意見書
2009年10月28日
労働者派遣法の早期抜本改正を求める意見書

民 主 法 律 協 会
会 長 萬井 隆令

  1. 労働者派遣法の早期抜本改正を
     昨年末以降の「派遣切り」等により、厚生労働省が把握しているだけでも、3952事業所、23万8752人が失職した(昨年10月から今年9月18日までの累計)。そのうち6割は派遣労働者である。また、違法な派遣就労は後を絶たず、次々と裁判が提起される状況にある。
     労働者派遣法の抜本改正は、失業者・不安定雇用者の生活支援、就職支援と併せて待ったなしの課題であり、できる限り早期に実現する必要がある。
     先の衆議院総選挙の結果、政権与党となった民主党・社民党・国民新党は、それぞれのマニュフェストで労働者派遣法の抜本改正を謳っており、また、政権与党の「連立政権樹立に当たっての政策合意」では、具体的に次のような政策が合意されている。
      ―「日雇い派遣」「スポット派遣」の禁止のみならず、「登録型派遣」は原則禁止して安定した雇用とする。製造業派遣も原則的に禁止する。違法派遣の場合の「直接雇用みなし制度」の創設、マージン率の情報公開など、「派遣業法」から「派遣労働者保護法」にあらためる。―
     政権与党3党は、既に今年の6月に改正法案を作成しており、躊躇は不要なはずである。
     同法案は、民主法律協会派遣労働問題研究会が平成20年5月27日に発表した派遣法改正案とは大きな隔たりがあるし、本来、労働者派遣は廃止すべきものと考える同研究会の見解とは基本的に異なる。
     それでもなお、現在の派遣労働者の窮状を是正し、かつ違法行為を根絶する足がかりにするためにも、最低限、以下の修正を加えた上、早期の改正を求めるものである。

  2. 政権与党作成の改正法案を修正すべき点

    (1) 物の製造の業務への労働者派遣の禁止に関して
     改正法案では、製造業への派遣を原則的に禁止しながら、「専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務」および産前産後休業、育児・介護休業による休業の場合について例外的に許容している。
     このうち専門業務についての例外は削除すべきである。その理由は次のとおりである。
     第一に、専門業務の内容は未だ明らかにされていないが、現在の政令26業務でさえ「業務偽装」(政令業務であるとして派遣しながら、実際には一般業務に従事させること)が大きな問題となっているところであり、この例外を認めることは、新たな「業務偽装」の温床となる危険性が大きいからである。ことに現在でも違法行為が横行する製造現場となれば、その弊害は極めて大きいというべきである。
     第二に、そもそも専門業務について派遣が認められたのは、常用代替を促進しないということと専門的技能を持っている労働者の場合には次々と仕事がある(売り手市場である)のでそれほど労働条件が劣悪・不安定なものになることはないという理由によるものであった。しかし、このような専門業務が製造現場に実際に存在するのかは疑問であるし、機械の操作についてもコンピューター化している今日、「専門性」を緩めて解釈するなら、製造業への派遣が結局は蔓延する危険性がある。

    (2) 常時雇用する労働者でない者に係る労働者派遣の禁止に関して
     改正法案では、常時雇用する労働者でない者を業として行う労働者派遣の対象としてはならないとしながら、政令26業務など一定の例外を設けている。
    @ この点、まず、政令26業務についても3年の期間制限を設けるべきである。そもそも労働者派遣は一時的・臨時的業務の必要のために認められた制度であり、専門業務等だからといって恒常的に使用を認める合理的な根拠はない。長期雇用の必要がある場合には直接雇用とすべきである。
    A また、原則的に常時雇用する労働者のみ労働者派遣を認めるとする場合、労働者派遣契約が解除されても、派遣労働者が派遣元事業主から解雇されないという制約がなければ、改正法案が原則的に廃止を決めた登録型の場合と変わりない状況が生まれてしまうことは明らかである。したがって、労働者派遣契約が解除されたという理由で解雇することを禁止する条項を加えるべきである。

    (3) 派遣先等の責任の強化に関して
     派遣先の派遣労働者の雇用に関して、派遣先が「情を知って」行ったことを要件とする項目があるが、このような要件は派遣労働者の関知しないところであり、確認義務は労働者派遣を利用する派遣先にあるというべきである。したがって、この要件は削除すべきである。
     また、法定の期間違反の場合について、派遣元事業主から派遣先へ期間制限の通知を受けたことを要件としているが、派遣先は派遣受入期間が抵触する日を熟知しているのであるから、このような要件は削除すべきである。

    (4) 罰則の強化
     改正法案では派遣先への罰則に関し、派遣先が「情を知って」行うことを要件としているが、このような曖昧な要件は罰則の適用回避の口実にされる可能性が大であるので削除すべきである。
     なお、法案に盛り込むべきことではないが、罰則の強化等規制強化を図るためには、監督行政の拡充が必要であり、この点への手当が求められる。

  3.  以上のような諸点の修正が図られた上で、早急に改正が実現されるべきである。
     なお、改正にあたっては、一定の経過措置が必要になるが、その際にも雇用の安定を損なわない方策がとられるべきである。
     また、有期雇用規制の問題や具体的な差別処遇規制の問題については、上記修正点では触れられていないが、今後、直接雇用も含めた一般的な雇用問題として検討すべきである。



   
 
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