弁護士 西川 裕也
1 はじめに
令和元年12月4日、南海ウィングバス南部株式会社(以下、「被告」という)に所属するバスの運転手(以下、「原告」という)が、被告に対して、労働契約法 条違反を根拠とした損害賠償を求めて大阪地方裁判所岸和田支部に提訴しましたので、その内容をご報告します。
2 事案の概要
被告は、正社員に対しては賞与を支給する一方で、原告を含めた契約社員には賞与を支払わないという取り扱いを行っています。
正社員は主に路線バスを運転し、契約社員は主にコミュニティバスを運転するのですが、双方ともに乗客を乗せてバスを運転するという点で業務や責任の内容に大きな違いはありません。
また、被告内でバスの運転業務を行う従業員は、基本的に転勤等の業務内容の変更は予定されておらず、この点も正社員と契約社員との間で差異はありません。
加えて、被告の作成した就業規則上では、正社員、契約社員とも賞与に関し「従業員に賞与を支給することがある。その時期、金額等については、そのつど決める」と同様の定めが設けられており、業務内容の差異により賞与の支払いに差異が設けられている訳ではありません。このような、就業規則の定めからしても、被告は正社員が期限の定めのない契約であり、契約社員が有期雇用契約であるということに着目して賞与の支払いに格差を設けているものと言えます。
以上の理由から、被告が正社員に賞与を支払う一方で、原告に賞与を支払わないことは、労働契約法 条に違反する不合理な格差であり、早急に是正されなければなりません。
3 訴訟に至る経緯
原告は、団体交渉を通じて、被告に対して、正社員との間の不合理な格差の是正を求めてきました。
原告は継続的に被告との間で団体交渉を行ってきたものの、被告は契約社員に対して賞与を支給した前例がないこと等を理由に、誠実に対応する姿勢を示すことはありませんでした。
そこで、団体交渉では、被告が上記の格差を任意に是正する見込みがないと判断し、裁判所の判断を求めるため、本来であれば、原告に支払われるべきであった賞与相当額の損害の賠償を求めて、訴訟を提起するに至りました。
賞与には賃金の後払いとしての性質が認められることからすると、正社員と契約社員との間で業務に特段の違いがない以上は、原告を含めた契約社員に対して賞与を支払わないことに合理的な理由があるとは言えません。裁判所には適切な判断を求めていきたいと考えています。
4 終わりに
残念ながら、実質的に同じ業務を行わせるにもかかわらずに、契約社員に対する賃金の支払いを抑えて使い倒すという状況は、現在でも多くみられます。
同一労働同一賃金を実現していくためには、一つ一つの事件で使用者の不正を是正していくほかありません。本件も、その一つの戦いとして重要なものとなると考えておりますので、どうぞ、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
(弁護団は、須井康雄及び当職)