弁護士 吉 岡 孝太郎
1 事案の概要
近畿大学教職員組合(以下「教職員組合」)は、平成30年12月に入試手当や夏期一時金等を議題とする団交申入れを行っていましたが、平成31年3月11日、学校法人近畿大学(以下「法人」)は、それ以前の団交における組合員の発言を殊更問題にして、団交委員の連名で、文書及び公式な場での謝罪がない限り団交に応じないなどと通知してきました(①。以下「3・11通知」)。
教職員組合は法人の一方的かつ不合理な要求には応じることができず、団交が開催されないまま夏期一時金の支給日が迫ってきました。すると、法人は、令和元年5月、夏期一時金の支給条件として、労働委員会への不当労働行為救済申立てをしないという誓約書を提出することや、誓約書が適法な手続きで作成されたことを証する総会決議の議事録等の書面の提出等を要求してきました(②)。教職員組合としては、組合自治を著しく侵害する法人の要求を受諾することができない一方で、法人が団交申入れを撤回するなら賞与を支給する意向を示したことから、組合員の経済的な打撃を回避するために、やむなく夏期一時金に関する団交申入れを撤回しました。
同年7月になると、法人は、入試手当の支給の条件として、5日以内に組合総会決議の議事録等の組合意思決定過程を証する書面を提示するよう教職員組合に要求してきました(③)。そのため、教職員組合はやむなく入試手当に関する団交申入れを撤回しました。
さらに、教職員組合がメールボックスに投函していた組合ニュースを法人が無断廃棄していることが判明しました(④)。
教職員組合は、これらの法人の対応が不当労働行為に当たるとして、府労委に対して救済申立てを行っていました。
2 府労委命令の内容
令和4年5月6日、府労委は、上記①乃至③の対応について不当労働行為を認め、再発防止を約束する文書を教職員組合に提出するように命じました。
前記①について、府労委は、3・11通知をしたことは、正当な理由なき団交拒否に当たると認定するとともに、団交拒否の正当な理由とならない団交での発言をとらえて教職員組合に謝罪を求めただけでなく、団交実施の差し違えとして教職員組合に迫ったものであり、教職員組合に対する支配介入に当たると認定しました。
次に、前記②について、府労委は、労働組合が労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てることは、憲法第 条における団結権等の保障を実効的にするために労組法によって認められた権利であって、その権利を事前に放棄することを一方的に迫ること自体労組法を無視した行為であるとしました。そして、労働協約の締結についての組合の意思決定過程という組合の内部手続について、それを証明する書面の提示を求めることは、組合自治を侵害し、それによって教職員組合が団交申入れを撤回することとなり、組合活動を大きく制約されたとして、支配介入に当たると認定しました。
前記③について、府労委は、入試手当の支給の前提条件として、組合総会決議の議事録等の組合意思決定過程を証する書面を提示するよう教職員組合に要求したことは、組合自治を侵害するものであり、それによって教職員組合が団交申入れを撤回することとなり、組合活動を大きく制約されたとして、支配介入に当たると認定しました。
上記①ないし③については不当労働行為に当たることは明らかであり、府労委は至極当然の判断をしたといえます。
他方で、④の組合ニュースの無断廃棄について、府労委は、法人の対応は適切であったとは言い難いが、情宣活動の妨害の認識、認容まではなく、支配介入に当たるとまではいえないとして、不当労働行為とは認めませんでした。しかし、このような判断は、組合による情宣活動の重要性を軽視するものです。法人は組合ニュースの配布のために教職員組合にメールボックスの利用を認めていたにもかかわらず、同ボックスに投函された組合ニュースを無断廃棄しており、しかも、その廃棄した組合ニュースは法人を批判する内容を含んでいました。このような法人の対応や組合ニュースの内容に加えて、これまでに労使紛争が多数生じ、法人が教職員組合を強く嫌悪していた状況を踏まえれば、法人が教職員組合の情宣活動を嫌悪して組合ニュースを廃棄したことは明らかであり、支配介入に当たると認めるべきであったと考えます。
3 さいごに
上記④の判断は残念でしたが、教職員組合は十分な成果を得たと総括しました。法人も中労委へ再審査請求をすることなく、上記府労委命令は確定しました。近く、命令書に従って文書交付がされる予定です。教職員組合によると、府労委命令後の団交で、3・11通知に名を連ねた団交委員に対して直接コメントを求めたようですが、当該団交委員からは謝罪の言葉はなかったということであり、大変残念に思いました。
近畿大学の労使関係の正常化にはまだまだ時間を要すると思われますが、今後ともご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
(弁護団員は、西川大史弁護士、吉岡)