弁護士 吉川 亮太
大阪市の住民である原告らは、夢洲を違法な格安賃料で大阪IR株式会社に賃貸することの差止めを求める住民訴訟(第1次住民訴訟)に続けて、2024年12月16日、大阪市から松井一郎前大阪市長らに対して損害賠償請求をするよう求める住民訴訟(第2次住民訴訟)を提起しました。
第1次住民訴訟の継続中、大阪市担当者と不動産鑑定業者間での「隠蔽」メールの存在が発覚しました。「隠蔽」というのは、情報公開請求時において大阪市は「保存期間が過ぎて現在は残っていない」と説明していましたが、実際には情報公開請求後に担当者が削除し、後に外付けハードディスクの中から198通のメールが見つかり大阪市が意図的にメールを隠したことが疑われるためです。このメールは、大阪市から不動産鑑定業者らに対し、①IRカジノ事業のための適正賃料を算定するという目的に反して「IR事業を考慮外」として鑑定すること、②開業予定の夢洲新駅ではなく、そこから3.2km離れたコスモスクエア駅を最寄り駅として鑑定することなどを内容としており、これらの違法な鑑定条件の示し合わせに大阪市とすべての不動産鑑定業者が関与していたことが明らかになりました。そこで、違法な格安賃料でカジノ事業者に賃貸したことについて、基本協定締結の責任者である松井一郎前市長、賃貸借契約締結の責任者である横山英幸現市長、夢洲を管理する責任者として対応した前職と現職の大阪港湾局長、違法な格安賃料により莫大な利益を得る大阪IR株式会社、違法な賃料鑑定を行った不動産鑑定業者4社とそれを実行した不動産鑑定士個人に対し、大阪市が被った損害の賠償を請求するよう求める訴えを提起しました。
特に、松井一郎前大阪市長については、2022年12月の記者会見で、鑑定はIR事業を考慮しているため問題ない、高層ホテル利用を想定している鑑定であるため問題ない等、事実と異なる説明していますが、これに先立つ2021年6月29日に、松井一郎前大阪市長は、大阪港湾局長から、本件鑑定について「(ホテルなどを含む)超高層の商業施設を想定して鑑定したものでなくイオンモールといった(低中層の)商業施設を想定して鑑定したものであり、それ見合いの(安い)価格となっており」との説明を受けていることが明らかになっており、市民に対し故意に虚偽の説明を行った疑いがあるなど、行政の透明性が求められる現代において極めて問題ある態度を披見しています。このような問題のある態度それ自体によって違法な格安賃料であることが推認されるわけではありませんが、市民に対し虚偽の説明をしてまで推進されていることで、賃料が適正ではないこと、さらに適正な賃料ではないことを知りながら大阪市に損害を与える本件基本契約を締結した松井一郎前市長の故意を一定程度推認するものといえます。
格安賃料によって大阪市が被る損害の額は、適正な賃料である月額4億7060万円と違法な格安賃料である月額2億1073万0589円との差額である月額2億5986万9411円を基準として、引渡日から契約期間満了日である2058年4月13日までの35年間の差額賃料1044億9656万3550円と考えられ、原告らは同額を、前記の者らに請求するよう大阪市に求めています。
第2次住民訴訟の前に行われた第2スモスクエア駅を最寄駅として賃料を鑑定したことについて、現に開業した後においては、当該賃料は本件土地の現況と整合しない価格になることが想定されるとの意見が出されました。また、大阪市による鑑定条件の誘導について、このようなメールのやりとりにより、鑑定意見書の作成にあたって、大阪市を介する形で鑑定業者間で鑑定手法や評価内容の共有がなされていたとすれば、その金額の正当性には疑義が生じるという意見も述べられました。また、鑑定評価の概要に具体的な参考価格が記載されていたことから、大阪市より鑑定業者に対して価格誘導しているのではないかと受け取られたとしても不思議ではないことも述べられており、監査委員の目から見ても本件鑑定に基づく賃料は適正ではない違法なものであることが示唆されています。
他の都市が忌避したIRカジノ事業の問題について、今後、本件第2次住民訴訟を通じて問題を明らかにし、市民に知らせたいと考えています