民主法律時報

直接雇用申込みみなし制度に関する内部通達情報公開請求訴訟の大阪高裁判決

弁護士 冨田 真平

  会員の谷真介弁護士が原告となり、大阪地裁に提訴した直接雇用申込みみなし制度(以下「みなし制度」という)に係る助言等(派遣法 40条の8)に関する内部通達の情報公開請求訴訟において、本年した。8月29日、大阪高裁が、一部の開示を命じる地裁判決を変更し、さらに開示の範囲を広げる判決を出した。

 2015年10月1日に直接雇用申込みみなし制度(派遣法40条の6)が施行された際に、厚生労働大臣(都道府県労働局)が、労働者の求めに応じて、労働者に対し同制度の対象になるかどうか必要な助言を行い、さらに労働者が承諾を行った場合にこれを就労させない派遣先の企業に対し、指導・勧告を行うことができるとの規定が定められた(派遣法40条の8)。これは、行政の指導により直接雇用を実現するために設けられた制度である。

しかし、みなし制度が施行された後、都道府県労働局が偽装請負の認定や指導について極めて消極的な態度をとることが続いたため、その背景に何か内部文書があるのではないかと考えた谷弁護士が厚生労働省及び大阪労働局に対し内部文書の情報公開請求をしたところ、上記40条の8に関する内部通達(部内限)が存在することが判明した。もっとも、同開示文書のほとんどの部分が「開示されると監督対象となる事業者が対策をとり適正な監督が行われなく恐れがある」という理由で不開示(マスキング)とされたため、同不開示部分について情報公開を求めたのが本訴訟である。

 訴訟において、国側は、内部文書の記載を見た派遣労働者が40条の8の助言等を求めても仕方ないと思って助言の求め等を差し控えるおそれがあるとの、自ら消極的と受け止められる記載があることを自認する(驚くべき)主張まで行ったが、大阪地裁は、2022年9月8日、その文書の一部について不開示が違法であるとして開示を命じる判決を出した。

 原告側としては、開示が認められなかった部分についてさらに開示させるべく控訴を行ったところ(国は控訴せず)、大阪高裁は、開示の範囲をさらに広げ、40条の6についての行政解釈の記載(国側が既に通達などで公開しているものとは異なる記載である旨主張していた)などについても開示を命じる判決を出した。そもそも、指導監督の前提となる上記解釈など公開されて何の問題もないはずの情報が国によって隠されていること自体おかしく、高裁判決の判断は至極真っ当である。

もっとも、高裁判決は、運用に関する考慮要素や助言指導等の内容等については地裁判決同様に不開示としても適法であるとした。そのため、原告側としてはさらに開示の範囲を広げるべく上告受理申立を行った。

 みなし制度がほとんど活用されていない大きな原因の一つに都道府県労働局による上記のような消極的な姿勢がある。みなし制度に関する不適正な労働行政をただし、適正な労働行政を実現するためには、そのような消極的な姿勢の背景にある通達の内容を明らかにし、これを是正させることが重要である。会員の皆様には引き続きご支援をお願いする次第である。

(原告は谷真介弁護士、弁護団は村田浩治、河村学、大西克彦、安原邦博、佐久間ひろみ、西川翔大各弁護士と筆者)

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