2001年5月24日
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大阪地方裁判所第5民事部 御中
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労働事件の審理に関する申入書 |
民主法律協会
会長 本多淳亮 |
当協会は、研究者・弁護士・労働組合等を構成員として、1956(昭和31)年に結成され、大阪を中心に人権と民主主義を守るための活動を幅広く行っている団体です。
なかでも労働事件についての取組みが当協会の活動の大きな柱となっており、大阪における各種労働事件に対し、弁護団配置を行うとともに、リストラ問題・解雇規制問題・不安定雇用労働者問題など、各種の労働者の課題について、研究と実践を行ってきました。当然のことながら、当協会は、貴部における労働事件の判決及び訴訟指揮の動向に大きな関心を持っております。
ところが、当協会会員弁護士や労働組合等から寄せられた意見を集約したところ、1999(平成11)年以降の貴部の訴訟指揮のあり方及び判決内容には少なからぬ問題点があることが浮き彫りになりました。こうした問題点は、事案の解明と公正な解決という、およそ裁判に求められる目的に照らしても、到底看過できません。
そこで、当協会は、以下に問題点を指摘するとともに、その改善をはかるために、意見を申し入れるものです。
第1 申し入れの趣旨
- 充実審理の要請
労働裁判はいずれも社会的経済的背景を有し、その与える社会的影響には大きなものがあります。だからこそ、当事者のみならず多数の労働組合・経営者団体等が労働裁判のあり方を関心を持って見つめています。
このような労働裁判の審理においては、結論のみならず、判断の基礎となる事実認定もきわめて重要であり、「訴訟促進」を偏重する余り、「証拠に基づく事案の解明」という裁判の根幹がゆるがせられることがあってはなりません。
そこで、以下の点の改善を求めます。
(1)陳述書偏重を改め、証人尋問の時間を確保すること
もっとも大きな弊害が指摘されているのが、陳述書の偏重と、これに伴う直接主義の軽視です。反対尋問を経ない陳述書の証拠力はもともと低いものであり、これによって重要な争点についての事実認定を行うことは常に誤判の危険が伴います。従って、陳述書が提出されたからといって人証調べの必要性を軽々に否定することは許されず、たとえば労働者側が会社側の証人を実質的反対尋問の趣旨で申請したような場合には、反対尋問権の保障の要請を最大限尊重すべきです。
また、尋問時間も、主尋問であるからといって短時間ですむとは限りません。安易な尋問時間の制限をなくし、必要な時間を確保すべきです。
(2)事実と証拠の偏在の是正に格段の注意を払うこと
労働事件では、一般的に審理に必要な事実と証拠は使用者側に偏在しています。従って、実質的平等を確保するための手当なくして訴訟促進を強調することは、結局は使用者側に偏した結論になりやすく、権利救済と社会正義の実現が図れません。
この点、貴部においては、これまでいくつかの事件で文書提出命令を発令されておられますが、遺憾ながら却下例も見受けられます。
適切な求釈明権の行使や文書提出命令などにより、労働事件における事実と証拠の偏在を是正し、実質的平等を確保すべきです。
- 仮処分審理の充実と決定内容の改善
(1)保全の必要性の判断は労働者の生活から遊離しないこと
労働仮処分申立は、債権者たる労働者の生活権の確保という切実な要求からなされるものです。従って、保全の必要性をいたずらに厳格に解し、たとえば解雇事件で仮払金額の減額・仮払期間の限定をすることは、こうした労働者の生活を不安定なものとし、不当な解雇をした使用者を免罪し、違法解雇のやり得を許すことになってしまいます。社会正義を守るべき裁判所がこのような違法行為に手を貸すようなことがあってはなり ません。
(2)従業員たる地位の保全を認めること
現実の労使関係においては、従業員たる地位の確認が大きな意味を持ち、仮の地位とはいえ、保全がなされることが紛争解決にきわめて大きな機能を有するものです。裁判所は、こうした現実の労使関係を刮目し、仮の地位保全の命令を原則とするべきです。
(3)法廷審尋を行うこと
さらに、こうした労働仮処分の持つ社会的な意義の大きさに鑑みれば、その事実認定には慎重さが要求されるところです。そのためには、書面審理に固執することなく、いわゆる「大阪方式」を守り、当事者が要求した場合には法廷審尋を行うことを原則とするべきです。
- 第2 申し入れの理由
- 大阪地裁第5民事部の人員構成と事件配点
1998(平成10)年6月に、裁判長が中路裁判長から松本裁判長に交代した時点では、右陪席は谷口・松尾両裁判官であり、1999(平成11)年4月に、谷口裁判官が川畑裁判官に交代し、右陪席は2名の体制が続いています。
しかし、左陪席は、1998(平成10)年には、和田裁判官・森鍵裁判官の2名だったのが、1999(平成11)年4月から実質和田裁判官1名のみとなり(西森裁判官が育児休業取得のため)、2000(平成12)年4月からは西森裁判官1名となっています。このように1999(平成11)年4月以降、左陪席1名の裁判官4人体制が継続しています。
一方、1999(平成11)年4月より、労働仮処分が、異議審も含めて全件貴部に係属するようになり、大阪地裁本庁管内のあらゆる労働事件が貴部に係属するという状態になっています。
- 問題点の概況
1999(平成11)年以降の貴部の判決・決定には、事実認定に問題のあるものが多数あります。労働者側勝訴事案においても、事実認定の誤りが散見され、控訴審での障害になっている場合もあります。
こうした問題ある事実認定は、松本裁判長の下で訴訟促進優先が行き過ぎた結果、十分な証拠の検討・弾劾がなされないまま、安易に陳述書の内容を引用して事実認定を行っていることによるのではないかと、当協会は考えています。
本来5名の裁判官が必要な貴部において、裁判官4名の体制が継続していることも、裁判官の負担過重を招き、証拠を十分吟味しないまま事実認定を行ってしまう原因となっているのではないかと危惧しています。
以下に、当協会の関わった事案について具体例を挙げます。
- 事実認定の問題点と原因:訴訟促進、陳述書偏重の弊害
(1)貴部の判決については、事件の種類や大小を問わず、あるいは結論の勝敗を問わず、ずさんな事実認定・不当な事実認定を受けたという当協会会員弁護士からの報告がなされています。
たとえば、経営者宅への労働組合の宣伝行動の不法行為性が問題となった商大ドライビングスクール事件判決(2000(平成12)年7月)では、複数の労働者が被告となり、複数回の宣伝を行っている事案であるにもかかわらず、個別の労働者の「行為」や各回の宣伝行動の違いについて具体的な吟味がなされないまま、損害賠償(慰謝料の支払い)が命じられるといった、ずさんな認定がなされました。
このほか、貴部の判決について、「会社側の陳述書・証言を鵜呑みにした認定をしている」、「証拠が吟味されていない」、「証拠とずれた認定をしている」といった指摘が相次いでなされています。
昇格・賃金における男女差別の有無が争点となったシャープライブエレクトロニクス事件判決(2000(平成12)年2月)では、一部男女差別を認め、500万円の慰謝料を認めましたが、原告の能力に関する事実認定は、ほとんどが会社側が提出した上司の陳述書の記載どおりでした。
この件で最も問題なのは、原告の元上司である証人(使用者側申請)の証言、使用者側提出の元上司らの陳述書について、判決が「これらの者(元上司ら)は原告を敢えて悪くいう理由がない」として、信用性を認めたことです。被告会社に現在も勤務する元上司らが、使用者に訴訟を提起した労働者に対し、公平な供述をするとは通常考えられません。使用者側の証人、使用者側提出の陳述書の信用性について、吟味が不足しているのではないかと言わざるをえません。
このため、同判決の原告像は、「能力のない社員でありながら、慰謝料が認められた数年間だけは、立派に働いていた」という矛盾に満ちたものとなっています。2000(平成12)年11月の商工中金男女賃金差別事件でも、原告の能力について、同様の不自然な認定が繰り返されています。
航空会社の客室乗務員が労災休業からの復帰訓練中に退職強要され、最終的に復帰不可能として解雇された全日空事件判決(1999(平成11)年10月)では、解雇無効の結論ですが、法的判断の前提となる事実認定(評価)で、主たる争点である「復帰訓練の出来具合」について、これも使用者側陳述書のみに依拠してその主張どおりの事実認定(評価)を行いました。この事件の控訴審判決(2001(平成13)年3月)では、地裁判決の結論自体は維持されましたが、理由中では、使用者の退職強要の事実を認定するとともに、「復帰訓練の出来具合」についての地裁の事実認定(評価)を大きく書き改めています。
(2)こうした「使用者側の主張に沿った事実認定」の重要な一因は、人証の極端な制 限と陳述書の偏重と考えます。
現在、貴部では、尋問の制限が著しく、なかなか人証が採用されません。しかも、尋問時間も厳しく制限されるため、陳述書の比重が大きくなりがちです。それでも、陳述書の作成者を反対尋問で弾劾する機会があればよいのですが、現在の貴部では、客観的な資料に裏付けされていない主観的な評価に関わる事実を記載し、反対尋問で弾劾すらされていない陳述書を、反対尋問を受けた証人の供述に劣らず重視し、これに基づいた認定を行う傾向が強いといえます。上記のシャープ事件では、8名の上司らから陳述書が提出され、うち3名のみを証人として調べましたが、判決では、証人として反対尋問を受けなかった上司や同僚の陳述書までもが、無批判に事実認定の基礎とされています。
裁判所がこのような事実認定を行う限り、「嘘でも大量の陳述書を出した方が勝ち」ということになりかねません。そうなれば、多数の人を揃えている使用者側の方が、協力者を得ることが困難な労働者側より圧倒的に有利になり、公正さを欠くことは明らかです。
松本裁判長に交代後の貴部での訴訟促進は極めて著しいといえます。1998(平成10)年以前に比べ、本案訴訟の新受件数は変わらないか、2000(平成12)年に入ってからはむしろ増加していますが、係属事件総数は大幅に減少しています。さらに1999(平成11)年4月から、短期間で結論を出すことが要請される労働仮処分(保全)事件までもが配点されていることを考えると、裁判官の負担は相当のものと推測されます。十分に時間のないまま、判決や決定を書かなければならないことが、安易に陳述書に頼ることにつながり、双方の主張の吟味を欠いた事実認定、要するに使用者側に偏した事実認定に帰結しているのではないかと考えざるをえません。
審理促進は当然必要ですが、それは裁判所に求められる公正さ・適正手続の保障を犠牲にするものであってはなりません。しかし、特に2000(平成12)年以降の判決では、「単に早く判決を出す」ことを重視するあまり、事実認定のずさんな判決が相次いでいるとの危惧が拭われません。
- 訴訟指揮の問題点
貴部においては、判決に至っていない事件でも、必要な人証を制限したり、尋問時間を不当に短くするなど、不当な事実認定につながりかねない訴訟指揮の例が、以下のように度々見られます。これも、過度の訴訟促進主義と裁判官の負担過重の影響ではないかと考えられます。
住友生命既婚女性差別事件では、「各原告の業務遂行状況がどのようなものであったか」が争点となっており、原告12名中2名については、原告本人と元上司の尋問が行われ、他の原告についても上司の陳述書が多数提出されました。原告側は、改めて残り10名の原告について、原告本人と元上司の尋問(上司の尋問は実質的な反対尋問)を請求しましたが、裁判所は、原告本人尋問及び元上司の尋問の全てを却下しました。
既に述べたとおり、陳述書のみに依拠した事実認定は、客観的な資料に裏づけられていない主観的な評価に関わる事実の記載が一人歩きし、かつ反対尋問による吟味も経ていないため、一方的な事実認定につながる恐れがあります。少なくとも、結論に影響を及ぼす可能性のある事実が記載された陳述書については、実質的な反対尋問権が保障されるべきであり、このような証人申請の却下は極めて不当と言わざるをえません。
また、尋問時間制限については、証拠調べに使う時間をまず決定し、その範囲内で個々の人証の尋問時間を決定しようとし、「個々の人証にどの程度の時間が必要か」という観点から検討しない傾向がみられます。
あるセクシュアルハラスメント解雇の事件において、担当の松尾裁判官は、当初、「私が法廷を使えるのが2開廷分(但し1日全日開廷)なので、その範囲内で尋問を行います」と言明しました。しかし、当該事件は、申請された人証が、その時点で、7名あり、複雑な事実関係が争点であり、2開廷で全ての人証に対する尋問が終了するような簡明な案件ではありませんでした。事件の複雑さや必要な証拠調べの内容を考慮することなく、「まず人証調べの時間ありき」の訴訟指揮が行われたことは、この問題を端的に示しています。
また、公務外認定取消請求事件(学校教諭の脳内出血の事案)で、松本裁判長より、「当初予定していた尋問時間を守らなければ、他の証人の調べの時間を大幅に削るように」との訴訟指揮が行われ、原告本人と原告の妻の主尋問をそれぞれ15分で打ち切るよう求められた例があります。原告本人と妻の供述は、業務実態と生活状況に関する最も重要な供述であり、主尋問であるからといって15分間で打ち切られて十分な立証が出来るとは考えられません。
訴訟促進のみの観点からではなく、「事案の解明のためにどのような証拠調べがどの程度必要であるか」との観点から、人証及び尋問時間を決定し、訴訟指揮を行うべきであると考えます。
また、労働事件における労使間の事実と証拠の偏在を是正し、もって客観的な証拠に基づく事実認定を行うためには、適切な求釈明権の行使や文書提出命令等を積極的に出すことも求められます。
- 労働仮処分の審理手続・決定内容の問題点
(1) 仮処分・仮処分異議審・本案訴訟の1ヶ部集中による問題点
労働仮処分及び異議審が貴部に係属して以来、裁判官の重複による問題点を発生しかねない事案が既に発生しています。
仲立証券組合事務所明渡申立事件は、労働組合の争議拠点である組合事務所の立退きを使用者側が請求した、明渡断行仮処分の事案です。当初松尾裁判官が単独で担当し、労働組合側代理人らは合議事件とすることを要請しましたが、松尾裁判官は「保全異議も地民5部で担当するので、仮処分を合議にすると異議審が構成できなくなる」との理由で躊躇していました。この事件は、最終的には、合議に回されましたが、合議事件とすべき重大案件では、なべて同様の問題が発生することになります。
シンガポールデベロップメント銀行解雇事件では、仮処分・仮処分異議審・本案訴訟を、それぞれ、川畑裁判官・松尾裁判官・松本裁判官が担当しました。本案訴訟が単独係に係属したため(保全異議と本案訴訟はほぼ同時進行)、裁判官の重複は発生しませんでしたが、今後合議事案で同種の事態が発生する可能性は十分考えられます。
重大事件であるのに「裁判官が重なると困るので、あえて合議にしない」ということになる恐れが払拭できません。
また、仮処分・仮処分異議・本案訴訟の全てが同一部で審理され、裁判官の間で事実上の「合議(相談)」が行われているのではないか、という疑いも多数の会員から指摘されています。これは憲法上の要請である裁判官の独立が現実には踏みにじられているのではないかとの疑問を抱かせる重大な問題です。ちなみに東京地裁では、労働部が2ヶ部あり、少なくともこの問題が発生する可能性はより低いと思われます。20数部も民事部がある大阪地裁で、保全事件と本案事件を別の部で審理することは十分に可能なはずです。
(2)直接主義からみた審理方法の問題点
1999(平成11)年4月に貴部に労働仮処分事件が係属するようになって以来、法廷審尋(法廷における証人調べの形式による審尋)が実施された例はなく、全て書面審理のみとなっています。
従来から、大阪地裁においては、労働仮処分の手続において、第三者をも対象にした法廷審尋方式が採用され、双方の十分な反対尋問権と直接主義を保障しつつ、通常の口頭弁論手続より迅速に手続を進めるものとして、労使双方から評価されていました(いわゆる「大阪方式」)。
民事保全法制定をめぐる参議院での審議でも、最高裁、法務省がともに、この「大阪方式」を継続していく旨答弁し、「保全命令に関する審理及び裁判については、事件の種類及び内容に応じた柔軟な対処を図る法の趣旨にかんがみ、画一的処理に偏ることなく適正な運用がされるように配慮されたい」との附帯決議もなされたところです。ところが、現在の貴部においては、こうした確認は完全に無視されている状態にあります。
このように仮処分の審理において人証調べが行われず、書面審理しかなされない状況のもとで、当協会の会員弁護士の中では、陳述書偏重による誤った事実認定がなされることに対する懸念から、「事実認定が微妙な事件では最初から本案訴訟を提起する」方針を取る場合が増えつつあります。
しかし、労働者の生活や労働組合活動上の切迫した危険が迫っている緊急性・必要性が高い事案については、簡易労働訴訟法のような立法的手当がなされていない現状においては、あくまで仮処分手続による救済が必要とされます。そして事実認定が微妙な事案においては、仮処分の審理の中で、反対尋問権を十分に尊重した慎重な事実認定が求められます。仮処分での法廷審尋を一律に認めない現在の貴部の方針は、こうした事案での迅速な労働者救済の途を閉ざすことになり、ひいては労働仮処分の存在意義を没却することになります。
(3)仮処分決定内容(保全の必要性)をめぐる問題点
現在、貴部の労働仮処分では、仮の地位保全の命令は、外国人労働者が在留資格との関係で地位保全を必要とする場合等、例外的な場合以外は、認められていません。
しかし、労働紛争の実態を直視すれば、解雇された労働者が職場復帰を要求したり、社会保険等の継続を求めるために、仮の地位保全命令は常に必要性を有しており、原則として、保全命令が出されるべきです。
また、給与仮払いの内容についても、裁判官により異なりますが、過去分の仮払いは認めず、将来分も減額したり支払期間を限定する、という決定内容が増加しています。特に、川畑裁判官にはこの傾向が顕著です。
解雇された労働者は、収入の途を絶たれ、時には借金までしながら極めて苦しい生活状況の下で提訴に踏み切ることを余儀なくされます。仮払いの却下や減額は、労働者が、賃金を唯一の糧として生活していることに対する理解を著しく欠いていると言わざるをえません。あまりにも社会に生きる人々の生活の実相を知らなすぎると言わざるをえません。だからこそ司法制度改革審議会でも、「社会を知らない非常識な裁判官」が大きく問題とされたのではなかったのでしょうか。
そもそも労働者は従前の賃金水準を前提に生活設計をしているのですから、必要性を厳格に判断し、最低生活ぎりぎりの金額しか認めないということは、使用者に責任のある違法解雇による矛盾を労働者に転嫁することに他ならず、明らかに正義に反します。このような決定が続くようでは、労働者が生活の困窮を恐れて訴訟を諦める恐れが大きく、裁判所の救済機関としての機能が失われかねません。
(4)救済の必要な仮処分に対し「解雇されてから来い」との不当な訴訟指揮
仮処分手続による救済の必要な事案において、川畑裁判官が取下げ勧告を行うという不当な訴訟指揮の例がありました。
関西空港リムジン事件は、少数組合の組合員に対する乗務停止処分・出勤停止処分等の効力停止を求める仮処分事件でしたが、これは使用者側が解雇を示唆するという緊迫した状況の中で、その前提となる不当労働行為を停止すべく提起された仮処分でした。
ところが、担当の川畑裁判官は「解雇の危険があるのであれば、解雇されてから地位保全の仮処分を申請してください」などと発言しました。
解雇は、労働者から、労働と、生活の手段である賃金を奪う最大の不利益処分であり、権利救済のためには、この最悪の事態に至る前に法的救済が図られるべきです。
この取下げ勧告は、解雇という最悪の事態に至るまで使用者の不当労働行為を放置することを容認するもので、労働者の生活に対する理解と配慮に著しく欠けるものであるとともに、裁判を受ける権利の侵害に他なりません。
社会的弱者である労働者の生活の実情から目を背ける姿勢の象徴であり、権利救済機関たる裁判所の任務を放棄するものであり、きびしく批判されなければなりません。
- 結論
以上通り、現在の貴部の審理のあり方には、到底看過できない問題点があると考え、その是正を求めるために、本意見書を提出するものです。
貴部におかれては、貴部の審理のあり方に大阪の多数の研究者・弁護士・労働団体が高い関心を持っていることを受け止めていただき、早急に改善されることを要望します。
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