弁護士 冨 田 真 平
2021年11月18日、大阪高裁(清水響裁判官、川畑正文裁判官、佐々木愛彦裁判官)で、フジ住宅ヘイトハラスメント裁判の控訴審判決が言い渡された。判決は、一審判決に引き続きフジ住宅及び会長の行為の違法性を認め、損害賠償額を増額してフジ住宅及び会長に132万円の支払いを命じ、さらに資料配布の差止めを命じた。また同時に、直ちに配布を禁ずる仮処分命令も出した。
1 事案の概要
フジ住宅及び会長は、遅くとも2013年頃から、①社内で全従業員に対し、人種民族差別的な記載及びこれらを助長する記載のある資料(以下「人種民族差別的資料ないし差別助長資料」という。)や会長が信奉する(政治的)見解が記載された資料を大量かつ反復継続的に配布してきた。また、②中学校の教科書採択にあたって、全従業員に対し、特定の教科書が採択されるようアンケートの提出等の運動に従事するよう呼びかけていた。さらに、③原告の提訴後、社内で、原告を含む全従業員に対し、原告を非難する内容の大量の従業員の感想文や(会社と密接な関係にある者の)原告を攻撃するブログを配布した。
2020年7月2日に大阪地裁堺支部で、上記①②③の行為の違法性を認め、フジ住宅及び会長に110万円の支払いを命じる判決が出された(一審判決の内容については民主法律316号103頁以下参照)。
これに対し、フジ住宅及び会長は判決を受け入れることなく控訴し、また、原告側も、一審判決の不十分な点をただすべく控訴した。さらに、控訴審で上記①及び③の行為を差し止める請求を追加するとともに仮処分も申し立てた(一審判決後の状況については民主法律316号110頁以下参照)。
2 高裁判決の内容
(1) 高裁判決は第一審に引き続き、前記①②③の行為の違法性を認めた。
ア 上記①の人種民族差別的資料ないし差別助長資料の配布行為については、憲法14条、人種差別撤廃条約及びヘイトスピーチ解消法の趣旨に照らして、自己の民族的出自等に関わる差別的思想を醸成する行為が行われていない職場又はそのような差別的思想が放置されることがない職場において就労する人格的利益があると認めた上で、フジ住宅及び会長が、前記資料配布行為を使用者の優越的地位を背景に行った結果、職場において、朝鮮民族はすべて嘘つきであり、信用することができず、親中・親韓的態度を取る人物はすべて嫌悪されるべきであるなどといった意識を醸成させ、上記人格的利益を侵害したと認めた。
また、差別目的によるものではないなどというフジ住宅及び会長の弁解を退けて、差別を煽動する効果を有する行為を行ったことに変わりはないとして、違法性を認めた。
イ 前記②の動員行為について、使用者が自己の支持する政治活動への参加を労働者に促すことについては、たとえ参加を強制するものではないとしても、参加の任意性が十分に確保されている必要があるとして、その違法性を認めた。
ウ 前記③の原告攻撃の資料配布行為については、職場において抑圧されることなく裁判を受けることができる人格的利益を認めた上で、フジ住宅及び会長が優越的地位を利用し、本件訴訟の提起を非難する他の従業員や第三者の意見を、社内の従業員に対しても広く周知させ、原告に対し職場における強い疎外感を与えて孤立させ、本件訴訟の提起及び追行を抑圧したとして、このような人格的利益の侵害を認め、違法性を認めた。
(2) そして、高裁判決は、フジ住宅が、原判決で違法性が指摘されても省みることなく前記①及び③の行為を続けてきたことから、(ア)韓国の民族的出自等を有する者又は韓国に友好的な発言若しくは行動をする者に対する侮辱の文書及び(イ)原告を批判し又は誹謗中傷する文書と特定した上で差止めの必要を認めた。
3 高裁判決の意義
高裁判決は、前記のように差別的思想を醸成する行為が行われていない又は差別的思想が放置されることが無い職場において就労する労働者の人格的利益を認め、これを前提に、いわゆるパワハラ防止法の趣旨にも言及した上で、使用者が、労働者に対する関係で、民族的出自等に関わる差別的な言動が職場で行われることを禁止するだけでなく、そのような差別的な言動に至る源となる差別的思想が使用者自らの行為又は他者の行為により職場で醸成され、人種間の分断が強化されることが無いよう配慮する義務があると認めた。これは、職場内において差別的な思想が醸成されないよう積極的に配慮する使用者の一般的義務を認めたものであり、レイシャルハラスメントの事案について今後広く活用できるものである。
さらに、高裁判決が、損害賠償だけでなく、今なお続く資料配布の差止め及び仮処分まで認めた点も意義が大きい。
4 今後に向けて
フジ住宅は高裁判決の翌日にはさっそくHPで上告する旨のコメントを出し、フジ住宅及び会長ともに上告・上告受理申立を行った。他方で弁護団としては、フジ住宅が仮処分で禁止された資料の配布行為を行うおそれがあることや、判決後も社内システムで、仮処分で禁止された資料がダウンロード可能な状態となっていることなどから、間接強制の申立を行った。今後は、最高裁での闘いとともにいかにして実際にフジ住宅に違法な資料配布を辞めさせるかという点も課題となる。
原告は、一貫して会社に変わって欲しい(働きやすかった元の会社に戻って欲しい)という思いを述べており、高裁判決後の記者会見でも、「今度こそ会社に変わってほしい」という思いを述べた。
職場における労働者の人格権保障のため、会社が変わってくれることを信じて今もなおフジ住宅で働き続ける原告とともに弁護団・支える会が一体となって今後も闘う所存であるので、民法協会員の皆様には引き続き大きなご支援をお願いする次第である。