民主法律時報

組合事務所退去を求めた行為は不当労働行為 ~枚方市不当労働行為事件・大阪高裁でも勝訴(確定)~

弁護士 河 村  学

1 はじめに

本件は、大阪府労働委員会が枚方市に対して発した不当労働行為救済命令について、枚方市がこれを不服として大阪地裁に同命令の取消訴訟を提起した事案である。2022年9月7日、大阪地裁は枚方市の請求を棄却(裁判官は、橫田昌紀、長谷川武久、岩﨑雄亮)。枚方市は控訴したが、2023年6月16日、大阪高裁は控訴を棄却した(裁判官は、太田晃詳、住山真一郎、伊丹恭)。枚方市は上告等を行わなかったので、高裁判決は確定した。

なお、大阪府労委命令については民主法律時報2021年1月号に西川大史弁護士が報告し、大阪地裁判決については、民主法律時報2022年10月号に中西基弁護士が報告をしている。

2 事件の概要と大阪府労委命令

2015年8月に、大阪維新の会の公認で出馬し当選した伏見隆市長(枚方市)は、枚方市職員労働組合が行う「政治的活動」自体を不適切として、組合に対して活動の自粛要請を行ったり、職員会館の一室を組合事務所としての利用を認める目的外使用許可について、その使用目的を「組合事務所としての利用(職員の勤務条件の維持改善及び職員の福利厚生の活動に限る)」として、組合ニュースの記事内容の削除や記事縮小を求めるなどの干渉行為を行い、組合がこれに屈しないとみるや組合事務所の自主的退去を通知した(以下「本件通知」という)。

また、組合は、枚方市に対し、組合事務所の使用目的に条件を付した理由の説明や、条件該当性の具体的基準・運用についての説明と協議、本件通知の理由の説明と協議、組合の不利益回避策についての説明と協議等を求めて団体交渉を申し入れたが、枚方市は、「地公法の趣旨に照らし」という理由でこれを拒否した。

大阪府労働委員会は、本件通知をした枚方市の対応は、必要最小限度の手続とはいえず、明渡しを求めるに足りる相当な理由もないとし、組合活動を萎縮・弱体化される支配介入の不当労働行為に当たるとした。また、枚方市の団交拒否は、組合の要求内容は目的外使用許可そのものを対象にしたものとみることはできず、組合との団体的労使関係に影響を及ぼす事項も含むことから義務的団交事項に当たるから、不当労働行為に当たるとした(以下「本件命令」という)。

3 大阪高裁の判断

裁判所はいずれも本件命令を是認したが、以下の点が注目される。

第1。枚方市は、裁判になってから、組合には3つの理由で労働委員会の救済申立適格がないとの主張を行ったが、裁判所はこれを否定した(大阪地裁と同旨なので省略。前記中西報告参照)。

第2。本件通知について、大阪地裁は、組合事務所の明渡しを求めるに当たっては、退去による不利益を与えてもなお明渡しを求めざるを得ない相当な理由が必要であり、かつ、その理由を説明し、代替措置等について協議し、十分な猶予期間を設けるなど手続的配慮が必要としていたところ、大阪高裁は、この判断枠組みは、不当労働行為に当たるか否かに関するもの(使用者による恣意的な組合事務所供与の終了を抑止する趣旨に出るもの)であって、目的外使用許可の取消しの前提要件ではないとし、取消しの適法性判断に際しては比例原則や平等原則等の適用が問題となり得るとした。これらは、組合事務所の明渡要求の不当労働行為性の判断基準を示すとともに、使用許可取消しの判断基準とは異なることを明示したものであり、その当否も含め今後検討を要する。

第3。団交拒否について、大阪地裁は、組合の申入事項は、便宜供与やそのルールに関する事項は管理運営事項に当たらない判断していたところ、大阪高裁は、枚方市が、どの部分が管理運営事項に当たるかについて十分に交渉ないし確認する機会を設けた形跡がないし、目的外使用許可の取消手続をして行われたものと認めることはできないとの理由で不当労働行為を認めた。結論は同じであるが、ここでも大阪高裁は、行政の施設管理権、使用許可の取消(手続)なのか否かを意識して区分している。

 本件の勝利については、早期に弁護士を交えて闘いの方針を確立したことや、その後の組合の取り組み・力関係により、組合事務所の使用許可取消しの行政手続に進ませなかったことが大きいといえる。近時の労働組合運動は、初動が何より大切である。

(実働弁護団は、豊川義明、城塚健之、中西基、谷真介、西川大史、加苅匠、河村学)

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