意見書
2010年1月29日
「今後の労働者派遣制度の在り方に関する労働政策審議会の答申」に対する意見書

民 主 法 律 協 会
会 長 萬井 隆令


 2009年10月7日、長妻厚生労働大臣が行った「今後の労働者派遣制度の在り方について」の諮問に対し、同年12月28日、労働政策審議会が答申を行った。
 この答申は、昨今の労働者派遣法の規制強化を求める労働者・国民の世論と運動を反映したものではあるが、現在の政権与党が昨年の衆議院選挙前に国会に提出した法案(以下「3党案」という)からは後退したものであり、政権与党が選挙の公約として掲げていた内容からも逸脱する内容となっている。
 政府は、労働者の使い捨ては許されないという声を真摯に聞き、答申に縛られない、真に実効ある法的規制を伴う法案を作成すべきである。
 以下では、答申の問題点と、3党案の枠組みにおいても、最低限必要な法的規制について意見を述べる。

  1. 改正の前提について
    @ 答申の内容
     答申では、平成20年11月に国会提出された自公政権案の「内容を追加・変更した内容の法案とする」としている。

    A 規制緩和条項は絶対に入れてはならない。
     答申が前提とする自公政権案には、常用型派遣の場合の事前面接禁止規定の解除や、政令26業務についての雇い入れ申込み義務の撤廃など、直接雇用に代替して派遣労働を恒常的に利用できるようにするための規制制緩和条項が含まれいるのであり、答申の前提ではこれらの規制緩和も行うこととなってしまう。
     これらの条項は、不安定就労を拡大するものであり、今回の改正には含めるべきではない。

  2. いわゆる登録型派遣の原則禁止について
    @ 答申の内容
     答申では、一定の例外を除いては常用雇用以外の労働者派遣を禁止するとされている。また、その例外として@同法40条の2第1項第1号に規定する政令指定業務、A産前産後休業等の代替要員派遣、B高齢者派遣、C紹介予定派遣を挙げている。

    A 「常時雇用」とは期間の定めのない雇用に限るべきである。
     「常時雇用される」の意味について、これまでの厚生労働省の解釈は、「期間の定めなく雇用されている者」ばかりでなく、例えば2か月などの期間雇用であっても、日日雇用であっても、採用時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者はこれに含むとしている。答申がこの解釈を前提とするなら、大部分の有期雇用が温存され、いわゆる登録型派遣と同様に運用される危険性が高い。
     「常時雇用」とは期間の定めのない雇用に限ることを明記すべきである。

    B 派遣事業はすべて許可制とすべきである。
     「常時雇用される労働者」のみの派遣の場合、現行法では届出のみで派遣事業を行うことができるとされているが、届け出制では派遣元事業主に対する行政の十分な監督が行えない。
     派遣事業はすべて許可制とすべきである。

    C 派遣終了を理由とする解雇を規制すべきである。
     派遣元との間で期間の定めのない雇用契約が締結されていても、派遣契約が終了した場合、派遣元は業務がないにもかかわらず派遣労働者を雇い続けることになるため、資力が十分になければ結局は当該労働者が整理解雇されててしまう事態を生じてしまう。
     派遣元について派遣契約の終了を理由とする解雇を禁止すべきである。
     また、少なくとも、派遣事業の許可条件として、雇用する派遣労働者の6か月分の賃金額を担保できる資産の存在を要件とするなど、賃金支払の原資の担保する規制を設けるべきである。

    D 政令指定業務について例外を設けるべきではない。
     登録型派遣は、安易な「派遣切り」の温床であり、その例外は厳格に解する必要がある。派遣労働者の雇用の安定は最優先に考えられるべきである。
     少なくとも、政令指定業務派遣については例外とすべきでない。

  3. 製造業務派遣について
    @ 答申の内容
     答申では、製造業務派遣について、「常用雇用の労働者派遣」を除いては禁止するとしている。

    A 製造業務派遣は禁止されるべきである。
     答申の内容では、結局すべての製造業務への派遣が認められることになってしまうが、これは昨今の派遣切り・請負切りに対する無理解・無反省を露呈するものである。特に、「常時雇用」が前記のように不十分な意味しか持たないことからすればなおさらである。
     製造業務派遣は、日本においては、最も労働者が不安定で危険な立場に置かれ、また、最も違法行為が蔓延していたのであるから、これを全面的に禁止するほかない。

  4. 派遣先労働者との均等待遇について
    @ 答申の内容
     答申では、派遣労働者の労働条件に関しては、「派遣先の労働者との均衡を考慮する」との表記に留まっている。

    A 実効性のある差別処遇規制がなされるべきである。
     答申の内容は、「均等な待遇」を規定していた3党案からも後退しており、かつ、パート労働法の規制よりも後退する内容となっている。
     少なくとも、パート労働法の規制と同等の規制を設けるべきである。

  5. みなし雇用制度について
    @ 答申の内容
     答申では、違法派遣の場合には、派遣先が労働契約を申し込んだものとみなす制度を設けるとし、違法派遣については、禁止業務への派遣、無許可・無届派遣、期間制限違反の派遣、偽装請負、「常用雇用」でない者の派遣の場合がこれにあたるとしている。

    A 客観的に違法であれば同制度が適用されるべきである。
     答申では、いずれも派遣先が違法であることを知りながら受け入れていた場合に適用されるものとしているが、これでは派遣先が知らなかったといえば適用を免れ、あるいは派遣元が法定の手続をしなければ適用を免れることとなってしまう。
     派遣労働者の預かり知らないところでその適否が決せられてしまうのは不当であり、また、知っていたかどうかの判定が困難なためいたずらに紛争が拡大することになる。
     適法な状態で派遣を受け入れる責任は派遣先にあるというべきであり、列挙される違法が客観的に存在する場合は、みなし雇用制度の適用を受けるとすべきである。
     なお、二重派遣など違法な労働者供給事業が行われた場合にも、同制度の適用が受けられるよう職業安定法の改正などの法整備がなされるべきである。

    B 私法上の効力が認められることを明記すべきである。
     答申では、「通常の民事訴訟等に加え」、行政の勧告制度を設けるとしているが、これでは、みなし雇用について私法上の効力があると解するのかどうかがあいまいである。労働政策審議会においても説明されたとおり、私法上の効力が認められることを明らかにすべきである。

  6. 派遣先の雇用責任の強化等について
    @ 答申の内容
     答申では、3党案に含まれていたその他の条項、とりわけ派遣先の責任に関する条項(賃金未払いや社会保険料未払いの際の派遣先の連帯責任など)について先送りしている。

    A 派遣労働者の労働基本権の保障を明記すべきである。
     派遣先の責任強化こそ派遣法抜本改正の要であり、これを十分に検討もせずに、答申が3党案に含まれていたこれらの規制を先送りしたことは極めて不当である。
     とりわけ、派遣先に対する派遣労働者の団結権・団体交渉権・団体行動権等労働基本権の保障の条項については、派遣労働者の権利実現のために必要不可欠な規定であり、改正法においては必ず明記されるべきである。

  7. 施行時期について
    @ 答申の内容
     答申では、改正法の施行時期について6か月以内の政令で定める日としながら、「登録型派遣の原則禁止」、「製造業務派遣の原則禁止」については3年以内の政令で定める日とし、さらに、登録型派遣については、施行日から2年間、政令に定める業務については暫定措置として適用を猶予するとしている。その結果、登録型派遣の規制について最長5年もの間猶予がされてしまうなど、規制が極めて遅れることになる。

    A すべての改正を直ちに実施すべきである。
     昨今の派遣切り・請負切りは「登録型派遣」「製造業務派遣」を中心に行われたのであり、「派遣村」はその結果として生じたのもである。労働者派遣法の早期抜本改正はこのような就労関係の是正こそが主眼なのである。この点での禁止の先送りは、派遣切り・請負切りの温存と、「派遣村」の継続を意味するのであり、危機に瀕している国民に対して行う施策ではない。
     他の規定と同様に6か月以内の施行期日以降に締結される労働者派遣契約については更新される場合も含めて全て適用されることとし、施行期日に就労中の派遣労働者については、常用雇用への切り替えや、派遣先への直接雇用等の方法により雇用の安定を害しない方法で違法状態の解消が図られるべきである。


   
 
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