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2002年1月10日
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西日本電信電話株式会社
代表取締役 浅田和男 殿
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「NTTグループ3カ年経営計画」に基づくリストラの中止を求める意見書 |
民主法律協会
会長 小林つとむ |
- はじめに
持株会社日本電信電話株式会社は、昨年4月に「事業構造を改革する」として「NTTグループ3か年経営計画」を発表し、貴社らは、これに従い、全体で11万人強が対象となる大規模なリストラ「合理化」計画を打ち出している。
この計画では、電話受付、保守・管理といった国民・利用者サービスに直結するNTTの本来業務のほとんどを、NTTが100%出資をして新設する「地域別子会社」(以下、新会社という)に「外注化」し、基本的にすべての従業員について、50歳未満の従業員は新会社に出向させ、50歳以上の従業員については退職をさせた上で20〜30%にも及ぶ賃金減額をした条件で新会社に再雇用するというリストラ案となっている。しかも、これらの新会社は、資本金のほかには財産をもたない零細会社であって、そこに雇用される労働者にとっては到底安心できる職場ではない。
そして、このリストラ計画には、以下に述べるとおり重大な法的問題点があり、労働者・労働組合の権利擁護のために活動している当協会として到底看過できないものと考え、ここに意見書を提出する。
以下にその理由を述べる。
- 50歳以上の従業員に対する年齢による差別
今回のリストラ案は、50歳未満の従業員については在籍出向させ、50歳以上の従業員には転籍させ、その際、賃金の大幅な切り下げを強いるというものである。しかしながら、50歳という年齢で区別することの合理性は全くなく、年齢による不当な不利益取扱であり、違法な差別といわざるを得ない。
そもそも、業務の「外注化」と言っても、「外注」先である新会社は、NTT100%出資の子会社であり、50歳以上の従業員であっても、50歳未満の従業員と同様に在籍出向させることに何らの障害もない。しかるに、50歳以上の従業員に対してのみ、在籍出向の途を閉ざし、転籍とそれに伴う労働条件の大幅な切り下げを強いるという貴社の合理化案には、何らの社会的正当性も合理性も認められない。
このような合理性のない差別は、法の下の平等を定めた憲法14条に違反し、また、均等待遇を定めた労働基準法第3条の趣旨に反することは明らかであって、到底許されるものではない。
- 高年齢者等雇用安定法にも違反
今回の計画は、50歳以上の従業員全員に退職を求めるものであるから、実質的に50歳定年制をもたらすものということができる。これは、原則としてすべての事業主に対し、定年の定めをする場合には60歳を下回ることができないと義務づけた「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」第4条に違反するものであり、公序良俗違反というべきである。
- 国連「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会」の最終見解にも反する
国連の「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会」は、2001年9月24日、最終見解を発表したが、そこで日本政府に対し、「C.主な懸念される問題」として「労働者は45歳以降、十分な保障なしに、給与を削減され、あるいは解雇されるおそれがあることに懸念を表明する」と指摘し(20項)、「E.提言及び勧告」として、「45歳をこえる労働者が元の給与水準及び雇用の安定を維持することを確保するための措置をとること」を勧告している(47項)。
今回のリストラ案は、この国連社会権規約委員会の最終見解にも反するものであり、世界的にも批判を免れない。
- 労働条件一方的不利益変更禁止原則の潜脱
今回のリストラ案は、50歳以上の従業員については、「外注化」される業務に引き続き従事するためには、貴社を退職の上、賃金の20〜30%切り下げという大幅な労働条件切り下げに応じて再雇用されなければならないとしている。これは、本来は許されない労働条件の一方的不利益変更をなすための便法にほかならない。
労働条件の一方的切り下げが許されないというのは労働法の基本的ルールである。今回のリストラ案はこうした労働法の基本的ルールを潜脱する脱法行為であり、到底許されるものではない。
ちなみに、会社分割に際して、「労働契約承継法」に基づき、労働契約が分割会社から設立会社に承継される場合には、包括的な契約上の地位の移転であるから、貴社における労働条件のすべてが当然に承継されることになる。また、承継後の就業規則不利益変更については、政府は企業組織変更のみを理由とした一方的な不利益変更はできない旨答弁している。
今回のリストラ案は、NTTが100%出資する子会社を設立して、そこに貴社の業務を移管するというものであるから、実質的には会社分割(新設分割)と同じである。
しかるに、従前の労働条件を承継せずに大幅な賃金切り下げを行うことは、「労働契約承継法」を潜脱するものであって、到底許されない。
- 労働協約違反
貴社とNTT労働組合との間には、平成11年7月1日付で「社員の転籍に関する労働協約」が締結されている。そして同協約第2条2項では、「転籍先会社における勤続年数は、転籍時までの勤続年数を通算する」こととされている。また、同日付けで締結された「社員の転籍に関する協約の締結に伴う了解事項」第4項では、「転籍先会社設立時における労働条件については、当面、会社の現行の労働条件を持ち込むこととする」とされている。
しかるに貴社は、今回の50歳以上の従業員に対する取扱いを「自主的退社」と「再就職」と称して、転籍ではないと強弁している。これは、上記労働協約の適用を回避しようという趣旨と解される。
しかしながら、これは明らかに詭弁である。菅野和夫東京大学教授は、「転籍は、現に存在する甲企業との労働契約関係を終了させて新たに乙企業との労働契約関係を成立させる人事異動である」と定義されている(菅野和夫「労働法」第5版補正版417頁)。また、貴社とNTT労働組合との間の「転籍に関する協約」第1条では、転籍の定義を「会社の業務上の都合により、復帰を前提とせず、会社との雇用関係を他企業(以下、「転籍先会社」という)へ継承することをいう」としている。本件のケースがこれに該当することはあまりにも明白である。
貴社は、上記労働協約を潜脱するために、詭弁を弄しているものであって、まことに姑息な態度といわざるを得ない。
しかし、いかに詭弁を重ねようとも、本件が転籍に該当することは明らかである。
仮に新会社がこの協約に従わないとすれば、貴社及び新会社が法的責任を問われることはもちろんのこと、転籍そのものが無効となるというべきである。
- 従業員に対する「同意」の強要
退職再雇用であろうと、転籍であろうと、個々の従業員の同意が必要なことは言うまでもない。そして、この同意は、当然のことながら、自由な判断に基づく真摯な同意でなくてはならない。
ところが、今回、貴社は、50歳以上の従業員については、合理的な理由の説明もないまま、始めから在籍出向の途を閉ざし、「わが社に残るのであれば高度の技術を持っているのだろうな」「どこにでも行く覚悟はあるんだろうな」などとして、「自主的退社・再就職」に同意するよう求めている。
これは、意に添わぬ職種変更、あるいは遠隔地配転という脅しによって「自主的退社・再就職」の「同意」を強制するものと言わざるをえない。このような強制に基づく「同意」は、到底「自由な意思に基づく真摯な同意」とはいえない。
また、貴社は、以上の「同意」を得ようと、各従業員に対して個人面談を実施しようとしているが、そもそも貴社には、従業員に対し、退職を求めるために個人面談に応ずるよう命ずる権限はなく、従業員としても面談に応ずる職務上の義務はない。退職を求めることは職務命令の範囲を大きく逸脱しているからである。
さらに、従業員に対して、執拗に面談を要求したり、「残れば仕事がない」「全国配転をする」等の脅しを用いて退職を求めることは、従業員に対する人格権侵害として違法であり、許されない。
- 満了型を選択した労働者に対する広域配転は許されない
労働者が満了型を選択したとしても、それは従前の労働契約がそのまま継続するというだけのことである。ことさら新たな内容の労働契約に変化するものではない。
また、貴社が、従業員に対して、「期限までに雇用形態選択通知書を提出しない場合には満了型を選択したものとみなす」と述べたところで、法的には何ら意味のないことである。
そして、満了型を選択したとしても、当該従業員に対して広域配転が許されるわけではない。これまでに広域配転が行われていなかったのであれば、従前の労働契約の内容が変化するわけではないから、今後も広域配転が当然に正当化されるはずがないからである。
そもそも、従前の業務は100%子会社の新会社に移管されるだけで、当該業務の内容が変化したり消滅したりしているわけではない。従って、当該業務に従事していた従業員については、年齢にかかわらず、在籍出向という方法で十分対応可能なはずである。実際、貴社は、50歳未満の従業員については在籍出向させるというのであるから、50歳以上の従業員についても同様に在籍出向により従前と同じ業務に従事させることは十分に可能である。それどころか、それがもっとも自然な姿であるといえよう。
しかるに、そうした可能性を無視しておいて、あえて職種変更を伴う配転あるいは広域配転を命ずることには、何ら合理性がない。それは、満了型を選択したことに対する報復的な配転としかいえないのであって、明らかに配転権の濫用として無効である。
- 今回の進め方は不当労働行為でもある
本来、リストラの必要があるというのであれば、貴社としては、企業内各労働組合との間で真摯な団体交渉を尽くし、さまざまな問題を解決したうえで実施することが求められる。
しかるに、貴社は、通信労組との団体交渉において、通信労組の問いにまともに答えようとせず、またその意見を聞いてより建設的な解決策を検討しようという姿勢も見せず、貴社の見解を一方的に押しつけるという姿勢に終始している。これは実質的な団体交渉拒否であり、不当労働行為を構成するものである。
こうした手続無視の上に、種々の労働法規無視の転籍強要を進めようとしている貴社の姿勢は到底容認できない。
- そもそも今回のリストラを正当化する根拠はない
そもそも、NTTは持株会社のもとに構築された巨大グループ企業であり、2000年度の連結決算では7260億円という巨額の経常利益を上げている優良企業である。貴社は接続料等を大幅に引き下げたことが赤字を増大させていると主張しているが、NTTグループ全体としては増収となっているのであって、それをリストラの根拠とすることは社会的に見て到底許されるものではない。
また、NTTでは、グループ4社(持株会社、東西通信会社、コミュニケーションズ)で今後10年間に8万人以上の定年退職者が予定されており、累積すれば1兆円を超える労務費の軽減が見込まれている。
そうだとすれば、今回の無謀なリストラを行う必然性は全くなく、せいぜい、在籍出向と従業員の自然減で十分対応できるものである。
貴社において、今回のリストラを正当化する根拠は何もないというべきである。
- まとめ
以上のとおり、貴社のリストラ計画は、労働者にリスクを転嫁する正当性を欠くばかりか、さまざまな違法・脱法を伴うものであり、到底許されるものではない。
そもそもNTTは、国が46%の株式を保有し、通信を半ば独占する大企業であり、従業員の雇用と生活を守る社会的責務を負っている。ところが、今回、何らの合理的理由もなく、この責務を放棄しようとしているのである。のみならず、電話受付、保守・管理といった国民・利用者サービスに直結する業務のほとんどを、今後その存続すら危ぶまれる新会社に「外注化」することは、公共性の見地からも看過し得ない重大な問題を有するものである。
私たちは、貴社が今回のリストラ案を撤回することを、そして仮に何らかの合理化を要するとしても、少なくとも企業内各労組との誠実な交渉をふまえ、かつ従業員個々の賃金労働条件を確保するという観点から進めるよう、求めるものである。
以上
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