意見書
2004年7月16日
大阪市長 關 淳一 殿
大阪市議会議長 新田 孝 殿
「大阪市非核・無防備平和都市条例案」に関する意見書

自由法曹団大阪支部支部長 鈴木 康隆
民主法律協会会長 小林つとむ

 自由法曹団大阪支部は、平和と人権、民主主義の発展にために、大阪で活動する弁護士184名からなる任意団体である。
 民主法律協会は、1956年、労働者の権利闘争、その他民主主義活動を目的とし、関西を中心に結成された、学者、弁護士、労働者、労働組合で構成される団体である。
 両団体は、これまでいわゆる有事関連法案について一貫して反対の立場を貫いてきた。またアメリカ・イギリス両軍の行なったイラク攻撃と、それを支持し、自衛隊を派遣した日本政府の姿勢を批判してきた。
 自由法曹団大阪支部並びに民主法律協会は、本年6月30日、請求代表者太田隆徳(弁護士)外6名が、大阪市長宛に請求した「大阪市非核・無防備平和都市条例」案について、憲法・地方自治法、国際法などの法的観点から、以下のとおり、意見を述べるものである。

  1. 民主主義・地方自治の観点から
     今回大阪市長宛請求された「大阪市非核・無防備平和都市条例」案(以下本件条例案とする)は、大阪市内に居住する有権者7名を直接請求代表者として、地方自治法第74条第1項の規定に基づき大阪市内の有権者5万3657人分の有効署名が集められたことによるものである。この直接請求の取組では、平成16年4月24日から5月23日までの1ヶ月間に、同法の要求する市内有権者50分の1(4万1463名)を大きく上回る6万1005名もの署名が集められた。この署名は直接請求代表者から委任を受けた受任者が、その居住地域内において1人1人の有権者から直接集めたものである。署名にあたっては、署名をする者が、署名の主旨、条例の要旨、概要を理解した上で、自ら署名者の「住所」「氏名」「生年月日」を正確に記載するとともに、押印(もしくは指印)をすることによって始めて有効になるものである。このような厳格な要件のなか、わずか一ヶ月間に、5万3657名もの有効署名が集まったことの意義を軽視することは許されない。
     そもそも、地方自治法上の直接請求手続は、直接民主主義の観点から規定されたものである。これら直接民主主義的契機を含む手続規定が国政レベルと異なり地方政治のレベルで採用されていることの趣旨は、住民自治の観点から、地方政治に深い利害関係を有する地域住民に対し、そのあり方を住民自らが決定しうる契機を可能な限り保障しようとするものである。憲法によって保障された地方自治制度に由来するものである。
     このような観点から考えた場合、今回の直接請求手続は、民主主義・地方自治を実現する極めて重要な権利行使と評価することができる。請求を受けた大阪市において最大限の尊重を要することは当然である。したがって大阪市長、大阪市議会においては、条例案の趣旨、内容について十分時間をかけて検討し、この条例案に現れた市民の意思を十分に尊重する判断を行なうべき責務が存するものというべきである。

  2. 条例案の要旨について
     今回の条例案の「請求の要旨」においては、この請求が、アフガン・イラク戦争など、今日もなお戦争が継続し、わが国においても自衛隊派遣など戦争を行なえる国になろうとしている状況を踏まえ、1949年ジュネーブ条約の追加議定書T(1977年)第59条、「無防備地域宣言」に着目し、その宣言を含めた平和都市条例を大阪市に求めるものであるとされている。そしてそれは大阪市「非核・平和都市宣言」をさらに発展させるものであり、「戦争につながるものを排し、平和のために不断の努力を行なう証として」本件条例制定を求めるとしている。
     ジュネーブ条約追加議定書(T・U)に関しては、それが、戦争状態に現にあることを前提とした国際法規であり、戦争を行なうルールとしての消極的側面が存することは事実である。しかしながら一方、無防備地域宣言に関する規定をはじめ、人道的側面・積極的側面が含まれることも事実である。この観点から、先の159通常国会において承認されたジュネーブ条約追加議定書を根拠に、その人道的側面・平和的側面を有効に活用していこうとする本件条例案の上記要旨は、十分評価に値するものと言える。なぜならそれは、大阪市民が戦争を忌避し、戦争につながる一切のものを排斥することの提起であって、非核・平和都市大阪市の実現に向けた確固たる宣言であることは疑いのないところだからである。
     また請求の要旨及び条例案冒頭にある「平和のために不断の努力を行なう証」という部分は特に高く評価されるものと考える。本件条例案の提起、さらにはそれを直接請求手続で市議会において審議を求めるという一連の取組は、大阪市民のみならず多くの平和を望む市民が、自らの手でなし得る法的手続きを最大限に有効活用して、平和をつくっていこうという、平和のための行動提起である。いわゆる武力攻撃事態法、国民保護法など有事法制が一応完され、多国籍軍への自衛隊参加も現実のものとなった今、市民の視点から、戦争につながるものを排し、自らの力で平和を守り、それをつくろうとする明確な視点が本件条例案には存在する。それは憲法97条の精神にもつながる、誠実かつ真摯な問題提起であるといえる。
     以上の観点から、自由法曹団大阪支部、民主法律協会においては、本件条例案の要旨につき、これを積極的に評価するとともに、付託を受けた大阪市議会においては、その趣旨に即した条例を制定されるべきものと考える次第である。

  3. 本件条例案について
     個々の条例の文言等に関しては、市議会での議論に委ねられるものであり、さらにそれが、憲法前文、地方自治法、ジュネーブ条約追加議定書の解釈に関するものであることから、上程された条例案の文言どおりに制定されうるか否かについては、今後の審議に委ねられる部分もあるであろう。しかしながら上記でも強調したとおり、本件条例案において明確に表明された大阪市民の平和を求める声を決して無視・軽視してはならない。
     無防備地域宣言に関する第5条に関しては、追加議定書T、59条にある「適当な当局」の解釈に関連して、地方自治体がこれを行ないうるか否かについて、議論のあるところではある。しかしながら、「適当な当局」という文言にもあるとおり、地域単位、地方自治体単位でこれを行うことができると解釈することは十分に可能である。またそのように解釈しなければ、同条項の存在意義が重要な点において失われてしまうであろう。
     今大阪市議会に正面から求められていることは、大阪市が戦争につながる一切の協力を拒否し、それにつながるいかなる事務をも行わないこと。そして無防備・平和都市を全世界に向けて宣言するという点である。その意味において、大阪市が堂々と胸を張って「無防備地域」「戦争非協力都市」を宣言するべきことを求めているのが本件条例案である。

  4. まとめ
     以上により、自由法曹団大阪支部、民主法律協会としては、本件条例案に対し、その趣旨・内容に賛同するとともに、請求を受けた大阪市長ならびに条例案が上程された大阪市議会に対しては、そこに含まれる大阪市民の意思を十分に尊重した、慎重かつ実質的な審議を求める。そして「大阪市非核・無防備平和都市」条例実現に向けて、最大限の尽力を求めるものである。


   
 
← BACK TOP↑