民主法律時報

全港湾阪神支部・日検事件 ~府労委に続いて派遣先の使用者性を否定する不当な中労委命令

弁護士 冨 田 真 平

1 はじめに

全港湾阪神支部が一般社団法人日本貨物検数協会(日検)による団体交渉拒否について不当労働行為救済申立を行った事件で、中労委は、2024年6月5日、府労委に続いて使用者性を認めず、組合の再審査申立を棄却する命令を出した。

2 事実の経過

(1)日検は、検数、検量、検査などを営む一般社団法人である。日検の指定事業体である日興サービス株式会社の従業員は、長年日検名古屋支部の職員から直接指揮命令され、日検名古屋支部受託の検数業務を行っていた。日興サービスの従業員である組合員らは、日検を派遣先とする派遣労働者であると疑わなかった。
組合は、従前から日検及び日興サービスに対し、日興サービスの従業員の低賃金・長時間労働の改善等を強く要求するとともに日検への直接雇用を求めて組合活動を活発に行ってきた。そして、2016年3月には「指定事業体からの職員採用に関しては、平成28年度から平成30年度まで、毎年度約120名の採用を実施するよう努力する」との確認書を組合と日検との間で交わした。しかし、上記確認書に基づく団体交渉を求めたところ、日検が拒否したことから2016年11月に府労委に不当労働行為救済申立を行った。
(2)2017年4月、府労委の調査の中で、求釈明をきっかけに、日興サービスと日検の契約が従前業務委託契約の形式であり偽装請負であったこと、さらに日検と日興サービスが、2016年3月末に秘密裏に業務委託契約を終了させて、労働者派遣契約に切り替えていたことが発覚した。しかし、府労委は、2019年2月、日検の使用者性を認めず、申立を棄却する命令を出した。
(3)なお、偽装請負の発覚を受けて、派遣法40条の6(申込みみなし制度)に基づく地位確認訴訟を別途提起した。しかし、地裁・高裁で偽装請負や脱法目的が認められるも、1年間の期間制限を理由に地位確認が認められなかった(同敗訴判決が最高裁で確定した)。

3 中労委命令

中労委は、使用者性について従前の一般論(雇用主以外の者であっても、当該労働者との間に近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存する者との関係では、労組法第7条の「使用者」にあたる)を述べつつ、使用者性を否定した。
すなわち、上記確認書については、あくまでも努力義務にとどまるものであり、現実の雇用を実現する義務はなく、採用条件や採用後の労働条件について未だ合意のない本件組合員を現実に雇用する義務はないとして、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存するとはいえないとした。また、40条の6によって申込みがみなされていた状態であったことも認めつつ、組合の要求が日検の正規職員と同一の労働条件による直接雇用であり、40条の6を前提とするものではないから使用者性を基礎付けないとした。

4 中労委命令の不当性

中労委命令のいうように採用の努力義務であったとしても、使用者が組合に対して同努力義務を負う関係にある以上、近い将来組合員が採用される可能性が具体的かつ現実的に存するといえるはずである。中労委命令がいうように組合員を現実に雇用する義務があるならもはや地位確認(雇用契約の成立)が認められるレベルであり、雇用主以外は認めないに等しいものであって雇用主以外の者であっても使用者性を認める中労委自身の基準にも矛盾するものである。そもそも使用者として組合との間で派遣労働者を(努力義務であれ)雇用する約束(合意)を交わしているにもかかわらず、同合意に基づく話し合いに応じる義務が無いとするのは不合理である。
また、みなし申込み自体が存在する以上、承諾すれば雇用される状態にあり、近い将来において雇用契約が成立する可能性が具体的かつ現実的に存するといえるはずである(ショーワ事件中央委命令(平成24年10月18日)もみなし申込みがあった場合に直接雇用後の労働条件について使用者性が肯定されるとしている)。中労委命令は、組合がみなし申込みを前提としていなかったから使用者性を基礎付けないとするが、その根拠が不明である。そもそも日検が偽装請負を隠蔽したことで組合としてみなし申込みを知り得なかったにもかかわらず、それによる不利益を組合に転嫁することは極めて不当であるといえる。

5 今後に向けて

上記不当な中労委命令を覆すべく現在取消訴訟の提起を検討中である。他方で、組合の粘り強い運動の成果として、上部団体と業側団体との今年の春闘の中で、指定事業体(日興サービス)の従業員を本体(日検)で採用することを明記した合意を勝ち取った(弁護団としてこのような粘り強い闘いに頭が下がる思いである)。今後も直接雇用の実現に向けて引き続き弁護団・組合で一体となって戦い続ける所存であるので、皆様の支援をお願いする次第である。

(弁護団は、坂田宗彦、増田尚、西川大史各弁護士と冨田)

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