民主法律時報

竹中工務店ほか二重偽装請負事件 大阪高裁でも不当判決

弁護士 谷   真 介

1 はじめに

本件は多重請負状態で就労し、労働局に申告した後、最終的に職場を追われた原告が、大手ゼネコンの株式会社竹中工務店(以下「竹中」)、竹中の100%子会社である株式会社TAKシステムズ(以下「TAK」)、形式上の雇用主である株式会社日本キャリアサーチ(以下「キャリア」)の三社を被告とし、各社との労働契約上の地位確認等、共同不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。民法協常設ホットラインで村田浩治弁護士が原告から相談を受け、派遣労働問題研究会で弁護団を組み、2019年12月26日に大阪地裁に提訴した。

しかし、2022年3月30日に大阪地裁(中山誠一裁判長)で原告敗訴の不当判決、今般2023年4月20日には大阪高裁(牧賢二裁判長)においても、地裁判決から理由を変更した部分があったものの結論として原告の控訴をすべて棄却する不当判決が出された。

2 事案の概要と主な争点

原告は、2019年7月、施工図面の作成担当者として、竹中の作業所で就労することを予定しキャリアに採用された。その上で、原告は①2019年7月25日~8月1日(竹中作業所での就労前)には、TAK事業所でTAKの指示の下、竹中方式の施工図面作成手法を習得するための業務に従事し、②2019年8月2日以降は竹中作業所で竹中の指揮命令、TAKの勤怠管理の下で就労した。①②ともに、竹中-TAK間(②のみ)、TAK-キャリア間の各契約形式は業務委託契約であった。

原告は指揮命令が雇用主であるキャリアからではなくTAKや竹中からなされることについて疑問に感じ、2019年8月中旬、大阪労働局に是正申告した。同月下旬に竹中作業所に大阪労働局の調査が入ったところ、その後に原告は竹中作業所にいられなくなり、同年9月末にキャリアからも解雇された(キャリアは退職合意と主張)。

その後、同年11月に至って、大阪労働局が、②の期間に竹中から原告に業務指示がされていたことを理由とし、竹中及びTAKに職安法 条(労働者供給)違反の是正指導を行った(その後、竹中・TAKにおいて大阪だけで原告以外に80件もの同形式の違法状態があったことが判明している)。

訴訟の争点は多岐にわたるが、本報告では、竹中ないしTAKに対する派遣法40条の6(労働契約申込みみなし制度)の適否に関する部分に絞って、報告する。

3 高裁判決の内容、問題点

(1) 竹中に対する派遣法40条の6の適否について
ア 派遣法40条の6適用・類推適用の可否
派遣法40条の6は条文上、「労働者派遣の役務の提供を受ける者」が偽装請負等一定の違法行為を行っていた場合に、派遣先企業(偽装請負の場合は発注者)に、派遣労働者に対する労働契約(直接雇用)の申込みをしたものとみなす制度であり、派遣労働者が同申込みを承諾すれば労働契約が成立する。もっとも、多重請負状態の場合、発注者(竹中)と契約関係にあり労働者を供給している元請負人(TAK)が労働者(原告)との間で雇用関係にないため、派遣法2条による「労働者派遣」の定義(自己の雇用する労働者を…他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させる)に形式的には該当せず、発注者(竹中)には「労働者派遣の役務の提供を受けた」ことを前提とする派遣法40条の6が適用されないことになってしまう。同制度施行時の厚労省の通達(いわゆる9.30通達)にも同趣旨の記載がある。

この点について高裁判決は、地裁判決と同様、条文の文言を形式にあてはめて竹中に関し派遣法40条の6の適用を否定した。そして類推適用についても、違法派遣を受け入れた者に労働契約の申込みをみなして民事的制裁を科すことで雇用の安定を図るという派遣法40条の6の趣旨は二重偽装請負の場合にも当てはまるとしつつ、派遣法40条の6の立法経緯や行政解釈において多重請負事案に適用を否定する解釈が示されていること、そして現在までの間にこれを変更しなければならない社会情勢の変化はないこと、さらには類推適用を否定しても元請負人(TAK)に同条が適用される可能性があり単純な偽装請負事案と比べ不均衡ともいえないことを理由にあげて、これを否定した。

しかしながら、二重偽装請負事案においては、労働者は単純な偽装請負状態と比較してより不安定な地位に置かれ(また多数の業者による中間搾取が行われるなど不利益が大きい)、違法派遣によって就労していた労働者が雇用を失うことを防ぎ労働者保護を図ることを目的とした派遣法40条の6の趣旨目的はより良く当てはまる。特に本件では竹中とその100%子会社であるTAKが共同して原告を含め大阪だけで 件もの違法な多重請負状態を作出しているが、高裁判決ではかかる実態について全く考慮されておらず、不当である。

イ 脱法目的について
竹中への派遣法40条の6の適否について原告の控訴を棄却する上では前記アを否定すれば足りたにもかかわらず、高裁判決はあえて竹中に関する派遣法40条の6第1項5号の脱法目的の存否についても検討した上で、これも否定した。
この点については後記(2)イ(TAKの部分)でまとめて述べる。

(2) TAKに対する派遣法 条の6の適用について
ア TAKに対する派遣法 条の6の適用の有無
地裁判決は、①の期間については偽装請負自体を否定し(適正な請負であったとし)、②の期間については原告に対し指揮命令をしていたのは竹中であって、原告はTAKの指揮命令下にはなかったとしTAKが「労働者派遣の役務の提供を受けた」とはいえず派遣法40条の6の適用はされないと判断していた。

これに対し、高裁判決は、この点に関する地裁判決の理由を変更し、①②のいずれの期間についても、派遣法40条の6の適用自体は認めた。すなわち、①の期間については、率直にTAKからの指揮命令の実態を認め偽装請負状態にあったとした。また②の期間についても、TAKが勤怠管理を行っていることや、TAKが経済的に利益を得ていることからも竹中に供給したことで労働者から役務の提供を受けたといえるとし、派遣法40条の6の適用を認めたのである。

この点については控訴審における原告の主張を容れたものである。多重請負事案について全ての企業への40条の6の適用可能性を否定した地裁判決からは前進したものであり、評価できる。

イ 脱法目的について
ここまでくればTAKへの雇用責任を認めても良かったのであるが、高裁判決は、TAKの脱法目的について検討し、これをいずれも否定した。かかる脱法目的の認定が否定されたことが、原告の控訴が全て棄却されてしまった決定打となってしまった。

高裁判決は、一般論としては、客観的に偽装請負状態にあっただけでは脱法目的の存在を推認できないと述べるのみで、脱法目的の認定手法や基準等については、全く示さなかった。そして、本件では①・②の期間とも客観的には偽装請負状態にあったとしつつも、a原告の業務は専門性に基づき裁量性のあるものが相当程度含まれており、偽装請負該当性の基準を示した告示37号からしても偽装請負にあたるかどうか微妙であったこと、b労働局による指摘を受けて竹中・TAKが違法を是正しようと相応の対応をしたこと、cTAKについては二重偽装請負に関し元請負人に派遣法40条の6の適用がされることが通達で明示まではされていなかったこと等の理由をあげ、竹中・TAKの脱法目的は認められないとした。

しかしながら、脱法目的のような主観的要件については、客観的事実から推認していくしかなく、高裁判決のように高いハードルを課してしまえば、結局、受入事業者の「自白」がなければ認められないことになりかねい。また違法を指摘されてから是正しようとしさえすれば適用を免れることができてしまい明らかに不当である。本件は、竹中という大企業が、原告の是正申告を受けて大阪だけでも80件もの同様の就労状態で労働者を就労させていたことが判明しており、その上竹中らが労働局の調査に対し偽装請負の隠蔽を図った多数の証拠があることからしても、違法性を認識していたことは明白で、脱法目的は優に認定できる事案であった。

4 最高裁に向けて

地裁判決でも高裁判決でも、原告が違法状態で就労させられてきたことが認定されたにもかかわらず司法での救済が全て否定された。これでは、派遣労働者は誰も、違法状態を指摘し、派遣法40条の6を武器に立ち上がることなどできなくなってしまう。高裁は、地裁判決の明らかにおかしいところは是正しつつ、原告の請求を棄却する結論を決めた上で、最高裁において破棄されないことに腐心して判決を書いたといわざるをえない。

原告は最後までたたかう決意をされ、すでに上告受理申立を行った。弁護団としても、高裁判決の不当性を明らかにし、非正規労働者に冷たい司法の固い扉をこじ開けるため、最後まで戦い抜く決意である。

(弁護団は、村田浩治、谷真介、西川翔大)

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