民主法律時報

視覚障がい者に対するコロナハラスメント事件

弁護士 愛 須 勝 也

1 損害賠償請求訴訟の提訴

新型コロナウイルスに感染した就労継続支援A型事業所の利用者が、事業所からパワハラ・退職勧奨を受けて退職に追い込まれた事案について、2022年2月21日、大阪地方裁判所に損害賠償を求めて提訴したので報告する。

2 事案の概要

原告(39歳男性)は、生まれつきの聴覚障がい(等級6級)があり、2019年5月15日、被告合同会社アルファセブン(以下、「被告」という)が運営する就労継続支援A型事業所(障がい者と事業者が契約を結び、事業者の運営する施設で働きながら支援を受ける)と契約、2か月の試用期間を経て、同年7月、被告に本採用された。その後、原告は、網膜色素変性症が進行して視力低下、同年12月には全盲となった。被告は、大阪市内に数カ所の関連事業所を運営し、パソコン作業や検査、検品、宛名貼り、商品の包装、梱包、仕分け、箱詰め等の作業を主たる業務とし、施設外就労として民泊の清掃業務も行っている。利用者のほとんどが精神障がい者である。

原告は、全盲になってから、施設利用者のA氏に同行してもらって通勤していたが、2021年9月1日、新型コロナウイルスに感染し、事業所を休職することになった。同月4日、被告のサービス管理者は、原告が回復して復職した場合にも、感染の危険性を理由にA氏と一緒に出勤することを禁じたのに対し、原告はコロナによる発熱、咳のため体調も悪く「分かりました」と回答してしまった。

原告は、同年10月1日、A氏の承諾を取り付けた上、被告に対して付添出勤を認めてもらうように交渉し、前記回答の撤回を求めた。

ところが、被告は、付添出勤を認めず、「付添出勤が必要というのであれば、他の事業所に行った方がいい」と退職勧奨を行った。

同月6日、原告は、被告から、10月1日の話を録音反訳した文書を確認するように求められた。原告は第三者の立会いを求めたが、被告の施設長が立ち会うのみで、施設長が読み上げた文書も、記載通りに読み上げられたかどうかも確認出来なかった。原告は、サービス管理者と施設長から高圧的な態度で「サインしてもらわないと困る」などと迫られたが署名を拒否した。このようなやり取りが2時間半続き、「他の事業所を探すので」と再び退職を強要された。

その後、原告はまた長時間拘束されて退職勧奨されることは精神的にも辛いので、10月8日、「こういうの争うのしんどいです。しんどいので辞めさせてもらいます」と退職を申し出た。

3 違法なコロナハラスメント・退職勧奨

被告は、原告がコロナから回復したにもかかわらず、付添出勤を認めず、原告を事実上退職に追い込んでいる。これはコロナ感染を理由とするコロナハラスメントに該当する。厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A」でも新型コロナウイルスに感染したことを理由として、人格を否定するような言動を行うこと等がパワハラに該当する場合があるとしている。

また、新型コロナウイルスの感染から回復しているのに、付添出勤を禁止する合理的理由はなく、原告を退職に追い込むために、同僚の付き添いを禁止し、退職を強要する言動を繰り返しているから、退職強要に該当する。

さらに、障がい者差別解消法第5条は、事業者に、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を求めているが、付添出勤を認めず、文書を読むことのできない原告に署名を執拗に迫った一連の対応は、必要かつ合理的な配慮を欠いた障がい者差別にもあたる。

4 本件訴訟の意義

新型コロナ感染が拡大する中、職場における違法なコロナハラスメントが横行している。コロナハラスメントに対する企業の責任を明らかにすることは、被害に遭った原告を救済するとともに、ハラスメントのない職場環境・社会の実現にもつながる。また、視覚障がい者に対するハラスメント・退職強要という点でも、障がい者に対する不当な偏見や差別の解消につなげなければならない。

(弁護団は西川大史、脇山美春と当職)

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