民主法律時報

東大阪市立中過重労働事件

弁護士 江藤 深

1 はじめに

東大阪市立中学校に勤務し、過重労働により精神障害を発病した40代の教諭が、教員への服務監督権限を有する東大阪市、国賠法上の費用負担者である大阪府に対し330万円を請求した訴訟で、大阪地裁第25民事部(小川嘉基裁判長・岡田恵梨、北岡佑太各裁判官)は8月9日、被告らに対し、220万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。被告らは控訴せず、判決は確定した。

2 2021年度の原告の勤務状況

原告が2021年度、1週間に担当した授業は理科が20時間、道徳、総合学習が各1時間であった。また3年の学年主任、進路指導主事、学力向上委員の校務分掌を担ったほか、野球部の指導にも携わった。当事者によると、学年主任と進路指導主事の兼任は極めて異例である。
原告は9月下旬より無気力感、食欲不振にさいなまれ、校務の処理を進められなくなった。校長には2度にわたり「授業時間数を減らすか、進路指導主事の校務分掌を外してもらわないと限界だ」と訴えたが「ふんばってくれ。代わりはいない」と回答されるのみで、支援策はなかった。原告は11月、心療内科で「適応障害、抑うつ状態」との診断を受け(2022年7月以降はうつ病)、2023年3月まで休職等に追い込まれた。
原告が発病に至る直前期の月当たりの時間外勤務は、最短でも約92時間半、最長であれば173時間超に上るが(原告主張)、これは地公災や厚労省の認定基準で公務、業務起因性が肯定される水準を優に上回る。原告の労働には、量的過重性の要素に加え、複数の重要ポストを担当させられるという質的過重性も加わっていた。

3 大阪地裁判決

判決はまず、いわゆる電通事件の最高裁判例(最高裁平成12年3月24日)や下級審裁判例を引いて、学校長が「原告を含む本件中学校の教師に疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないように権限を行使すべき注意義務を負う」と指摘する。そして原告の発病3か月前から6か月前までの時間外労働時間を「約85時間ないし165時間」と認定し、その公務を「量的に著しく過重であった」とした。同時に原告が2021年度、対外的な折衝や連携を要する事務を多く引き受けたことに着目し「質的にも負荷が増加した」と判断した。
そして、学校長は原告が当時記載していた管理簿の記載や、原告本人からの訴えにより、その負担の増加を認識することができたのに、勤務時間や校務の軽減を図っておらず、職務上の注意義務に違反したと認定した。この点被告らは、学校長が他の教師に資料作成等を割り振るなどの対策をしたと主張していたが、判決は、原告の時間外労働時間からすると「措置として不十分で、注意義務違反の判断を左右しない」と退けた。
その上で、原告の発病は公務に内在する危険が現実化したものとして、学校長の注意義務違反との相当因果関係を認め、慰謝料200万円、弁護士費用20万円を認容した。

4 おわりに

原告代理人らにとっては、大阪府立高校の教諭を原告とする訴訟(一審の請求認容判決(2022年6月28日)が確定)に続き、あらためて公立学校での過重労働を問う試みとなった。注目すべきは、本件の1年超の審理の間、被告らから「教員の勤務は自主的自発的なものである(だから「労働」ではない)」という給特法をめぐる議論の中で展開されてきた(悪しき)主張が、一切されなかった点である。

過重労働を理由とする安全配慮義務違反が公立学校でも認められ得るという当然の法理は、先行訴訟、本件を通し、裁判所のみならず、教育行政の当事者においても認識されつつあるといえよう。

(原告代理人松丸正・田中俊・江藤)

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