|
|
|
- はじめに
2007年3月6日に大阪労働局に是正申告を行い、同年8月8日に使用者側四者に対し偽装出向であるとして職安法44条違反の指摘と申告者の雇用の安定を図るよう是正指導がなされていた京都法務局バックアップセンターの事件につき、2008年3月13日、勝利的和解で合意書が交わされました。解決に至るまでの経緯につき報告します。
- 事案の概要
伊藤忠テクノソリューションズの100%子会社であるCRCシステムズの採用募集に応じて採用された契約社員Uさんが、採用されたはずのCRCシステムズでは1日も働くこともなく、同じく伊藤忠テクノソリューションズの100%子会社である平成情報サービス及び法務省関連の財団法人民事法務協会において研修を受け、そのまま民事法務協会から京都法務局のバックアップセンター勤務を命ずる辞令を受け、その後民事法務協会及び法務局からの指揮監督を受けながら、12年以上にわたり登記の電算化作業に従事していたところ、電算化作業終了とともに職を失うことになる見通しであることを告げられた事件。Uさんは、雇用の安定を求めて、具体的には民事法務協会ないし法務局での直接雇用を求めて、大阪労働局に是正申告しました。
- 労働局の指導
右のような、使用者側4者とUさんの間の訳の分からない関係について、使用者側は、労働局に対し、まずCRCシステムズがUさんを雇用し、CRCシステムズから平成情報サービスにUさんを出向させ、さらに平成情報サービスから民事法務協会に対しUさんを出向させ、民事法務協会が京都法務局から仕事を業務請負していたと説明しておりました。Uさんは、自分の働き方がそのような法律関係にあったというようなことは、使用者側からは全く説明を受けていませんでした。
大阪労働局は、2008年8月8日、使用者側4者間におけるその個々の法律関係全てを、職安法44条違反の違法な労働者供給であると認定し、申告者の雇用の安定を図るよう指導しました。つまり、CRCシステムズと平成情報サービスの間及び平成情報サービスと民事法務協会の間の出向とされる関係を偽装出向、民事法務協会と法務局の請負の関係を偽装請負と認定したわけです。
- その後の交渉経緯
その後、団交や弁護士代理の申し入れ等を通じ、Uさんを民事法務協会ないし法務局において直接雇用するよう要求しました。実際には、法務局での雇用には公務員の任用処分という行政法上の問題が絡むため、民事法務協会による直接雇用を実現することが要求の主眼でした。
それに対し、使用者側4者は、3月末での京都法務局バックアップセンター業務の終了後、民事法務協会ではなく、CRCシステムズの別の職場への異動を求めてきました。しかし、UさんはCRCシステムズではこれまで1日も働いたことはありません。当然、Uさんとしては、これまで働いてきた職場での雇用の継続が一番よいのであり、働いたこともないCRCシステムズで一から働き始めることは受け入れられることではありませんでした。
こちら側の要求が一向に受け入れられないため、9月11日、京都法務局ないし民事法務協会による直接雇用がはかられない場合、4者の民事上・刑事上の責任を追及する旨の書面を民事法務協会に対し送付しました。
その後、何度か交渉を繰り返しましたが、使用者側4者から出された最終案は、相変わらず民事法務協会ないし法務局での直接雇用の拒否、CRCシステムズでの職場の用意ないし解決金の支払いによる解決でした。
- 訴え提起の方針の決断
使用者側が一向にUさんの十数年来の働き方に基づく直接雇用を認めないため、こちら側は、2008年1月には、民事法務協会に対する地位確認及び使用者側4者に対する損害賠償等を請求する民事訴訟の提起と、職安法44条違反の刑事告訴をする方針を完全に固めました。
法的構成としましては、偽装出向の場合、出向先とも労働契約が成立していることになる「出向」の定義からして、出向先に直接雇用の労働契約意思が認められやすいのではないかと考えました。私は、この構成に自信があったのと、本件におきましては、民事法務協会がUさんにバックアップセンター勤務を命ずる辞令を出していたこと等々、黙示の労働契約を認めやすい事情が非常に多く、訴訟においても勝てると考えておりました。
そして、2008年2月12日提訴及び告訴を行う予定で、その前の週末8日にはそのための準備も完了していました。
- 和解の成立
ところが、いよいよ訴えを提起しようという直前になって、使用者側から、再び解決金による和解の提案がありました。
こちら側としましては、完全に訴訟をする気でいたのですが、逆にこちらが本気であるということが、相手側から譲歩を引き出せたのだと思います。
相手方の提示を受け、我々は一旦訴え提起の方針を留保し、もう一度交渉することにしました。その結果、こちら側としても納得のいく内容による、勝利的和解解決が実現することになりました。
- 終わりに
本件において、満足のできる解決が実現できたことの要因は、相手方が「びびる」ほどの自信を持ってこちらの主張を突き付けた点と、何よりUさん自身が「絶対に引かない」という覚悟を決めて闘った点にあると思います。
この事件は、私が弁護士になって2週間くらいの頃にあった民法協の労働法研究会の席で、河村先生に誘われたことがきっかけで参加したものでした。私にとっては、初めての複雑な論点を多く含む本格的労働事件でした。将来自分の弁護士人生を振り返るようなことがあった場合に、真っ先に思い出す事件の一つになると思います。
- (弁護団は、河村学、塩見卓也、谷真介、毛利崇、白川剛(是正申告まで))
- 15年前の派遣研究会に寄せられた相談
FM802事件とは、派遣研究会が相談から事件活動に取り組み初めて間もない1993年、15年前の事件である。
当時、徹底した合理的な経営と新手の広告などで業績を伸ばし、在阪放送局の中で、もっとも営業の業績が良いFM放送局エフエム802は、アルバイトで採用した女性社員全員を派遣社員に切り換えていた。アルバイトとして採用されながら、長期に働き始めると日立造船が作った派遣会社であるクリエイティブの社員として再契約させられ、派遣契約の下で就労させられていた女性社員7人が、1992年12月に、来るべき不況対策のため派遣社員については、全員92年度をもって派遣契約を解消したうえ、1年限りの嘱託契約に切り換え、1年後で雇い止めをするという決定を聞かされたという事件である。
極めて好調な業績の中での突然の雇い止め宣言、実質的な女性労働者の切り捨ての差別的な契約破棄であることは明らかだった。残念ながら、正社員には労働組合もなく、誰も反対の声を上げられなかった。1人の女性の納得出来ない思いを込めた相談を聞いたのは93年1月6日の出来事だった。
- 明白な派遣法違反の指摘によるスピード解決
7人の「派遣」のうち5人は納得出来ないと立ちあがった。全員、アルバイトで採用され試用期間を経て、派遣社員としての契約を結びなおしていた。
いつでも、解雇等の雇用調整ができる形式を整えるために結ばれた偽装の「派遣」契約であることは明白だった。仕事は正社員とまったく同じ内容で、営業、雑用、仕事がおしてくると正社員と一緒に残業もする。名刺はそれぞれFM802のロゴの入ったものが局から配布されている。夏季賞与も少額が局から支給され、出退勤の報告も局の総務部に提出されていた。
一人で加盟できる民放労連の近畿地区労組に加入して、職安法第44条違反を指摘した弁護士の意見書を作成し、早朝の役員会に在阪の放送局労組の執行委員15名が集まり相談から1ヶ月後の2月5日に、会社の役員会に出向き、団体交渉申し入れを行ったのである。
こうした在阪放送局の組合がすべて顔をそろえて支援したこの闘争は、2月10日会社が解雇撤回を表明するというスピード解決を得ると共に、偽装「請負」状態の解消、正社員と同額ではないが、賃金増額を勝ち取るというすばらしい成果を勝ち取ったのである。
- 15年の交渉を経て全員の正社員化が勝ち取られる
この事件は、その後派遣研究会で編集、かもがわ出版で発行した「がんばってよかった―派遣から正社員に―」を飾るエピソードとなった。私自身も労働組合を見直した大きな出来事として心に残る事件となった。
その後も組合分会は、その後も近畿地区労組の分会として活動を続けているという話は時たま聞いていたが、最初の相談から15年を経た今年2月8日、1通のハガキが届いた。「FM802社員化報告パーティーのご案内」とあった。
3月5日出席したパーティーは時間を15年前に戻し当時の熱気を思い出させてくれた。
分会の人数は変わらず、組合の活動は決して華々しくはなかったようだが、粘り強い交渉が続けられていた。途中、困難のために組合脱退を表明する組合員もいた(そのような率直な思いも集会では語られた)が、困難を乗り越えて、2007年に、最後の組合員の正社員への採用の合意に至ったのである。
当初のスピード解決もその後の長い交渉も労働組合あればこそ、労働組合の価値を改めて実感出来た事件である。
「がんばってよかった」では、「正社員」化を勝ち取ったと、「」づきで原稿を書いた。賃金改善の契約社員だったからである。しかし、15年目にかっこなしの社員化の報告を出来たことはとても嬉しく思うと共に、派遣請負をめぐる闘争は、こうした先駆的な闘いに学びながらねばり強い闘いを続けていかなければならないのであろう。
15年前の原稿を読み直したところ「局は組合員たちを嘱託社員として再採用する形式をとり組合はここでは妥協した。しかし一時金では頑として回答を変えず、組合への対決姿勢を強めている。派遣労働者の戦いはこれからである。」とあった。15年目にこのような報告が出来てとても嬉しい。
(当時相談を聞いたのは私と渡辺和恵先生です。「がんばってよかった」はすでに出版元には在庫はなく、民法協事務所に2冊だけ残っています。)
- T 公共団体が雇用を守らないでいいのか
去る2月12日、約37年間の長期にわたり、「業務委託」の名目で、岸和田市貝塚市のゴミ焼却場で働いていたきた協和メインテナンス株式会社の労働者が、新工場稼働に伴う「入札」によって委託契約を解除されて、仕事を奪われたことに対して、地方公共団体である岸和田貝塚清掃施設組合(一般事務組合)に対し、清掃施設組合が真実の使用者であり責任を負うべきと労働契約関係の確認と損害賠償を求めて提訴した。
U 長期にわたる偽装「請負」の果ては… 破壊された雇用
- 岸和田市と貝塚市がその一般廃棄物の処分をするため、昭和44年9月に設立許可を得て設置された地方自治法上の組合が岸和田市貝塚市清掃施設組合(以下「組合」という)である。
組合は、岸和田市貝塚市清掃工場(以下「現清掃工場」という。)を運営し、岸和田市民・貝塚市民の一般ゴミの他、一般産業廃棄物の処理をしてきた。しかし、この業務を担っていたのは、施設組合がさらに委託した株式会社協和メインテナンスという会社の社員たちだった。
社員たちは、古く1970年代に職業安定法違反の摘発をきっかけに全国一般労働組合が誕生し、ながらく清掃施設組合とも賃金を含む労働条件改善の交渉を続けていた。
- 偽装「業務委託」の実態
(1)協和の労動者は、ほぼ完全に施設組合の業務に組み込まれていた。
まず、契約書に「作業の実施にあたっては被告の指示に従うこと」と明記されていた。契約書では、委託業務の内容として「委託者において指示する事項」と挙げられており指示が委託の内容であることがストレートな表現されいた。
(2)また、施設組合は、協和メインテナンスの従業員の班編制や人員配置、労働時間など管理し、場合によっては配置の交代を指示していた。
(3)また施設組合職員と協和メインテナンス労働者が会合する技術会議が週1回開催され、そこで週間予定の細かな確認が行われ、行事予定、ゴミ投入が停止される時間の確認、ダイオキシン測定の指示など、詳細な指示がされていた。
(4)また施設組合職員は、毎日、工場内の点検を行っていた。故障箇所や施設内の不具合を発見すると、原告らに直接に指揮命令して修理・補修を行わせていた。また、原告らも点検を行い故障箇所などを発見した場合には、故障報告書を被告に提出し、被告の指示を仰ぎ、夜間に故障が生じて協和の労働者らでは補修できない場合には、施設組合職員の自宅・携帯等に電話連絡して指示を仰いでいた。
(5)日常的な業務の指示は、中央制御室で行われていたが、中央制御室にいる協和の担当に対し、施設組合職員による日常的な指揮命令がされていた。
例えば、省エネ・節電対策のための細かな指示がなされ、週に2〜3回、多いときは毎日のように「(ゴミの)トン数はいくらか?下げろ!」といった指示がされていた。
各作業担当への指示は、日常茶飯事であり、プラットホーム前で、持ち込まれたゴミの中に持ち込み禁止物がないかの点検など施設組合職員と協和労働者が混在して作業に従事していた。
(6)労働条件の決定
また、協和の労働者の賃金は、毎年人事院勧告をうけて改定される市職員の賃金増加額を考慮し、協和の労働者の賃金を反映した委託代金が決定されていた。施設組合は実質的に協和の賃金額を決定していたといえる。
- 新工場の移転計画と入札による契約解除
こうして、協和メインテナンスは、旧清掃工場設立以来、約37年間にわたって「業務委託契約」の名目で協和の労働者を労働力として供給させてきたものであり、実態は労働者供給に他ならないものだった。
この委託契約が継続している間は、施設組合職員よりは低いものの、雇用が安定している限り矛盾は隠れていた。
しかし、2005年、旧清掃工場の老朽化・公害対策などの理由から新工場の移設計画が持ち上がり、新工場の運転維持管理業務を委託する会社が入札により決定されるにいたり、労働者供給の矛盾が顕わになった。
労働組合は、施設組合に対し団体交渉の開催を申し入れ、協和労働者の実質的な使用者として、雇用の確保を求めたが、入札が実行された。この結果、独立した事業主の実態を持たず、岸和田市貝塚市以外にゴミ清掃業務の仕事を持たず、専門性のない協和メインテナンスは、施設組合との新契約を確保することも出来ず、労働者を解雇する以外の方策をとることが出来なかった。
組合は、施設組合に対し、その責任を果たすことを求め、団体交渉申し入れをしたが、施設組合は拒否し続けていた。組合はこれまで、施設組合に対し運動と共に労働委員会闘争を続けてきた。
- V 正面から施設組合の使用者責任を問う訴訟の提起
- 本件の法的争点
労働組合の団体交渉では、使用者責任をとらすべく運動を続けてきた協和の闘争も、やはり正面から使用者責任を問う必要があるとの結論に達し、今回の提訴にいたった。
長年にわたって、実質的に使用者として指揮命令をしてきた施設組合と協和労働者の関係は、まさに労働契約における指揮命令関係があり、かつ毎年賃金を下に委託料を決定している施設組合は、賃金を支払い、使用者の実態があることは明らかである。
これに対し協和は専門性もなく、独立した業者としての実態を備えいないことが露呈されたが、協和が独立した使用者としての実態がない以上、最終的な責任を負えない。施設組合が真実の使用者として、責任を追求することは必然だったのだ。
- 派遣法40条の4の趣旨を踏まえた雇用義務の存在
本件は、実質的な派遣状態が長年にわたって継続していた事案であるから、労働者派遣法が適用されるべき事案である。
このことは大阪労働局も認定したものである。労働局の指導は、派遣契約に基づく契約書がない以上、派遣法に規定する「直接雇用の申込義務」は発生しないというものである。
しかし、裁判所は、2007年4月に出された松下PDP判決でも一定の要件の下で、派遣先の直接雇用申込義務を認めていた。
実質的に考えても、労働局の立場では実質的な労働者派遣の場合は、派遣法の規制を免れる偽装業務委託の契約関係にあることを理由に直接雇用義務を否定するのはおかしい。法を守れば、義務があるのに、法を守らなければ義務がないということになるからだ。
そこで、労働者派遣を免れる行為で実質派遣の状態の時は、派遣法、職業安定法の趣旨から、信義則上の直接雇用申込義務が発生し、この義務違反による損害賠償として、本来であれば、直接雇用されて得られたであろう賃金相当の損害金を定期金債権として、月額給与額と同じだけの損害が毎月発生するとして、その請求を求めることにした。
- W まとめ
本件は、一連の偽装請負摘発から使用者責任をとう裁判にいたるまで、労働局の申告、労働委員会への申立、そして提訴とフルコースで闘う事件となっている。
被告が岸和田市と貝塚氏の共同出資からなる一般事務組合であり、通常の民間会社とも異なるが、長年にわたって使用してきた労働者の雇用が入札だからと軽視されていることを忘れてはならない。自治体ワーキングプアを生み出す仕組みとなっている業務委託と入札制度の問題を正面からえぐり、雇用の安定が人権であることを明らかにする運動が必要である。正規・非正規問わず民間官公庁を問わない共同の運動の広がりと支援が求められる。
(弁護団は私の外、山ア国満、岡本一治、四方久寛、佐藤真奈美の5名である)
|