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- 事件の概要及び背景
(1) 本件は、郵政民営化にともなう郵政事業関連法人の整理・見直しにともない、整理対象となった関連会社で働く労働者(計17名)が、会社解散によって解雇されたことについての地位確認及び賃金もしくは損害賠償を求める事案である。
(2) 原告らは、専ら日本郵政公社からの委託を受けて地域内・地域間輸送を行ってきた近畿高速郵便輸送(株)及び(株)大阪エアメールで、長年ドライバーとして働き、かつ、全日本港湾労働組合関西地方阪神支部に所属してきた者である。
上記2社は、日本郵政公社とは別会社であるものの、日本郵政公社の専属的下請け会社であり、輸送手段のトラックの仕様、輸送エリアの管轄の決定、輸送ルートなどもすべて日本郵政公社の決定に委ねられてきた。また、役員人事においても、すべて郵政省当時からの天下り人事であって、近畿高速や大阪エアメールのプロパーの役員は過去にも現在にも全く存在しない。加えて、労働条件や労使関係においても、日本郵政公社による「ヒアリング」という形式で他の専属的下請会社(近畿高速と大阪エアメールを含み、43社ある。)との標準化が図られてきた。
こういったことから、日本郵政公社が、近畿高速や大阪エアメールに対して、強い支配力を有してきたことは明らかである。
(3) それにもかかわらず、郵政民営化にともない日本郵政公社から郵便事業を引き継いだ郵便事業株式会社は、右記43法人のうち、14社だけを子会社化して存続させ、近畿高速及び大阪エアメールを含む残りの会社については業務委託関係を打ち切ることに決定した。
これにより、近畿高速及び大阪エアメールは、本年6月末日をもって解散することになり、そこで働く労働者たちは全員解雇されることになったのである。
- 原告らの解雇が不当であると判断した理由
(1) 近畿高速のみが外された高速郵便輸送ネットワークの整理・統合
右記43法人のうち、高速郵便輸送ネットワークを構成する会社は近畿高速を含め9社あるが、それら9社のうち、今回の整理・統合にあたって、資本関係・業務委託関係を解消されたのは近畿高速だけである。
高速郵便輸送ネットワークは、郵便事業株式会社の指揮の下で、郵便物を全国一律料金で正確・迅速に配達するという強い公共的性格を有していることから、本来ならば当然、9社全てが存続させられるべきものである。それにもかかわらず、近畿高速のみがネットワークから外されたという今回の事態は、郵便事業会社が原告らの労働組合活動を嫌悪した結果としか考えられない。
(2) 近畿高速及び大阪エアメールが会社存続にあたって何ら効果的施策を講じてこなかったこと
原告らの直接の雇用主であった近畿高速や大阪エアメールは、郵便事業会社から今後の業務委託関係を解消するとの通告を受けた後、会社存続のための効果的な施策を一切講じてこなかった。また、再就職のあっせんも全くなかった。
このことから、両社の解散は、当初から、郵便事業会社と近畿高速・大阪エアメールの幹部との間で決められていたゴールであったとしか考えられないのである。
(3) 民営化により、原告らの担ってきた仕事がなくなったわけではないこと
郵便事業会社は、民営化によるコスト削減・効率化を名目に、関連法人の統廃合を打ち出したが、原告らが今まで従事してきた郵便輸送の業務自体はなくなったわけではない。結局は、別の企業体が、郵便事業会社からの委託を受けて従事することになるのである。
(4)小括
このように、日本郵政グループが強行した「関連法人の整理・見直し」は、雇用を切り捨て、安価で民間に業務委託する道を開こうとし、とりわけ、原告らの所属する被告近畿高速と被告大阪エアメールとをねらい打ちにしたものというべきである。
- 原告らの求めるもの
今回の会社解散により、原告らは、郵便屋さんとしての使命感のもと、国民の大事な荷物や手紙を輸送し続けてきた誇りを踏みにじられると同時に、収入のみちも一方的に絶たれてしまった。
それも、実際には仕事がなくなったわけでもないのに、支配会社と直接の雇用主との口裏合わせによって、計画的に解雇に追い込まれたのであり、このような官民合作のリストラと組合つぶしは、到底許されない違法・脱法行為である。
そこで、原告らは、郵便事業会社が今後も取引関係を存続することにした14社の親会社で、後にこれら14社が統合された場合の受け皿法人となることが見込まれている郵便輸送準備株式会社に対して、法人格否認の法理を理由として従業員たる地位の確認と賃金の支払いを求め、直接の雇用主であった近畿高速・大阪エアメール及び支配会社であった郵便事業会等に対しては、原告らの雇用を喪失させた共同不法行為者として損害賠償を求めている。
- まとめ
本訴訟は、原告らの解雇日である平成20年6月30日に提訴し、同日、記者会見も行った。記者会見では、多くのメディアが来ており、この事件に対する関心の高さが伺うことができた。
今後の裁判では、本件解雇の不当性及び日本郵政公社による近畿高速及び大阪エアメールへ支配性をより明らかにしていくつもりである。
- (弁護団6名:富永俊造、坂田宗彦、梅田章二、増田尚、谷真介、伊東孝子)
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