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原爆症認定集団訴訟大阪高裁判決
大阪市バス労組事件で中労委が大阪市の使用者性を否定


原爆症認定集団訴訟大阪高裁判決
弁護士 有 馬 純 也

  1. 原告9名全員勝訴
     5月30日、大阪高裁14民事部(井垣敏生裁判長)で原告9名全員勝訴の判決が下され、国側の上告断念により勝訴判決が確定しました。
     原爆症訴訟は、被爆者である原告305名が全国6高裁・15地裁で争っている集団訴訟です。2003年4月から各地で集団提訴が始まり、2006年5月12日の大阪地裁での原告9名全員勝訴の判決を皮切りに、同年8月4日には広島地裁で原告41名全員勝訴の判決、その後も2007年には名古屋、仙台、東京、熊本と地裁での勝訴判決が続きました。しかし、国は、全ての地裁判決に対して控訴しました。そして、2008年5月28日に仙台高裁で原告2名全員勝訴の判決が下され、大阪高裁での全員勝訴へとつながります。
     しかし、未だ原告のうちの多くは原爆症と認められておらず、近畿では大阪地裁に22名の原告が未だ係属中で、裁判での闘いは続きます。一つの決着がついたこの時点で、この裁判が何なのかというこれまでの原爆症訴訟の経過を振り返って見たいと思います。

  2. 原爆被害
     1945年8月6日、9日、広島・長崎の街に原子爆弾が投下されました。街は焼き尽くされ、爆風で家屋は倒壊し、多くの人々が一瞬で命を失いました。原爆の瞬間的な破壊から生き残った人々も、引き続く放射線影響により急性症状を発症し次々と亡くなっていきました。45年末までに20万人以上が亡くなったと言われています。
     幸いにも生き残った被爆者にも、原爆放射線の影響が永遠につきまとうことになりました。原爆放射線は被爆者のDNA等に異常をもたらし、白血病、癌、白内障等々、被爆者は様々な病気にかかりやすくなりました。被爆者は、原爆の烙印を自らの中に一生涯抱えながら生きていかねばならなかったのです。
     このような原爆放射線被害の永続性という特徴から原爆症認定制度が設けられました。被爆者の病気が原爆放射線の影響であると認められる場合には、厚労大臣が原爆症と認定し、医療費の負担や手当の支給がなされるのです(労災認定制度に近いと考えてもらうと分かりやすいと思います)。この制度ができるまでには被爆者の血のにじむような努力が背景にあったことは言うまでもありません。

  3. 原爆症訴訟の経過
     被爆者が原爆症の認定申請をしても、国はそのほとんどを却下していました。原爆症の認定基準が厳しすぎたのです。80年代から却下処分の取消しを求める個別の裁判が起こされるようになり、2000年に長崎の松谷英子さんが最高裁で勝訴し、認定基準の拡大が期待されました。ところが、国は、より厳しい認定基準を作成したのです。そこには被爆者救済の理念のかけらもなく、冷徹な「科学」だけが存在しました。最高裁で勝訴した松谷さんでさえ認定されないような、司法を無視した不合理な認定基準だったのです。2001年5月から新基準では全被爆者の0.8%しか認定されませんでした。
     個別の裁判を繰り返していても国の姿勢は変わらない、ならば全国の被爆者が一致団結して闘って国の姿勢を正そう、ということで原爆症認定集団訴訟が2003年から始まりました。
     国は裁判の中で「科学」を錦の御旗にして争ってきました。これに対して被爆者は、原爆被害の実態を切々と訴え、事実と科学が如何に乖離しているかを示してきました。裁判所は、被爆者の言葉の重みを受け止め、国が主張するエセ科学を排斥しました。そして、被爆者の連戦連勝が続きます。
     さすがに国も持ちこたえられなくなり、2007年8月に当時の安倍首相が認定基準の見直しを指示しました。ところが、厚労省はあくまでも「科学」にこだわって認定基準の小幅な手直しを画策しました。結局、被爆者の声を聞き入れられないままに、新たな認定基準が2008年4月からスタートしました。
     新認定基準により従来よりかは大幅に認定者数が増えることになりますが、未だ原爆被害の実態に沿った認定基準とはいえず、原告の多くが救済されない状態が続きます。再度認定基準を改めさせ、原告全員を救済することが今後の課題です。

  4. さいごに
     被爆者は他の戦争被害者と何が違うのか?という疑問から参加したのですが、裁判を続ける中で、原爆被害が特別であることは十分すぎるくらい理解できました。しかし他方で、他の戦争被害でも多くの人が苦しんでおり、差別化を図ることへのジレンマもあります。
     一ついえることは、被爆者は、自らの身をもって原爆被害の悲惨さを訴え、核兵器を三度許すまじとの思いで世界の平和に貢献してきました。被爆者は人類の宝です。この被爆者の言葉・思いを後世につなげていくことが我々の役割だといえます。
    以上


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大阪市バス労組事件で中労委が大阪市の使用者性を否定
弁護士 森   信 雄

 民間会社に雇用された大阪市バス運転手との関係において、大阪市の労組法7条の「使用者」性が問題となった事件につき、2008年5月7日、中労委は「使用者」性を否定する判断をした。以下、報告する。

  1. 事案の概要
     大阪市は、退職した市バス運転手等の雇用の受け皿として「大阪運輸振興株式会社」(以下、「会社」と言う)を設立し、一部の営業所にかかる市バス運行業務を委託した。
     会社従業員は大阪市バス労組(以下、「組合」と言う)を組織し、処遇改善につき、会社との間で団体交渉を重ねたが、交渉は遅々として進まなかった。
     組合は、@1年契約の労働者を正規従業員とすること、A初任給を月22万円に引き上げること、B組合事務所の貸与等を求め、大阪市(交通局)に対し団交申し入れを行ったが、大阪市は団交を拒否した。そこで、組合は、大阪市を相手として、2005年11月に大阪府労委に不当労働行為救済申立を行った。
     争点は、組合員の直接の雇用主ではない大阪市が労組法7条の「使用者」に当たるかどうかである。

  2. 使用者性を基礎づける事実
    (1)資本面での支配
     会社は大阪市の監理団体である。会社の資本割合は、@大阪市37.5%、A大阪交通サービス37.5%、B大阪交通労働組合25%である。なお、大阪交通サービスも大阪市の監理団体であり、大阪市は同社に37.5%の資本を出資している。
    (2)人事面での支配
     会社の役員および管理職のほぼ全員が、大阪市交通局のOBまたは大阪市交通局からの派遣職員である。
    (3)財政面での支配
     会社収入の約97%が大阪市からの委託代金である。この算出方法は、市の嘱託運転手の単価を基礎にしたものであり、委託代金の実質が会社従業員の賃金であることを示していた。
    (4)業務体制及び労働条件決定における支配性
     交通局が運行ダイヤを作成し、会社従業員の勤務シフトが定まる(誰を張り付けるかは会社が決める。)。また、交通局は会社が受託している各営業所長あてに通達(たとえば、臨時バスの運行)を発し、営業所がそれに従った措置をとるため、交通局が会社従業員の勤務のありかたを決定している。さらに、交通局職員が添乗評価を行い、その結果が会社従業員の一時金の算定に反映される。

  3. 大阪市の「使用者」性を否定した府労委命令
     前記事実はほとんど争いがなく、その法的評価が問題になった。
    組合は、会社が大阪市交通局の「一部門」であり、会社における労働条件に対する大阪市の「構造的・包括的支配」の点を直視すべきである旨主張したが、2007年5月29日、府労委命令は、大阪市の「使用者」性を否定した。
     同命令は、総論として、朝日放送事件最高裁判決の基準を引用しつつ、「包括的支配の有無等にかかわらず、本件における具体的な団交事項について、市が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるといえるか、という観点から検討すれば足りる」とした。
     その後、上記@ないしCのそれぞれの団交事項ごとに検討し、いずれも、大阪市が現実的かつ具体的に支配・決定していないとして、大阪市の「使用者」性を否定したのである。

  4. 二重の否定をした中労委命令
     中労委は、府労委命令のように個々の団交事項ごとに現実的かつ具体的に支配・決定があったかどうかを検討をする前に、「大阪市が組合員の労働条件等に対して現実的かつ具体的な支配力を有しているかどうか」という論点を設定して判断を示した。
     そのうえで、「業務面」、「労働条件面」、「資本・人事等の組織面」について検討を加え、大阪市がそれらに一定の関与や影響力を有していることは認めつつ、現実的かつ具体的な支配はしていない旨判示し、さらに、個々の団交事項との関係でも、府労委命令とほぼ同様の理由により、現実的かつ具体的に支配していないとして、改めて大阪市の「使用者」性を否定した。

  5. 朝日放送事件最高裁判決の射程範囲
     一般論として言えば、労組法7条の「使用者」性が問題となる事案において、組合側がこれまで十分な成果を勝ち取っているとは言い難い。
     朝日放送事件最高裁判決が定立した基準の機械的適用がその要因である。
    判決当時は画期的判断であることを疑わなかったが、その後、「派遣型」ではない「親子型」その他異なる類型の事件でも全て同判決の基準が用いられるようになり、かえって同判決の基準が制約となる局面が多々見られるようになってきた。
     しかし、最高裁判決の基準を全ての事案に機械的に適用するには無理がある。
    たとえば、放送現場では、派遣労働者はディレクターによる直接的・具体的指揮命令のもとで就労しているが、市バス運行現場では、大阪市の職員が個々の運転手に対しいちいち指揮命令しているわけではない。しかし、それは、市職員たる運転手との関係でも同様である。要するに労務提供の態様が異なっているのである。
     その代わり、市バスの場合、会社は人的にも資本的にも、また、業務面でも完全に交通局の「一部門」と化しており、これは放送現場における放送局と派遣元会社との関係には見られない実態である。
     そうであるならば、万一、最高裁判決の基準を活用するにしても、「現実的かつ具体的に支配・決定できる地位」にあったかどうかを判断する場合には、事件の類型及び実態を直視した評価が必要となるはずである。また、その際、不当労働行為制度の趣旨・目的に合致した解釈が必要になることは当然である。
     朝日放送最高裁判決の射程範囲と意義について、改めて検討を行い、何とかして、労組法7条の「使用者」性を認めさせていく取り組みが必要である。
(弁護団は、他に河村武信、河村学、高本知子、大前治の各弁護士である。)


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