弁護士 冨 田 真 平
会員の谷真介弁護士が原告となり、大阪地裁に提訴した直接雇用申込みみなし制度(以下「みなし制度」という)に係る助言等(派遣法40条の8)に関する内部通達の情報公開請求訴訟において、確定した大阪高裁判決に基づき文書開示が行われたため、同開示によって明らかとなった点などについて報告する。
1 2015年10月1日に直接雇用申込みみなし制度 (派遣法40条の6)が施行された際に、厚生労働大臣(都道府県労働局)が、労働者の求めに応じて、労働者に対し同制度の対象になるかどうか必要な助言を行い(派遣法40条の8第1項、以下「1項助言」)、さらに労働者が承諾を行った場合にこれを就労させない派遣先の企業に対し、指導・勧告を行うことができる(同第2項、以下「2項助言等」)こととなった。これらは、行政の指導により直接雇用を実現するために設けられた制度である。
しかし、みなし制度が施行された後、偽装請負事案において都道府県労働局が偽装請負の認定や指導について極めて消極的な態度をとることが続いた。これに対し、東リ事件の弁護団や全港湾日検事件の弁護団が2018年9月~11月に小池晃参議院議員を通じて厚労省のヒアリングなどを行い、厚労省や各都道府県労働局に対して適切な対応を求めるなどした。さらに、このような消極的な態度の背景に何らかの内部文書があるのではないかと考えた谷弁護士が厚生労働省及び大阪労働局に対し内部文書の情報公開請求をしたところ、上記40条の8に関する制定当時に出された内部通達(以下「通達①」という)及び上記ヒアリングなどが行われた直後の2019年3月に出された内部通達(以下「通達②」という)(いずれも部内限)の存在が明らかとなった。もっとも、同開示文書のほとんどの部分が「開示されると監督対象となる事業者が対策をとり適正な監督が行われなくなる恐れがある」という理由で不開示(マスキング)とされたため、同不開示部分について情報公開を求めたのが本訴訟である。
2 地裁判決、高裁判決において文書の一部開示が認められ(詳細は民主法律時報2023年10月号等を参照されたい)、その後非開示とされた他の部分について上告受理申立を行ったが、残念ながら不受理決定となり高裁判決が確定した。そして、同判決に基づき文書の開示が行われた。
3 新たに開示が認められた部分が多くはないが、開示によって以下の点が明らかとなった。
(1)まず、上記1項助言について 、 通達①においては「個別の事案に応じた断定的な助言は行わずにあくまでも一般的な法解釈としての助言を行うこと」と記載され、一般的な法解釈のことしか助言しないとされていた一方、通達②においては、調査の結果などを踏まえて派遣先の行為が40条の6第1項各号のいずれに該当するかどうかについて助言することとされ、一般的な法解釈としての助言は1項助言とは取り扱わないものとされている。したがって、上記ヒアリングなどが行われた直後に、1項助言については(そもそも従前一般的な法解釈しかしないとされていたのは極めて問題であるが)個別の事案に応じた助言を行う方針に変更された。
(2)また、偽装請負(5号)における脱法目的について、2016年に派遣労働問題研究会と大阪労働局との間で行った懇談会において、脱法目的の判断は難しいため判断しない(自白がない限り認定しない)という回答があったが、通達②においては「認定には困難を伴う場合が多いと想定されるが、外形的・客観的な証拠を積み重ね、個別具体的に判断すること」とされ、外形的・客観的な証拠から認定するように記載されている。これは、各事件において客観的な証拠から脱法目的を認定するように繰り返し労働局に迫ったことも影響していると思われる。
(3)なお、上記ヒアリングの際に40条の6に係る訴訟が提起された場合には助言を差し控えるという厚労省の方針が明らかにされたが、通達②においては、「差し控えることが望ましいと考えるため、本省に対応方針を確認すること」とされ、必ず差し控えることになるわけではないとも読める記載となっている。
4 通達①②において開示が認められなかった部分も多く、また現在も都道府県労働局の消極的な姿勢が散見されるが、今回の開示によって、様々な運動の結果、少なくとも厚労省の消極的な方針が改められた点もあることが明らかとなった。みなし制度に関する不適正な労働行政をただし、適正な労働行政を実現するために、今後も引き続き取組みを続けたい。
(原告は谷真介弁護士、弁護団は村田浩治、河村学、大西克彦、安原邦博、佐久間ひろみ、西川翔大各弁護士と筆者)