- 「便乗解雇」されたパート労働者たち
平成20年末に、減産を理由に一斉に解雇された5名の女性パート労働者が、地位確認を求めて闘ったケーブル工業事件が、本年2月12日労働者側の大勝利和解という形で決着しました。
原告である5名の労働者は、被告であるケーブル工業で時給800円前後、年収約180万円という低賃金で、真面目に働いてきた女性たちです。
ケーブル工業からの収入だけでは食べていけず、ダブルワークやトリプルワークで家計を支える人もいました。いわゆる「ワーキングプア」と呼ばれる労働者です。
ケーブル工業が、原告らを解雇した理由は、「減産」のみでした。
この会社は、主にトヨタの下請けとして自動車部品を製造する会社で、好調に収益を伸ばしてきた企業です。リーマンショックのあおりを受けて多少の減産を余儀なくされていましたが、赤字にはほど遠い状態で、これまでの収益で相当の内部留保もあると思われました。
しかし、ケーブル工業は「減産」を理由に、立場の弱いパート労働者を切り捨てたのです。
自動車業界の不況に乗じた、悪質な「便乗解雇」という以外にないものでした。
- 仮処分、そして本訴
原告たちは、解雇通告後、ただちに東大阪労連「はたらく仲間の会」に相談し、労働組合を結成して闘うことを決意しました。
そして、ケーブル工業に対し、職場復帰を求めて何度も団体交渉を重ねましたが、会社側は頑なに原告たちの職場復帰を拒否しました。
原告たちは、裁判所に対し、従業員であることの地位保全、賃金仮払いの仮処分を求めて申立を行いました。
当初、団体交渉の場で会社が説明した解雇の理由は主に「減産」でしたが、仮処分の際に会社が行った説明は、本件解雇が「作業上のミス」を理由とする「普通解雇」であり、同時に「減産」と「作業上のミス」を理由とする「整理解雇」であるというものでした。
しかし、会社の主張する「作業上のミス」とは、1日に数百個部品を製造する際に、1個だけ作り損ねたとか、数百個の部品を箱詰めする際に一つだけ詰め忘れがあったなど、ミスと評価できないようなものをあげつらうものでした。
ケーブル工業は、当初解雇理由として説明していた「減産」のみでは解雇の正当理由になり得ないことから、苦し紛れに原告らの「作業上のミス」をあげつらっているのであり、本件解雇に客観的に合理的な理由がないことは、この苦し紛れの説明からも明らかとなったのです。
また、本件では整理解雇の四要件がなく、整理解雇としても無効であることは明白でした。
ケーブル工業は、先に述べたとおり優良企業であり、低賃金のパート労働者を解雇する必要性はありませんでした。また、解雇回避措置を全くとっておらず、解雇者選定の客観的基準も示していませんし、労働者に対する説明や協議もありませんでした。
したがって、本件が普通解雇であっても整理解雇であっても、無効であることは明らかでした。
本件の解雇が、ケーブル工業が自社の利益のみのためにパート労働者を安易に解雇したものであることは、誰の目にも明らかでした。
仮処分の決定は、平成21年7月に出ました(担当は足立堅太裁判官)。
5人のうち、4人については解雇無効が確認され、賃金仮払いの決定でした(一人については退職であるとして却下)。
しかしながら、解雇後生活してきたということを理由にバックペイを認めず、賃金仮払いの内容も、原告らが提出した家計収支表をもとに、生活できるギリギリの金額にまで切り下げるという不当なものでした。
この仮処分の内容について、原告と組合は、裁判官に抗議文を提出するとともに、裁判官の実名を入れたビラを裁判所周辺で配布し、その不当性を訴えました。
その後、原告らは、この仮処分の結果をもって、再び会社側に解雇撤回と職場復帰を求めて度々要請行動を行いました。原告らの願いは、あくまでも五人全員の職場復帰でした。
しかし、原告らの強い要求にもかかわらず、ケーブル工業は職場復帰を拒否しました。
その後、会社側の申立によって、闘いの場は本訴へと移行しました。
- 本訴の経過
原告らは、職場復帰を果たすまでは闘うとの強い姿勢でしたが、ケーブル工業側は仮処分の時点から勝ち目は乏しいと考えて、和解解決を打診してきていました。
その後原告らも、もともと低賃金で働くワーキングプアの労働者であり、厳しい雇用情勢にある現在、原告らの生活を一刻も早く立て直すためには、早期の金銭和解をすべきではないかと判断し、裁判所からの打診もあって和解に応じることとなりました。
ただし、原告らの解雇が無効であることは、この時点で明らかとなっていたことから、原告らは5人全員の解雇無効を前提とし、かつ低賃金であることから、思い切った金額を提示しました。
担当の大須賀寛之裁判官は、当然のことながら、解雇無効であるとの心証を得ていましたが、当方の強気の和解金額提示に、当初は驚いていた様子でした。
しかし、原告らの訴えによって、本件解雇がパート労働者を安易に切り捨てる反社会的行為であるということが裁判官にも伝わったのでしょう、裁判官は、原告の皆さんに対しては終始にこやかに接する一方、必死に抵抗するケーブル工業に対しては、社長を裁判所に呼んで、長時間にわたり粘り強く説得を続けてくれました。
大須賀裁判官の説得が功を奏し、原告5人全員の解雇無効を前提とした、高いレベルの金額で和解することができました。
実質上、仮処分では負けてしまった原告も含め、原告5人全員の解雇無効が認められたのも同然の、大勝利和解でした。
- まとめ
約1年の闘いの末、原告らの職場復帰は叶わなかったものの、大きな成果を上げることができました。
私にとって、5人もの労働者が立ち上がって解雇無効を争うという大規模な労働事件に関わることは初めてであり、数多くのことを学ばせていただいた事件となりました。
仮処分の申立直後に、仮処分で解雇無効が認められなかった原告が大病を患い、原告らは裁判・運動の双方で困難に直面しました。
しかし、この原告は、めげずに病身を押して会議や運動に加わり、最後まで頑張ってくれました。
原告らの頑張りの結果が、今回の大勝利に繋がったと思います。
原告のめげない姿勢や組合の運動を目の当たりにして、労働事件における運動や団結の大切さも知ることができました。
この事件を通して学んだことは、今後の労働事件に関わる上で貴重な財産となると思っています。
- (弁護団は、城塚健之、原野早知子、藤井恭子)
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