民主法律時報

丸亀市職員のくも膜下出血発症、公務災害と認めない不当判決

弁護士 清水 亮宏

1 はじめに

2024年10月29日、丸亀市の職員が長時間労働等によりくも膜下出血を発症した事案の公務外認定処分取消訴訟において、高松地方裁判所の判決言い渡しがありました。くも膜下出血の発症を公務災害と認めない不当判決でした。

2 事案の概要

原告は、1996年から、丸亀市役所の公務員として働いてきました。発症の前は、市民活動推進課の担当長として、日常的に地域コミュニティの会長や副会長等の相談業務に応じながら、本来数年に一度行われるコミュニティセンター整備事業を4~5か所同時並行して進める、地域コミュニティ協議会連合会の理事会やプロジェクト会議に主体的に関わる、(地方議会の開会期は)議会の答弁の対応に追われるなどの業務に追われていました。自宅に持ち帰って残業をせざるを得ない状況となっていたほか、業務によるストレスが蓄積していました。他の部署に移ることを希望していましたが、同部署内で昇進する内示があり、大きなストレスを受け、その翌日にくも膜下出血を発症しました(2018年3月)。一命はとりとめたものの、意思疎通が困難な状態となり、現在は介護療養施設に入所しています。

くも膜下出血を発症した原因は、先述の長時間労働や度重なるストレスの蓄積でした。公務災害が認められなかった為、高松地方裁判所に取消し訴訟を提起したという経緯です。

3 争点と原告の主張

大きな争点となっていたのは自宅残業の認定でした。原告は、1日1時間(地方議会開催時期は1日2時間)の自宅残業を余儀なくされており、発症前1か月には89時間17分、発症前2ヶ月には93時間21分の時間外労働があったと主張していました。自宅での作業は、他の自治体の取組みの調査や議会の答弁の検討等が中心であったため、成果物と言えるものが十分に残っていたわけではありませんでした。しかし、本件で特徴的であったのは、当時の上司が、原告が自宅残業を行っていたことを法廷で証言するとともに、(上司としての)反省の言葉まで述べていたことです。上司だけでなく、夫や職場の同僚を含めて合計6名が原告のまじめな仕事ぶりや自宅に仕事を持ち帰らざるを得ないほどの多忙な業務の状況を証言しました。その他、原告の業務や異動(同部署での昇進)によるストレスについても詳細に主張していました。

4 高松地裁判決の概要

高松地裁判決(裁判官:田中一隆(裁判長)、豊澤悠希、伊勢若菜)は、自宅残業について、「自宅において、公務に関する何等かの作業を行っていたことは推認できる」としつつも、夫が先に就寝していたことや、上司が自宅作業を直接見ていないことなどを指摘し、「原告の毎日の自宅作業時間が、1時間ないし2時間程度であったことを客観的に裏付ける証拠とは評価できない」と判断し、原告が主張する時間外労働時間の多くを認めませんでした。労働事件において自宅残業が争点になるケースでは、使用者や上司が、自宅残業の必要性や実態を否定することが多いですが、本件のように上司が自宅残業を認めているケースにおいてまで自宅残業を認定しないのは、自宅残業の労働時間の認定のハードルが高すぎると言わざるを得ません。自宅に残されていた一部の資料や上司・同僚の証言から、自宅残業は十分に認定可能でした。

また、判決は、異動の内示について、「原告に対し、相当なストレスを与えるものであったことは否定できない」としながらも、「意に沿わない人事異動の内示や組織体制の変更がなされること自体は珍しいものとは言えない」「同種職員等にとって著しい精神的苦痛を与えるものとはいえない」として、質的過重性を認めませんでした。異動の内示がどれだけ原告のストレスになっていたか、同僚の証言などから詳細に主張していましたが、十分に考慮されませんでした。

実態を見ない不当判決と言わざるを得ません。控訴審の高松高裁での逆転に向けて全力を尽くします。

(弁護団は、岩城穣弁護士、西川翔大弁護士、筆者の3名)

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