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- はじめに
本件は、INAXメンテナンス(以下「会社」という)から形式的に個人業務委託業者として扱われ、INAX製品の修理業務に従事している労働者ら(CEと呼ばれている。CEとはカスタマー・エンジニアのこと)が、組合に加入し、会社に団体交渉を申し入れたところ、会社がCEが個人事業主であり労組法上の労働者に当たらないとしてその団交申し出を拒否した事件である(事実関係及び一審判決については季刊・労働者の権利280号91頁参照)。
本件の争点は、まさに個人事業主として扱われているCEが労組法上の労働者にあたるか、という点に尽きる。
なお、事案の時系列は以下のとおりである。
2004年 9月 6日(及び同月17日、同月28日、11月17日)団交申し入れ
2005年 1月27日 大阪府労委に救済申立て
2006年 7月21日 大阪府労委命令
2007年10月 3日 中労委命令
2009年 4月22日 東京地裁判決
2009年 9月16日 東京高裁判決
- 判決の労組法上の労働者性判断基準について
(1) 判決では、まず、労組法上の「労働者は、使用者との賃金等を含む労働条件等の交渉を団体行動によって対等に行わせるのが適切な者、すなわち、他人(使用者)との間において、法的な使用従属の関係に立って、その指揮監督の下に労務に服し、その提供する労働の対価としての報酬を受ける者をいうと解するのを相当」とし、これに該当するか否かは、「法的な使用従属関係を基礎づける諸要素、すなわち労務提供者に業務の依頼に対する諾否の自由があるか、労務提供者が時間的・場所的拘束を受けているか、労務提供者が業務遂行について具体的指揮監督を受けているか、報酬が業務の対価として支払われているかなどの有無、程度を総合考慮して判断するのが相当」とする。
ただ、同判決ではこれに続けて、「なお、業務委託契約が締結された場合、契約関係の成立により契約当事者は互いに契約目的の実現に向かってそれぞれの負担義務を遂行すべき制約ないし拘束をうけることになるところ、委託者と受託者の間には法的な使用従属関係はないが、何らかの業務を受託する以上委託内容によって拘束あるいは指揮監督関係と評価できる面が認められることがあるのが通常である。したがって、上記の法的な使用従属関係を基礎付ける諸要素の存否の評価に当たっては、契約関係の一部にでもそのように評価できる面があるかどうかなどの局部的視点で判断するのは事柄の性質上適当ではなく、両者の関係を全体的に俯瞰して労働組合法が予定する使用従属関係が認められるのかの観点に立って判断すべきである。」とわざわさ書き加えている。
(2) この一般論が意味するところは何か。
(ア) まず、判決は、労組法上の保護を受ける「労働者」を、指揮命令に服し、労務の対価としての報酬を受ける者と定義しているが、これは全く労働契約上の労働者と同じ基準である。また、判決は、「法的な使用従属の関係に立」つ者という限定を付けて、事実上の使用従属関係を排除している。
さらに、判決は、業務委託契約関係は「法的な使用従属関係」にないこと、つまり法的に対等関係の契約であることを前提としている。
この3つの基準から導き出される結論は、労組法上の「労働者」とは、労働契約上の労働者と同じなのであり、業務委託契約が締結されている場合は労働者ではあり得ないということである。
(イ) ただ、判決も、名目上は業務委託契約であっても、それが法的に労働契約と判断されるような場合には労組法上の労働者性を認めるとし、この点を「法的な使用従属関係」を基礎付ける諸要素によって判断するとしている。
そして、「諸要素」を肯定するには、事実上の使用従属関係では足りず、「諸要素」が契約上の権利義務として認められる関係にあることが必要とするのである。例えば、「指示を断った場合は債務不履行になる」とか、「8時〜5時まで事務所で就業しなければならない」といった形での契約内容が存在することを要求するのである。
(ウ) さらに、判決は、局部的に、そのような法的関係が認められるような場合でも、直ちに法的な使用従属関係を認めてはならず、「全体的に俯瞰して」判断すべきとする。その内容は判然としないが、後の判示からすれば、業務委託契約上の権利義務であれば「法的な使用従属関係」はないのであるから、これらの義務と解しうるものは判断の対象から排除するということのようである。
しかしながら、判決によれば、その契約が、業務委託契約なのか労働契約なのかが問題なのであるから、業務委託契約上の権利義務は使用従属の問題ではないことを前提にするのはおかしいのである。使用従属の問題ではないとされる「業務委託契約」は法的に業務委託契約なのか労働契約なのか判らないからである。
そこで、判決は、一般論としては「全体的に俯瞰して」との言葉でごまかしながら、当該事案の判断の場面では、名目上「業務委託契約」であれば法的にも業務委託契約であるとして判示をすすめている。判決の矛盾はここにある。
(エ) なお、同一論点について、少し前に出されたビクターサービスエンジニアリング事件(東京地裁2009年8月6日判決。民主法律447号。鎌田幸夫弁護士執筆)では、この点は、「(労働契約関係にないという)事実は当事者間に争いがない」という形で、業務委託契約関係であることが前提とされた。これは当事者の主張整理自体を判決がおそらく意図的に誤ったものである。
(3) 本判決は、結論的には、業務委託契約として取り扱われている者については、労働基本権の保護を与えないという立場にたっている。
- 判決の当該事案の判断について
(ア) 判決の判断基準が前記のようなものであるから、当該事案の検討について、その就労実態というものはほとんど問題にされない。
(イ) 諾否の自由について
判決は、@個別の業務は控訴人からの発注を承諾するという個別的業務委託契約の締結によって行っている、ACEは発注を受けた際基本業務委託契約とは無関係な理由で拒絶することができる。Bいかなる拒絶であっても債務不履行になることはない、との理由でCEには諾否の自由があるとしている。
この点、就労実態としては、個別の契約手続は全く行われないし、契約と無関係な理由で拒絶するということもほとんどない。またCEが全く手前勝手に拒否すれば、仕事を減らされ、契約を解除されるなどするのである(契約上も、CEは「業務を直ちに遂行するものとする」とされ、他の文書では、正当な理由なく発注連絡に応じない場合は、「業務放棄」として、厳重注意や依頼の削減、契約解除等の制裁を加えるとされている)。
しかし、判決は、業務委託契約であり、「受注義務」という形で契約上明記されていないのであるから、発注はその都度の個別契約であり、また法的には受注しなくてもCEの債務不履行にならないと解釈するのである。そして、受注しなかった結果、会社がそのCEに発注しなくなり、CEが生活できくなったとしても、それは事実上のものであるから考慮の対象外とするのである。「断るのも自由、食えなくなるのも自由」というわけである。
(ウ) 時間的・場所的拘束について
判決は、@発注連絡を受けなくても債務不履行に該当しないこと、A発注業務を実際にいついかなる方法で行うかはCEの裁量に委ねられていること、BCEの作業時間外の行動について関知していないことを理由に時間的・場所的拘束はないとする。
しかし、事実として、発注連絡については前記のとおりであり、作業時間・作業場所は、顧客との関係で自ずと限定・拘束されるし、その他の時間も移動時間やエリア周辺での待機などで事実上拘束されるのであって、それは社員扱いされている者が行う出張修理業務の場合でも同じである。判決は契約に明記されていないから拘束はないと判断しているにすぎない。
なお、このような判断であれば、フレックスな時間帯で一般消費者相手の営業等を行っている社員などはすべて時間的・場所的拘束がないことになってしまうのであり、判決の判断は非常識極まりない。
(エ) 報酬の支払いについて
判決は、CEの報酬について、@全国一律の標準額を基本としているが、CEの裁量による増額を認めた上で、出来高制で報酬を支払っていること、A他の事業の方が収益がよければそちらに移るという選択が可能であるとの理由で、報酬は業務の内容に応じた出来高として支払われているとする。
しかし、事実として、生産手段を持たないCEが他の事業と本件就労の間を行き来できるということはあり得ない。判決は、法的な理屈としては可能であろうと言っているだけである。また、出来高払い制は労働者性を否定する理由にならないし、CEに認められる裁量というものも顧客に請求する代金についての裁量で、かつ、社員であっても同様の裁量をもって行われていることである。そもそもCEの報酬はその裁量によって決まるのではなく、会社が一方的に決めるライセンス制度により決まるのである。
(オ) CEの拘束性が認められる事情について
判決は、CEには、@承諾拒否を連絡しなければ受諾したものとみなされる、A休日を予め届け出ておかなければならず、発注連絡時間が定められている、B研修やエリア会議の出席が求められている、C会社の定める認定制度やランキング制度によって報酬額が左右される、D規定に反した場合には厳重注意や契約解除などがされることがある、などの拘束を受けているなどの事実があるとしながら、「これらはいずれも、控訴人の委託する修理補修業務が、水回りに関するINAXの住宅設備機器の修理補修等という連絡効率性、迅速性、確実性が求められかつ全国一律一定以上の技術水準を求められるという本件における基本的業務委託契約の委託内容による制約にすぎない」とする。
契約上の拘束にはそれぞれ意味があるのであって、それは労働契約の場合でも同様である。判決は、本件は業務委託契約であり、業務委託契約上の権利義務は法的な使用従属関係の問題ではないということを何らの理由も示さずに所与の前提としているので、このような判示をしているのである。
(カ) 労働実態を事実としてみることなく、形式的に業務委託契約か労働契約かという基準で判断すれば、いかに常識外れでおかしな判示になるかが判る。
そうであるのに、本判決は、止むに止まれぬ思いで労働組合を結成したCEたちに対して、CEたちの考え方こそ、「社会の実情ないし経験則に照らしても合理的とは言い難い」と批判するのである。社会の実情を全く知らない裁判官が社会に放った最悪の皮肉である。
この判決は、労働者・労働組合に対する敵意をむき出しにした裁判官によって、労働者が労働基本権を奪われたものと位置づけるべきである。
- 現在、雇用形態の多様化に伴い、労働契約法上、または労働組合法上、労働者かどうかの判断を求める事案が多くなっている。本判決及びこの間の一連の東京地裁・高裁の判決は、この種の事案について、名目的・形式的な判断基準で処理をしようとする方向に動いている。労働運動の根幹にかかわるこの動きを、労働組合が総力を挙げて阻止する取り組みが必要である。
なお、個人請負型の就労者については、国際的にも、あいまいな立場に置かれた労働者としてその保護が問題とされているし、厚生労働省でも現在研究会を開催し実態調査等を行っているところである。しかし、判断の難しい類型と、本件のように労働者性が明らかな類型とは明確に区別されるべきであり、本来、労働者としてその保護が与えられるべき者が、単に使用者から事業主と取り扱われているというだけで、労働者としての保護から切り離し、別の類型として処遇するということがあってはならない。
(弁護団は、村田浩治、河村学、愛須勝也、古本剛之、古川拓)
- 関西金属工業の組合員全員が整理解雇されて勝利判決で職場復帰をした後、組合員たちに21件の懲戒処分が乱発された事件につき、大阪地裁において、会社側が全ての懲戒処分を撤回する全面勝利に近い和解解決をしたので、報告する。
関西金属の名前はすっかり民法協でもおなじみになった。一方で「関西金属はまだ争議をつづけているのか」、そんな声もよく耳にする。04年に変更解約告知と銘打ったリストラにより組合員が全員解雇され、仮処分、地裁、高裁と全て勝ち、07年には組合員の全員復職を勝ち取った。しかし、組合員が3年ぶりに復帰した職場は、まさに「生き地獄」であった。
復職にあたり、組合は今後の労働条件等に関して会社に団体交渉を申し入れたが、会社側はこれを無視して一方的に就業命令を発令。職場に戻った組合員たちをまっていたのは、社長やその意思を忖度した「班長」らによる、あからさまな数々の嫌がらせであった。作業服は1着しか付与されない。自転車置き場からは閉め出される。職場では「班制」が敷かれ、組合員は1〜2名の各班に分断。各班の「班長」からやあるいは社長自らが常に組合員の作業を監視する体制がとられた。工場には常に「班長」らの怒号が響き渡る。組合員が少しのミスでもすれば、怒鳴りつけられ、「ミスだろ!書け!」と不良報告書を書かされる。不良報告書を書いても書いても「書き直せ!」。そのような中、会社から組合員らに対し、合計21件の懲戒処分が乱発された。組合員たちは勤続30年以上のベテランばかり。懲戒処分など一度も受けたことはなかった。乱発された懲戒処分の一例は次のとおり。
@ 職場復帰当日、組合3役が、職場復帰にかかる労使協議の申入れ文書を整理解雇以前より労使交渉の会社側窓口であった事務所に持参したことに対し、「立入り禁止場所に無断で立ち入った」として、けん責処分。
A 明らかに無理のある作業命令に対して組合員が「無理です」と意見をすると、これを業務命令違反として、けん責処分
B 上記けん責処分により始末書提出を命じられたにもかかわらず組合員が提出を拒否した態度が反抗的として、これを減給処分(二重処分)
C 作業ミスをしたことに対する警告書にミスはないという理由でサインを拒否した態度が反抗的として、けん責処分
D 有給休暇を利用して組合員が社会保険事務所に健康保険の支払い手続を尋ねにいったところ、休暇許可願いの理由を偽った及び会社専管事務につき法令外の苦情を申し立てたとして、けん責処分
E 職場で提訴を聞きつけた「班長」より「お前誰を訴えたんや」と怒鳴られて暴力を振るわれ大騒ぎとなったことに対し、暴力を振るわれた組合員が逆に乱暴な振る舞いをしたとしてけん責処分、騒ぎを聞いて助けにいった組合員たちには許可なく持ち場を離れたとしてけん責処分
一見して不当な処分ばかりであった。
このような懲戒処分に対し、07年7月、今後の懲戒処分乱発を止めるため、懲戒事由の不存在及び不当労働行為目的によるものと主張して、無効確認及び違法な懲戒処分を受けたことに対する損害賠償請求の裁判を提訴。しかし、裁判の提訴によっても会社による懲戒処分乱発は止められず、提訴後に懲戒処分が出されればさらに追加提訴。追加提訴を繰り返し、結局合計21件もの懲戒処分の無効確認等の裁判を行うことになった。
裁判では、会社は組合員が「ミスばかりして能力がない」ことや、懲罰委員会により適正に処分したものであることを繰り返し主張した。懲罰委員会は(本当に行ったかどうかすら疑わしいのだが)社長の取り巻きで構成され処分される組合員の言い分は聞くことすらしないというものであった。21件の懲戒処分に関し、1つ1つ事実関係の主張、立証をすることはかなりの骨が折れる作業であったが、09年7月に証拠調べが終了した。その後裁判所の強い意向で和解協議が続けられ、裁判所のこの事件は和解をすべきだという信念も功を奏し、09年9月、会社が全ての懲戒処分を撤回し、減給処分については減給分全額の支払をする旨の和解が成立した。詳しい和解内容については、まだ争議は続いているため控えさせていただく。
懲戒処分の裁判をすすめていく中、会社の行為は懲戒処分だけでは止まらなかった。懲戒処分を乱発しても裁判で争い、それに屈さない組合員らに対し、会社は徐々に「嫌がらせ」、「いじめ」にシフトしていった。中でも気の強くない、どちらかといえば優しい性格をもつ組合員を対象にして、仕事を与えず一日中立たせておく、修正可能なものでも少しでもミスをすれば数人で囲んで怒鳴り不良報告書を何度も何度も書かせて最後には「責任とってやめます」と書かせようとする、拳骨で殴りつま先に金属の入った安全靴で蹴り飛ばすなど、職場は、社長の容認のもとでまさに無法地帯と化していた。いじめや嫌がらせに耐えきれず、一人、また一人と組合員が会社を辞めていき、組合員は現在6名まで減少した。とりわけひどいいじめ、暴力を受け続けた組合員と、精神的に追い込まれて休職せざるを得なくなった組合員(別途労災申請中)の二人について、いじめに対する慰謝料の損害賠償請求を追加で提訴した。これは懲戒処分の裁判とは併合されず、和解からははずれて、これから実質的な審理に入る。
また、そうしている間に、上記二人の組合員が今年4月、なんと同じ日に、会社から解雇(退職扱い)された。「会社はそんなに組合が憎いのか」と誰もが思わざるを得なかった。一人は実行犯である「班長」からまたも暴力を受けて病院を受診するということが騒ぎが起こり、今まで控えていた警察への被害届提出をついに敢行したところ、会社は実行犯の「班長」を解雇し、あろうことか、この「班長」を解雇せざるを得なくなったのはその組合員の行動に基づくとして組合員を懲戒解雇処分にするという暴挙にでた。また、別の組合員については、休職期間の満了が近づく中「就労可能、ただし慣らし就労が望ましい」という診断書を提出して復職希望を伝えたにもかかわらず、「慣らし就労が望ましい」ということはまだ治っていないということだとして、復職を認めず休職期間満了により退職扱いとした。これら二人の懲戒解雇、退職扱いについても、即時に仮処分を申し立てて別途審理中である。これらも結局二人に対する「いじめ」の延長なのである。
そういうわけで、懲戒処分乱発の方はどうにか全部撤回させることができたが、職場から「いじめ」をなくす闘い、損害賠償の本訴と二人の仮処分の闘いは、まだ続いている。裁判官は「会社との消耗戦になっている」と表現したが、まさにそのとおりとなっている。「健全な労使関係をとりもどす」という全面解決をめざし、最後まで争議を戦い抜く所存であるので、今後とも関西金属の争議に暖かい支援をお願いしたい。
(弁護団は、鎌田幸夫、城塚健之、河村学、古本剛之、谷真介)
- 「名ばかり管理職」
(1) 大阪市内に本社のあるアパレル関係のデザイン製作会社を退職した労働者が、在職中の残業代を請求した事件。
(2) 裁判で会社は、その労働者は労働基準法第41条2号の「管理監督者」だったと主張して、これが最大の争点になった。
労働者は、2〜4人程度のデザイナーのグループのまとめ役的な立場にあったが、それは勤続年数が相対的に長かったからに過ぎない。デザインは各社員が自分の担当した仕事を責任を持って仕上げていたので、会社が主張する「デザインの決定と、仕事の割り振りの決定」の権限はなかった。会社は「役職手当の支給」も根拠に挙げたが、金額はまちまちながら他の社員にも支給され、皆が同様に定期昇給時に増額されていたから、実質的に通常の賃金の一部であることは明らかであった。
会社はさらに、その労働者が会社の職制上の「リーダー職になっていた」と主張したが、リーダー職に関する規定を子細に検討すると、労務管理や会社の重要事項に関する権限は全く無いことが明らかとなった。そもそも、リーダー職の打診をしたと言うのみで、実際には辞令の発行も無かった。
(3) このように悉く根拠が崩れたために、「アートディレクターの肩書きを与えていた」とか、「デザイナーという仕事の性質上時間管理ができない」とか言い出した。前者は、そもそもアートディレクターという肩書自体を与えられた事実はないが、問題は肩書ではなく職務の内実であると反論した(なお、アートディレクターでも管理監督者性を否定された裁判例として、東京地裁判決昭和59年5月29日判決。労働判例431号)。後者は、会社はデザイナーの仕事の「芸術性」「裁量性」を言うが、デザイナー部門は営業部門、製造部門と連係して、納期に拘束されて商品を製作する一部門であり、個々の仕事が日々上司の把握・監督の下にあったから、管理監督者性を云々する余地は全く無いと反論した。
(4) 裁判は、一、二審とも、付加金請求を除いて原告の請求が認容された。最終的には、確定判決に基づいて、認容額と遅延損害金の大部分にあたる金額が分割で支払われた。
この事件は、労働相談センターの紹介事件。なお、一審判決は労働判例bX57、5頁に掲載。
- 「名ばかり取締役」
(1) 東大阪市内に本社がある自動車用洗車機のメーカーを退職した労働者が退職金の支給を受けたが、「取締役」であった期間を退職金計算の対象にしない、として本来の額よりも減額した退職金しか支給されなかった事件。労働者が不足額を請求して訴訟を起こした。
(2) 会社は「取締役であった期間は除外する取り扱い」であったとして、その労働者が実際に「取締役」としての職務を行っていたと主張した。
(3) しかし、「除外取り扱い」の規定も無ければ、「取締役」就任時にそのような説明もなかった。
次に「取締役」性であるが、その労働者は技術者として入社し、製品の開発を手がけてきた。「取締役」就任は当時の上司から勧められたが、その前後を通じて仕事の内容や賃金に変化が無かった。賃金は、他の社員と同様に定期昇給と同率の賞与の支給を受け、健康保険、社会保険、雇用保険の適用も受けた。当然ながら、人事権やその他会社の重要な事項に関する権限や意思決定への関与は無かった。
(4) こうした事実を突きつけられ、会社役員は証言で「景気が上向きになれば変わるかも判らない。今の会社の状態ではやむをえない」などと述べ、退職金の減額の理由は会社の経営状態であると認めるに至った。なお、この労働者が労働組合員として長期に渡って争議を闘ってきたという事情もあるのではないかと思われる。
(5) 判決は、取締役に選任されていることや会議に出席していることをとらえて「名目だけの取締役だったとは言えない」としたが、取締役であることと従業員であることは矛盾しないとして、従業員性を認めた。そして、取締役の期間は退職金計算から除外するという明文の規定や明示の合意、確立した取り扱いは無いから、従業員退職金既定を限定的に解釈する余地がないとして、退職金を全額支給すべきであると判断した。
判決後、直ちに遅延損害金も含めて請求額全額の支払いがあった。
(6) 平成8年の解雇事件以来相次いだ仮処分、本訴、不当労働行為救済申立等諸々の事件の締めくくり(?)の事件。弁護士は正木みどり、篠原俊一と斉藤。組合は全国一般大阪府本部、その後東大阪労連。
- 「名ばかり退職金」
(1) 大阪市内に本社がある電線製造会社の労働者二名が、破産した会社の破産管財人を相手に退職金の支払を請求した事件。
(2) 管財人は、会社の就業規則には「退職金を支給する」という規定があるものの、それを具体化した規定が無いので退職金は制度になっていない、と主張。
労働者が請求した根拠は、昭和60年2月に在籍した社員には中小企業退職金共済(中退共)の掛け金が退職まで掛けられ、中退共から退職金の支払いを受けている事実があったことだ。
労働者の一人は昭和60年4月に入社し、もう一人は平成3年の入社であった。彼らは、入社してから中退共の掛け金をかけられないままであったが、平成16年から掛けられるようになった。会社の経営悪化のために平成19年に人員整理にあって(その後会社は破産)、3年分の掛け金に対応する16万円余の退職金のみが中退共から支払われた。
(3) 労働者は裁判で、入社時から掛け金を掛けていたら得られたであろう退職金を会社から受け取る権利があると主張した。
管財人は、就業規則には抽象的な規定しか無く、具体的に退職金の額を決める基準などを規定したものはないから、請求権はないと主張した。また、昭和60年2月に在籍した者に中退共の掛け金を掛けた事実は認めながら、それ以外の者には長期に渡って掛け金を一切掛けていなかったから、退職金は制度になっていなかったと主張した。
(4) 労働者側は、中小企業退職金共済法第3条「中小企業者は・・・すべての従業員について退職金共済契約を締結するようにしなければならない」、同第25条「中小企業者は、退職金共済契約に関し、従業員に対して不当な差別的取扱をしてはならない」と規定していることを根拠に、中退共の退職金が制度として成立しており、掛け金不払いの怠慢は会社の責任であり、会社自身に支払義務があると主張した(参考裁判例、東京地裁昭和51年7月15日判決・判例時報848号87頁)。
(5) 本人尋問が終了して結審直前に、昭和60年4月入社の労働者が実家の倉庫に預けていた荷物の中から、入社当時にまとめて貰っていた就業規則などの書類の中に「社員退職金規定」なるものがあるのを発見した。労働者はむずかしい書類はわからないので全部まとめて倉庫に放り込んでいたので、すっかり忘れていたものだった。この「退職金規定」は中退共を利用することを明言していた。なおこの規定は届出はされていない模様で、昭和60年4月より後に入社した者に交付されていたかは不明。平成3年入社の原告労働者にはこれらの規定類は渡されていないし、その存在も明らかにされていなかった。
(6) この新証拠提出を受けて、破産裁判所と破産管財人が検討した結果、二人の労働者について、入社当時から掛け金を掛けていたなら中退共から支払われたであろう退職金額から実際に支払われた16万円余を引いた金額を、一括で支払う内容で和解案が提示された。なお、掛け金は最低の額であった(破産裁判所と管財人が根拠とした裁判例は、大阪地裁平成10年10月30日判決・労働判例999号)。
二人の労働者はこの和解案を受けて和解が成立し、速やかに全額支払われた。
(7) 西淀川地域労組・スマイルにしよどの持ち込み事件。労組の全面的支援を受けた。
- 「泣きそうになってあまり話せなかった。」――8月26日派遣先である株式会社カネカ(旧鐘淵化学工業株式会社)、派遣元である株式会社スタッフサービスが目の前で謝罪した最後の団体交渉の後、「思ったより言葉が少なかったね」と声をかけたとき、当事者であるAさん(32歳)が、語った言葉である。09年1月から始まりおよそ8ヶ月間かかった青年部初の「派遣切り」問題はこうして幕を閉じた。「闘う青年部」と方針を掲げ、団体交渉を青年部で担当するようになり4つ目の、闘い。50人の直接雇用を勝ち取り、いくつもの「初めて」と「体験としての学び」を青年部にもたらしたこの争議を、改めて振り返りたい。
08年12月26日事務所が閉まる一年の最後の日の夜、そろそろ帰ろうかと思っていたとき、一本の電話が鳴った。10月ごろから「闘う青年部」を行動に移し労働法を学び労働相談に立ち合い、団体交渉も責任者をしていたが、まだ一人だけで一から労働相談に乗り切る自信が持ちきれていなかった時だ。すでに事務所には自分以外誰もいない。一瞬迷ったが、やるだけやってみようと思い電話を取った。声を聞いて若い女性とわかったとき、一気に親近感が沸く。話を聞くとすぐに「派遣切り」だと発覚した。
当初の派遣契約書には専門26業務であることを示す「17号業務」と記載があった。途中から抵触日が通知され製造業務になっていた。Aさんの話によると、「仕事内容はずっと一緒」とのこと。業務内容は顕微鏡を見ながら医療用のコイルを作ること。4パターンあって、毎日指示があったパターンのものを作る。この仕事を3年8ヶ月続けていた。書類上は研究開発業務から製造業務に変更はあるが、実態はまったく同じ仕事である。業務偽装、派遣可能期間超え、社会保険未加入の挙句、中途解除。違法行為のオンパレードだった。
「派遣先は応じてこないだろう」。事務所の誰もがそう考えていたが、あっさり団体交渉に応じてきた。会社側は「仕事内容は途中で変更しており抵触日には到達していない」と主張。拉致があかないと感じていたとき、弁護士一年目にして派遣問題に精力的に挑戦し「労働局是正指導申告マニュアル」を作成した谷真介弁護士から、「労働局への是正指導をすべきだ」とのアドヴァイスを頂いた。すぐに現民主法律協会事務局長の河村学弁護士に相談し是正指導書を作成して頂き、労働局へ。そして3月31日労働局から是正指導がされた。
指導内容は画期的なものだった。まず業務内容の途中変更は認められず、当初から一貫して製造業務であったことが認められた。同時に派遣可能期間超えも指摘された。そして何より、指導対象が50人に及んだことである。当時Aさんが働いていたのはカネカの摂津市にある大阪工場のトランバス課であった。トランバス課はさらに、3つのグループに分かれていたのだが、今回の是正指導は「組織の最小単位」をトランバス課とみなし、どのグループかは問わず、トランバス課で働いていた派遣労働者を全員直接雇用せよという指導がなされたのだ。(09年4月11日読売新聞にて掲載)
ここまでは、現行法や通達などを最大限生かした成果であるが、もっとも重要視されるべきAさんの雇用については、「現行法の限界」に阻止された。労働局からの是正指導が出た3月31日時点で派遣契約は終了しておりAさん自身の雇用については是正対象にならない。よって、この是正指導はAさんにとっては何の法的規制力もなかったのである。
会社側はそれを逆手にとってきた。雇用については3つの提案があった。
@ 現在業務委託している女子寮の管理人業務
A 関東にあるカネカの子会社での雇用
B スタッフサービスで引き続き派遣n紹介
という内容だった。3年以上も製造業で、雇っておきながら、違法行為について指摘されたら女子寮の管理人業務を提案したり、関東の子会社を紹介するなど言語道断。最後の派遣を続けるのは論外。本来直接雇用されるべきだった労働者に再度派遣を続けないかという提案を、よくもできたものだと怒りがこみ上げてくる。団体交渉で再三Aさんが伝えた、「契約の更新月が近づく度に胸が苦しくなった」との発言を会社側は一切理解しようとしていないと改めて感じた。
この提案の後、青年部が担当した争議で始めての「抗議宣伝」を行うことになった。抗議宣伝となると数が必要になる。2〜33人で抗議宣伝だといっても迫力がない。通常青年部では、団体交渉をはじめとするさまざまな活動についてはメーリングリストに概要を流しいわゆる動員は行わない。その内容を見て来る、来ないはそれぞれの組合員が決めるといった主体性を尊重した運営を行っている。今回ばかりはそんなことも言っていられない。初めて電話でも参加者を募った。すると、普段ほとんど反応がない組合員も「あーカネカか!メール読んでる読んでる。何か手伝えるなら行くよ!」とか、「管理人はないよなぁ。その日は予定入ってるけど少しだけなら参加できるわ!」などうれしい反応が返ってきた。宣伝の準備では、「横断幕ってどうやって作んの?」「会社側が抗議してきたときの対応は?」「ビラをとってくれた人が共感してくれる内容にどうすればなるか?」などわからないことも多く四苦八苦。最終的に、ビラには受け取った人が自分自身が違法な派遣で働かされていないかをチェックできるチェックシートを盛り込むことにした。当日、青年だけで9名がカネカの門前に3時間陣取った。スピーカーで抗議を行った青年は述べ6名。そのうち初めてスピーカーを通して人前で話をしたのは4名に及んだ。
最終的にこの争議は冒頭に書いたとおり、50人については直接雇用がされたものの、Aさんについては会社側の全面的な謝罪付きで、8月末、金銭和解によって終結した。本来直接雇用させるべき争議ではあったが、派遣先・元の態度を見ている限り、直接雇用を勝ち取るには裁判しかなかったと思う。しかし、当事者はやはり生活面等考えると踏ん切りがつかない。前民主法律協会事務局長の村田浩治弁護士が出演し、10月13日に放送されたNHK番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」でも、裁判闘争への支援の決断に苦しむ労働組合の姿があったように、裁判闘争は、本人にもそれを支える労働組合などの組織にとっても非常に苦しい闘争であると思う。だからこそ、今すでに立ち上がり、闘いののろしを上げている労働者との連帯は欠かせないことを痛感させられた。さらに、頭では理解していながらも、派遣切りの争議を自分で担当する中で、どの法律や通達やガイドラインを用いても現在の体制では突破できないこと、「現行法の限界」を理解できた。そしてそれを突破するためには「運動」が必要であることが腑に落ちた。さらに言えば、現在の社会もこれまでの多くの方々の「運動」の積み重ねの上に立っていることが腑に落ちた。
昨年10月28日号の民主法律時報に「早期に青年自らで解決する組織に青年部をしていきたい」と書いた。ちょうど一年たって、青年部はあれから23件の争議を担当し、15件を解決してきた。団体交渉には常時7〜8名が参加している。しかし、労働争議の数だけ団体交渉をし続けるのが目標ではない。労働争議が起きないような社会にするために、私たち青年は今後「運動」への方針を明確に位置づけ、「運動の到達としての立法化(社会的規制)」へのプロセスにまずは積極的に「参加」していき、ゆくゆくはそのプロセスを「創り出せる集団」に発展させたいと思う。
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