民主法律時報

東リ伊丹工場偽装請負事件 神戸地裁労働部の不当判決

弁護士 村田 浩治

1 それはないでしょう裁判長!

2020年3月13日、偽装請負で20年近く就労した後、労働組合を結成し偽装請負に気づいた労働者たちが労働者派遣法40条の6に基づいて就労先の東リに対して労働契約上の地位の確認を求めた裁判で、神戸地方裁判所第6民事部の3名の裁判官(裁判長 泉薫、横田昌紀、今城智徳)は、そもそも平成29年3月頃には、偽装請負(違法派遣)等の状態にはなかったとして請求を棄却する不当な判決を言い渡した。判決文を読むと「それはないでしょ!」という判断が展開されていた。

2 就労実態は派遣か請負か

(1) この事件は、巾木工程と化成品工程という製造課の二つの工程(東リには他にもいくつも工程があるうちの二つ)において長年偽装請負が続いていたが、労働組合が出来て派遣法にもとづく直接雇用を労働組合執行部が検討し始めた直後の2017年3月1日に巾木が、同年4月1日から化成品が、それぞれ労働者派遣契約に切り替わったという経過がある。たった一日で請負から派遣に切り替えても何の混乱もなく、製造がされていた経緯からみれば、これが偽装請負でなくてなんなのかということになる。提訴当初の裁判長も「これは派遣契約に切り替わったということが重要なポイントですね」と述べていた。それにもかかわらず、ふたをあけると、判決はそもそも「偽装請負状態」にはなかったというのである。これが驚かずにおられようかといいたいのは当然だろう。

(2) 判決は、派遣と請負について、本来仕事の完成を目的とする請負と労働者による労務の提供という契約の定義に言及しているが、派遣と請負の区別にあたっては、全面的に行政の基準にそって判断すると言明し、裁判所独自の判断基準は一切示さなかった。行政判断追従の姿勢が明らかで、脱法行為を許さず派遣労働者を保護するという観点はゼロである。

したがって、請負から派遣に切り替わっても何の問題もないという実態、すなわち労働者らが、東リの労働者と同じ工場組織に完全に組み込まれていたという実態には一切触れないまま、ひたすら東リの指示があったといえない、請負会社がしていた(ようだ)との判断を展開しただけで終始した。

(3) 例えば、東リの製造課の担当者が日常的にしていた指揮命令についての労働者の証言は、すべて「証拠がない」「信用できない」と退けて、原告の証言を無視した。さらに事実認定として無視しようがない指示の事実である「東リの製造課からの機械の掃除の個別労働者への指示」については、「機械を所有する東リが関心をもって指示をするのは不自然ではない」という具合に、指示があったことはどうするの?と思わず突っ込みたくなる判断を示し、行政区分で説明しようがない事実は理由もなく、無視するという具合である。

(4) 巾木は大量の原料を溶かして金型をとおして製造するもので、材料も機械もすべて東リの工場のものを使用していた。材料の費用の精算などは全くされていない。また工場の1階から2階に設置された大規模な機械の月額賃料が2万円とただ同然であった。そして社長が一人で他は東リで働いている従業員のみの個人会社が、独立して自ら機械を使用して独立して製造をしている請負であると断定したのである。

3 2012年派遣労働者保護法となった改正の趣旨を貫徹させるための逆転を

派遣労働者をこれ以上馬鹿にした判決はない。みなし規定の制定はリーマンショック後の大運動の成果である。それにもかかわらず、今度は偽装請負認定のハードルを異様に挙げたこのような判断が許されるはずはない。必ず大阪高裁で逆転勝訴を勝ちとりたい。

(弁護団は、村田のほか安原邦博、大西克彦の3名)

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