弁護士 喜 田 崇 之
【事案の概要】
保険代理店は、保険会社と業務委託契約を締結し、顧客と損害保険契約を締結して代理店報酬をもらっている。保険代理店が得られる報酬は、収入保険料(要するに保険契約の売上のこと)に適用代手率を乗じた金額であったところ、2003年4月から導入された代理店ポイント制度により、ここに代理店手数料ポイントを乗じた金額を報酬とすることになった。
かかるポイント制度により全国で多くの保険代理店が、報酬を減額されるなど苦しめられている実態があり、この度、全国約260以上の保険代理店、保険代理店従業員、保険会社OBらが申告人となり、2023年7月21日、損保保険ジャパン株式会社と東京海上日動火災保険株式会社を被申告者として、独占禁止法第19条で禁止される不公正な取引方法(優越的地位の濫用・独禁法第2条9号5号ハ)に該当するとして、公正取引委員会に申告をした。この申告の後、大手メディアは一斉に、私たちが申告をしたことや問題点を報じることとなった。また、ニュースを見た全国各地の保険代理店から、追加で申告人になることを希望する連絡が相次ぐこととなった。
代理店手数料ポイント制度には、大きく2つの問題がある。
一つ目は、挙績・増収率を理由として、手数料ポイントを減らすことにより代理店報酬を減額することである。例えば、保険代理店の売り上げ(挙績)が一定以上の規模でなければポイントが減額する仕組みになっており、また、前年比で売り上げの増加率が一定以上でなければポイントが減額する仕組みになっている。減額幅は年々増えていくように改訂されており、これでは中小の保険代理店では、売上を維持(あるいは微増)しても、一定規模の挙績に達していない場合にはポイントが下がり報酬が下げられることになる。
二つ目は、業務委託契約上、保険会社側が手数料規定を一方的に変更することが可能となっており、毎年のように、手数料ポイント制度の中身が一方的に変更されてしまう点である。
保険代理店側とすれば、どのようなことをすればポイントがつくのかの基準が毎年のように変更されるため、それに伴って不利益を受ける。例えば、過去には、「計上」という項目があり、これは保険会社の保険会計に顧客の契約情報を入力する作業であったところ、保険会社の入力作業を保険代理店が代わりに行うことで一定のポイントがつけられることとなった。しかし、手数料規定から「計上」の項目は突如としてなくなり、保険代理店が「計上」業務を行っても、ポイントとして評価されないこととなった。
そもそも保険会社が毎年のように、ポイント項目を一方的に変更し、保険代理店はそれに従わざるを得ない状況というのが、優越的地位の濫用そのものである。
なお、公正取引委員会が策定している優越的地位ガイドラインでも、報酬の減額について、「正当な理由がないのに、契約で定めた対価を減額する場合であって、当該取引の相手方が、今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる。」と明記されており、本件でもまさに、ポイント制度の名のもとに、特に中小規模の保険代理店にとっては構造的に実質的な報酬減額を強いられてきたものであるから、優越的地位の濫用と評価されなければならない。
【今後に向けて】
今回のポイント制度が優越的地位の濫用に該当する旨の経済法(独禁法)の大学教授の意見書を提出し、さらに問題を深堀りする主張・立証を継続して行い、公正取引委員会により詳細な問題を理解してもらう予定である。
また、国会議員の方々も超党派でこの問題に取り組む意向を示しており、前述した記者会見にも自民党西田昌司参議院議員、国民民主党前原誠司衆議院議員、日本共産党小池晃参議院議員からも連帯の声明を寄せて頂いた。今後は、保険代理店と保険会社の関係性が、現在のように保険会社の一方的な決定で決まるのではなく、適切な協議と保険代理店の理解・同意をもとに進められるよう、まずは公正取引委員会に訴えていきたいと考えている。