弁護士 中村 和雄(京都)
新型コロナウイルス感染拡大に起因する解雇や雇い止めが増大していると言われる中で、京都市の書道用紙の加工・販売メーカーで色紙の製造や御朱印帳の表紙作りに従事してきたパート労働者が雇い止めを無効として裁判に立ち上がり、2020年9月7日京都地裁に提訴しました。
感染拡大の緊急事態宣言を受けた4月、会社の一部休業に伴い、原告は他の社員とともに休業となりました。会社には、全印総連京都地連傘下の組合があり、組合の交渉と協力により会社は休業中の社員の賃金保障については全額を雇用調整助成金の受給で賄っていました。
原告の雇用契約は1年間の期限付きで、原告の最初の雇用契約の始期は2018年8月7日でした。2019年の更新期には更新契約書の作成もされないまま、当然のように更新がなされました。原告は、雇用に不安を抱き今年6月に組合に加入しました。組合は、粘り強く会社と団体交渉を続けてきました。少なくとも、雇用調整助成金が受けられている期間については、原告の雇用を継続させるのが使用者としての責任ではないか、その間原告の雇用を継続させたとしても会社の負担はごく僅かなのであるから、あえて雇い止めにするべきではないとして交渉してきたのです。会社側の団体交渉出席者は取締役である京都弁護士会の会員です。
会社から納得できる説明がないまま、会社は、更新時期の1月前である7月5日に原告に対し、雇用契約を更新しない旨を通知してきたのです。
中小企業においては休業手当として支給する金額の100%が雇用調整助成金の対象です。従来の賃金額全額を休業手当として支給しても会社はその金額全額を助成金として受給できるのです。現在のところ、コロナによる雇用調整助成金は2020年12月まで存続するとされていますので、少なくとも今年いっぱいは会社は自己の負担がほとんどない状態で原告の雇用を維持することができるのです。コロナによる雇用調整助成金の特別制度は、解雇や雇い止めを防止するために制度設計したものです。今回の雇い止めは、こうした制度趣旨に逆行するものです。整理解雇においては、解雇回避努力義務を尽くしたことが解雇が有効であるための判断要件とされています。雇用調整助成金の利用によって本件雇い止めは回避できるのです。
裁判は、12月7日に第1回弁論期日を迎えました。会社の代理人の答弁には、厚労省の発表で6~7万人が解雇や雇い止めになっていることを持ち出して、「これらをすべて違法というのか」と開き直っている記載があります。しかし、そもそもコロナの経営危機の中で経営者が解雇や雇い止めをしないための制度として雇用調整助成金の特別拡充制度を創設しているのです。会社側の答弁は雇用調整助成金の拡充制度の趣旨に明らかに反するものです。
原告代理人(当職と諸富建弁護士)としては、整理解雇と同様に「解雇(雇い止め)回避努力を尽くしていない本件雇い止めは無効である」との判決がなされるはずであると信じています。