弁護士 金 星 姫
フジ住宅株式会社(以下、「フジ住宅」といいます。)に勤務する在日コリアン3世の女性が、フジ住宅及び代表取締役会長が社内において人種差別的・民族差別的な資料を配布したこと、特定の教科書を公立中学校で採択させる運動へ従業員を動員したこと等に対し、損害賠償及び資料配布の差止めを求めた訴訟(以下、「ヘイトハラスメント裁判」といいます。)について、2022年9月8日、最高裁判所第1小法廷(裁判官山口厚、深山卓也、安浪亮介、岡正晶、堺徹)は、フジ住宅及び会長の上告を棄却し、上告審として受理しない旨の決定をしました。これにより、被告らに対し132万円の損害賠償の支払いとともに資料配布の差止めを命じた控訴審判決(大阪高等裁判所2021年11月18日判決)が確定しました。
大阪高裁判決は、「民族的出自等に関わる差別的思想を醸成する行為が行われていない職場又はそのような差別的思想が放置されることが無い職場において就労する労働者の人格的利益」を認め、いわゆるパワハラ防止法の趣旨にも言及した上で、使用者が、労働者に対する関係で、民族的出自等に関わる差別的な言動が職場で行われることを禁止するだけでは足りず、そのような差別的な言動に至る源となる差別的思想が使用者自らの行為又は他者の行為により職場で醸成され、人種間の分断が強化されることが無いよう配慮する義務があると述べています。これは、使用者が、職場内において差別的な思想が醸成されないよう積極的に配慮する一般的義務を認めたものであり、一審判決を大きく上回るものでした。この一般的義務は、今後、他のヘイトハラスメント事案についても広く活用できることでしょう。さらに、高裁判決が、一審判決後の社内の状況も踏まえて、損害賠償だけでなく、文書配布の差止め及び仮処分まで認めた点も、原告の人格的利益の実効的な保護の観点から大きな意義を有するものでした。ヘイトハラスメント裁判は、原告の救済という意味においてももちろん大きな意義を有しますが、併せて、今後、新たに提起される同種の訴訟においても、大きな意義を有するものといえます。
2014年5月に、民法協のホットラインに原告から相談の電話を頂いてから、8年以上もの長きにわたって続いてきた闘争が終結しました。2015年8月に提訴して以来、多くの皆様からご関心をお寄せ頂き、民主法律時報でも何度も取り上げて頂きました。皆様からの精力的なご支援を頂き、勝訴という結果を導くことができましたこと、心より感謝申し上げます。
訴訟は勝訴という形で終結し、個別事件としての闘いはひとまず終わりましたが、原告や支える会、弁護団の闘いが終わったわけではありません。被告らが、司法の判断を真摯に受け止め、「職場内において差別的な思想が醸成されないよう積極的に配慮する義務」を果たしていくのか否かを然と注視する必要があります。
皆様におかれましても、フジ住宅で働き続けている原告(元原告)に良好な職場環境が保障されるよう、今後も引き続きご関心をお寄せ頂き、ご協力賜りますよう、お願い申し上げます。