは、本判決が始めてである(同様の事件で、岐阜地裁で敗訴判決が出されていた)。
     本判決は、今後のこの問題について大きな影響を与える可能性があるので、紙面を割いて報告したい。

  2. 事案の概要
     本件は、JMIU大阪地本傘下の津田電気計器支部の書記長を長年つとめていた岡田さんが、改正高齢者雇用安定法(改正高年法)に基づいて会社が導入した「継続雇用制度」による雇用継続を申し入れたところ、選定基準に達していないとして継続雇用を拒否されたという事案である。
     平成18年、年金支給開始年齢の引き上げに伴って「雇用」と「年金」の空白期間をなくし、高齢者の生活を保障するため、改正高年法が施行された。改正では、高年法9条1項で、会社は@定年年齢の引き上げ、A継続雇用制度の導入、B定年制の廃止のいずれかを行わなければならないと規定されたものの、高年法9条2項で、Aの継続雇用制度について、労働者代表との労使協定があれば継続雇用制度の対象となる労働者を選定する基準をつくることができ、しかも高年法附則五条によって「協定締結の努力を行ったにもかかわらず協議が整わなかったとき」は、就業規則の制定によって一方的に選定基準を策定することができるとされた。しかも高年法には、選定基準の内容や、継続雇用後の労働条件などに関する規制がなく、かなり不十分な内容であったと言わざるをえない。
     本件では、平成18年に会社が労使協定により選定基準を有する継続雇用制度を策定した。しかしその際、労働者代表の選出に関する選挙管理委員の選出手続に問題があり、また会社が息のかかった代表を擁立して実質的協議もないままに労使で覚書が締結されるという問題点があった。
     そして、会社の継続雇用制度では「査定の合計が0点以上は継続雇用を行う」と一見すると基準が客観的に見えるものであったが、その査定項目自体「会社の方針・施行を十分理解し・達成に努めたか」など抽象的な項目が並び、上司の主観的意図で評価されるシステムになっていることに加え、査定項目が重なるため二重にマイナス評価をすることもできるものであって、会社が嫌悪する労働者について恣意的に継続雇用拒否を可能にするものであった。
     一方で、岡田さんは、労働組合創設以来のメンバーで、委員長や書記長を歴任するなど、組合の中心として活動を行ってきた。会社とは労働委員会や裁判で長年争っており、恣意的な査定のターゲットになることは目に見えており、恣意的査定を行わないように度々組合での申し入れも行ってきた。しかし、会社は平成21年1月、直近2年間の査定により継続雇用を拒否したと回答した。しかし、会社が事後的に岡田さんに送ってきた査定帳票は、2年前と3年前の査定帳票であり、直近1年の査定が除外されていた(なお、直近2年の査定帳票を利用しても岡田さんは基準未満であった)。
     平成21年3月19日、岡田さんは労働契約上の地位の確認と賃金支払いを求めて大阪地裁に提訴し、平成22年7月16日に結審、今般判決となった。

  3. 裁判の争点と判決の判断
    (1) 裁判の争点
     @ 本件の継続雇用制度の導入手続が高年法9条2項、附則5条に違反しないか
     A 本件の継続雇用制度の選定基準は高年法9条2項に違反しないか
     B 岡田さんについて選定基準を満たしているか
     C 選定基準を満たしていた場合に、雇用契約は成立するか

    (2) 争点@ 継続雇用制度の導入手続が高年法9条2項、附則5条に違反しないか
     岡田さんは、本件継続雇用制度について、労使協定の際の過半数代表者の選定が不公正であり、また実質的な労使による協議がないので、高年法9条2項に違反し、また会社は労使協定締結の努力も行っていないので、附則5条の要件を満たさずこれにも違反すると主張した。
     しかし、裁判所は、選挙管理委員の選出や従業員代表の選出過程に問題はなく、またその過半数代表との協定が存在する以上、9条2項に規定する労使協定が適法に締結されたものと認められるので、9条2項違反の問題は生じず、附則5条1項の趣旨が問題となる余地はないと判断し、岡田さんの主張を斥けた。

    (3) 争点A 本件の継続雇用制度の選定基準は高年法9条2項に違反しないか
     岡田さんは、継続雇用制度で選定基準を設ける際は、その基準は客観的かつ具体的で、基準を満たすか否かが予見可能であることが要求されるが、本件では前述のとおり、選定基準が抽象的主観的なものとなっており、高年法9条2項に違反すると主張した。
     しかし、判決は、「高年法9条2項の趣旨は、原則希望者全員雇用が望ましいが、困難な企業もあるから企業の実情に応じ、企業の必要とする能力経験が様々であるから、もっとも相応しい基準を定めることが適当としたもの」とした上で、高年法9条1項の私法的効力について「9条1項に基づく事業主の義務は公法上の義務であり、個々の従業員に対する私法上の義務を定めたものとは解されない」とこれを明確に否定した。
     さらに、「9条2項の選定基準の具体的内容をどのように定めるかについては、各企業の労使の判断」で、「選定基準の内容が公序良俗に反するような特段の事情のある場合は別として、同法違反を理由に当該継続雇用制度の私法上の効力を否定することはできない」とした。ややわかりにくい表現であるが、結局、公序良俗違反となるような場合を除き、いかなる継続雇用制度を導入するか、いかなる選定基準とするかについては、労使協定(就業規則)で自由に策定することができるとするものであった。
     しかしながら、高年法9条1項は、法の趣旨に反する使用者の行為を私法上も無効にすると解すべきである。また、選定基準についても公序良俗に違反しない限りいかようにも導入することができるとするのは、使用者の裁量が広すぎて本件のような恣意的査定を制限することができない。疑問のある判断であったと言える。

    (4) 争点B 岡田さんは選定基準を満たしているか
     岡田さんは、対象となった平成19年度、平成20年度の査定で会社から複数の項目でD評価(5段階で標準はC評価)をつけられている点について、これは査定自体が労働組合の主力であった岡田さんを嫌悪した恣意的なものであって、実際岡田さんは技術職として継続雇用後の業務遂行の適格性や能力を十分に有しており、会社の査定は誤っていると主張した。その前提として、査定の妥当性に関する立証責任について、使用者こそが具体的な査定資料を独占的に保有し査定経過について最もよく説明できることや、高年法9条1項2号は希望者全員雇用を原則としていることから、選定基準に該当しないことについての立証責任は使用者側に負わせるのが公平だと主張した。
     この点について、判決は、まず査定の当否の立証責任について、
    @就業規則所定の継続雇用対象者選定基準が一定の要件を満たした者を継続雇用の対象とするものであったときは、要件を満たしているという事実は、再雇用契約の申し込みに付された契約成立条件にかかる事実だから、再雇用契約の成立を主張する労働者において主張立証すべき。選定基準が、特段の欠格事由がない者は再雇用するというものであれば、欠格事由は事業者が主張立証すべき。
    A就業規則に定められた選定基準が評価的要素を含む場合、労働者が過去の人事考課が基準以上のものであったはずであることを裏付ける具体的事実を、使用者は自己のなした人事考課の裏付けとした具体的事実をそれぞれ主張、立証する。
    B裁判所は、具体的事実をもとに、評価基準に照らし、あるべき評価を検討し、基準を満たしているかどうかを判断する。
    C再採用拒否という労働者にとって大きな不利益をもたらす人事考課については、人事考課を実施し、資料を独占的に保有している使用者側において人事考課の根拠とした事実、当該事実の考課基準のあてはめ過程の双方について具体的に論証しないかぎり権限の濫用と評価される場合が多い。
    とかなり踏み込んだ判断を行った。このCの部分は傍論のような記載となっているが、実際の適用の部分で高年法の趣旨が反映されるべきだという裁判官の気持ちが込められているのではないかと思う(そう思いたい)。
     また、岡田さんに対する選定基準の適用については、本件の継続雇用制度には会社が主張する複数の年度にわたって評価を行う規定はなく、1回の評価を前提とする基準であるから、直近年の1年の評価が問題になると独自の判断を行い、直近1年の岡田さんのD評価の査定のうち、複数の項目についてC評価以上であることは明らかだと修正をした。また、賞罰実績については、就労期間中の賞罰履歴はすべからく査定の対象に含まれるとして昭和47年の表彰実績を加点対象とした。結局、査定内容としては、継続雇用をされるべき基準点を上回っていると判断した。
     なお裁判所は、査定が不当労働行為であるとの主張については、判断を避けた。

    (5) 争点C 選定基準を満たしていた場合に雇用契約は成立するか

     裁判所は、「事業主が高年法9条1項2号及び2項に即して再雇用を内容とする継続雇用制度を設けた場合、同制度について定める就業規則において継続雇用の具体的な選定基準、再雇用された場合の一般的な労働条件を定めて当該就業規則を周知したときは、自ら雇用する労働者に対し、当該就業規則に定められた条件での定年後の再雇用契約の締結の申し込みをしたものと認めるのが相当」とし、「当該就業規則に定められた基準を満たした労働者が定年日までの間に再雇用を希望し、その旨の意思表示を行った場合には、事業主の申し込みに対する労働者の承諾の意思表示があったものとして」、「定年日の翌日を始期とし、継続雇用に関する就業規則に定める労働条件を内容とする再雇用契約が締結されたものと認めるのが相当」と判断した。高年法に基づいた就業規則の策定、周知を条件を付した労働契約の申し込みとし、その条件に該当する労働者が継続雇用の希望を行った場合には労働契約の承諾があるとして、労働契約が成立するとし、労働契約の意思解釈論から労働契約の成立を認めた。
     岡田さんは解雇権濫用法理の類推適用論も主張していたが、裁判所はこれを採用しなかった。

  4. 本判決の意義と今後の課題
     本判決の意義としては、冒頭にも述べたように、まずは、高年法に基づいて導入された継続雇用制度の選定基準の適用が不合理であるとして、地位確認および賃金支払いを命じた初めての判断であることである。
     またとりわけ、再雇用拒否が労働者に重大な不利益をもたらすことを根拠とし、使用者側に選定基準に達しないことの根拠となる人事考課の裏付けの事実やあてはめについて具体的な論証をしない限り権限の濫用となることが多いと明言している点は、選定基準の恣意的な運用に歯止めをかけるものとなる。
     ただ文中にも述べたとおり、高年法9条1項の私法的効力を否定し、継続雇用規定の策定について使用者の裁量を広く認めている点、解雇権濫用法理の類推適用の構成をとらずに選定基準を満たしていることについての立証責任については岡田さんにあると明言している点、継続雇用ではなく「再雇用」であるとして新たな契約であることを重視しているとともとりうる点、などについては、今後克服していかなければいけない課題である。
     津田電気計器支部では、元委員長の植田修平さんについても継続雇用拒否がされているが、植田さんは微妙な点をつけられていた岡田さんと違い、とんでもないマイナス点の査定がなされている。これが恣意的査定であることは明らかであるが、本判決の枠組みでは植田さんのような場合について争うことは簡単ではない。正面から不当労働行為であることを争わなければならないことになる(これについては労働委員会で争う予定である)。
     もっとも、本判決は、継続雇用制度に関する高年法の不備について、改正高年法が制定された趣旨から、継続雇用制度を結果としてあるべき姿に戻した素晴らしい判決であることに疑いの余地はない。岡田さんは原告本人尋問や意見陳述で、「まだ住宅ローンも残っており、がんの手術をした妻の治療費、私立大学に通う子どもの学費、全てが自分の肩にかかっている。これまでまじめに働いてきたのに、年金も受け取れず、継続雇用もされない私は一体どうすれば良いのでしょうか」と訴え続けた。このように高年齢者の雇用の問題は現実的で深刻な問題であり、本判決は、高年齢労働者にとって光を与えるものである。
     本判決はその後残念ながら控訴された。継続雇用制度によれば岡田さんの継続雇用は六四歳までであるので、職場復帰を実現するために残された時間は多くない。引き続き大阪高裁での闘いに勝利し、岡田さんを再び職場に戻すべく、全力を尽くしたい。

 (弁護団は、鎌田幸夫、谷真介)

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積水ハウス・リクルートスタッフィング業務偽装事件
「派遣労働者は派遣先にも派遣元にも団交できないのか」
弁護士 辰 巳 創 史

  1. 事案の概要
    (1) Aさんの就労実態
     平成10年ころ、Aさんは、派遣会社大手のリクルートスタッフィングに派遣労働者として登録した。
     平成16年12月9日、Aさんは、大手住宅販売会社の積水ハウスのカスタマーズセンターに派遣され、就労を開始した。Aさんが、派遣元リクルートスタッフィングから明示された業務内容は、いわゆる政令指定26業務の5号OA機器オペレーション業務及び8号ファイリング関係業務であった。しかし、Aさんが派遣先積水ハウスで行った実際の業務内容は、顧客からの販売家屋の修理依頼を受付け、その手配をするという電話応対業務と、会議資料の準備、荷物の受取といった一般事務が中心で、正社員の補助といった性格のものであった。
     Aさんは、リクルートスタッフィングから明示された業務内容と、実際に積水ハウスで行っている業務内容が異なるという点については、特に意識することなく、また、政令指定26業務に該当しない一般業務については、派遣可能期間が原則1年以内に制限されていることを知らずに、3ヶ月ごとに契約を更新して、平成20年8月31日まで約3年8ヶ月間同じ職場で同じ業務に従事した。Aさんは、同僚との人間関係もよく、仕事もてきぱきとこなしていたので、上司や同僚からの信頼が厚かった。

    (2) 派遣先積水ハウスによる就労拒否

     平成20年4月17日、Aさんは、派遣先積水ハウスカスタマーズセンター所長から、8月31日での期間満了後、3ヶ月待機した後に12月から職場復帰することを打診された。Aさんは、積水ハウスカスタマーズセンターで勤務を継続することを望んでいたので、これを了承した。
     上記の3ヶ月間自宅待機して後の職場復帰については、所長とAさんから派遣元リクルートスタッフィングに伝えていたので、リクルートスタッフィングの担当者もこれを了承していた。
     同年8月31日、派遣期間が満了したが、Aさんは3ヶ月後に職場復帰する約束であったことから、雇用保険の申請もせず、私物もすべて事務所のロッカー等に置いたまま、自宅待機を開始した。
     ところが、待機から1ヶ月あまり経過した10月3日、派遣元リクルートスタッフィングの担当者から「積水ハウスカスタマーズセンターの所長から、Aさんの12月の再契約はしない旨の連絡がありました。」との電話があった。Aさんは、驚いて、翌日所長に電話をかけた。すると、所長は、「派遣社員を3年雇用した後、3ヶ月間休ませて職場復帰させることは今のところ違法ではないが、法の目をかいくぐった問題のある行為であり、本社の人事からこのようなことは止めて欲しいといわれた。」と、再契約をしない理由を淡々と述べた。
     Aさんは、派遣元のリクルートスタッフィングにも電話をかけたが、担当者は、「職場復帰を前提に待っておられたことは申し訳なく思う。近くの仕事があった場合は紹介します。」と言うのみであった。
     結局、Aさんは、職場で良好な関係を築いてきた同僚に挨拶もできず、職場においてあった私物も休日にひっそりと取りに行くという惨めな思いをして、12月からの職場復帰も叶わなかった。

    (3) 提訴に至る経緯
     平成20年12月、派遣元リクルートスタッフィング・派遣先積水ハウスの対応に納得できなかったAさんは、当事務所に相談し、地域労組に加入した。
     平成21年1月20日、労働局に是正申告を行ったが、すでに派遣期間が満了しているので、申告としては受け付けられないが、調査をするとの回答であった。
     平成21年2月24日、労働局は、Aさんの業務内容は、電話応対などの一般事務が1割を超えていたとして、リクルートスタッフィング・積水ハウスの労働者派遣法26条1項1号違反、同法39条違反、同法40条の2第1項違反、同法26条7項違反、同法31条違反、及び同法35条の2第1項違反を認定し、両社に労働者の雇用の安定を図ることを前提として違法状態を是正するよう指導を行った。
     さらに、平成21年2月19日及び3月6日に派遣先積水ハウスに対して、同年3月4日及び3月26日に派遣先リクルートスタッフィングに対して団体交渉を申入れたが、両社はこれを拒否した。
     そこで、平成21年3月9日、Aさんは派遣先積水ハウスに地位確認、派遣元リクルートスタッフィングに損害賠償を求めて提訴した。
     また、平成21年6月、地域労組は、積水ハウス・リクルートスタッフィングの団体交渉拒否の不当労働行為救済申立を行った。

  2. 大阪府労働委員会の命令
    (1) 府労委による不当な命令
     平成22年9月10日、大阪府労働委員会は、団体交渉拒否の不当労働行為救済申立に対し、積水ハウスに対する申立てについては、積水ハウスの使用者性を否定して却下し、リクルートスタッフィングに対する申立てについては、義務的団交事項とはいえず棄却するという不当な命令を行った。

    (2) 事実認定に反する派遣法40条の2の解釈
     府労委は、Aさんの派遣就労について、「業務内容のうち、7割から8割程度は、顧客からの修理依頼を電話で受付け、修理の手配をする業務であった」と認定しておきながら、Aさんの業務が「5号業務に該当するかどうかを判断するに足る証拠はない」として、明らかに事実認定を無視した強引な派遣法の解釈をし、派遣法40条の2違反を認定しなかった。

    (3) 積水ハウスの使用者性について
     府労委は、積水ハウスがAさんの就労の継続を支配決定できる地位にあった事実を認定しながら、それは裁量の範囲内であるとして使用者性を否定している。しかし、そもそも裁量の範囲内とはいえ、決定する権限を認めながら、労組法上の使用者性を認定できるほどの支配決定権限がないとする判断は、大きな矛盾を含んでいる。

    (4) リクルートスタッフィングの団交応諾義務について
     府労委は、積水ハウスへの直接雇用を働きかける要求は、リクルートスタッフィングへの団体交渉事項になじまないとして、直接雇用申込義務違反の契約が継続していたのか否か、期間制限違反の違法な派遣就労があったのか否かという重要な事実の判断を回避したうえで、直接雇用が義務的団交事項といえないから、それに付随する損害賠償要求についてまで、義務的団交事項でないとした。かかる府労委命令は、労働者派遣における労働組合による団体交渉を極端に制限し、形式上の雇用主に対する要求すら制限する不当な判断である。

  3. 中央労働委員会への再審査申立
     上記のように、府労委命令の結論は、派遣労働者に対し、派遣先・派遣元ともに団体交渉ができないとする不当なものであり、平成22年9月28日、地域労組は、中央労働委員会に再審査請求を申し立てた。
     今後、たたかいは中央労働委員会に移るが、引き続き支援をお願いします。


(弁護団 村田浩治 高坂明奈 辰巳創史)

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ダイキン工業「有期間社員」雇い止め〜たたかいの報告
MIU大阪地本 書記長 久 松 博 行

はじめに
 新自由主義的な経済政策が強まる中で、大手自動車や電機などの製造現場を中心に続けられてきた、いわゆる「偽装請負」が大きな社会的問題になりました。世論の批判や私たちの運動の反映によって、労働者派遣法の改正など規制緩和から規制強化へと見直される一定の情勢が作り出され、それまで偽装請負を続けてきた企業に対して労働局などの是正指導が入り労働者の直接雇用がはかられました。しかし、現在、直接雇用はするが有期雇用とし、期間満了による雇い止めによって雇用を奪うという問題が、大きく立ちはだかっています。
 各種空調機製造大手の「ダイキン工業梶v(代表取締役社長=岡野幸義、資本金850億円、従業員数=連結38,874名)は、2007年12月に大阪労働局から「偽装請負」の是正指導を受け、2008年3月より同社堺製作所(金岡工場と臨海工場の二つの工場)で働く請負労働者382人を、半年、1年、1年で最長2年6カ月を雇用期限とする「有期間社員」として直接雇用しました。彼らの多くは、5年〜15年、長い人は20年近くにもわたって同工場で熟練工として会社に貢献してきた労働者で、本来なら有期雇用どころか正社員として雇用されてしかるべき労働者です。しかし、会社は2年6カ月の雇用契約期間が終了する今年8月末をもって、203人の有期間社員を雇い止めにしました。不況の影響で生産縮小しなければならないのならまだしも、今年の記録的猛暑で大変忙しい製造現場の中で、会社は一方で200人以上もの「有期間社員」を別に雇用するなど、今回の雇い止めは何ら合理性も正当性もないものでした。

組合結成から団交〜裁判提訴へ
 こうした中で勇気ある4人の仲間が労働組合(全日本金属情報機器労働組合=JMIU)に加入し「JMIUダイキン工業支部」を結成しました。そして、雇い止め撤回と雇用の継続を求めて3度の団体交渉を重ねましたが、会社側は「契約期間満了は労使双方の合意事項」として八月末での雇い止めを強行しました。やむなく4人は、「雇い止めは事実上の解雇である」として解雇無効と雇用の継続、損害賠償などを会社に求める裁判を9月1日付で大阪地裁に提訴しました。
 裁判では、ダイキンとの間に就労開始当初から「黙示の労働契約」が成立しており、8月末での雇い止めは事実上の解雇であるとして、地位確認等を請求しています。併せて、仮に有期間契約が有効であったとしても、本件雇止めは権利濫用により無効であるとして地位確認等を請求しています。さらに、不必要に短期の契約更新を繰り返す行為は労働契約法17条2項に抵触するとして損害賠償も請求しています。
 裁判開始に先だって弁護団より事件の持つ社会的影響力の大きさを考慮して、@単独審理ではなく合議体による審理、A大法廷での開廷、を申し入れました。裁判所(大阪地裁第5民事部:大須賀裁判官)は合議に回さず、法廷についても傍聴券を発行することで対応しました。堺地域からは貸し切りバス2台をチャーターして多数の支援者に傍聴参加していただくなど、事件への関心の高さを裁判所に知らせることができました。
 また、先日10月14日には国会予算委員会で日本共産党の山下よしき参議院議員が、ダイキン工業での有期間社員雇い止め問題について集中質問しました。菅首相は、一般論であるとしながらも200人を解雇して200人を雇い入れるようなことは好ましいことではない旨の答弁をせざるを得ませんでした。同時に、この日の質問で重要な点は、「改正派遣法で派遣労働者が救えるのか?」との山下議員の質問に対し、細川厚生労働大臣は、「派遣先に直接雇用された場合、派遣元の労働条件が引き継がれる」と答弁しました。この理屈でゆけば、偽装請負時期に請負元との間で「期限の定めのない雇用」で働いていた労働者は、派遣先に直接雇用された後も期間工ではなく「期限の定めのない雇用」になると解釈されることになり、重要な意味の答弁であると思いました。

おわりに
 裁判原告は4人ですが、その後ろには悔しい思いのまま職場を去った多くの仲間がいます。このたたかいは、そんな労働者を「モノ扱い」にするダイキン工業の社会的責任を追及し、4人の雇用継続を求めると同時に、雇用期限を区切って労働者を合法的に解雇=使い捨てにできる仕組である「有期雇用」という雇用形態のあり方をも問うたたかいです。しかし、相手はダイキン工業という大企業です。勝利を勝ち取るためには、大きな世論と運動の力によって企業や裁判所に対するたたかいを強化しなければなりません。すべての労働者の力を結集していただき、たたかいに勝利したいと思います。よろしくお願いします。

(弁護団は、平山正和、岡崎守延、斉藤真行、村田浩治、井上耕史、峯田和子、辰巳創史)

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