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- はじめに
平成13年3月から約8年2ヶ月続いた第一交通争議について、平成21年5月27日、争議全体を解決する勝利的和解が成立しましたので、報告します。
北九州市に本社を置く第一交通は、平成13年3月30日、同じくタクシー会社である佐野南海交通を買収した後(買収と同時に佐野第一と商号を変更)、不当労働行為の限りをつくし、組合の壊滅に血道をあげてきましたが、組合が反撃をして持ちこたえると、平成15年4月には、子会社の佐野第一の営業実態を御影第一という別の子会社に移し(組合員以外の乗務員のほとんどすべてを御影第一に異動)、佐野第一を解散して(これを偽装解散と呼んでいます)、これを理由に組合員55名を全員解雇しました。
- 偽装解散解雇事件
佐野第一の解散を理由に解雇された組合員らは、親会社の第一交通に対し、主位的には、従業員としての地位の確認と賃金の支払いを求め(法人格否認の法理による)、予備的には、不法行為に基づく賃金相当損害金の支払いを求めて、本案訴訟を提起しました。
最大の争点は、子会社の偽装解散を理由に解雇された労働者は、法人格否認の法理により、親会社に対し雇用責任を追及できるかというものです。仮処分手続きも含め、裁判所の判断は二転三転しましたが、本案訴訟の高裁判決は、法人格否認の法理を適用して、親会社である第一交通が雇用責任を負うと判断し(大阪高等裁判所平成19年10月26日判決)、この判断が最高裁でも維持されました(最高裁判所第一小法廷平成20年5月1日決定)。かくして、組合員らは、親会社である第一交通の従業員であることが確認されたのでした。
- 不当出向命令事件
組合員らは、第一交通の従業員であることが確認されたのですが、第一交通が素直に判決に従うはずもなく、早速新たな組合攻撃を仕掛けてきました。第一交通は、有限会社佐野交通なるものを準備して、組合員全員に出向を命じたのです。組合員らの意向を無視した一方的な命令でした。
この有限会社佐野交通は、ほとんどペーパーカンパニー同然の会社です。車は廃車寸前の寄せ集め、乗り入れ駅は確保されておらず、顧客は一切なく、営業実績は全くのゼロです。第一交通は、このような状況で「さあ乗れ」というのです。第一交通は、従前と同じ賃率(タクシー運転手の水揚げの62.5%)を維持してやるからいいだろう、と開き直りました。しかし、如何に賃率が維持されても、営業が成り立たないのですから、賃金(オール歩合給)の大幅ダウンは必至です。
組合員らは、平成20年7月31日付で、第一交通を相手に、出向命令の無効を主張し、賃金の仮払いを求める仮処分を申し立てました(大阪地方裁判所堺支部平成20年(ヨ)第88号)。
裁判所では、営業基盤の整備を条件として、就労に向けた和解協議を行いましたが、結局、第一交通が裁判所の和解案を拒否し、和解協議は決裂しました。その後に出された仮処分決定は、出向命令の不合理を認め、組合員らに対する賃金の仮払いを命じました(大阪地方裁判所堺支部平成21年3月16日決定)。
- 勝利和解の成立
こうして、組合員らは、仮処分手続で勝利し、出向命令無効確認請求事件の本案訴訟が継続中でしたが、平成21年5月下旬、第一交通からの申し入れにより、急転直下、争議全体を解決する勝利和解が成立しました。
残念ながら、組合員らは第一交通での職場復帰を果たせませんでしたが、解決金を得て、今後は組合が独自にタクシー会社を立ち上げて組合員の雇用を確保していくことになりました。
約8年2ヶ月にわたる争議を経て、このような勝利解決にこぎ着けたのは、組合の団結、上部団体である自交総連大阪地連の物心両面にわたる支援、争議団共闘をはじめとする各団体の力強い支援があったからだと思います。モベヒ(支援者・弁護士・当事者)の団結を実感した闘争でした。
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(弁護団は、小林保夫、藤木邦顕、横山精一、山ア国満、中筋利朗、高橋徹)
- 大阪市営地下鉄で清掃作業に従事する労働者に、6月22日、大阪市は2万4221円の生活保護費を支給する決定を行いました。大阪市が雇用した労働者に、大阪市が生活保護を支給するという異様な問題が明らかになりました。官製ワーキングプア実態のひとつでもあります。
- 生活保護支給決定の経過
労働者は、地下鉄清掃事業を一般競争入札で落札したビルメンテナンス会社に雇用される契約社員(53歳)です。時間給は760円(大阪の最低賃金748円)で、朝8時半から午後5時半までの実働7時間です。時間外を含め月収は約14万円で、税金や社会保険料を差し引くと手取り収入は約12万円となります。家賃3万4千円のアパートに一人暮らしをしています。仕事をしながら生活保護を申請する労働者は勤労控除(必要経費の控除)されるため、収入認定金額は9万1389円と決定されました。この男性を保護すべき金額は11万5610円であることから、差額の2万4221円が支給されることになりました。申請は1週間後の決定となり、本人は「食費は月4万円程度で、休日は朝昼兼用で食パン1枚、仕事の日はご飯とおかず一品の弁当なので、決定されてホットした、もう少し食べられるようにお金を使いたい」と話しました。
建交労大阪府本部は地下鉄清掃労働者(全体では約350人)15人を組織し、競争入札制度の改善や継続雇用保障などを、大阪労連の支援を受けながらたたかっています。今回の生活保護申請では、大阪生健会の大口事務局長や地元の浜事務局長、谷真介弁護士に協力をいただきました。
- ダンピング競争が背景
地下鉄清掃事業はもともと3年前まで随意契約であったことから、時間給も800円台でした。それが競争電子入札に変えられ、業者間のダンピング競争が始まりました。次第に800円を切り、最低賃金水準に下落したのです。
大阪市交通局はWTO協定を理由に最低制限価格の設定をせず、低入札価格調査制度だけで入札決定を行っていることに、最大の問題があります。その改善を大阪市と交通局に要求していますが、当局回答は「最低賃金にさえ違反していなければ指導できない」を繰り返すばかりで、総合評価方式や低入札価格基準を引き上げる視点(現行予定価格の60%を85%に引き上げ要求)さえ事実上拒否しています。
実際に、この労働者を雇用するビルメンテナンス会社は入札単位となるブロックでの落札率は48%でした。どのブロックでも落札価格は50%水準で、かってはもっとひどく30%台でした。
交通局は予定価格を事前公表せず、後にも積算基準すら公表しないため、入札額は予定価格に対し、最低36%、最高628%まで幅がうまれる異常なものとなっています。犠牲は労働者ばかりでなく、業者も利益が確保できない問題があり、大阪労連は大阪ビルメンテナンス協会(公共事業委員会)との懇談を重ねながら、双方が大阪市に強く入札制度の改善を求めているところです。
- 急がれる公契約条例制定、最低賃金の1000円以上の引き上げ
大阪労連はILO94号条約を批准し、公契約法(条例)の制定をもとめ運動を8年余りすすめてきましたが、豊中市などでの総合評価方式や制定もとめる意見書が大阪狭山市議会であげられるなど前進してきていますが、本格的には今からです。これは日本のリビングウエッジ運動とも言えるもので、尼崎市議会では5月末に条例案が結果的には制定できませんでしたが、市長や当局の条例案つぶしの動きに、リビングウエッジ議員の会や市民グループ、地区労が奮闘しました。当局の「違法性」主張に対し、専修大学の晴山一穂教授が見事な「意見」で反撃反論し、議会論議をリードしました。
最低賃金法は昨年改正施行され、9条で「生活保護に係る施策との整合性」が規定されました。しかし、大阪の最賃審議会では生活保護との乖離金額は時間額34円で、2年内に是正すればよいとの姿勢に固守しています。生活保護基準をごまかして、低く見せかける手法で乗り切ろうとしています。8月上旬の本年度の最賃額決定に向け、1000円以上の実現めざし奮闘してところです。
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働く労働者が生活保護を受給せざるを得ないこの日本の現状、それを問題視できない官僚と首長。有期労働、使い捨て労働、非人間的働かせ方を制限させたい、取っ払いたい。
私は9月に、大阪労連を退任しますが、今後も労働者の諸課題を引き続き、人間の問題としても深く捉え、社会変革の運動にかかわって熱く奮闘したいと思います。皆様には、大変お世話になったことにお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
- 事案の概要
読売テレビ(YTV)では、すでに1999年度から管理職(部長職以上)に年俸制が導入されていた。当時、会社が主張する管理職(部長職以上)は全社員の25%を超えており、管理職とは名ばかりで実際の仕事は現場での制作業務であったり、部下が一人もいないのに肩書きだけが「担当部長」、「専門部長」などと称されているのが実態であった。
会社は、会社が主張する管理職は労基法上の「管理・監督者」に該当すると主張して残業代は支給せず、賃金体系は業績連動が組み入れられている年俸制に統一すると主張していた。これに対して、読売テレビ放送労働組合は、労基法上の「管理・監督者」にあたるのはいわゆる「ラインの部長」以上に限定されるべきであると主張し、労組組合員の範囲も同様にライン部長以外の部長(担当部長、専門部長など)は労組組合員資格があるものと取扱い、これらは名ばかり管理職にすぎないと主張してきた。
このように管理職の範囲について労使間に長年の対立があったところ、会社は、09年4月から、新たな「管理職年俸制度」の導入を一方的に通告し、さらに、09年7月からは、これまで準・管理職とされていた「次長」職を廃止することを一方的に通告してきた。
この新たな「管理職年俸制度」では、従来よりも会社業績連動部分の割合が増やされ、結果として、会社業績によって大幅な賃金ダウンの可能性がある内容であった。しかも、会社は、管理職年俸制の対象となる(会社が主張する)管理職の全員に対して、一人一人個別に、「管理職年俸契約書」に署名捺印することを要求した。
労組としては、会社が管理職だと主張している者の中には、実態としては、管理職とは言い難い名ばかり管理職が多数含まれており、そのような名ばかり管理職の労働条件については、個々の労働者と会社との個別契約で決定されるのではなく、労働組合との団体交渉によって決定されるべきであるとの考えから、個別の「管理職年俸契約書」への署名捺印には応じないとの立場をとった。
そのうえで、労組は、新たな「管理職年俸制度」については、その内容(賃金テーブルや年俸決定条件等)について労使間で協議を尽くした上で、その結果を就業規則化することを求めて、団体交渉を申し入れた。
ところが、会社は、労使協議を尽くすことなく、一方的に期限を区切って、期限までに「管理職年俸契約書」に署名捺印しない者は管理職に登用しないと恫喝してきたのである。結果的に、「次長」職にあった12名の労組組合員のうち5名が労組脱退届を提出するという事態に至ってしまった(脱退届の受理は留保されている。)
09年6月24日、会社は、新たな「管理職年俸制度」の内容について労使協議を尽くさないまま、一方的に、会社の決めた期限が経過したとして、その時点で「管理職年俸契約書」に署名押印を拒んでいた労組組合員である「次長」については全員を一般職へと降格させ、非組合員及び脱退届提出者については全員を管理職(「副部長」)に登用するという明確な差別人事を内示し、7月1日に発令した。
- 労働組合の存在に対する重大な挑戦
会社の一連の行為は、会社が定める「管理職」たる者については、全員が会社業績に連動する年俸制として処遇し、かつ、その処遇について労働組合による交渉を認めずに、残業代も支払わないということを狙ったものであることは明らかである。
労組組合員の労働条件そのものである年俸制度について、労使間での協議が整わず、それゆえ年俸制度の内容が不明確・不十分なままであるにもかかわらず、一方的に期限を区切って個々の組合員に個別契約書への署名捺印を迫るという手法は、労働組合の存在意義を真っ向から否定する支配介入そのものである。
労組が労使協議中であることを理由に労組組合員に統制をかけて個別契約書への署名捺印を拒否していたことを理由として、当該組合員を一般職へと降格させることは、明確に、労働組合活動を理由とする不利益取扱いである。
このような明々白々な不当労働行為を強行する会社の姿勢は、労働組合そのものの存在に対する重大な挑戦であると受けとめなければならない。
- 大阪府労働委員会へ
読売テレビ放送労働組合と民放労連近畿地連は、降格人事発令の前日である本年6月30日、大阪府労働委員会に不当労働行為救済申立を行った。
これは労働組合の存在意義をかけた闘いであり、会社の横暴を徹底的に糾弾しなければならない。
ご支援よろしくお願いします。
- (弁護団は、高橋典明と中西基)
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