- 平成22年年3月19日、関西金属工業の井富雄さんの第2次解雇事件について仮処分で争っていたところ、懲戒解雇、普通解雇とも無効とする勝利決定が出されたので、報告する(裁判官は内藤裕之裁判官)。
- 関西金属工業は平成16年にに変更解約告知と銘打って組合員全員を整理解雇し(第1次解雇)、仮処分、地裁、高裁と全て勝って、組合員は平成19年に3年ぶりに職場復帰を果たした。しかし戻った職場は「生き地獄」であった。組合をつぶすことだけが目的となった社長の下、「班制」が敷かれ、組合員は1〜2名の各班に分断、常時監視される状況で班長から怒号、不良報告書の記載強要、退職強要、起立強要、果ては暴力や21件もの懲戒処分の乱発。組合が申し入れた団体交渉には社長も出ず内容も不誠実なものに終始し、解決の糸口も見えなかった。
そこで、組合員らは、まずは懲戒処分乱発を止めるため、平成19年7月に、懲戒処分の無効確認及び違法な懲戒処分を受けたことに対する損害賠償請求の裁判を提訴。その後も乱発された懲戒処分を随時追加提訴した(なお、平成21年9月に、会社が全ての懲戒処分を撤回して勝利和解した)。この提訴で会社の攻撃は井さんと宮本さんの二人の組合員にターゲットを絞り、班長らの暴言や暴力などのいじめにシフトしていったため、平成20年8月今度は井さん宮本さんを原告としていじめによる慰謝料の損害賠償請求を提訴(現在も係属中)。これらの裁判が継続している中で起こったのが今回の井さんの第2次解雇である(なお同時に、宮本さんも休職期間満了で退職扱いとされ実質解雇された)。
- 前置きが長くなったが、井さんの第2次解雇の概要は次のとおりである。
井さんが平成21年4月に工場内で積み込み作業を行っていたところ「班長」がやってきて「バリがとれてないやないか」と因縁をつけられて襟首を掴んで引きずられ、頭部や下顎部を殴るという暴力を振るわれた。激しく出血したため井さんは病院を受診し、たまらず警察に駆け込み被害届を提出した(それまでは暴力を振るわれても被害届を出すことは控えていた)。すると、会社はあろうことか暴力を振るわれた井さんを懲戒解雇してきた。懲戒解雇理由は驚くべきものであった。会社は、「井さんが実行犯の班長を挑発し、その挑発にのり防御行為を行った班長の手が偶然井さんにあたって井さんが軽傷を追い、その結果を重視して班長との契約を解除(解雇)せざるを得ず、会社にとって有望な人材を失わせた」というものであった。即時に仮処分を申し立てたところ、分が悪いと思ったのか、会社は井さんのミスが多いと、普通解雇を追加してきた。
- 班長の審尋では、裁判官は、従業員がいきなり暴力を振るうなどと言うのはにわかに信じがたいので、この実行犯の班長の審尋を行いたいと異例の希望が出され実施することとなった。班長の審尋では、暴力事件の態様について詳細に聞いたほか、こちらは怒号の飛び交う現場の状況を録音したテープを証拠提出して、異常な職場の状況について班長に質問をぶつけた。するとその班長は、明らかに録音テープに記録されている内容について「こんなこと言っていない」などと言う始末で、この時点で懲戒解雇の点で負けることはないと確信できた。
問題は普通解雇であった。井さんは100以上の不良報告書(作業ミスの報告書)を作成提出しており、その他の従業員と比べても際だっていた。それらの不良報告書がすべて書証で出された。こちらとしては、不良報告書を書かせるのもいじめの一貫であることや、不良を出さないための会社の指導教育が全くなかったこと、不良報告書は注意・指導のために作成されたものではなかったこと、などの反論を行った。
信じられない出来事は続く。結審後、会社は自ら解雇したはずの班長をあろうことか職場に復帰させたのである。これで会社のいう懲戒解雇理由は全くなくなった(もとより存在していなかった)ことが明らかとなり、実質的に残る争点は普通解雇の成否のみとなった。
- 決定は冒頭で述べたように、懲戒解雇も普通解雇も無効とする勝利決定であった。賃金仮払いについても、過去分は認めなかったものの金額面ではほぼ満額で、十分納得できるものであった。理由については、「班長がいきなり故意に井さんを殴ることは唐突の感がある」などと不満の残る点もあった(この会社はそういう会社なのだが)。ただ懸案の普通解雇については、裁判官は、不良報告書が注意指導のために作成されるものではないこと、不良を出さないための会社が指導を行っていたとは認めがたいこと、井さんの不良報告書の数は確かに多いが改善傾向にあることなどを認定し、井さんの言い分がほぼ全て認められた。雇用保険の仮給付が切れる前ぎりぎりの決定で、主任としては胸をなでおろす結果であった。
- 会社は組合の井さんを職場に戻せという団体交渉の申入れをいまだに拒否し続けている。いじめの損害賠償請求事件については今年5月31日に証人尋問があり、また、おそらく今回の井さんの第2次解雇についても会社は本訴で争ってくると思われる。これからも関西金属工業の「職場に帰って職場を変える」闘いは続く。労使間での全面解決をめざし、最後まで戦い抜くので、今後とも関西金属の争議に暖かい支援をお願いしたい。
(なお宮本さんの退職扱いの実質解雇についても仮処分で争っていたが、宮本さんが熊本に帰られることになり、和解で解決する決断を行った。本年3月31日には井さんの勝利報告と宮本さんの送別会を兼ね、賑やかな集会を行った。参加していただいた皆さまにはこの場を借りてお礼を申し上げたい。)
- (弁護団は鎌田幸夫、城塚健之、河村学、古本剛之、谷真介)
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