- はじめに
新自由主義的な経済政策が強まる中で、大手自動車や電機などの製造現場を中心に続けられてきた、いわゆる「偽装請負」が大きな社会的問題になりました。世論の批判や私たちの運動の反映によって、労働者派遣法の改正など規制緩和から規制強化へと見直される一定の情勢が作り出され、それまで偽装請負を続けてきた企業に対して労働局などの是正指導が入り労働者の直接雇用がはかられました。しかし、現在、直接雇用はするが有期雇用とし、期間満了による雇い止めによって雇用を奪うという問題が、大きく立ちはだかっています。
各種空調機製造大手の「ダイキン工業梶v(代表取締役社長=岡野幸義、資本金850億円、従業員数=連結38,874名)は、2007年12月に大阪労働局から「偽装請負」の是正指導を受け、2008年3月より同社堺製作所(金岡工場と臨海工場の二つの工場)で働く請負労働者382人を、半年、1年、1年で最長2年6カ月を雇用期限とする「有期間社員」として直接雇用しました。彼らの多くは、5年〜15年、長い人は20年近くにもわたって同工場で熟練工として会社に貢献してきた労働者で、本来なら有期雇用どころか正社員として雇用されてしかるべき労働者です。しかし、会社は2年6カ月の雇用契約期間が終了する今年8月末をもって、203人の有期間社員を雇い止めにしました。不況の影響で生産縮小しなければならないのならまだしも、今年の記録的猛暑で大変忙しい製造現場の中で、会社は一方で200人以上もの「有期間社員」を別に雇用するなど、今回の雇い止めは何ら合理性も正当性もないものでした。
組合結成から団交〜裁判提訴へ
こうした中で勇気ある4人の仲間が労働組合(全日本金属情報機器労働組合=JMIU)に加入し「JMIUダイキン工業支部」を結成しました。そして、雇い止め撤回と雇用の継続を求めて3度の団体交渉を重ねましたが、会社側は「契約期間満了は労使双方の合意事項」として八月末での雇い止めを強行しました。やむなく4人は、「雇い止めは事実上の解雇である」として解雇無効と雇用の継続、損害賠償などを会社に求める裁判を9月1日付で大阪地裁に提訴しました。
裁判では、ダイキンとの間に就労開始当初から「黙示の労働契約」が成立しており、8月末での雇い止めは事実上の解雇であるとして、地位確認等を請求しています。併せて、仮に有期間契約が有効であったとしても、本件雇止めは権利濫用により無効であるとして地位確認等を請求しています。さらに、不必要に短期の契約更新を繰り返す行為は労働契約法17条2項に抵触するとして損害賠償も請求しています。
裁判開始に先だって弁護団より事件の持つ社会的影響力の大きさを考慮して、@単独審理ではなく合議体による審理、A大法廷での開廷、を申し入れました。裁判所(大阪地裁第5民事部:大須賀裁判官)は合議に回さず、法廷についても傍聴券を発行することで対応しました。堺地域からは貸し切りバス2台をチャーターして多数の支援者に傍聴参加していただくなど、事件への関心の高さを裁判所に知らせることができました。
また、先日10月14日には国会予算委員会で日本共産党の山下よしき参議院議員が、ダイキン工業での有期間社員雇い止め問題について集中質問しました。菅首相は、一般論であるとしながらも200人を解雇して200人を雇い入れるようなことは好ましいことではない旨の答弁をせざるを得ませんでした。同時に、この日の質問で重要な点は、「改正派遣法で派遣労働者が救えるのか?」との山下議員の質問に対し、細川厚生労働大臣は、「派遣先に直接雇用された場合、派遣元の労働条件が引き継がれる」と答弁しました。この理屈でゆけば、偽装請負時期に請負元との間で「期限の定めのない雇用」で働いていた労働者は、派遣先に直接雇用された後も期間工ではなく「期限の定めのない雇用」になると解釈されることになり、重要な意味の答弁であると思いました。
おわりに
裁判原告は4人ですが、その後ろには悔しい思いのまま職場を去った多くの仲間がいます。このたたかいは、そんな労働者を「モノ扱い」にするダイキン工業の社会的責任を追及し、4人の雇用継続を求めると同時に、雇用期限を区切って労働者を合法的に解雇=使い捨てにできる仕組である「有期雇用」という雇用形態のあり方をも問うたたかいです。しかし、相手はダイキン工業という大企業です。勝利を勝ち取るためには、大きな世論と運動の力によって企業や裁判所に対するたたかいを強化しなければなりません。すべての労働者の力を結集していただき、たたかいに勝利したいと思います。よろしくお願いします。
- (弁護団は、平山正和、岡崎守延、斉藤真行、村田浩治、井上耕史、峯田和子、辰巳創史)
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