民主法律時報

【大阪IRカジノ格安賃料住民訴訟】松井前市長とカジノ事業者らに対して1045億円の損害賠償を求める住民監査請求 

弁護士 長野 真一郎

第1次監査請求と住民訴訟

大阪夢洲(ゆめしま)の万博会場の隣の市有地をカジノ事業者に格安賃料で賃貸することに対して、2023年1月と4月に、その差止を求める住民監査請求と住民訴訟を提起している。その訴訟提起後に、弁護団は大阪市担当者と不動産鑑定業者の間のメールのやりとりを入手した。それによって、大阪市から賃料鑑定を依頼された鑑定業者は、
①「IRカジノ事業のための適正賃料を算定する」という鑑定目的に反して、「IR事業を考慮外」として鑑定すること、その結果、高層ホテルを含むカジノ用施設の用地であるのに、それと全く異なる低中層の商業施設用地=「イオンモール見合い」の用地として格安の賃料鑑定をすること、
②夢洲新駅が開業することが確実であるにもかかわらず隣の島の駅(コスモスクエア駅)を「最寄り駅」として鑑定すること、について、鑑定を出す前に事前に「違法な鑑定条件の示し合わせ」をメールによって行っていたこと、
③その「違法な鑑定条件の示し合わせ」に、大阪市が積極的に関与していたこと、が判明した。格安な鑑定額の「奇跡の一致」は、決して偶然の結果ではなく、大阪市が加わった「違法な鑑定条件の示し合わせ」によることが、膨大なメールを分析することによって明らかとなった。

第2次監査請求

訴訟継続中の2023年9月、大阪市とカジノ事業者はこの違法な格安賃料による賃貸借契約を締結した。しかし、賃貸契約をしながら土地の引渡時期は未定という極めて変則的な契約であった。そこで、原告・弁護団は住民訴訟の目的をカジノ事業への市有地の引き渡しの差止に変更したうえで、さらなる追撃弾として、本年9月20日、カジノ事業を推進してきた大阪市長やこれにより違法な利得を得るカジノ事業者らに対して、適正賃料との差額1045億円の損害賠償請求を求める第2次住民監査請求をおこなった。

損害賠償請求の相手方は、第1に、松井一郎前市長である。前市長は、2022年2月に、カジノ事業者と基本協定書を締結して上記の違法な格安賃料とする基本方針を決定した。ところが、
①松井前市長は、2022年12月の記者会見で、大阪市依頼の鑑定がIR事業を考慮外とした結果、高層ホテル利用を含まない低中層階のイオンモール見合いの商業施設としての鑑定になっていることは争いのない事実であるのに、ホテルを含めた施設であることを前提とした鑑定であるから問題無い、という全くの「事実誤認」をしていることを、自らの発言で露見した。
②前市長は、それ以前の、2021年6月29日には、大阪港湾局から、大阪市依頼の鑑定について、「(ホテルなどを含む)超高層の商業施設を想定して鑑定したものでなく、イオンモールといった(低中層の)商業施設を想定したものであり、それ見合いの(安い)価格となっており」との説明を受けていたことも、大阪市の公文書によって明らかとなっている。

これらによって、松井前市長は、カジノ事業として高層ホテルなどのIR施設が建設される用地の賃料であるのに、それを前提としない鑑定条件による違法な鑑定であることを確実に認識していた(認識することができた)にもかかわらず、A:基本協定締結時から「事実誤認」に基づき格安賃料で賃貸することを強引に進め、かつ、B:記者会見で自らの事実誤認を指摘されたのであるからこの誤りをただちに修正すべき法的義務があったのにこれを修正しないまま放置して契約締結に導いたのである。以上の事実は、松井前市長の記者会見のYouTube録画及び大阪市作成の議事録によって、証拠保全済である。
これに加えて、横山英幸現市長(賃貸借契約締結時の市長)、大阪港湾局長(違法な本件鑑定の実施及び格安賃料による賃貸借契約の実務責任者)、格安賃料によって莫大な利益を得るカジノ事業者(大阪IR株式会社)、さらには、この違法な鑑定条件の示し合わせを実行した不動産鑑定士17名と不動産鑑定業者4社も、損害賠償請求の相手方とした。

損害賠償の金額など

大阪市(市民)が被った損害額は、適正な賃料と違法な格安賃料との差額となる。適正な賃料は、IR事業を考慮した高層ホテルなどの用地としての適正な賃料額を、原告・弁護団から不動産鑑定士に依頼して調査してもらった。その結果、適正賃料は月額4億7060万円(大阪市依頼の鑑定業者の手法を使ったとしてもこの金額になるということであり、適正賃料は少なくともこれ以上の金額)という調査結果を得た。これと格安賃料2億1073万円との差額は、月額2億5987万円となる。これに契約期間(引渡日を本年10月1日とした場合、2058年4月13日までの33年余り=約402.5か月)を乗じると、1045億9767万5000円(損害累計額)となり、その賠償を求めた。
本年11月下旬予定の監査結果通知を経て、本年12月下旬には第2次住民訴訟の提訴が必至であり(ちなみに監査委員の1人は維新の現職市議)、原告・弁護団では2次提訴に向けての準備を既に進めている。隣地のメタン爆発などで大問題の大阪万博とともに、それと密接な関係にあるカジノ問題について、市民の関心も高まっている。「カジノは大阪にも、日本にもいらない」という意気軒昂な原告・監査請求人ら(2次請求は438名)とともに、弁護団も、カジノ実現阻止に向けて、①市有地の引渡の差止(引渡後はその返還)と、②違法な談合鑑定に責任ある者への個人責任追及の両輪でもって、裁判と運動に貢献できればと考えている。

(原告代理人 長野真一郎・杉島幸生・辰巳創史・岩佐賢次・馬越俊祐・加苅匠・島袋博之・西川翔大・松村隆史・米田直人・吉川亮太)

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