民主法律時報

羽衣学園(研究室撤去)事件についてのご報告

弁護士 西 川 翔 大

1 はじめに

本件は、学校法人羽衣学園(以下「法人」といいます。)羽衣国際大学の専任講師として勤務していた原告が2019年3月末で雇用を打ち切られ、大阪地裁第5民事部において地位確認請求等の訴訟を係争中に、法人が原告に無断で原告が利用していた研究室(以下「本件研究室」といいます。)内の原告の荷物(以下「本件動産」といいます。)を撤去し、本件研究室の鍵を取り替えたのに対して、原告が、①本件研究室の占有権に基づく占有回収として本件研究室の引渡し、②本件動産の占有権に基づく占有回収として本件動産の引渡し、③本件研究室の撤去の決定に関与した大学長、大学事務局長、法人代理人弁護士、法人に対して損害賠償を求めた事案です。

2023年1月26日に大阪高裁において、①本件研究室の引渡し、②本件動産の引渡し、③被告ら全員に対して損害賠償を認める判決が出されたことから、以下では本件事案の経過、本件高裁判決の内容について報告します。

2 本件事案の経過

(1) 原告は2019年3月末日に雇用を打ち切られた後も、本件研究室において組合活動だけでなく、講義資料の準備や、学生らとともに行っていた地域活動の物品などを保管するために、本件研究室の利用を継続していました。

しかし、雇用打切りから約2年後の2021年3月24日、法人から改めて本件研究室内の荷物の撤去を求める通知を受けました。これに対して、組合執行委員長や原告代理人から、撤去を拒否し、強制撤去は自力救済であり違法である旨の警告書を法人事務局や法人代理人に送付しました。しかし、同月29日、法人は原告に無断で本件研究室内の原告の動産を強制撤去し、本件研究室の鍵を取り替え、原告が本件研究室を利用することができないようにしました。

(2) 原告は、2021年4月30日に大阪地裁に前記①ないし③を求めて提訴しました。別訴の進行との関係で、迅速に法人側の違法性を認める判決を求めたため、証人調べ等はせず、2022年1月18日に大阪地裁第 民事部において判決が言い渡されました。地裁判決では、②本件動産の引渡しは認められたものの、①本件研究室の引渡しについては現在他の教員が利用しているという理由で棄却し、③損害賠償についても学長や事務局長、被告代理人個人の関与について立証があるとはいえず法人のみに5万円の損害賠償を認めました。この判決に対して、原告は速やかに控訴しました。

(3) 控訴審では、まず裁判所の求めに応じて、双方代理人立会いのもと動産を保管している現地で本件動産を特定する作業を行い、次に控訴人(原告)、被控訴人である学長、事務局長の陳述書の作成が求められました。控訴人の陳述書では改めて本件研究室の撤去により講義資料の作成・準備が困難になったこと、コロナ禍でオンライン授業を行うための場所の確保に苦労したこと、本件動産には講義資料のみならず保育士や介護福祉士としての資格証明書、卒業生との思い出の品が含まれており、占有が奪われたことにより多大な不利益や精神的苦痛を被ったことを述べました。他方で、学長や事務局長の陳述書からは、本件研究室及び本件動産の撤去を決定するに至る協議の過程が示されました。

3 高裁判決の内容

2023年1月26日、大阪高裁第8民事部(森崎英二裁判長)において判決が言い渡され、①控訴人が本件研究室の鍵を所有し、法人の無断撤去の予告に対して警告文を発していた事実から、研究室撤去がされた時点で、控訴人自身のために本件研究室を所持する意思を有し、現にこれを所持していたことから本件研究室の占有を認め、本件研究室の引渡し請求を認めました。また、③大学長、事務局長が別訴係争中に事前に警告を受けていたにもかかわらず撤去を行ったことにつき過失を認め、法人代理人についても違法な自力救済の実行を容易にして幇助したものとして責任を認め、法人を含めた被控訴人全員に対して連帯して 万円の損害賠償を認めました。

判決後、大学長、事務局長、代理人のみ上告しています。他方、法人は上告せず、本年4月3日に法人から本件研究室の引渡しを受け、別室に保管されていた本件動産を本件研究室に移しました。

研究室は大学教員にとって講義を準備し、資料などを保管しておくために不可欠な場所です。本件高裁判決は、被告らの自力救済行為を断罪し、本件研究室の占有回復を認めた画期的な判決といえます。

(弁護団は、鎌田幸夫、中西基、西川翔大)

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