2010年1月号/MENU


最高裁 NTT西日本配転事件で会社を断罪
松下PDP事件 最高裁判所判決を乗り越える活動を強めよう!
飛翔館高校事件判決


最高裁 NTT西日本配転事件で会社を断罪
弁護士 河 村 武 信

 昨年12月8日、最高裁判所はNTT西日本配転事件をめぐって、上告を棄却し、これを受理しないと決定。NTT西日本に対し、通信労組組合員17名全員に総額900万円の慰藉料を支払うよう命じた大阪高裁判決(平成21年1月15日、平成19年(ネ)第1401号配転無効確認等請求事件)が確定した。11万人リストラに伴って一方的に強行された大阪(兵庫)から名古屋への遠隔地配転が、違法・無効であるとの判断が、ここに確定した。配転をめぐる近時の判決の中で、画期的な判断を示していた大阪高裁の判決が、最高裁によって維持され確定をみたことは、配転をめぐる問題に明るい一石を投じたものと評価することができると思う。(尚、訴訟の形態としては、会社が裁判の途中で1名を除く全原告に再配転を命じ、殆んど原職場近くに戻ったので、配転無効から損害賠償請求に変更している。)

  1. 判決の意義
     最高裁の判断は、会社の上告について、これを上告理由に当たらないとして棄却したもので、最高裁が自判したものでない点で、いささか物足りなさはあるが、大阪高裁の示した次の判断について、最高裁もこれを維持したことは評価することができる。すなわち、
    (1)当然のことながら、大企業における企業再編に伴う大合理化の推進過程における組織的、集団的な配転であっても、個々の配転先において、その従業員を配転させる業務上の必要性が個別的に認定される必要のあること。
    (2)配転に際し、従業員の蒙る不利益性に関し、育児、介護休業法26条の趣旨をふまえて検討する必要のあることを明らかにした上で、@長時間の長距離通勤による肉体的、精神的、経済的負担を考慮し、それにより自宅で過ごす余暇や地域活動に充てる自由時間の減少、睡眠時間の減少を検討すべく、A単身赴任となるものについては、それに伴う精神的ストレス、日常生活のための自由時間の減少、二重生活及び帰省の必要による経済的負担を検討するべき必要を明らかにして、B何れの場合であっても、地域活動や社会的活動への支障、組合活動への支障をも、従業員の蒙る不利益として指摘していること。
    (3)そして、配転に関する適正手続についても、個別の配転の必要性、配転先での担当業務、復帰の時期について説明することが必要であり、また配転時に使用者が認識し、あるいは容易に認識できた事情をもとに不利益性を判断すべきであること。
     このような判断を最高裁もまた肯認したといえよう。

  2.  これまで配転事件を取組んできたなかで、会社側の主張する業務上の必要性を打ち破ることは、極めて困難、殆んど不可能といって過言でなかった。とくに大企業が構えた配転事件にあっては、巧妙に業務上の必要性が装いを凝らして主張され、我々が立証を尽くしたと思っても、裁判所もまた遠慮して、それを看破できないふりをする。
     しかし、本件にあって大阪高裁判決は、大阪(兵庫)から名古屋への配転については配転先の業務は、配転者用に創出されたものと認めざるを得ず、いずれも営業の成果を上げることが非常に困難で、単純で、機械的、一時的なものであり、かつ、在名古屋の従業員の担当可能なもので、上述した不利益性との相関関係でとらえると、業務上の必要性は認められないと判示していた。最高裁も企業は配転者用の意味のない業務を創出してまで、リストラに協力しない従業員に対して、加虐的な配転をするものだとの認識をしたものの如くである(その根底に不当労働行為が横たわっていることも含めて)。

  3.  ワーク・ライフ・バランス論が叫ばれて久しい。「仕事と生活の調和」を転勤問題に即して考える必要も説かれている。この判決も大きな意味で、このような時代の流れの中で、より発展的にとらえることが必要であろう思う。
     私事ながら、1986年の東亜ペイント事件の最高裁判決に関与して以来(同事件を担当した中心は西本徹弁護士であった)、20年余を経て、育児、介護、休業法の立法を経て、比較衡量の内容は豊かになったといえることはもとよりであるが、地域活動や社会活動、組合活動をも十分に展開できる労働者の生活が、全体的に衡量されるべき要素として判決の中に出現したことは感無量である。

(担当弁護団は、河村武信、出田健一、田窪五朗、横山精一、城塚健之、西晃、増田尚、中西基、井上耕史、成見暁子、大前治と私である。)

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松下PDP事件  最高裁判決を乗り越える活動を強めよう!
弁護士 村 田 浩 治

  1. はじめに
     2009年12月18日午後3時、最高裁は、前年の4月25日に、パナソニック(松下)PDP株式会社(以下「PDP」と表記)と吉岡力さんとの雇用契約関係があることを認めた大阪高等裁判所の判決を破棄し、地位確認の請求を求めた控訴を棄却する不当判決を下した。

  2. 被上告人の求めた論点に答えなかった判決
     最高裁の判断は、一審と同様、雇用契約が請負会社とあり、それは無効ともいえず、PDPとの間に雇用契約は認められないとしたものだ。このような形式的な思考が間接雇用による企業の一方的な派遣切りを許し多くの労動者の働く権利を奪っているこの時代にふさわしい法解釈といえるのか、法律家としての解決を示すものにならないことは明白だ。
     私たち弁護団は、偽装請負である以上、また、派遣法に基づかない以上、「指揮命令のない」「労務提供のない」雇用が請負会社と成立しているという根拠は何か、一審判決は答えていないではないかと最高裁の弁論で問いかけ、仮に請負会社との雇用が無効でないとしてもPDPとの雇用がないとする理由はないという「労働契約」の本質に関わる問いを発したが、最高裁は、これに全く答えることはなかった。立法権への提言すらなかったことは、最高裁が非正規問題を人権問題であるととらえていないことの現れというほかはない。

  3. 有期雇用の雇い止めの濫用行為を免罪
     本件は、有期5ヶ月だけの期間設定の有効性及びその雇い止めの有効性も重要な論点であった。しかし、この点も最高裁は、従来の「期待権」論を繰り返すだけで本件の問題に即した判断を示さなかった。判決は、「前記事実関係等によれば、上告人と被上告人との間の雇用契約は一度も更新されていない上,上記契約の更新を拒絶する旨の上告人の意図はその締結前から被上告人及び本件組合に対しても客観的に明らかにされていた」として「上記契約はあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとはいえないことはもとより、被上告人においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合にも当たらないものというべきである。」などとして雇い止めを有効とした。
     しかし、本件で問題となっているのは違法の告発と是正指導の結果、派遣先との直接の雇用契約を締結する際に、有期5ヶ月に限定するということが、派遣法上の不利益扱い禁止規定や労働組合法上の不利益取扱い禁止規定に反しないのかという点である。この点に何ら答えずに、違法行為を行っていたPDPの認識を理由に労働者の契約更新の期待権を認めないとするのは不当というほかない。

  4. 損害賠償は認めざるを得なかった矛盾
     判決は、吉岡くんに対する雇い止めが有効であると認定した一方で、不法行為責任は認めた。判決は「前記事実関係等によれば,上告人は平成14年3月以降は行っていなかったリペア作業をあえて被上告人のみに行わせたものであり,このことからすれば,大阪労働局への申告に対する報復等の動機によって被上告人にこれを命じたものと推認するのが相当であるとした原審の判断は正当として是認することができる。これに加えて,前記事実関係等に照らすと,被上告人の雇止めに至る上告人の行為も,上記申告以降の事態の推移を全体としてみれば上記申告に起因する不利益な取扱いと評価せざるを得ないから,上記行為が被上告人に対する不法行為に当たるとした原審の判断も,結論において是認することができる。」としてPDPの雇い止め行為も含めた違法性を認めたのである。
     私は当初、最高裁が地位確認を否定するのであれば、この雇い止めの不法行為部分も破棄されるだろうと思っていた。なぜなら上告受理をした理由には不法行為に基づく損害賠償部分も含まれていたからだ。しかし、最高裁は意外なことに、雇い止めを含めた行為全体が、吉岡くんに対する報復の動機に基づくものであるとの判断を示した。今井裁判官の補充意見は、リペア作業に従事させたこともその後の雇い止めも、労働者派遣法四九条の三の不利益取扱いの趣旨にも反するとの補足意見を加えた。
     雇い止めが報復目的の不法行為と認めるのであればその行為が解雇権濫用法理の類推適用の根拠とならないとするのは、判決が大いなる矛盾を抱えていることを示しているといえるであろう。不当労働行為性に全く言及していないことも含め、判決は、全体としてPDPの雇用責任を結論において免罪したと言わざるを得ない。
     しかし、矛盾をはらむ損害賠償を認めさせたことは、違法就労を告発し、終始一貫して就労先の企業責任を追求してきた当事者の取組みの成果であり、PDPを追いつめた証と言ってもいいだろう。

  5. 今後の課題、黙示の労働契約の積み重ね
     最高裁は、請負会社の雇用契約関係を有効とし、黙示の労働契約の成否については、「上告人はCによる被上告人の採用に関与していたとは認められないというのであり,被上告人がCから支給を受けていた給与等の額を上告人が事実上決定していたといえるような事情もうかがわれず,かえって,Cは,被上告人に本件工場のデバイス部門から他の部門に移るよう打診するなど,配置を含む被上告人の具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったものと認められるのであって,前記事実関係等に現れたその他の事情を総合しても,平成17年7月20日までの間に上告人と被上告人との間において雇用契約関係が黙示的に成立していたものと評価することはできない。」との判断のみを示した。
     今後は、請負会社と雇用無効論に頼らず、各地で提訴されている60を越える訴訟のひとつひとつが、事実認定で労働契約の成立を認めさせていかなければならない。そのような積み重ねをもって最高裁判決を乗り越えていかなければならないのだ。

(弁護団は、村田のほか、豊川義明、中筋利朗、大西克彦、奥田愼吾、中平史と全国から名乗り出てくれた弁護士合計203名の代理人である。)

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飛翔館高校事件判決
弁護士 十 川 由紀子

  1. はじめに
     本件は、岸和田市の私立高校で、学年末である2008年3月29日に、突然、教員七名が整理解雇された事件である。原告1名は勝訴(人選に合理性がないため)、残り4名は敗訴した(大阪地方裁判所堺支部。裁判長山田知司)。

  2. 判決の概要
    (1)整理解雇について
     判決は、整理解雇が有効か否かは、@人員削減の必要性、A解雇回避努力義務の遂行、B解雇対象者の選定の合理性、C解雇手続の相当性の四つを総合考量して判断すべきで、すべてを具備する必要はないとして、総合考量説を採った。
     そして、教員の教育権のため、私企業より整理解雇の四要件を厳しく考量すべきとの原告の主張を退けた。三田尻女子高校事件(山口地裁平成12年2月28日決定)とは、正反対の立場を採る。
     判決全体を読むと、教育より、学校経営を重視している。大量の整理解雇により、学校が混乱し授業が成り立たなくなったこと、受験を控えた3年生が多大な精神的負担を負ったことは、全く考慮されていない。

    (2)@人員削減の必要性
     被告高校は、確かに経営状態は良くなかったが、倒産の危機には瀕しておらず、無借金であった。この判決の基準だと、全国の多数の私学で整理解雇が認められることになる。
     また、被告が専任教員を解雇した後、非常勤講師を雇い入れたが適切な人材が得られず、1年後、新たに専任教員を雇い入れたことについて、判決は正当化しており、今までの裁判例ではあり得なかったことである。
     判決は、被告提出の意見書のみ引用し、原告らが提出した東京の大学教授の意見書は、完全に無視している。また、判決を読む限り、裁判所は、最終準備書面しか目を通しておらず、それまでの準備書面の議論を頭に入れて判決を書いていないと思われる。

    (3)A解雇回避努力義務の遂行
     被告高校は、コンサルタント会社に多額の無駄な資金を費やし、受験レベルを上げて入学者を自ら減らし、美容コースを廃止して、生徒数を減少させてしまった。つまり、生徒数確保のための努力はしてこなかった。
     しかし、判決は、被告が生徒数確保のための努力をしていないという原告の主張を無視し、被告が人件費削減を行ったので、解雇回避努力義務を遂行したとした。

    (4)B解雇対象者の選定の合理性
     判決は、年齢と、直近二年度の懲戒歴を基準とすることに合理性があるとした。
     しかし、被告高校の場合、人件費が抑えられていることから年齢の差によって年収にあまり差がない。高校教育においては、多様な年齢の教師がいることで、教育が充実するのであるから、判決は不合理である。
     また、解雇が有効とされた原告は、狙い打ちされて懲戒処分を受けており、同じ行為をした教員に平等に懲戒処分はなされていないにもかかわらず、判決は、不平等に懲戒処分がなされても、懲戒処分は有効としており、不当というほかない。

    (5)C解雇手続の相当性
     判決は、事前の協議が十二分になされていたかについては問題があるとしながら、仮に協議をしても、進展の見込みは非常に疑問であり、教育指導に多大な支障を来す可能性があるとして、不十分な説明にとどめても全く不合理とも断定し難いとした。
     これまでの判例は、協議の進展の見込みの有無を裁判所が判断するということはなく、協議の進展の見込み如何にかかわらず、使用者に説明・協議義務を課していた。今までの判例の基準を大きく後退させてしまった。

  3. 今後の闘い
     敗訴した原告らは、判決を不服として控訴した。この判決がまかり通ると、全国の私学で整理解雇が多発することになるので、高裁では、絶対に勝訴したいと思う。
     また、在職中の組合員である教師二名が、懲戒処分の無効を争って、大阪地方裁判所堺支部に訴訟提起し、第一回目の裁判が一月一二日から始まる。

(弁護団 戸谷茂樹、山ア国満、岸本由起子、下迫田浩司、十川由紀子)

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