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2010年1月29日
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労働者派遣法の政令指定業務見直しを求める意見書 |
民 主 法 律 協 会
会 長 萬井 隆令
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- 2009年8月30日の衆議院総選挙において,自公政権が退場し、民主党を中心とする新政権が誕生した。新政権のもと,これまで自公政権の政策によってもたらされた「格差と貧困」を是正するため、社会保障制度の充実とともに、安定的に生活できる労働条件を保障する施策の実施が求められている。とりわけ,非正規雇用労働者の拡大を招いた労働者派遣法を早期に抜本的に改正することは急務である。
ただ、以下の理由から、同法の改正ばかりでなく、同法40条の2第1項第1号により定められている政令指定業務の見直しも、早急に実施されるべきである。
- 現在、政令指定業務として26種類の業務が定められている。そして、これらの業務については、派遣期間の制限が存在せず、恒常的な派遣が合法化されている。
しかしながら、そもそも労働者派遣は、直接雇用の原則の例外として合法化されたものであり、臨時的・一時的な業務の必要に対応する目的で、かつ、直接雇用労働者を派遣労働者に置き換える事態が生じないような専門的業務等に限ってこれを認めるとしたものである。政令指定業務について派遣の恒常的利用を認める現在の法制は、その当初の趣旨に背馳するものである。
政令指定業務についても、派遣期間の制限を設け、恒常的な業務については直接雇用によるとする法改正がなされるべきである。
- しかも、現在、政令で指定されている26業務については、例えば以下のとおり、指定すべきでない業務が多数含まれている。
@放送関係業務では26業務中4業務が指定され、その中には「大道具・小道具関係」(26号)などの業務も含まれているが、同様の業務は演劇など他業種にも存在するので放送関係についてのみ挙げる合理的な理由はなく、また、それ自体特別な専門的資格が要求されるものでもない。
A秘書業務(7号)、テレマーケティングの営業(24号)、セールスエンジニアの営業・金融商品の営業(25号)なども、企業に恒常的に存在する通常の業務であり、かつ、特殊な資格や技能を要するものではない。
B機器操作業務(5号)には、パソコンを操作する業務も含まれるとされているが、パソコンの操作は学校教育でも行われるほど普及しているのであって、これを高度に専門的な業務とすべき理由はない。
C「特別な雇用管理を行う必要があると認められる業務」として、「建築物清掃」(14号)「受付・案内・駐車場関係」(16号)などが指定されているが、これらに「特別な雇用管理を行う」必要はなく、派遣労働を認める理由は全くない。
そもそも、政令指定業務は、「労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行を損なわないと認められるもの」に限る(法40条の2)のであるから、少なくとも、当該労働者の資格・技能が特殊で、恒常的な労働需要があり、就労先を転々としても当該労働者が安定的に収入を確保できるような極めて例外的な業務に限定されるべきである。
- さらに問題なのは、労働者派遣の現場では、政令指定業務として派遣しながら、実際には一般業務に従事させるという「業務偽装」が横行していることである。例えば、「ファイリング業務」(8号)として派遣しながら、単なる書類の整理やそのためのコピー・印刷・書類の点検等の業務を行わせている。
この問題の根源には、個々の政令指定業務の具体的内容・範囲が明確でないこと、及び、監督行政がほとんど機能していないことが挙げられる。
専門業務は、「高度の専門的知識、技術又は経験を必要とする業務」に限られているのであるから、@一定の資格・技能の存在を要件とする、A就業条件明示書において従事する業務内容の具体的特定を要求する、B専門的労務の提供にふさわしい賃金額の保障を要求する(職業安定法32条の3の規定を参照)などして、その内容を明確化することが必要である。また、「業務偽装」に対しては、派遣先・派遣元に対する取り締まりを強化する必要があり、そのための監督行政の強化が必要である。
- 早期の政令改正が望まれる
現在、労働者派遣法の改正が問題とされているが、そこでは政令指定業務の見直しが対象とされていない。むしろ労働政策審議会答申では政令指定業務については登録型派遣も認めるとしており、その運用如何によっては、登録型派遣の原則禁止自体が骨抜きになる危険性が大きい。
政令指定業務の活用・脱法により派遣労働が恒常的業務に進出し、その結果、一方では直接雇用労働者が駆逐され、他方では派遣労働者の雇用の安定が害されるという現在の事態は早急に改められなければならない。
政令の改正は,国会での法改正を待たずして可能である。政府は、労働者派遣法の早期抜本改正を進めるとともに、速やかに政令指定業務の見直しを実現すべきである。
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