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労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(案)に関する意見

厚生労働大臣 田村 憲久 様
厚生労働省職業安定局需給調整事業課 御中

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(案)に関する意見

民主法律協会 派遣労働問題研究会
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1 意見の趣旨
政府が予定している、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令(昭和 61 年政令第 95 号)の改正について、「社会福祉施設等への看護師の日雇派遣」を可能とすることについて反対する。

2 意見の理由
(1)はじめに
政府は、社会福祉施設等において行われる看護師の業務について、社会福祉施設等における看護師の人材確保等の観点から、適切な事業運営、適正な雇用管理の実施を図るための措置を派遣元・派遣先に求めることとした上で、改正制令案において、日雇派遣の例外業務に追加することとしている。
しかし、以下に述べるとおり、そもそも看護師の人手不足が生じている原因は過酷な労働環境及びそれに全く見合わない待遇の低さにあり、人材確保のために行うべきは労働環境・待遇の改善であるところ、その弊害の多さから労働者保護のために原則禁止とされることとなった日雇い派遣を解禁することは、さらなる待遇の悪化を招き、労働環境・待遇の悪化を招き、看護師の生命健康を危険に晒すとともに、利用者に対するサービスの低下にもつながるものであるため、これに反対する。

(2)人手不足の現状が生じているのは待遇の悪化によるものであり、人材確保のために行うべきは職場環境・待遇の改善であること
現在社会福祉施設等における看護師の人手不足が指摘され、他方資格を持ちながら現在看護師として就労していない「潜在看護師」も一定数存在するとされている。このような人手不足を解消するために人材を確保する必要性があることは否定できない。
しかし、そもそも、このような事態が生じている原因は、社会福祉施設等における看護師が過酷な労働環境に置かれ、他方でそれに全く見合わない低待遇を受けていることにある。そして、新型コロナウィルス感染症の感染拡大に伴い、これらの看護師が置かれている労働環境はさらに悪化している状況にある。
したがって、人材を確保し人手不足を解消するために行うべきは、社会福祉施設等における看護師の労働環境・待遇の改善、そのための介護報酬の引き上げ等である。

(3)日雇い派遣を可能とすることはさらなる待遇の悪化を招くことは、日雇い派遣の弊害及びこれが禁止されるに至った経緯からも明らかである。
ア そもそも、日雇い派遣については、「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」(平成20年7月28日)において、「派遣元・派遣先の双方で必要な雇用管理がなされず、また、事業主のコンプライアンス意識の低さも相まって、現実には、禁止業務派遣や二重派遣、賃金からの不適正なデータ装備費の控除等の法違反の問題が生じており、労働災害の発生も指摘されている」として、その弊害が指摘されたことから、2012年改正労働者派遣法により、原則禁止されることになった(労働者派遣法35条の4)。
このように、日雇い派遣は、間接雇用であるとともにその雇用期間の短さから、雇用管理責任の所在が不明確になり、様々な法違反が横行し、さらには労働災害を招くなど弊害が多く労働者の待遇悪化を招いたため、労働者保護のために原則禁止されることになった。
イ 加えて、現行の社会福祉施設等における看護師の労働者派遣については、厚生労働省「福祉及び介護施設における看護師の日雇派遣に関するニーズ等の実態調査集計結果」(令和2年)において、施設側及び労働者側双方から雇用管理上の課題が指摘されている。
すなわち、同調査結果において、施設側及び労働者側からの回答で、分母数が少数であるものの、「看護職員の派遣労働者に関する雇用管理上の課題」として、「契約の範囲外の業務や、想定外の業務の実施」「指揮命令系統が不明確」などが挙げられ、特に看護師等の派遣労働者として就労した者108名のうち、57.4%が雇用管理上の課題を感じたと回答している。さらに、看護師等の派遣労働者として短期就業する場合の懸念点として、「特に心配はない」と回答した者は15.8%のみで、84.2%の労働者が懸念があるとしており、「契約が細切れで収入が安定しない」(33.4%)「業務の遂行により事故が生じた場合に、十分な補償が受けられるか心配」(24.7%)「複数の職場で働くため健康が心配」(16%)など自身の待遇面での不安も挙げられている。
ウ 以上のとおり、間接雇用でありかつ雇用期間があまりにも短いため雇用管理責任が不明確になりやすい日雇い派遣は弊害が大きく、もし社会福祉施設等における看護師業務について日雇い派遣を解禁すれば、さらなる労働環境・待遇の悪化を招くことは容易に予測できる。さらに、新型コロナウィルス感染症が拡大する中で、看護師は職場で新型コロナウィルス感染症への感染のリスクにもさらされるが、日雇い派遣を解禁すれば、感染予防措置等の本来、最も責任をもって対応すべき派遣先が担う安全配慮義務すら、責任の所在が不明確となりかねず、看護師の生命健康が危険に晒される。さらに、仮に感染した場合には速やかに労災補償を受けることが必要であるところ、雇用管理責任の所在が不明確となれば、速やかな労災補償にも支障を来しかねない。
また、個々の労働者の家庭環境等に合わせた勤務時間・勤務形態にすることは直接雇用でも十分可能であるし、むしろ安定した無期の直接雇用の方が個々の労働者に配慮した取扱いを行いやすい。このように看護師をあえて間接雇用にする必要性は全くない。

(4)社会福祉施設等におけるサービスの低下にもつながること
そもそも、社会福祉施設における看護師は、医療的な視点での支援や介護、保育を提供するだけではなく、利用者に寄り添いながら信頼関係を構築し、利用者の個別性を尊重したケアを行うこと、そして他の職種と連携しチームケアを行うことが重要である。このような利用者との信頼関係の構築、個別性を尊重したチームケアを行うためには、看護師の継続的な長期雇用が必要不可欠である。短期間かつ間接雇用である日雇い派遣でこれらのケアを行うことは不可能である。
上記厚生労働省調査結果においても、回答した事業所のうち過半数が短期看護派遣職員に対する懸念として「労働期間が短期であるため、チームでの役割を発揮しにくい」を挙げ、労働者側も看護師等の派遣労働者として短期就業する場合の懸念点として「派遣先にすぐに順応できない」(43.1%)「労働期間が短期であるため、チームでの役割を発揮できるか心配」(22.9%)「労働期間が短期であるため、ケアに支障が生じないか心配」(17.2%)等が挙げられている。
また、現行の社会福祉施設等における看護師の労働者派遣についても、上記調査結果において、看護師等の派遣労働者として就労した者108名のうち、74.1%が医療安全上の課題を感じたと回答しており、「どのような体制で医療安全管理が行われているかが分からない」(39.8%)「利用者の情報収集をする時間が不十分」(35.2%)「起こりやすい医療事故等について、把握する機会(研修等)がない」(25.0%)などが挙げられている。これらの医療安全上の課題は、派遣期間が短期になることでより深刻になると思われる。
以上から、仮に日雇い派遣が解禁されれば、社会福祉施設等の利用者に対するサービスの低下につながることは必至である。

(5)まとめ
以上のとおり、社会福祉施設等における看護師の人材確保のために行うべきは労働環境・待遇の改善、そのための介護報酬の引上げ等であり、同看護師業務についての日雇い派遣の解禁は、むしろ労働環境・待遇の悪化を招き、看護師の生命健康を危険に晒すとともに、利用者に対するサービスの低下にもつながるものであるため、これに強く反対する。

以上

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