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- 事案の概要
本件は、タイガー魔法瓶株式会社において、派遣労働者として働いていた女性が、派遣法では期間制限をすぎており、タイガーに直接雇用の申入れ義務があるとして、労働局に対し指導を求めて申告したところ、労働局が指導した1週間後に、まだ業務が継続しており、当該部門も存在しているのに、突如契約解除を理由に職場への入場さえも禁じられた事件である。
- 労働者供給の実態
(1)採用面接
当事者は30代の女性労働者である。彼女は、2001年9月10日、新聞に求人チラシをみて応募した。求人広告は「アルバイト、料理の好きな方」という記載があった。面接は、派遣会社で行ったが、その後、最終的に残った候補者2人と共にタイガー魔法瓶に出向いて面接を受け、彼女が採用されることになった。タイガー魔法瓶が行った面接によって採用されたのである。
彼女の業務は、商品の開発部門であり、業務内容は実験補助業務で製品のテストとデータを記録する作業であり、業務内容として専門性があるものではなく、いわゆる一般事務労働であった。
(2)形式上、整えられていった「派遣契約」
ところで、彼女の労働実態はほとんど変わっていないのに、彼女が締結していた契約は違法行為がくり返されていた。2001年当時の契約書は、就業先は派遣会社のタイガー魔法瓶内の事業所と記載していたが、実態は、派遣先社員の指示に基づいて仕事をする明らかな派遣契約であった。つまり、派遣形態であるにもかかわらず請負を偽装された契約として始まったのだ。
その後、実態には変化がないにもかかわらず、2004年に入って、突然、彼女に対して、派遣労働者としての就業条件明示書が交付されるようになった。これは2004年3月1日から製造業への派遣が解禁されたことを受けて、「偽装請負」から「派遣」に切り替えようとしたものである。
さらに、2005年10月20日付の就業条件明示書では、派遣受入期間の制限に抵触する日の記載が、何の説明もなく2007年3月1日とされた(この日付は全くデタラメなものである)。
このように、労働実態は全く変わらないにもかかわらず、形式上「派遣契約」が整えられていったのである。
(3)使い勝手のよい女性労働
彼女は、ベテランの補助業務を担うものとして使用されていたが、正社員と同様に、東京や大阪へのイベントには同行して出張するなど重要な業務に従事していた(出張費はタイガーから直接支給されていた)。また、実験の内容についても、複雑かつ危険なものを手がけるようになっていった。
- 契約解除にいたるまで
上記のとおり、派遣期間が突如記載されたこともあり、本人が不安になったこと、偽装請負問題が大きく報道されるなかで、労働組合に相談に来られた。おりしも派遣請負センターの学習会が開かれそこに参加したうえで相談をすることにしたのである。
5年前から派遣の形態で稼働していたにもかかわらず派遣法の制約を免れてきたことは明らかだった。派遣法を正当に適用するならば、派遣では稼働を継続させられないし、直接雇用義務が発生するはずである。光洋シーリングテクノや松下PDP事件と同様、就労させている就労先が直接雇用することが求められる事案だといえる。
そこで、2006年11月5日、大阪労働局に対し、派遣法を脱法しているタイガー魔法瓶に対し、派遣期間がすでに経過していることに照らせば、労働者派遣法40条の4の適用をすべきとして申告をした。
あわせて労働者は労働組合と共に団体交渉を求めたが、タイガー側は雇用関係がないことを理由に拒否をした。
大阪労働局は、派遣期間の抵触等の違法を認め、契約を解除することを11月15日頃、是正指導したが、その際、当該労働者の雇用の安定を図る措置をとることを前提にすることを条件として付して指導を行った。
- 契約解除と職場からの排除
ところが、指導から約一週間後の11月22日、突如、派遣会社から労働組合に対しタイガー魔法瓶との契約が解除されたことを連絡してきた。しかし当該労働者には何も告げられることはなかった。そして、休日があけた11月24日、彼女が出勤して入門しようとしたところ、タイガーの担当者が進路を阻み、入門を拒否したのである。彼女は、私物もロッカーにおいたままであったが、その持ち帰りさえも認めず排除するというきわめて屈辱的な扱いをタイガー側は行ったのである。
- 本件の争点
本件は、労働者派遣法の不備が如実に表れている。本来派遣期間の制限がすぎれば企業側には直接雇用の義務が発生するはずである。しかし、派遣法による指導を企業側が受け容れず違法な状態で就労させているから解約すると居直れば、本件のように違法派遣が継続していても全く派遣先企業に派遣法上の義務がないことになる。
また、労働者派遣法を指摘した上で労組が団体交渉を求めても、契約関係がないとして拒否をすれば、労働者は組合を通じての是正もできなくなる。派遣労働者の救済のための労組の権利が認められるか重要な労働委員会の判断となる。本人は裁判でも闘う決意を示してくれた。松下PDP事件と同様、派遣法の不備を正面から問う裁判となるだろう。
- (弁護団は、私と四方久寛弁護士)
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