民主法律時報

大陽液送(下請労働者) 地位確認請求事件提訴報告

弁護士 脇山 美春

 2020年3月16日、大阪地裁堺支部に、件名の事件を提訴しましたので報告します。

第1 提訴に至る経過

1 格差の実態

大陽液送株式会社(以下、大陽とします)は、液化ガス(酸素・窒素)配送事業を営む会社です。
一方原告らは、大田貨物株式会社(以下、大田とします)の社員6名です。大田は、大陽から液化ガス配送事業を請け負っています。原告らは、この請負契約のもと、大陽の社員と一緒に、液化ガスをタンクローリーで配送する業務に従事しています。

大陽の社員と、大田の社員は、いずれも対外的には大陽の社員として、同じ仕事をしています。服まで一緒です。

しかし、大陽と大田の社員には、年収にして100万円以上の賃金格差があります。大田の社員が定年退職したのちに大陽に採用され、同じ仕事についてみると、現役大田社員よりも給料が高くなるという、意味不明な格差があります。

特に大きい格差は、賞与の有無です。大陽の社員には賞与が支給されるのに、大田の社員には賞与支給はありません。

原告らはこの格差是正に向け、労働組合を通じて大田に団体交渉を継続してきました。しかし大田は賞与の要求にも一切応ずることもなく、経費の内容も明らかにしないまま不誠実な交渉を継続してきました。

このままではらちが明かないので、何しか裁判を提起し、これをテコに賃金格差を是正したい。原告らはそんな思いで、相談にいらっしゃいました。

2 原告らの就労実態は、労働者派遣である

原告らの就労実態を検討していくと、下請けという形式でありながら、実際には大田は労務を提供する社員を供給しているにすぎず、大田として独立してローリー運送をしているとは言いがたい実態であることが明らかになってきました。

(1) 大田には専門性がない

大田はそもそも、平積みトラック輸送を目的とする会社であり、液化ガス配送事業は行っていない会社でした。液化ガス輸送に必要なノウハウ、車両、物品は何も持っていません。
大田は原告らを採用する際、あらかじめ大陽と面談させました。そのうえ大田は、試用期間を経て試験に合格したと大陽が判断したものしか、本採用しませんでした。
原告らは業務に従事する際、大陽の所有するタンクローリー車を使用しており、制服、長靴も大陽から支給を受けています。取引先にも、大陽から支給された、大陽の社員と登録された通行証をみせて業務を遂行しています。

(2) 大田が指揮命令していない
原告らの配車の決定権限は、大陽にあり、大陽が運転手ごとの配送指示書類を作っています。勤務時間中の急な指示も、大陽が直接原告らに行っています。
上記事情等をかんがみれば、大陽が原告らに指揮命令をしているものであり、大田と大陽の間の請負契約は、その実態からすれば労働者派遣契約であることが明らかです。

3 直用みなし規定の利用を決定

労働者派遣法は、請負形式をとりながら、実態は労働者派遣で就労させている事業者(派遣先事業者、請負の発注者等)が指揮命令を継続している場合は、派遣先(本件では大陽液送)事業者が当該労働者に対して派遣元(本件では大田)の労働条件と同じ内容で雇用の申込みをしたものとみなすとの規定を制定しています(労働者派遣法40条の6)。

原告らは、この規定を利用して、まずは大陽と原告らとの間に直接の雇用契約があることを確認し、そのうえで、同じ仕事をしている現大陽従業員との間の均等・均衡待遇を要求していくこととしました。

第2 今後の流れ

以上の経過をふまえ、2020年3月16日に、大田を被告として、原告らの労働契約上の地位確認の訴えを提起しました。

なお、派遣法30条の3に基づき、大田を被告として、派遣先である大陽との均等・均衡待遇を求める訴訟を追加することも検討しています。

原告ら代理人は、村田浩治、脇山美春です。ご支援お願いいたします。

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