2010年2月号/MENU


エネゲート派遣切り事件が和解解決
長見ヒューム管不当解雇裁判で全面勝利和解
ケーブル工業事件、大勝利和解で解決!
株式会社ジェイテクトを提訴! 
派遣・期間工切りは許しません! 均等待遇じゃないなんておかしい!!


エネゲート派遣切り事件が和解解決
弁護士 谷  真 介

  1.  平成20年5月に提訴したエネゲート事件が、平成21年1月13日に大阪地方裁判所で和解解決したので報告する。

  2. 事案の概要
     原告の吉岡誠一さんは、派遣会社である株式会社テクノスイコーに派遣登録し、平成17年9月に関西電力の子会社である株式会社エネゲートに派遣された。エネゲートでは、吉岡さんは、電気を工場や一般家庭に配電する装置「キュービクル」の製造工場において、キュービクルを検査する業務に従事した。吉岡さんは当初3か月の派遣期間だったが、3か月、6か月の更新が続けられ、2年間就労した。
     なお、吉岡さんは派遣される前に、派遣法上禁止されているエネゲートでの違法な事前面接を受けた。また、吉岡さんの派遣は、派遣法上派遣受入期間の制限のない専門業務「電気設計」とされていたが、実際に吉岡さんが従事したのは検査業務で、派遣受入期間が原則1年(意見聴取手続を行えば最長3年)に制限される一般業務であった。これはいわゆる業務偽装という状態で、エネゲートは直接雇用義務を免れるためにこのような偽装を行っていたのである。このように、吉岡さんの派遣は複数の違法が重なった状態であった。
     吉岡さんがエネゲートの工場で就労を開始してしばらくすると、工場の照明が非常に暗く、作業の手元が見えにくい状況で、視力の悪化を感じ始めた。吉岡さんはエネゲートの担当者に、何度も工場の照明の改善を申し入れたが、エネゲートは照明設備の改善をしてくれなかった。吉岡さんはテクノスイコーにも相談したが、担当者は、「そういうことをエネゲートに言うと仕事がやりにくくなるよ。」などというばかりで何もしなかった。
     また、吉岡さんは、職場のエネゲート正社員から頭髪が薄いことを多くの従業員の前でからかわれるなどのパワーハラスメントを受けていた。吉岡さんはエネゲートの苦情申出先とされていた担当者にハラスメントについての苦情を申し出たが、担当者は、「わかった。注意するけど、ただ、やりにくくなるよ。」と、苦情申出をしたことを理由に業務上の不利益を受ける可能性を示唆した。
     その1か月後、ちょうど契約更新の時期を迎えた吉岡さんに対し、いつもどおりテクノスイコーの担当者から「次も更新しますか?」との意向確認の電話があった。吉岡さんは、いつもどおり引き続き更新して働き続けることを希望した。これまでは、この電話確認だけで自動的に契約が更新されてきた。
     ところが、エネゲートは、「仕事量の減少」を理由にして、吉岡さんについての労働者派遣契約は更新しないと通告してきた。エネゲートはその直前には吉岡さんの仕事を担当する別の派遣社員を雇い入れていることからも、「仕事量の減少」などという理由は口実であることは明らかであった。実際のところは、照明の改善を求めたり、パワーハラスメントついての苦情を申出ていた吉岡さんを嫌悪して契約を打ち切ったのが真相である。
     吉岡さんは個人加盟の労働組合に加入し、テクノスイコー、エネゲートに団体交渉を申し入れたが、エネゲートは吉岡さんが自己の労働者ではないという形式的な理由で団体交渉を拒否した。

  3. 大阪地裁に提訴
     平成20年5月、吉岡さんは派遣元であるエネゲート、テクノスイコーを相手に提訴した。吉岡さんは当初はエネゲートへの職場復帰を望まなかったため、損害賠償請求を行った。その内容は、@エネゲート、テクノスイコーに対する違法な派遣打ち切り(更新拒絶)について定期金(得べかりし賃金)の賠償請求、Aエネゲート、テクノスイコーに対する苦情処理義務違反を理由とする慰謝料請求、Bエネゲート、テクノスイコーに対する視力悪化についての損害賠償請求(安全配慮義務違反)であった。また、裁判中に、吉岡さんはやはり派遣先への雇用責任を追及しなければいけない、という思いに至り、主意的にエネゲートへの地位確認及び賃金請求に追加した。
     大阪地裁での争点は、事実関係の争点として、
     @ 工場の照明が労働安全衛生法上の基準を満たしていたか
     A 工場の照明やパワーハラスメントの防止について、吉岡さんの苦情を受けて、エネゲート、テクノスイコーが適切な対応をしていたか
     B エネゲートにおいて吉岡さんの打ち切りを決定するほどの業務量の減少があったか(苦情申し入れを嫌悪して派遣打ち切りを行ったか)
     法律上の争点として
     C 違法派遣(業務偽装)がある場合に派遣先に地位確認が認められるか(黙示の労働契約の成否、派遣法40条4違反の有無とその効果としての地位確認請求の可否)
     D 適切な苦情処理を懈怠し苦情処理を派遣契約を打ち切ったことの不法行為上の違法性の有無
    であった。
    裁判における証拠調べでは、エネゲートにおいて人件費コスト削減のために検査業務の効率化を図っていたものの、エネゲートが吉岡さんの派遣契約打ち切りを決めたのは、効率化について報告がなされる以前であったことが明らかになり、Bの争点については、業務量減少と吉岡さんの派遣打ち切りは関係がないことが明らかになった。

  4. 和解内容
     証拠調べの後、裁判所が積極的に原告被告双方に和解を行うよう和解協議をすすめた。そして結論としては、吉岡さんがエネゲートに対する地位確認を放棄し、派遣先エネゲート、派遣元テクノスイコーが慰謝料として合計200万円(100万円ずつ)を吉岡さんに支払う形で和解が成立した。
     和解にあたって、吉岡さんがもっともこだわったのは、派遣先の違法性を明らかにすることであった。和解条項では通常は「解決金」とされることがほとんどであるが、この事件では、明確に「慰謝料」として派遣先エネゲートにも違法性があることを明確にした。なお、派遣打ち切りについての違法性を認めたかどうかについては文言上は明確にはなっていないが、苦情処理義務違反やパワーハラスメントの違反だけでは200万円などという高額な慰謝料がでてこない。したがって、金額上、派遣打ち切りについての違法性を認めたものであることは明らかである。
     これまで、派遣先の恣意的派遣打切り(更新拒絶)については、裁判では、伊予銀スタッフサービス事件や、ヨドバシパソナ事件、KCNマンパワー事件などでことごとく否定されてきている。本件は、和解という形でこれを認めたところに最大の意義があり、この和解解決を広め、他の裁判での派遣労働者の救済につながることを期待する。

(弁護団は、村田浩治、中西基、谷真介)

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長見ヒューム管不当解雇裁判で全面勝利和解
弁護士 下迫田 浩 司

  1. 分会結成の半月後に不当解雇!
     立花三郎さんは、1997年に、貝塚市にある長見ヒューム管株式会社に入社しました。立花さんが入社してから11年余り経った2008年9月8日、会社は、突如、一方的に、従業員らに対し、給与カットを告げてきました。立花さんらは、建交労大阪府本部の分会を結成することにしました。そして、2008年11月25日、分会を公然化しました。すると、そのわずか13日後の12月8日、会社は、立花さんを「懲戒解雇」しました。理由は、立花さんが12月2日に、車を運転していたときに、会社の常務の足をひいたということでした。常務は、当初、団体交渉において、12月2日の当日、病院に行って、診断書もある、と言っていました。しかし、後に、実際には、その日病院に行っていなかったことを、常務自らが認めました。

  2. 刑事弾圧に備え、臨戦態勢
     この事件が、私の所属する阪南合同法律事務所に持ち込まれたときは、常務が警察に被害を申し出ていました。そこで、警察による労働組合に対する不当な刑事弾圧がありうると判断し、年末年始も、刑事弾圧があったときにすぐに事務所として動けるような臨戦態勢をとっていました。
     同時に、刑事弾圧をできる限り避けるため、できれば年内に民事訴訟を起こそうとして、猛スピードで訴状を作成し、年明けの2009年1月7日に訴状を提出しました。
     結局、刑事弾圧はありませんでした。

  3. 訴訟における尋問
     従業員地位確認とバックペイと慰謝料を求めて訴えを提起しました(訴訟代理人は、西本徹弁護士と私)。
     被告会社の答弁書では、さほど新しい主張もありませんでしたので、こちらは、原告第一準備書面で、答弁書での被告の主張に対する認否を行い、すぐに人証調べを求めました。
     尋問に当たっては、西本弁護士が丸二日間、自宅にこもって、尋問の準備をしました。
     西本弁護士は、常務に対する証人尋問において、団体交渉の際、本当は診断書がないどころか、病院にさえ行っていなかったのに、病院に行って診断書もあるというウソを言ってしまったということを認めさせました。常務が従業員に話をするときにすぐに怒鳴ってしまうということまで、認めさせました。
     裁判官も、証人である常務に対し、補充尋問で、「それ、本当に痛かったんですか、4日の日。」と尋ね、常務が「いや、ずきずきしてるような、こう、しびれてるようなんはありました。」と答えたのに対し、裁判官は、「先ほどあなた、12月5日のことを原告代理人から聞かれて、足痛くなかったって言いませんでしたか。」と突っ込みました。これに対して、常務は「いや、痛いとしびれてるのとはまた違うと思います。」という苦し紛れの答えをしました。さらに、常務は、団体交渉において、病院に行って診断書もあるとウソを言った後、実際に病院に行った理由について問われ、団体交渉で病院に行ったとウソを言った以上、実際にきちっと病院に行っておかないといけないなというふうに思って後から病院に行ったと証言し、立花さんの運転する車に足をひかれたというのが立花さんを懲戒解雇するための作り話だったということが誰の目からも明らかになりました。
     また、被告側のもう一人の証人である部長は、労働組合に対し「組合なんか作るんやったら、辞めたらいいんや。労働者の代わりは何ぼでもおるんじゃ。」と明らかな労働組合敵視の発言をしたことを、法廷の場で堂々と認めました(答弁書では否認していたにもかかわらず、なぜか証人尋問の場では認めたのです。)。

  4. 和解
     証人尋問後、和解のための期日が連続6回も開かれ、6回目の2010年1月20日、ついに和解が成立しました。
     和解の内容は、被告が解雇を撤回して立花さんの従業員の地位を確認し、立花さんの職場復帰を認め、その労働条件が解雇の意思表示前と同一条件であることを確認し、バックペイにつき満額の3分の2くらいの金額を支払い、被告が原告に対し、給与規程の適用及び昇進その他の処遇並びに配置転換等について本件解雇に至る経緯を理由とする一切の不利益な取り扱いをしないことを確約する、というものです。
     立花さんの職場復帰を最重視して支援してきた「立花さんを支援する会」は、今回の和解を全面勝利和解と捉えています。
     私も、職場復帰の和解ができたことを、大変うれしく思っています。

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ケーブル工業事件、大勝利和解で解決!
弁護士 藤 井 恭 子

  1. 「便乗解雇」されたパート労働者たち
     平成20年末に、減産を理由に一斉に解雇された5名の女性パート労働者が、地位確認を求めて闘ったケーブル工業事件が、本年2月12日労働者側の大勝利和解という形で決着しました。
     原告である5名の労働者は、被告であるケーブル工業で時給800円前後、年収約180万円という低賃金で、真面目に働いてきた女性たちです。
     ケーブル工業からの収入だけでは食べていけず、ダブルワークやトリプルワークで家計を支える人もいました。いわゆる「ワーキングプア」と呼ばれる労働者です。
     ケーブル工業が、原告らを解雇した理由は、「減産」のみでした。
     この会社は、主にトヨタの下請けとして自動車部品を製造する会社で、好調に収益を伸ばしてきた企業です。リーマンショックのあおりを受けて多少の減産を余儀なくされていましたが、赤字にはほど遠い状態で、これまでの収益で相当の内部留保もあると思われました。
     しかし、ケーブル工業は「減産」を理由に、立場の弱いパート労働者を切り捨てたのです。
     自動車業界の不況に乗じた、悪質な「便乗解雇」という以外にないものでした。

  2. 仮処分、そして本訴
     原告たちは、解雇通告後、ただちに東大阪労連「はたらく仲間の会」に相談し、労働組合を結成して闘うことを決意しました。
     そして、ケーブル工業に対し、職場復帰を求めて何度も団体交渉を重ねましたが、会社側は頑なに原告たちの職場復帰を拒否しました。
     原告たちは、裁判所に対し、従業員であることの地位保全、賃金仮払いの仮処分を求めて申立を行いました。
     当初、団体交渉の場で会社が説明した解雇の理由は主に「減産」でしたが、仮処分の際に会社が行った説明は、本件解雇が「作業上のミス」を理由とする「普通解雇」であり、同時に「減産」と「作業上のミス」を理由とする「整理解雇」であるというものでした。
     しかし、会社の主張する「作業上のミス」とは、1日に数百個部品を製造する際に、1個だけ作り損ねたとか、数百個の部品を箱詰めする際に一つだけ詰め忘れがあったなど、ミスと評価できないようなものをあげつらうものでした。
     ケーブル工業は、当初解雇理由として説明していた「減産」のみでは解雇の正当理由になり得ないことから、苦し紛れに原告らの「作業上のミス」をあげつらっているのであり、本件解雇に客観的に合理的な理由がないことは、この苦し紛れの説明からも明らかとなったのです。
     また、本件では整理解雇の四要件がなく、整理解雇としても無効であることは明白でした。
     ケーブル工業は、先に述べたとおり優良企業であり、低賃金のパート労働者を解雇する必要性はありませんでした。また、解雇回避措置を全くとっておらず、解雇者選定の客観的基準も示していませんし、労働者に対する説明や協議もありませんでした。
     したがって、本件が普通解雇であっても整理解雇であっても、無効であることは明らかでした。
     本件の解雇が、ケーブル工業が自社の利益のみのためにパート労働者を安易に解雇したものであることは、誰の目にも明らかでした。
     仮処分の決定は、平成21年7月に出ました(担当は足立堅太裁判官)。
     5人のうち、4人については解雇無効が確認され、賃金仮払いの決定でした(一人については退職であるとして却下)。
     しかしながら、解雇後生活してきたということを理由にバックペイを認めず、賃金仮払いの内容も、原告らが提出した家計収支表をもとに、生活できるギリギリの金額にまで切り下げるという不当なものでした。
     この仮処分の内容について、原告と組合は、裁判官に抗議文を提出するとともに、裁判官の実名を入れたビラを裁判所周辺で配布し、その不当性を訴えました。
     その後、原告らは、この仮処分の結果をもって、再び会社側に解雇撤回と職場復帰を求めて度々要請行動を行いました。原告らの願いは、あくまでも五人全員の職場復帰でした。
     しかし、原告らの強い要求にもかかわらず、ケーブル工業は職場復帰を拒否しました。
     その後、会社側の申立によって、闘いの場は本訴へと移行しました。

  3. 本訴の経過
     原告らは、職場復帰を果たすまでは闘うとの強い姿勢でしたが、ケーブル工業側は仮処分の時点から勝ち目は乏しいと考えて、和解解決を打診してきていました。
     その後原告らも、もともと低賃金で働くワーキングプアの労働者であり、厳しい雇用情勢にある現在、原告らの生活を一刻も早く立て直すためには、早期の金銭和解をすべきではないかと判断し、裁判所からの打診もあって和解に応じることとなりました。
     ただし、原告らの解雇が無効であることは、この時点で明らかとなっていたことから、原告らは5人全員の解雇無効を前提とし、かつ低賃金であることから、思い切った金額を提示しました。
     担当の大須賀寛之裁判官は、当然のことながら、解雇無効であるとの心証を得ていましたが、当方の強気の和解金額提示に、当初は驚いていた様子でした。
     しかし、原告らの訴えによって、本件解雇がパート労働者を安易に切り捨てる反社会的行為であるということが裁判官にも伝わったのでしょう、裁判官は、原告の皆さんに対しては終始にこやかに接する一方、必死に抵抗するケーブル工業に対しては、社長を裁判所に呼んで、長時間にわたり粘り強く説得を続けてくれました。
     大須賀裁判官の説得が功を奏し、原告5人全員の解雇無効を前提とした、高いレベルの金額で和解することができました。
     実質上、仮処分では負けてしまった原告も含め、原告5人全員の解雇無効が認められたのも同然の、大勝利和解でした。

  4. まとめ
     約1年の闘いの末、原告らの職場復帰は叶わなかったものの、大きな成果を上げることができました。
     私にとって、5人もの労働者が立ち上がって解雇無効を争うという大規模な労働事件に関わることは初めてであり、数多くのことを学ばせていただいた事件となりました。
     仮処分の申立直後に、仮処分で解雇無効が認められなかった原告が大病を患い、原告らは裁判・運動の双方で困難に直面しました。
     しかし、この原告は、めげずに病身を押して会議や運動に加わり、最後まで頑張ってくれました。
     原告らの頑張りの結果が、今回の大勝利に繋がったと思います。
     原告のめげない姿勢や組合の運動を目の当たりにして、労働事件における運動や団結の大切さも知ることができました。
     この事件を通して学んだことは、今後の労働事件に関わる上で貴重な財産となると思っています。

 (弁護団は、城塚健之、原野早知子、藤井恭子)

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株式会社ジェイテクトを提訴! 
派遣・期間工切りは許しません! 均等待遇じゃないなんておかしい!!
弁護士 西 念 京 祐

第1 提訴
 平成22年2月4日、前週末の1.29派遣法抜本改正緊急集会でも「そもそも派遣を無くすべき」と熱く語った男性が、株式会社ジェイテクト(旧光洋精工株式会社)を相手取り、地位確認と損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に提起した。


第2 事案の概
 原告は、平成14年6月2日からジェイテクト国分工場で稼働していた。当初は、株式会社フジワークから送り出された請負社員として就労していたが、実態は、ジェイテクト社員の指揮命令下で働く偽装請負だった。平成19年4月1日には、ジェイテクトの求めでジェイテクトとの直用期間工と身分が変更された。この際、手続きを担ったフジワーク社員は原告ら請負社員に対し「法律の関係で、一旦、全員をジェイテクトの期間工にせなあかん。」「3年経ったら、また戻す。」等と言っていたという。ジェイテクトの直用となっても雇用契約の更新手続や給料明細の交付はフジワーク社員が行う実態に変化はなかった。
 原告は、平成21年2月末日までの6年9か月間にわたって、国分工場においてジェイテクトから指揮・命令を受け、ジェイテクトの正社員と混在する職場で、ジェイテクト正社員と全く同じ内容の業務(資材運搬、焼き入れ、旋盤加工)に従事し続けてきた。この間、契約はフジワークとの間で9回、ジェイテクトとの間で7回の計16回にわたって更新されていた。途中で配転が2度行われたがこれもジェイテクトによる指示であった。そして、原告の労働条件は、全く同一の業務を行っているジェイテクトの正社員に比し、著しく低廉な条件であった。
 平成21年1月半ば、原告は、フジワーク社員に呼び出されジェイテクトの人事課長同席の下、フジワーク社員から、平成21年2月末日をもって契約満了により辞めてもらう(解雇・雇い止め)と通告された。
 そこで、原告は、全日本金属情報機器労働組合(JMIU)ジェイテクト国分工場関連支部を結成し団体交渉を通じて雇い止め・解雇の撤回等を求めてきたが、平成21年12月22日の交渉に至るも進展が見られなかった。


第3 特徴
  1. 派遣切り(直用後の「期間工切り」)事案であること
     平成20年の年末から翌21年の年始にかけて、派遣村の取り組みが注目されていた時期にジェイテクトは全国で約2600名、原告のいた国分工場で約280名の期間工を雇い止めした。ジェイテクトはトヨタ自動車の第一次下請けであり、巨額の売上げを上げ、内部留保も存在すると思われる企業である。このような企業が、7年弱にわたって就労してきた労働者の生活を全く無視して、何の躊躇もなく解雇・雇い止めをしているのであり、企業の社会的責任が問われる事件である。

  2. 松下PDP最高裁判決に異議を述べる訴訟であること
     原告は、本訴において、ジェイテクトとの間で黙示の労働契約が成立していたとの主張をしている。
     昨年12月18日松下PDP事件についての最高裁判決は、同事件の原告と松下PDPとの間の黙示の労働契約関係を認めた大阪高裁判決を破棄し、当該事例ではこれを認めない判断をした。この判断は、派遣切りを免罪し、違法派遣や偽装請負の横行に何らの手当もせず、ただ一方的に労働者に不利な解決を図ろうとする極めて不当な判決であり、変更されるべきものである。
     本件は、松下PDP最高裁判決後、これに異議をとなえる最初の事例といってもよく、本件のような就労形態は職業安定法に違反する違法な形態であること、その際には違法行為を行った企業の責任において労働者を救済するという観点からも黙示の労働契約が認められるべきことを求めるものである。

  3. 均等待遇原則違反・パート法8条違反を正面から提起した訴訟であること
     派遣労働者や有期雇用の労働者に対し、正社員と同じ業務をしていても労働条件が低廉とされている実態がある。不安定な上に安いという不当な二重苦が課せられている。
     労働基準法3条には均等待遇原則が定められ、また、パート労働法8条では正社員とパートとの賃金等に関する差別禁止規定が設けられている。
     しかし、日本における派遣労働をはじめ非正規労働者は、正社員と全く同じ労働を行っているにもかかわらず、その賃金等が半分とかそれ以下の労働条件で就労している実態がある。これは均等待遇原則が確立しているヨーロッパの国々との比較においても最も大きな違いとなっている。
     本件の原告も、ジェイテクトの社員と全く同じ業務に従事していながら、大きな賃金格差の元で就労してきた。パート法は不当に厳しい要件を課しながらも、一定の場合に賃金等の差別禁止条項を設けており、この条項を活用して、非正規労働者の労働条件が引き上げられる必要がある。
     本訴訟は、このことの問題性を正面から問う大阪では初めての訴訟である。

  4. 労働者派遣法の早期抜本的な改正が求められる
     現在、労働者派遣法の改正が議論され、今国会に提案される予定である。しかし、年末に発表された労働政策審議会の答申では、常用型であれば製造業派遣も許される、均等待遇原則も認めない、違法派遣を行っていても派遣先が知らなかったといえばみなし雇用制度は適用されない、その登録型の製造業派遣も今後3年間は禁止しないというものであり、全く抜け道だらけの内容となっている。
     このような内容では、本件の原告のような労働者、派遣切りにあった何千、何万の労働者はやはり救われず、結局「派遣村」を継続するほかない自体が繰り返されてしまうのである。
    本件のような訴訟が必要でなくなるような労働者派遣法の早期抜本改正が求められるし、本件訴訟は虐げられている労働者の声なき声を届けるものでもある。

  5.  こんなことはおかしい!という気持ちを出発点とした意欲的な訴訟である。是非、この訴訟に注目すると共に、傍聴等、様々な形でご支援頂きたい。
 
(弁護団は、河村学、藤井恭子、西念京祐)

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