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- 事案の概要
タイガー魔法瓶株式会社において、2001年から働いていた女性が、2006年11月、「派遣形態での就労は、派遣可能期間の制限をすぎており、タイガーに直接雇用の申入義務があるはず」と労働局に対し是正申告したうえで、労働組合の団体交渉を求めたところ、労働局の指導から一週間後、業務が継続し部門も存在しているのに突如、労働者派遣契約を合意解除したタイガー魔法瓶が本人の職場への入場を禁じ、労働組合の団交に全く応じなかった。
組合は、サンヨーや松下電機本社をかかえる大阪の北河内地域で一人でも入れる労働組合として多数の相談、団体交渉を経験した労組だが、団体交渉そのものを拒否されたのは初めてであった。許し難い不当労働行為として労働委員会への救済申立を行ったのである。
労働組合の権利を損なう行為を断罪した2008年10月10日付命令書が同月14日に申立人組合に交付された。
- 労働委員会命令の内容
(1)3つの類型の不当労働行為を認める
今回の命令は、ア)使用者であることの認定、イ)タイガーの行った派遣契約の解除と団体交渉拒否の一連の行動が、組合員に対する不利益取扱いであり、ウ)団体交渉拒否と併せて組合の弱体化を図る支配介入行為でもあるとした。
命令は、派遣先であるタイガー魔法瓶が派遣労働者(当時)を派遣契約を解除した上で直接雇用化を含む団体交渉も持たないまま企業外に放逐した経過を踏まえて、これらが、派遣労働者が積極的に労働組合に加入し、労働局に対する是正指導を求めるなどの組合活動を行ったことを嫌悪したものであるとして、団体交渉応諾義務違反、不利益取扱い、支配介入という不当労働行為制度の三つの類型すべてに当てはまるとの判断を示したのだ。
救済方法としてタイガー魔法瓶への直接雇用を命じなかった点を除けば、組合の申立をすべて認めたことになる。
(2)労働組合法における使用者性
命令は、労働組合法上の使用者の判断基準として最高裁の朝日放送事件と同じく、使用者とは、雇用主と限らず「労働者の基本的な労働条件に関して、雇用主と部分的とはいえ同視出来る程度に現実的かつ具体的に支配・決定することが出来る地位にある場合については、その限りにおいて使用者に当たると見ることが相当である」との基準によるとした。
判断に先立つ事実認定は11頁に渡る詳細なものであるが、本件が最終的には労働者派遣契約となっているものの、当初は請負契約であった契約が途中で派遣にきりかえられたが、労働者に説明し承認を求めたとの疎明がないとし、「一般に労働者派遣法に則った労働者派遣が行われている場合と異なり、」「当初からの就労実態に即して判断すべき」との判断を示した。通常の派遣の場合は実態を見ないのかという疑問が残る部分であるが、偽装請負で始まり、適法な就労形態でなかった点を重視し、「請負であるか派遣であるかを区別することなく」(命令22頁)と続いており、当初の違法状態が継続しているとの認識を示したものであろう。
その上で、タイガーの面接による選考があったこと、賃金、勤怠、時間外などの管理が派遣会社にあったことは契約形式上当然であるとして重視しないとして、労働者が契約で定められた業務内容にとらわれず、直接雇用の非正規社員と同様の業務に従事していたこと、正社員との差異は直接雇用されているパート労働者と同様であること、さらに会社が実質的に労働者を採用し就労させており、かつ労働者派遣契約の解除は、タイガー魔法瓶が主導で出来ることなどから、タイガー魔法瓶が「組合員の日々の就労や職場環境についてのみならず」「就労の可否についても」「現実的かつ具体的に支配・決定できる地位にあったとみるのが相当である」として労働組合法上の使用者性を認めた。
(3)団体交渉応諾義務
命令は、上記のとおり、タイガー魔法瓶の使用者性を肯定したうえで、組合員の直接雇用をめぐる交渉事項について、労働局の指導により、派遣労働者を直接雇用する義務を負うものではないとしても、「組合員が労働局に申告書を提出し、これを契機として指導書を交付している状況の下では、派遣契約が解除されるかどうかや、組合員が会社に直接雇用されるかどうかは、組合が会社に協議を求めた場合、会社はこれに応じなければならない」との判断を示した。
そして、組合員の会社での直接雇用に関すること、労働条件の改善、正常な労使関係の確立の3点の事項に関しては、「会社が処分可能な事項であるとみることが出来る」として義務的団交事項に当たらないとするタイガーの主張を退けた。
(4)不利益取扱いと支配介入の認定
さらに命令は、タイガーが労働者派遣契約を労働局の指導の下で労働者派遣契約を解除した行為については、解除にいたる経過を認定した上で、当該契約の解除が労働局の是正の下で、法違反状態を解消するための措置という側面はあるものの、組合員のうける打撃が容易に推認できることから、「決定は拙速にすぎる」と厳しく指摘し、当該組合がユニオンショップ制を取っているタイガーの企業内労働組合ではなく、労働局に対して申告したことで会社が対応に苦慮したこと、労働者派遣契約解除後、組合員の工場内入場まで阻んだ行為は行き過ぎであり組合員の入場を阻もうとする意図があるとして、不当労働行為意思を推認したうえで、労働局の指導に強制力がないことや、組合員の協議や組合と団交を行うよう指導がないことは不当労働行為意思を否定する根拠とならないと断じた。
その上で、派遣労働契約の解除は、派遣労働者が労働組合に加入し、労働局に申告した行動を嫌悪して行った不利益取扱であるとともに、会社から組合員及び組合を排除しようとした支配介入の不当労働行為にあたるとの明快な判断を示した。
- 命令の意義と課題
(1) 本件命令は、組合が積極的に違法派遣を摘発し、直接雇用を求めた行為の後、会社が強行した派遣労働契約解除が不当労働行為であるとして、明確に断じた意義ある判断である。労働組合の積極的な違法摘発に対し企業が形式上、会社間の労働者派遣契約解除によって交渉を阻もうとする行為を許さないという点で今後の組合活動に対する大きな力となる決定である。
(2) 労働者派遣法の不備
他方で、命令は、派遣契約への復帰は違法状態に戻すことになるとして不利益取扱の救済をしなかった。このような救済は、訴訟によるものというのが念頭にあったのであろうが、労働委員会の裁量的判断によって、不利益取扱の救済方法として直接雇用せよ、あるいは直接雇用の申込みをせよという命令もあり得たと考える。
ただ、委員会としては、組合の交渉力に委ねてその活動に期待をした命令ともいえる。命令が、組合の今後の活動に生かせることは間違いない。委員会の組合へのエールとしてとらえ今後の組合活動に生かすべきだろう。
- (代理人は、村田浩治、四方久寛弁護士。)
- 未払賃金の回収については様々な方法がありますが、その中で、先取特権に基づく差押えは若干マイナーな部類に入ろうかと思います。そこで、北大阪の鎌田弁護士と私が担当した事件について報告させていただこうと思います。
依頼があったのは今年(2008年)の7月、ある労働組合(A組合とします)から、「会社(B社とします)が給料を遅配している。従業員の退社も相次いでおり、倒産も時間の問題である」という相談がありました。B社には従前は労働組合が組織されておらず、今回の遅配が生じて初めて従業員らがA組合に加入した、という状況でした。
A組合は何度かB社と団体交渉を行い、未払賃金を支払うよう要求したのですが、B社側はのらりくらりと逃げるばかりで、払おうとしませんでした。B社の経営状態は極めて悪く、賃料の遅配が始まってからは従業員の退職が相次ぎ、事業が回らないという悪循環に陥っていたため、団交によりB社が任意に支払うというのは難しい状況だったのです。
そこで、いよいよ法的手段に踏み切ることになったのですが、問題はその方法です。現状では、話し合いによる解決は難しいわけですから、労働審判制度での解決は困難です。通常の訴訟を提起して債務名義を得て強制執行、という流れや、その前提としての仮差し押さえも考えられますが、B社の経営状態からすればいつ破産の申立がされてもおかしくない状態であり、一刻も早く未払賃金を回収する必要があります。したがって、時間のかかる訴訟ではなく、先取特権によりB社の第三者に対する債権を差し押さえる、という結論に至ったのです。
さて、賃金の一般先取特権を実行する場合には、裁判所に「担保権の存在を証する文書」を提出し、雇用関係の存在、未払賃金債権の額、労務の提供、をそれぞれ証明する必要があります。そのための証明文書としては、過去の給料明細書、給与辞令、賃金台帳、未払賃金等労働債権確認書、離職票、賃金規定、賃金に関する労働協約、労働契約書、労働者名簿、社員名簿、社員住所録、健康保険・厚生年金被保険者資格喪失確認通知書、源泉徴収票、等があり、全て揃う必要はないものの、多ければ多いほどよいとされています(「働く人のための倒産対策実践マニュアル」(日本労働弁護団)参照)。
今回のケースでは、幸いなことに、先取特権による差押申立を希望する従業員・元従業員の多くが未払賃金確認書を入手していました。A組合が粘り強い団体交渉により、会社側から未払賃金確認書を発行する約束を取り付けていたのです。
被差押え債権としては、B社の主要な取引先であるC社に対し、B社がある程度の売掛金債権を有していることがわかっていましたので、その売掛債権の支払日までにC社に差押え命令が送達されるように大急ぎで手続を進めました。
A組合の中でも、今回の申立に参加するか否か迷っている人もおり、第一弾としては見切り発車で10人での申立となりました。提出した証拠は、未払賃金確認書、給与残高確認書、申立人本人作成の未払賃金計算書、給与明細書は、源泉徴収票、労働契約書、雇用保険者離職票、雇用保険受給資格者証、代表者1人の陳述書、でした。
さて、以上のような証拠を付けた上で、大阪地裁14民事部に債権差押え命令の申立を行ったところ、書記官から大量の釈明指示事項が送られて来ました。ポイントは、未払賃金確認書と給与残高確認書でした。今回提出した未払賃金確認書(10人中6人提出)と給与残高確認書(10人中6人提出)は、上述の証明文書のうちの未払賃金等労働債権確認書にあたるもので、裁判所はこれを非常に重視しているとの印象を受けました。
B社はA組合の要求に応じて、未払賃金確認書と給与残高確認書という2種類の書面を発行しましたが、両者には以下の違いがありました。未払賃金確認書は作成者がB社の実質的な代表者である会長のD氏で、Dの肩書き付き記名とB社の社印が押してあったのに対し、給与残高確認書は作成者がB社の経理課長であるE氏で、B社の社名の記載の下に「E」という三文判が押してあるのみで、E氏の肩書きや記名の記載も会社印もありませんでした。
書記官からは、未払賃金確認書と給与残高確認書のどちらも提出していない2人については差押え命令を出せないので取り下げて欲しい旨と、給与残高確認書しか提出していない2人についてもE氏の三文判だけでは難しい、との連絡がありました。給与残高確認書については、E氏の名刺等E氏の肩書きや立場がわかる資料と、確認書に押されたE氏の三文判と同一の印影のある会社の文書を提出するように言われましたが、すでにB社を辞めている人がほとんどであり、期限までに入手するのはほぼ不可能な状況でした。
A組合側とも協議したところ、今回の申立には間に合わないものの、近いうちに残りの4人も未払賃金確認書の交付を得られる見込みがあり、今回は未払賃金確認書を未提出の4人については申立を取り下げ、未払賃金確認書を入手した後に再度申し立てるという方針となりました。
結局、4人については取り下げを行い、6人に対して無事全額の差押え命令が発令され(申立から1週間程度での発令となりました)、未払賃金を回収することができました。
また、取り下げを行った4人についても早急に会社印の押された未払賃金確認書を入手して再度の申立を行い(1回目の差押え命令送達前に無事入手することができました)、差押え命令を得ることができました(この再度の申立についてもいろいろとトラブルがあったのですが、紙幅の都合で省略させていただきます)。
今回の手続を経験して感じたことは、「裁判所はとにかく細かいことを言ってくる」ということと、「未払賃金等労働債権確認書が極めて重要視されている」ということです。先取特権は通常の裁判と異なり、申立人の言い分だけで判断するわけですから厳格さが要求されるのはわかるのですが、賃金を払ってくれない会社が未払賃金等労働債権確認書を発行してくれるケースがそれほどあるとは思えず、現在の大阪地裁の運用ではかなり難しいケースが多くなってしまいます。
今後、先取特権に基づく差押えを行うに際しては、大阪地裁の運用を変えるようより強く交渉を行うと共に、事前に会社側から未払賃金確認書を入手する努力を積極的に行う必要があると思われます。
長々と書いてしまいましたが、先取特権に基づく差押えは、相手方の言い分を聞くことなく早期に命令を得て回収可能であるという点において、労働者側に負担の少ない手続です。時間との戦いになりますので、弁護士としてはなかなか大変ではありますが、積極的に活用すべきシステムであると感じました。
- はじめに
2008年10月30日、大阪府在住の30代男性が、アソウ・ヒューマニーセンターとパイオニアモーバイル西日本(PMN社)を相手取り、損害賠償と未払いの休日勤務手当等287万円の支払を求める訴えを大阪地裁に提起しました。
- 事案の概要
(1) 原告は、2007年1月、新聞でアソウ社が出した「PMN社の正社員募集、営業職、土日祝全休」という広告を見ました。原告は、車が好きでした。また、広告に「麻生セメントグループの総合人材サービス企業」とあり、原告は、麻生代議士の関連の会社なら信用できると思いました。そこで、原告は、この求人に応募しました。
(2) アソウ社も原告を採用したいと考え、アソウ社と原告の間で、就業場所をPMN社とする派遣労働契約が結ばれました。その際、休日は「シフト制」とされていました。また、この派遣労働契約は、紹介予定派遣でした。すなわち、アソウ社がPMN社に原告を正社員とするよう職業紹介を行うことが定められていたのです。
(3) 原告は、2007年3月からPMN社大阪営業所で就業を開始しました。ところが、1か月で就業場所が神戸営業所に変更になりました。そして、神戸営業所のPMNの社員から、尼崎市内のオートバックスの店舗に、土曜日曜に、ヘルパーとして出勤するよう指示を受けました。
(4) 原告がオートバックスの店舗に行くと、オートバックスの社員と同じ制服、名札の着用を命じられ、オートバックスの社員の指揮命令下で働かされました。PMN社はカーナビゲーションシステムの販売をしていますが、原告は、PMN社以外のカーナビ製品も販売しました。原告は、昼休憩中、オートバックスの敷地から出てはいけないこととされました。オートバックスの開店から閉店まで働かされました。最初の求人広告では「土日祝全休」、派遣労働契約の際には「休日はシフト制」とされていましたが、シフトが組まれることはありませんでした。また、休日手当も支払われませんでした。
(5) 折りしも、家電製品小売大手のヤマダ電機が納入業者に対しヘルパーの派遣を強制していたことで、公正取引委員会から指導を受けるという報道がありました。そこで、原告は、ヤマダ電機の事件を引き合いに出して、PMN社とアソウ社の担当者に対し、オートバックスでも同じ問題があるのではないか、最初に明示された就業条件のとおり働かせてほしいと申し入れを行いました。
(6) しかし、アソウ社とPMN社の回答はノーでした。このため、原告は、2か月あまりの契約期間を残して、PMN社での就業継続を断念しました。アソウ社は、原告に他の就業先を紹介することを約束しましたが、実質的な紹介をすることのないまま、この件は放置されました。
(7) そこで、原告が、アソウ社とPMN社に対し、残りの契約期間分の給料相当額や慰謝料の支払いを求めて提訴したのが本件です。
- 本件の意義
(1) 紹介予定派遣は、自己の雇用する労働者を紹介する点で、通常の職業紹介と異なり、また、直接契約を予定している点で、通常の労働者派遣契約と異なります。
紹介予定派遣は、このように労働者派遣と職業紹介の複合的な性格を持つにもかかわらず、法律では、単に労働者派遣業者が有料職業紹介事業の許可を持つ場合に、派遣労働者について職業紹介を行うものとしてしか規定されておらず、紹介予定派遣労働契約の派遣元の責任があいまいになっています。
本件は、紹介予定派遣の派遣元には、派遣労働者が派遣先に直接雇用されるよう、就業環境を整えたり、仮に頭書の派遣先での就業が終了した場合には、新たな就業先を紹介したりする責任があることを明確にしようとするものです。
(2) また、労働者派遣業界は、派遣労働が不安定雇用、社会格差の原因になっているとの社会的批判を受け、「正社員になれる」などと宣伝し、労働者を募集するとともに、紹介予定派遣が逆に雇用創出につながっているという宣伝を強めています。
しかし、アソウ社は、就業先での問題点を指摘されても、原告のためにPMN社に改善を要望するどころか、PMN社に従うよう原告に言いました。原告の休日の扱いが不明確になったのも、複数の使用者がいたことによるものです。原告には、自己にとって都合のよい指示を出す使用者は3社もあったのに、原告の権利を保護してくれる使用者は1社もなかったのです。
本件は、紹介予定派遣の場合でも、通常の派遣労働と同じような問題があることを明らかにするものです。
(3) 本件では、アソウ社が求人及び派遣労働契約の締結にあたり、PMN社での就業条件を調査し、正確な情報を原告に提供しなかったことも問題としています。
財やサービスの分野では、不正競争防止法や金融商品販売法等の業法による虚偽広告の取り締まり、指導が頻繁になされているのに、労働条件に関する虚偽広告については、指導がほとんど行われていないのが実情です。
本件は、虚偽の広告を行った責任を問うことにより、このような実情にも一石を投じるものです。
- (弁護団は、村田浩治、辰巳裕規、須井康雄)
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