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- 去る10月31日、中央労働委員会は、通信産業労働組合がNTT西日本会社を相手に団体交渉拒否等に関する救済申立再審査事件について、大阪府労働委員会の命令(平成18年2月28日)を根本的に変更する勝利命令を下した(命令主文は末尾別紙記載のとおり)。
- 事案の概要
(1)NTT西日本は平成13年4月27日、通信産業労組(以下、組合と略す)に対し、NTTグループ3カ年計画に基づく構造改革に伴う退職・再雇用制度の導入、並にこれに関連する経営上の諸問題及び労働条件面の具体的内容において、会社に併存する多数派の労働組合(NTT労組)と比べて、差別的に取扱うなど誠実に取扱わず、また退職・再雇用の中で示された雇用型態の選択に関わり、それに伴って生ずる本人の配置転換についての団体交渉に応じなかったことなどを、労働組合法第7条2号、3号に該当するとして、当初、大阪府地方労働委員会に救済申立をなし(平成14年3月27日申立)たところ、組合に対する当初の提案が、NTT労組と比べて、その内容に格差があったことのみを労働組合法7条3三号の不当労働行為に該ると救済を命じられていたものである。
(2)「NTTグループ3カ年計画」に基づく構造改革は、NTTグループの最大利潤をはかるための施策であることを会社は隠そうとせず、経営危機など存することもないなかで実施された。その施策の核心部分は、NTT自らの手で、その本体機能を特化した業務をOS会社(アウトソーシング会社)に業務委託し、一方でNTTで働く50才以上の従業員に対しては、NTTを退職して賃金を30%も低下するOS会社への再雇用に応じさせ、応じないのであればNTTにそれまで従事していた業務がなくなったことを理由に、異職種・遠隔地への配転を命ずることによって、11万人を合理化(NTT本体からの排除と賃金ダウン)して、「最大利潤」を追及するというものである。
(3)組合は会社の不当労働行為は「NTTグループ3カ年計画」に関わる組合に対する提案が、NTT労組と比べて内容に格差があるだけでなく、会社は退職・再雇用制度導入に関わる重要な諸課題について、団交拒否、不誠実団交、支配介入を繰り返していることを主張し、地労委命令に不服を申立てていた。会社もまた、地労委命令を不服として再審査の申立をしていたところであった。
- 中労委命令による争点の整理と判断及び基本的な視点の設定
中労委命令は、事案の争点を以下の4点に整理した。
(1)本件退職再雇用制度導入団交における会社の対応は、労組法7条2号の誠実交渉義務違反及び同条3号の支配介入に該るか。
(2)会社の本件退職再雇用制度の導入についての組合に対する提案は、他の労働組合と比べて差別的に取扱うものであり、労働組合法7条3号の支配介入に該るか否か。
(3)会社が本件退職再雇用制度の導入に伴う本件意向確認を組合との十分な協議を行わずに実施に移したことは、労働組合法7条3号の支配介入に該るか。
(4)会社が本件配転団交に応じなかったことは労働組合法7条2号の団体交渉拒否及び同条第3号の支配介入に該当するか否か。
と整理した上、
ア.争点(1)(2)(3)の争点はいずれも、本件退職再雇用制度導入団交における会社の一連の対応が不当労働行為に該当するか否かの問題であると認められることから、これら3点を併せて以下検討するとしている。そして命令は、会社が平成13年4月27日以降に提案した本件退職再雇用制度について組合が団体交渉を申し入れたところ、同年5月11日の第13回団交から平成14年3月27日までの間、合計11回の団体交渉が行われていると認めているが、以下の判断に示されているように、個々のテーマ・課題毎に、団交拒否、不誠実団交の成否を問うのではない。会社の退職・再雇用をめぐっての、当初から終わりまでの一連の対応が不当労働行為に該当するか否かの問題であると、問題をとらえる視点を明らかにしている。そして本事案の特徴である、併存する組合の存する場合の判断から論を進めている。すなわち、
[T]同一企業内の圧倒的多数の従業員を組織する多数労働組合と、少数ながら相当数の従業員を組織する労働組合が、併存する状況下での少数派労働組合との団体交渉における使用者の態度として
@ 組合の性格、傾向及び運動方針の違いにかかわらず中立的な態度、何れの組合に対しても、平等・ 誠実に交渉すること、ほぼ同時期に同内容の提案して交渉を行うべきである。
A 統一的に職場全体を通じて設定すべき労働条件について、結果的に先に多数派と合意し、その内容を少数派労組にたいする譲歩の限度としても一概に不当とはいえない。
B とはいえ少数派との団体交渉においても誠実交渉義務を尽くすことは必要。従って提案の時期、内容、資料呈示、説明内容などにおいて合理的理由のない差等を設けてはならない。
C 併存する労働組合の一方の労働組合とのみ経営協議会を設置して説明、協議が行われているとき、 実質的な平等の取り扱いを確保する観点から同一交渉事項に関し経営協議会で提出したと同様の資料提供や説明をするべきである。
[U]労組法7条3号に該当するか否かを論じ、団交拒否と支配介入の成否については、むしろ厳しい垣根を設けている。多数派労組との交渉を重視した対応が許されるとしても、使用者が少数派労組の運動方針や主張を利用してその弱体化をはかるべく併存する複数労働組合との団体交渉において提案時期、内容、資料提示、説明内容などにおいて団体交渉を操作することにより、不利益な取り扱いを招来させたと認められるような場合には、7条3号に該当するものと認めるべきである。というのであるが、支配介入の概念との関係、さらに論旨のいう団体交渉を操作することにより招来させる不利益とは何を指すのか具体的には明確ではない。むしろ支配介入の結果(事実)そのものがみとめられれば足るのではないかと思われる。ただ、以上の総論的判断・考察の結果としての判断枠組は、中労委の初めて示した枠組である(中労委、事務局審査課)。
そして、以下には具体的な検討と判定に進む。
@ 当初の会社提案における、NTT労組との取り扱いの差異
A 当初の提案後の団体交渉における資料提示についてのNTT労組との取扱いの差
B 本件退職再雇用制度の導入に密接に関連する、経営上の問題に関する交渉態度
C 本件退職再雇用制度の労働条件面の具体的内容についての交渉態度
D 組合との団体交渉の期日の設定頻度
E みなし規定、意向確認についての交渉態度
この判定過程、事実認定の過程は、本件命令の白眉であるといって過言ではない。綿密に証拠に依拠し、これを引用し、判断も優れている。適確な、厳格な認定は実質的証拠の法則を認めるべきことを強く思う。
イ.争点(4)、本件配転団交に応じなかったことは、労組法7条2号の団体交渉拒否及び同条3号の支配介入に該当するか。
[T]本件退職再雇用制度の実施に伴って大規模かつこれまでになかった他府県事業所や異職種への配転の具体的可能性が高まっているに際しての基本方針について組合としての要求である。
配転の実施方針、(一般的な基準)について労働組合から団体交渉の申し入れを受けた場合には、誠実に団交に応じるべき義務がある。しかし、個々の組合員に対してなされる個々の配転については労使間に事前協議の協定がある場合をのぞき事前協議に応じなければならない義務はない。
本件については団交拒否には該るが、支配介入には該らない。と判断している。個々の配転についての事前の団交義務を認めず、且つ本件につても支配介入を認めなかったことに不満は残るが、団交をめぐる基準について、組合員個々人の個別具体的な@希望勤務地、A希望職種、B病気療養中、両親の要介護、単身不可等の特記事項をリスト化して本人の希望を尊重した配置を行うように求めるとともに、配転の対象者の選任基準に関連する事項として、@長距離通勤を伴う配転や異職種配転を行う場合に本人の希望をどのように配慮するのか、A自分自身や家族が病気療養中の者、自宅において家族介護中の者などの家庭的事情をどのように配慮した取扱いを行うのかなどについて組合が説明・協議を求めていたのであるから、会社はこのような大規模な配転を行うに当たっての会社の実施方針とその考え方については協議に応じ説明する義務があったと言わなければならない。との判断は、充実した団体交渉を実現する上で優れた判断である。
- 命令の特徴は、以下の点に認められる。
(1)争点整理の適確性
争点1.2.3と挙げたこれら一連の対応が、不当労働行為に該るかという退職再雇用制度導入をめぐる会社とN労、通信労組のからみをみながら展開した流れを全体的に把握して不当労働行為の成否を判断している。
(2)事実認定が詳細且つ適正な事実認定は当事者を納得させるものである。
平成13年2月の会社NTT労組間の中央経営協議会、2月23日のN労と会社、グループ8社との団体交渉から本件退職再雇用制度導入・実施された平成14年12月までの経過とそれぞれの団体交渉と通信労組の行った会社との団体交渉をそれらの経過を追いながらこれと対比し、証拠を逐一指摘しながら綿密な認定作業を続け、認定された事実そのものが会社の通信労組に対する不当労働行為の実相を語ってあまりあるものとなっている。
(3)複数主義に立つ組合法の下での、企業内に労働組合が併存する場合における、使用者に求められる態度について明確な判断、基準を設定したこと、とくに圧倒的多数派労組と相当数の少数派労組が一企業に併存する場合についての明確な指針。
(4)団交拒否の不当労働行為性と支配介入の不当労働行為の成否について、一つの基準を設定している。すなわち、「そのような多数派労働組合との交渉を重視した対応が許されるとしても、併存する複数労働組合との団体交渉の経緯、状況、妥結結果等を総合して見た場合、使用者が、少数派労働組合の運動方針や主張を利用してその弱体化を図るべく、併存する複数労働組合との団体交渉において、提案時期・内容、資料提示、説明内容などにおいて団体交渉などにおいて団体交渉を操作することにより、少数派労働組合自身又はその組合員に不利益な取扱いを招来させたと認められるような場合には、労働組合法第7条3号の支配介入に該当するものというべきである。」(命令86〜87頁)というのである。
然し、このハードルはなに故のものであるのか理解することができない。7条2号の団交拒否の類型は、手段、方法、その態様を検討し、それが「拒否」という不作為を中心にした団交拒否態様が概念の中心である。しかしそれを超えて、本件にみる諸々の作為による差別(提案時期・内容・資料の提供・説明内容等)、故意による交渉の妨害が認められる場合は、それによって組合の交渉力は減退され、組合員の組合に対する信頼は損なわれることが明らかであるから、命令のいう拒否された労組、組合員の不利益と弱体化は存在するのではないかと思われ、当然、支配介入を認められるべきではないかと思料される。命令のこの誤り、不充分さは正さなければなるまい。
- 配転についてのそれが、義務的団交事項であることの確認。
但し、個々人の個別のそれについては事前協議約款のある場合を除いて、事前に団交に応じる義務はないとされたことについては、今後論ずるべき課題である。
ただ、命令の示した一般的、基準設定の団交についてその基準に従い、これを具体化することによって、ほとんど個別の配転についての団交を事前に行うのと変わらない効果が得られよう。尤も個別の配転についての、事前の団交は不要であるとの結論のみが一人歩きする恐れが大きい。
- 命令は、救済方法として、誓約文の交付を命ずるに止まっている。確かに本件退職・再雇用制度導入そのものは、平成14年5月1日に実現してしまっているが、以降毎年にわたって50才に達する者についての嫌がらせ配転が繰り返されている状況にある。誓約文を掲示するべく命じて、労使関係の正常化をはかるとともに、NTT西日本の社会的責任を明らかにして責任を追及すべきである。
中労委命令は、理論的で且つ事実認定も綿密適確である。それにしても大阪府労委命令の事実認定の弱さと法的検討の薄さを明らかにした極めて水準の高い命令といえよう。
(弁護団は、出田健一、横山精一、西晃、田窪五朗、城塚健之、増田尚、中西基、井上耕史、成見暁子、大前治と河村でした。)
- はじめに
国立循環器病センターの脳神経外科病棟で交替勤務に従事していた看護師村上優子さんがくも膜下出血を発症して亡くなったことを、公務災害であると認める大阪高裁判決が出ました。去る10月30日(2008年)のことです。既に今年1月、原審の大阪地裁第5民事部でも公務災害と認める判決が出ていましたが、国が控訴していました。国が上告をしなかったため、無事高裁判決が確定しましたので、ご報告します。
- 事案の概要
(1) 村上優子さんは、平成13年2月13日、遅出勤務を終えて帰宅した後の午後11時30分頃、くも膜下出血を発症しました。勤務先の同センターに救急搬送され、すぐに手術を受けましたが、同年3月10日亡くなりました。死亡当時25歳で、同センター在籍期間は3年10ヶ月でした。
(2) 平成14年6月、遺族のご両親は、優子さんの死亡原因となったくも膜下出血が、「公務に起因することの明らかな疾病」(人事院規則16−0別表第18号)に該当するとして、厚生労働大臣に公務災害申請をしました。しかし、「公務外」の決定が出たため、国に対し、平成17年5月、国家公務員災害補償を受ける地位にあることの確認と国家公務員災害補償法に基づき遺族補償一時金及び葬祭補償の給付を求める行政訴訟を提起しました。
- 立証活動(業務の質的・量的過重性の立証)
(1) 国立循環器病センターは、厚生労働省直轄の国立病院であり、循環器病に対する先端医療をめざす医療施設です。優子さんは、同センターの脳神経外科病棟において、早出、日勤、遅出、準夜、深夜の五つの変則勤務シフトにローテーションであたっていました。 看護師の仕事は、人の生死と直接関わり、患者の生命・身体の危険性を常に予測し回避しなければならない使命を帯びた職種です。とりわけ優子さんの場合は、交替制勤務の病棟での看護労働であったことに加え、@国立循環器病センターという高度専門医療センターで、A脳外科手術後急性期の患者、麻痺や意識障害のある慢性期の患者が混在する病棟での看護業務に従事していたという特徴がありました。
(2) これほど大きな病院であるにもかかわらず、タイムカードによる看護師の労働時間管理はなされていません。病院側が管理している「超過勤務命令簿」によれば、優子さんの1ヶ月当たりの時間外労働は、15時間から25時間程度でした。しかし、彼女の業務は、勤務開始前の情報収集から始まって、看護記録の作成、勤務シフト担当者間の引き継ぎ、退院・転院サマリーの作成、看護研究、プリセプター業務(新人看護師の教育指導)、看護計画の作成、病棟相談会・チーム会、係・委員会への参加など、実に様々なものがあり、超過勤務命令簿に載った時間数でこなしきれるものではありませんでした。
(3) 行政訴訟においても、超過勤務命令簿には顕れない、業務の量的過重性(いわゆるサービス残業が常態化していた実態)と、業務の質的な過重性の立証方法を詳細に検討し、証拠を提出しました。
業務の量的過重性(労働時間)の立証の基本となったのは、彼女の携帯電話や自宅のパソコンに残されたメールの送・受信時刻とメールの内容でした。また、当時の職場の同僚・先輩・後輩看護師の方たちからの聴き取りや情報や資料の提供を受け、時間外労働の実態(業務の量的過重性)や、優子さんの従事していた病棟の業務実態(質的過重性)を明らかにしていくことができました。さらに、優子さんの従事した看護業務と「くも膜下出血」発症との医学的因果関係について、脳神経外科の専門医や労働科学(睡眠学)の専門家の鑑定意見書を書証として提出しました。夜間交替制勤務による過労死事件は、この数年間で判例の積み重ねがあり、事件を担当された弁護団からも有益な情報を頂き、勝訴判決を得ることができました。
- 大阪高裁判決(平成20年(行コ)第37号)の概要
(1) 量的過重性(労働時間)の上積み認定
控訴審では、1日ずつメール等の証拠が丁寧に検討され、とりわけ発症前1か月間ないし3か月間の時間外労働については、1審判決より合計9時間40分も多く認定されました。「職場では時間外労働が常態化していた」、発症前の時間外労働は「相当長時間に及んでいた」と判断されています。
(2) 質的過重性について
この点についても、優子さんが従事した9階東病棟(脳神経外科)での業務は、「身体的負担及び精神的緊張の程度も相応に大きなものであることが推認」できるとされました。
本判決では、1審判決では認められなかった、優子さんら当時の中堅看護師の負担が重くなっていた状況も認められました。
また、1審判決と同様、日勤→深夜、準夜→日勤などの勤務間隔の短いシフトの過重性について、これらの勤務シフトの場合に確保できる睡眠時間は「3ないし4時間程度」で、「疲労回復のための十分な量の睡眠を取ることはできなかった」とされ、それに「恒常的な残業、夜勤等の条件が重なって疲労が回復することなく蓄積していた」と判断されました。さらに、本判決では、「勤務間隔の短いシフトが頻回に組まれる場合は、昼間睡眠によって、睡眠不足分がむしろ拡大する」として、睡眠の質についても言及されています。
(3) 時間外労働時間数のみにもとづく過重性の判断は相当でないと明言
原判決より踏み込んだ判断がされたと思えるところは、本判決がいわゆる過労死の認定にあたって、「時間外労働時間のみに基づくのは相当ではない」とし、長時間労働以外の夜間勤務や不規則労働、精神的緊張を要する労働か否か、当該労働者が実際に確保できた睡眠の質などの問題も考慮されなければならないとして、時間外労働時間の量に併せて「質的な面を加味し、総合して行うことが必要である」と指摘している点です。
- むすび
この事件は、提出した書証がほぼ同じであるにもかかわらず、先行して提起した国の安全配慮義務違反を問うた国賠訴訟では敗訴していただけに、今回の行政訴訟で勝訴できた喜びはひとしおです。素晴らしい判決を勝ち取ることが出来たのは、法廷の外でも、労働組合(医労連・全医労など)を中心として組織された「村上優子さんの過労死裁判を支援する会」の方たちが、裁判傍聴や署名活動、宣伝行動によって、支援の輪が全国的に広げて下さったことも大きく影響しています。高裁判決の先例的価値を広め、医療現場の労働条件が少しでも向上していくきっかけとなることを願っています。
- (弁護団は、松丸正、岩城穣、原野早智子、波多野進、有村)
- 事案の概要
原告は契約上は派遣期間の制限のないいわゆる「専門26業務」として派遣されていたが、実際は派遣期間の制限(原則1年、最長3年)のある「通常の業務」に5年半もの長期間従事した。
原告は、派遣先会社(NTT西日本アセットプランニング)に直接雇用をするよう求めたが、派遣先会社はこれを拒否した。それどころか派遣先会社は、原告の業務上のミスなど全くないのにそれまで11回も更新してきた原告の派遣契約を打ち切ったのである。
そこで、派遣先会社の雇用責任を追及するため提訴したのが本件である。
本訴訟では、主位的には派遣先会社との間の労働契約上の地位確認請求、解雇されている間の賃金請求、及び不当解雇の慰謝料請求を、予備的には派遣先及び派遣元の双方に対して共同不法行為を根拠とする賃金相当額の損害賠償請求及び慰謝料請求をしている。
- 経過
原告は、平成14年、NTTドコモ西日本各社への人材派遣業務等を主要業務とする近畿データコム(株)が出した「不動産現場立会・監督」という求人票を見て同社に派遣登録し、NTTグループが所有する不動産の仲介、管理業務等を行う(株)NTT西日本アセットプランニング社に派遣された。
派遣の際、契約上原告が従事することとされた業務は、就業条件明示書によれば、派遣可能期間が無制限である政令指定26業務のうち、政令5号の「事務用機器操作」であった。
しかし、原告が実際に従事した業務内容は、近畿データコムの求人票の内容どおり、不動産の管理・営業業務であった。その業務は内勤の時間もあったが、外回りに出ている時間も相当に多く、とても事務用機器操作といえるものではなかった。
その後、原告は11回、5年半にも亘り契約を更新し、NTT西日本アセットプランニングで前記業務に従事してきた。平成19年10月に原告はNTT西日本アセットプランニングに対し平成20年4月以降直接雇用するよう申入れたが、同社は平成20年4月になってこれを拒否、それだけでなく業務量の減少を理由に原告の派遣契約を打ち切った。
平成20年3月、原告は被告NTT西日本アセットプランニングでの就労実態につき疑問に感じて大阪労働局に単独で相談に赴いたが、そのとき大阪労働局は申告として受け付けず適切な対応を行わなかった。同年9月になって、原告は改めて代理人弁護士らと共に、大阪労働局に自らの派遣就労の違法状態について是正指導を求めて申告をした。これを受けて、同年10月2日、大阪労働局は、被告NTT西日本AP及び被告近畿データコムの二社に対し、原告の就労のさせ方に違法がある旨認定し、10月30日、文書により違法状態を是正するよう是正指導を行った。
- 被告らの違法行為の内容
訴状で主張した違法性の内容は下記のとおりである。
(1) 労働者派遣法40条の2違反
原則として1年間しか派遣就労の受け入れが許されない業務に原告を就労させながら、あたかも原告の業務が政令指定26業務に該当するかのように「偽装」し、それによって派遣就労可能期間の制限を潜脱して5年9ヶ月もの長期間、派遣という身分で就労させていた。
(2) 抵触日の通知義務、就業条件明示義務違反等
派遣先は、予め、派遣元に対し、派遣就労期間に抵触する最初の日(抵触日)を通知し(同法26条5項、6項)、上記通知を受けた派遣元は、労働者に抵触日を明示して契約をしなければならない(同法34条)が、これを行っていない。
抵触日の通知後には、直接雇用申込義務を負う(同法40条の4)はずであるのに、前述のように政令指定26業務と偽装することで、各義務を潜脱した。
(3) 職業安定法・労働基準法6条違反
労働法は直接雇用を原則としており、派遣形態はあくまで例外的な位置づけとしていると考えるべきである。そうであれば、労働者派遣法の規定を遵守されていない違法な労働者派遣は、脱法的な労働者供給契約として、職業安定法44条(労働者供給事業の禁止)及び中間搾取を禁じた労基法6条に違反し、強度の違法性を有し、公序良俗に反するものとして民法90条により無効である(松下PDP事件高裁判決参照)。
- 法的構成
(1) 黙示の労働契約
NTT西日本アセットプランニングが行っていたのは、原告の業務を政令指定の専門26業務であるかのように偽装することによって、本来派遣期間に制限のある通常の業務について原告を無制限に就労させられるようにし、かつ他方で派遣契約をいつでも打ち切れるようにして原告に対する雇用責任を免れようとしたという、極めて違法性の強い脱法的行為である。
このような契約(労働者派遣契約及び派遣労働契約)は、前述のとおり職業安定法44条、労働基準法6条に反するだけでなく、強度の違法を有していることから公序良俗に反し無効である。
そして、就労実態に照らせば、就労開始当初から、原告に対し直接の指揮命令をしていたNTT西日本アセットプランニングとの間で黙示の労働契約が成立するものである。
(2) 派遣法40条の4違反による労働契約の成立
就労開始から1年経過時(派遣可能期間経過時)に、適法な派遣であれば派遣先に直接雇用申込義務が発生する。この点、本件のような違法な派遣の場合にはより同条の趣旨が当然あてはまるはずであり、やはり直接雇用申込義務が発生し、それ以降原告がNTT西日本アセットプランニングで就労していたことをもって労働契約が成立する。
適法な派遣である場合には直接雇用義務が発生し、違法な派遣であれば直接雇用義務が生じないというのは、雇用の安定という趣旨から本末転倒した結論であることは明らかであろう。
(3) 共同不法行為による損害賠償責任
仮に、原告とNTT西日本アセットプランニングとの間に労働契約が成立しないとしても、近畿データコムとNTT西日本アセットプランニングが業務偽装等の種々の違法行為をした結果、原告は派遣打ち切りという何らの制限のない形で実質解雇されたのであるから、上記2社に対し賃金相当額及び慰謝料について損害賠償請求権を有する。
- 本件の意義
本件は、派遣という契約形式をとっているものの、業務を偽装し直接雇用義務を免れる形態をとっている点で、「業務偽装」ともいうべき手口を使用したものである。このような手口で雇用責任を免れてきた派遣先の責任を追及する点で、本来あるべき雇用の姿に戻すことを求める裁判となる。
本件のような「業務偽装」の手口で労働者派遣法の潜脱を許してしまえば、本来は直接雇用するべき業務があるのに、企業が雇用責任を免れて最終的には自己の都合の良い時に労働者を雇止め(解雇)ができることになってしまう。違法な派遣を許さず、就労実態に沿った企業と労働者の本来あるべき当然の雇用関係を問うものである。
- (弁護団は、村田浩治、谷真介、長瀬信明、立野嘉英)
- はじめに
公害の原点・水俣病(有機水銀中毒)が公式発見されたのは、1956(昭和31)年5月であり、既に52年もの歳月が経過した。この間、水俣病被害者の救済を求める裁判は、加害企業チッソの責任を断罪した1次訴訟、認定審査会の水俣病の判断基準の誤りを断罪した2次訴訟、国・熊本県の責任を追求する3次訴訟と政治解決(1996年)、国と熊本県の行政責任を確定した水俣病関西訴訟最高裁判決(2004年10月)と展開してきた。
しかし、いまなお救済されない水俣病被害者が、熊本地裁において1,500名を超える原告となり、国・熊本県・チッソを被告とするノーモア・ミナマタ国賠訴訟を闘っている。またそれ以外にも、水俣病の認定申請者は6,000名を超え、水俣病のために医療給付申請をしている被害者は20,000名を超えている。
司法的決着である最高裁判決までありながら、何故に今でもこれだけの水俣病被害者の救済が放置され続けているのか。
- 国の被害者救済の放置と司法的救済システムの確立の必要性
水俣病公式発見から半世紀以上の歳月を経ても、いまなお顕在患者だけで3万人近い被害者が救済されずに放置されている。チッソの水銀を含んだ工場排水は、当時不知火海全体を汚染しており、潜在的患者を含めればその数は数十万人にものぼると言われている。にもかかわらず、被害者救済が放置され続けている根本には、最高裁でも誤っていると断罪されている水俣病認定審査会での水俣病の判断基準の誤りを国・環境省が未だに変えないことにある。すなわち、環境省が決めている水俣病か否かを判定する基準(52年判断基準)は、患者に水俣病の典型的症状とされる四肢末梢優位の感覚障害(手袋状・足袋状の感覚障害)・舌先の二点識別覚障害のみならず、その他の症状(例えば視野狭窄等)の発現をも要求するものとなっているのである。この「複数の症状の組み合わせがあることを要求する」水俣病の判断基準を、環境省は「司法と行政は別」として未だに変えていないのである。96年の政治解決によっても、最高裁判決によっても、環境省は、その誤った患者切り捨ての判断基準に固辞し続けているのである。
しかも、水俣病が公式発見された直後の57(昭和32)年8月、国・厚生省は患者が多発し死者や発狂者まで出ていた状況の中で、熊本県からの水俣湾でとれた魚介類につき食品衛生法を適用して漁獲禁止措置をとることについての可否の照会に対し、「水俣湾内の全ての魚介類の汚染が証明されない」以上、漁獲禁止措置はとれないとの回答を為して、被害の拡大に手を貸すという犯罪的役割を果たした張本人であった。正にチッソの共犯者であったのである。
水俣病ほど企業の犯罪性に加えて、行政の犯罪性の顕著な公害事件はない。
チッソについて言えば、チッソは猫に工場排水を吸引させて水俣病が発症する実験によって、自らの工場排水が原因であることを確認しながら、これを隠蔽したうえ工場排水が原因でないと居直り、また昭和34年には、サイクレーターを設置して工場排水はきれいになったとして工場長が排水と称するコップの水まで飲んで見せる芝居まで実行した。しかし、このサイクレーターには水銀除去機能など全くなかったのである。そして、昭和41年に至るまで有毒な工場排水を排出し続けたのである。
そしてまた、国はチッソのこの犯罪を後押しするかのように、水俣病をチッソの工場排水による公害であると認めたのは、なんと昭和43年になってからである。
そしてこのような国の犯罪性を見れば、今熊本訴訟の原告らが、加害者である国が水俣病か否かを判定することは、加害者が被害者を裁くに等しいとして、行政ではなく司法的な救済システムの確立(司法の場で水俣病か否かを判断する)を求めて裁判を闘っているのは当然のことであろう。
- ノーモア・ミナマタ近畿国賠訴訟への支援を
ところで、昭和30年代には、高度経済成長の中で不知火海沿岸の多数の住民が近畿地方に移住をしてきている。また水俣病の発生による地元の漁業の崩壊の中で、近畿地方への移住を余儀なくされた人も数多いのである。そして関西民医連が、この間実施してきた水俣病集団検診でも140名を超える患者が水俣病の検診に訪れている。まだまだこの近畿地方にも潜在的な患者さんがたくさんいることは明らかである。
この近畿地方で水俣病の被害に苦しみながら未だ救済を受けられずにいる患者の救済は、全ての水俣病患者の救済の実現のため、また現地熊本の戦いと連携して、ノーモア・ミナマタ、水俣病被害者の司法的救済システム確立の運動と世論を広げるためにも重要な意味を持っていることは明らかである。
そして、この近畿でも水俣病不知火患者会近畿支部が結成されており、この大阪でノーモア・ミナマタ近畿国賠訴訟を提訴しようと、原告団の結成と弁護団の結成を含めて現在準備が進められている。公害の原点・水俣病被害者の完全な救済なくして、日本の環境行政の真の転換はありえない。
若手会員弁護士の弁護団への参加を含めて、民法協会員の多くの皆さんの今後のご理解とご支援を心からお願いする次第です。
- (現在の弁護団準備会のメンバーは、私以外に早川光俊・谷智恵子・福本富夫・井奥圭介・松本信乃)
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