民主法律時報

追手門学院「退職強要」研修・面談事件―労災逆転認定裁決から勝利的和解

弁護士 大久保 貴則

1 事案の概要

この事件については、すでに提訴時、労災審査請求で逆転裁決を勝ち取ったときに報告していますが、改めて事案の概要から報告いたします。平成28年、学校法人追手門学院(以下「学院」といいます。)は、18名の事務職員に対し、外部コンサル会社(株式会社ブレインアカデミー)に委託する形で、業務命令で「自律的キャリア形成研修」と称する研修を受講させました。しかし、その実態は、退職勧奨目的と評価せざるをえないものであり、5日間毎日8時間行われた研修の内容も、講師が受講者らに対し、執拗に「2017年3月末での退職」を迫り、全員の前で「あなたのように腐ったミカンを追手門の中においとくわけにはいかない」、「戦力外なんだよ」、「老兵として去ってほしい」、「虫唾が走る」などと業務とは全く関係のない人格非難といえる発言を繰り返すというものでした。それだけでなく、追手門学院は、その研修後も、退職等に応じず現状維持を希望する研修受講者らに対して、業務命令として拒否できない形式で何度も面談を受けさせ、面談の中でも人格非難といえる発言をし、退職等をしないと明言してもなお執拗に退職等を求めるなどしました。理事長から直接「退職勧告書」を読み上げて手渡された方もいます。

これらの結果、精神疾患を発病して休職に追い込まれた3名が、労災申請及び学院らを相手とした訴訟を提起していました。

2 和解に至る経緯、内容等

以前ご報告したとおり、本件の労災申請については、当初1名のみが認定され、他の2名は不支給決定が出されていましたが、審査請求により逆転裁決が出て、無事に3名とも労災認定されていました。逆転裁決の結果を受け、学院は原告ら3名の地位確認請求を認諾するに至り、裁判所も学院らに責任が認められることを前提とした和解協議を進めることになりました。その結果、原告らに対する謝罪、学院内部における再発防止策実施の確約、総額9000万円以上の解決金の支払など、高水準の内容で和解が成立することになりました。また、3名のうち1名は復職を選択したため、復職にあたっての条件、現在も療養中であることに配慮した段階的な復職プロセスの策定なども慎重に協議し、和解の際には復職についての各種条件等を記載した覚書も締結することができました。

3 おわりに

本件は、教育機関である大学において、退職強要を目的として外部機関に委託した研修や学院執行部の繰り返しの面談がなされ、13名が退職(職種変更含む)や退職扱いとされ、精神疾患を発病・休職した3名が労災認定されたという前代未聞の事案です。さらに、裁判の中では、外部委託した業者への報酬が1人退職させるごとに加算されるという成功報酬制がとられていたのではないかと思われる資料も提出されており、その点でも極めて悪質な事案でした。そのような事案で、しかも当初は労災が不支給になるなど劣勢に陥ることもあった中で、最終的には3名とも労災認定され、訴訟においても判決となった場合には認められないほどの高水準の和解成立となり弁護団としてはホッとしています。もっとも、原告の中には退職したもののまだ就労できず休職中の方や、完全復職に向けて徐々に勤務頻度を増やしている途中の方もいるため、弁護団としては今後も原告の方々がより良い生活を送ることができるように必要なサポートができればと思います。

(弁護団は鎌田幸夫弁護士、生越照幸弁護士、谷真介弁護士、立野嘉英弁護士、当職の5名)

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