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原爆症認定集団訴訟大阪高裁判決報告
NTT雇用継続訴訟・大阪地裁で不当判決


原爆症認定集団訴訟大阪高裁判決報告
弁護士 塩 見 卓 也

  1.  去る5月15日、大阪高裁第7民事部(永井ユタカ裁判長)は、原爆症認定集団訴訟近畿訴訟第2陣につき、過去の厚生労働省の原爆症認定行政の誤りを指摘し、原告のほとんどを原爆症と認定する判決を下しました。これで、2006年5月12日に大阪地裁にて最初の勝利判決(原告9名全員勝訴)以来、集団訴訟は17連勝となりました。

  2.  判決では、国が従前認定行政のよりどころとしてきた「DS86」につき、「理論と実験による仮説であり、被爆者の実際の被曝事実を取り込んだものではないから、被曝線量の総量を推定する手法としては、経験的適合性を確保したものであるとまではいえないという難点がある」と指摘しました。これは、これまで全国で積み重ねられてきた16の勝訴判決に示された判断を改めて示したものといえます。
     その上で、集団訴訟の6つめの判決となる熊本地裁判決後に見直しが指示され、2008年4月より適用されることになった原爆症認定基準である「新しい審査の方針」をもってしても認定されなかった一審原告についても、国の判断を否定し、原爆症であると認定しました。このことは、「新しい審査の方針」も不十分であり、認定されるべき人が認定されないことになっていることを指摘したものであるといえます。
     ただし、今回の大阪高裁判決は、一審唯一の敗訴原告であった救護被爆者(被爆地に入ることなく、被爆者の救護・救助活動の過程で外部・内部被曝をした者)について、控訴を棄却しています。この点は、一審・二審とも、一般論としては、救護被爆者について、救護の過程で人体に影響を及ぼす程度の被曝をする可能性を認めている点は評価できるものの、本件原告の疾病との関係ではその影響を過小評価しており、不当な判断です。

  3.  今回の判決で、集団訴訟は17連勝となりましたが、この「17連勝」という数自体は、何の自慢にもなるものではありません。むしろ、なぜ17回も勝っているのに、この問題の解決がつけられないのか、その点が問題です。
     この集団訴訟も、熊本判決を受けた後の2007年の原爆記念日において、当時の安倍首相から「見直しを指示する」との言質を引き出し、曲がりなりにも従来の違法・不当な認定行政を改めさせたという点においては、大きな成果をあげているとはいえます。しかし、2008年4月からの「新しい審査の方針」は、その新基準ができた当初から、各々の判決で放射線起因性が認められている肝機能障害や甲状腺機能低下症が積極認定の対象から外れていたり、「総合判断」の対象となる認定申請者に対する早期認定の態勢が組まれていなかったりする点で、大きな問題をもっていました。そのため、この認定基準の改正のみでは、この問題の根本的解決には至らず、全国で集団訴訟は継続されることとなりました。そのまま、厚生労働省は、根本的解決を図ることなく、漫然と17連敗を重ねるまでこの問題を放置してきたのです。

  4.  そんな中、この集団訴訟も、いよいよ最大の山場を迎えることになりました。
     国は、連敗を重ねる中、「5月の大阪高裁及び東京高裁の判断を待って、最終的解決を図る」と発言してきました。この大阪高裁判決において、国が「待つ」と言っていたうちの一つがなされたわけです。
     そして、去る5月28日、東京高裁は、一審敗訴原告を含む、一審原告30名中29名を原爆症と認めるすばらしい判決を出しました。これで、国が「待つ」と言っていた二つの判決で、ともに現在の審査の方針をもってしても認定行政の違法性は免れないことが明らかにされたのです。
     河村官房長官は、これらの判決を受け、今年の原爆記念日までに、訴訟の全面解決を図ると明言しています。これからの1か月のたたかいが、大きな勝負だと思います。弁護団では、原告全員の救済と、これまでの判決基準に従った審査の方針の再改訂を求め、この大勝負に向かっていきたい所存ですので、皆様応援よろしくお願いいたします。



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NTT雇用継続訴訟・大阪地裁で不当判決
弁護士 井 上 耕 史

  1. 事案の概要
    (1) NTT一一万人リストラと継続雇用制度の廃止
     2001年4月、NTTは利益の最大化を図るため、空前の「11万人リストラ計画」を発表した。これは、労働条件不利益変更の規制(みちのく銀行最高裁判例等)を潜脱して、51歳以上の労働者の大幅賃下げを狙ったものである。すなわち、NTT東西会社などの業務を100%出資の新設子会社=アウトソーシング会社(OS会社)に「外注」し、51歳以上の労働者をNTT東西会社から「退職」させ、賃金2、3割ダウンとなるOS会社で「再雇用」して、従来と同じ仕事をさせる、というものである。
     この脱法的な「退職再雇用」を労働者に同意させるため、NTTは二つの脅しを用いた。すなわち、@「退職再雇用」に応じない者は異職種全国配転に同意したものとみなす、との脅し、ANTT東西会社には60歳定年後65歳までの継続雇用制度(キャリアスタッフ制度)が存在したが、敢えてこれを廃止して、OS会社に移籍した者のみ当該OS会社での継続雇用制度の対象とし、「退職再雇用」に応じなかった者は継続雇用の対象外とする、との脅しである。そして、この脅しを遂行するために、BNTT東西会社は、通信労組との間で不誠実団交・団交拒否を行った。
     なお、@については、全国の通信労組組合員が異職種遠隔地配転の違法を争い、大阪では17名につき慰謝料を認める勝利判決を得た(大阪高裁平成21年1月15日判決・労判977号5頁、最高裁係属中、本紙二2009年2月号にて既報。)。Bについては、中労委において不誠実団交・団交拒否を認めて謝罪文の手交を命じる勝利命令を得た(中労委平成20年10月31日命令、東京地裁係属中、民主法律時報2008年12月号にて既報。)。

    (2) 雇用継続訴訟の提起
     2006年4月1日施行された改正高年齢者雇用安定法は、基礎年金の支給開始年齢の引上げの代替措置として、65歳までの雇用継続を努力義務から法的義務に引き上げた。すなわち、事業主は、定年の引上げ、継続雇用制度の導入、定年の定めの廃止のいずれかの措置を講じなければならないとされたのである(同法9条1項)。
     ところが、改正法施行後も、前記Aのとおり、NTT東西会社は、OS会社への「退職再雇用」に応じずにNTT東西会社で定年を迎えた労働者について雇用継続を拒否している。
     そのため、NTT西日本で60歳を迎えながら雇用継続を拒否された35名の労働者が、NTT西日本を被告として、主位的にはNTT東西会社の定年制無効を主張してNTT西日本の従業員地位確認及び賃金請求を、予備的には不法行為に基づき継続雇用されれば得られるはずの賃金相当額の損害賠償を求めて提訴したのが本件である。

  2. 大阪地裁判決
    (1) 本件の主要な争点
     本件の主要な争点は、@高年法9条1項に違反した事業主に対し、労働者が定年制無効として地位確認請求をしたり、あるいは損害賠償請求ができるか(私法的効力の有無)、A50歳時点で被告を退職して子会社に移籍した労働者のみを対象とする被告の制度は高年法9条1項に違反するか、の2点である。原告側は、西谷敏教授、根本到教授の意見書を提出するなどして、いずれも肯定できることを明らかにした。
     しかし、本年3月25日、大阪地裁は、@Aとも否定する原告敗訴の不当判決を出した。

    (2) 高年法9条1項の私法的効力を否定した判断の不当性
     判決は、公法的性格を有しているとか、高年齢者雇用確保措置の作為内容が一律に定められているわけではないとか、同義務内容となる給付内容が特定できないなどと述べて、高年法九条1項の私法的効力そのものを否定した。高年法9条1項に違反しても、個々の労働者は事業主に対し地位確認・損害賠償ほか何らの民事責任も問えず、司法救済を受けられないというのである。
     しかし、判決が挙げる理由らしきものは、いずれも私法的効力を否定する論拠になり得ないことは、すでに原告らにおいて主張済みであった。判決はそれを無視して、敢えて被告の言い分を並べ立てたに過ぎず、全く説得力がない。
     このような結論では、法を遵守しない悪質な事業主ほど雇用責任を免れることになり、労働者を生活困窮に陥れることになる、これでは、年金支給開始年齢の六五歳化と引き換えに65歳までの雇用保障を努力義務から法的義務に引き上げた法の趣旨を没却することになる。この点も主張していたが、判決は全く答えるところはなかった。

    (3) 被告の制度が高年法9条1項に違反しないとした判断の不当性
     原告らは、大要次の点において、NTTの制度が高年法9条1項に違反することを指摘した。
     第一に、法は、事業主に対し、現に雇用している企業(被告)で60歳定年を迎えた労働者について雇用継続を求めているのは明らかであり、定年前にOS会社に移籍した労働者しか継続雇用しないのでは、被告の継続雇用制度にはあたらない。
     第二に、法は、継続雇用を希望するかどうかを聴取する対象者は「高年齢者」(55歳以上の者)であり、50歳時点で子会社への移籍か親会社での60歳雇用終了かを選択させ、その後に継続雇用の希望を聴取しない被告の制度は、継続雇用制度にはあたらない。
     第三に、本件は「業務上の必要」という会社による雇用拒絶の余地があり、希望者を65歳まで継続して雇用すべきとする法の趣旨に反する。
     第四に、「退職再雇用」を条件に65歳まで継続雇用されても60歳定年の場合よりも総賃金が大幅にダウンしてしまう。すなわち、会社の資料によれば、「退職再雇用」を選択して継続雇用されたとしても、5年間ただ働きの上に159万円もの減収となるのであり、年金支給開始年齢までの雇用継続による生活保障を目的とした法の趣旨に反する。
     しかし、判決は、原告が指摘した問題についてまともに検討しないまま、高年法9条1項2号に該当する継続雇用制度を導入していると認めて、同項に違反しないとしてしまった。詳細は省略するが、要するに、継続雇用制度(同項2号)が企業の実情を考慮した柔軟な措置を採りうるから、どんな条件をつけようとも事業主の自由、というものである。
     これでは、事実上継続雇用を希望し得ない、あるいは、希望しても到底継続雇用されない、といった名ばかりの継続雇用さえ導入すれば良いということになり、結局高年齢者の雇用は確保されず、原則として希望者全員の雇用継続を義務付けた高年法9条1項の趣旨に反することとなる。

    (4) 50歳選択の問題性に言及
     このように、極めて不当な判決ではあるが、その判決でも、「50歳の時点で処遇形態等の選択をさせ、その後選択の機会を与えないとすることについては、当否の問題がなくはない」と、50歳選択制の問題性に言及せざるを得なかった。高年法9条1項は、「高年齢者(55歳以上)が希望したときは継続雇用する制度」としており、50歳時点で選択する被告の制度が違法なのは明らかである。
     判決は、本件では2006年1、2月に「再選択」の機会があった、と事実に反する認定をして結論としては違法ではないとしている。これ自体不当であるが、そもそも「再選択」時点で55歳未満であった労働者については、およそ正当化する理由にはならない。NTT東西会社は、現在も50歳に達した労働者に退職再雇用を迫っており、かかる制度撤廃への足がかりとして活用すべきであろう。

  3. たたかいは控訴審へ
     NTT東西会社の退職再雇用制度は続いており、高年齢者の被害は拡大し続けている。判決はこのような被害拡大を放置するばかりか、高年法を骨抜きにするものであり、NTTに限らず、およそ60歳以上の労働者の雇用と賃金が全く保障されず、新たな貧困層を増大させることになる。こうした不当極まりない原判決を控訴審で取り消させるため、控訴審ではさらに弁護団を拡充し、全面的に主張立証を補充する控訴理由書を提出した。本年9月9日に控訴審の第1回期日が予定されており、更なる支援をお願いする次第である。

(弁護団 河村武信、横山精一、増田尚、井上耕史ほか、控訴審からの常任として出田健一、城塚健之)

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